魔王軍の集会
むかしむかし、ちきゅうには、ニンゲンとイヘンという、ふたつのしゅぞくがくらしていました。
しかし、
ハッハッハハッハッハ…
「何か魔王様性格変わったか?」
「いつものこと。」
「それもそうだな。」
扉越しに漏れる笑い声を聞き流しつつ、テュモスとエピシミアは300年ぶりの会話をしていた。こうして長い廊下を誰かと話しながらいると、何かを見逃してしまいそうになる。しかし人は、孤独から逃れずにはいられない。
「お、この感じ、トラップに使えそうだな。あとで魔王様に提案してみよう。」
「また変なの思いついたのか。」
「変なのって言うなよ。結構役に立ってる時もあったんだから。」
こういうと、エピシミアは決まって憎らしそうな顔をする。いや、ほぼ隠れているから、憎らしそうな目だろうか。あまり喋らないのも相まって、エピシミアはあまりにも表情が薄く見える。その中なら、怒りのそれはかなり表情が濃い方だ。
「あれは、まぁ、ちょっと事故みたいなもんだろ?あんま根に持たないでくれよ。」
「調子のるな。別に許してない。」
そういうと、エピシミアは拗ねたように何も喋らなくなる。いつも大体このやりとりだ。魔王様に挨拶をし、廊下を歩き、最終的になぜかエピシミアが拗ねて終わる。あとはもうちょっとで先に集会に行っていたロゴスが出てくるかな。
「はい!2人とも!のんびりしていると、緊急集会が遅れるでしょう!私、連絡しましたよね!」
案の定、出てきた。集会というのは、人間の生活の中で例えるなら朝礼みたいなものだ。緊急、とつくとまた話は別だが。
「してたっけか?」
「あれ、していませんでしたか!すみません!なら、今から急いでください!」
ロゴスは丁寧にお辞儀をすると、集会所に大股で戻っていった。
実は連絡はされているが…。ロゴスは馬鹿だが悪いやつではないので、俺がうまくイジろうとして何かいうと、毎回こっちが何となく罪悪感を食うのだ。
「ロゴス。かわいそう。」
「あいつって皮肉とかも聞かないんだろうな。一番相手に回したくないヤツかもしれない。」
エピシミアはどの口が言ってんだと言いたげな様子だ。確かに、トラップを考えて普通に使おうとする奴を、相手に回したいバカは居ないだろう。
「まぁいい。シミア、着替えてくる。」
「着替えって、布かえるだけだろ。」
「わかってない。シミアの布、1枚ずつ違う。」
エピシミアの目がキラリと光る。布1枚だが、やっぱり本人には何かしらこだわりがあるのだろう。
「質感、色、目を出すところの形…、全てひっくるめて、シミアの布。」
こういうとき、エピシミアは決まって饒舌になる。いつもはたどたどしい…、というより口数を制限している感じなのだが、好きなものに関しては違うのだろう。
「そうかよ。」
「ちなみに、今日着るのはかため。緊急感でる。」
「たぶん誰も気づかないだろ…。」
ちなみに、テュモスが着ている服は、同じものが大量にあるらしい。
「2人とも!もう始めますよ!」
グダグダ話していたので、もう待ちきれないというようなロゴスの怒号が聞こえてきた。
「わかってる。オレは今行くよ。」
「シミアは着替えてから行く。」
テュモスが集会所の扉を開けると、赤と黒を基調にした制服に身を包んだ隊が、きちっと整列したままこちらに振り向いた。
「「「テュモス様、おはようございます!」」」
「おはようみんな。魔王様も先ほどお目覚めになられたから、しばらくしたらいらっしゃるはずだ。そんときも、ちゃんと挨拶してくれ。」
「「「はい!」」」
今となってはもう慣れたが、昔は部屋に入るたび大量の声が聞こえてきて、なんと反応したらよいか困ったものだ。
「ということで出席を取ります!“将励隊“の方々、起立!」
あらためてだが、《将軍》とは魔王が放った軍勢の、中心的、いや元凶的と言える存在である。
彼らが剣により人を重傷以上に傷つけることで、軍勢は増える。
彼らの特徴として、基本的に一般人なことである。そして、素質があるものしか慣れないという特徴もある。
その素質あるものを探し、魔王の命令で《将軍》にさせる隊が、将励隊と呼ばれている。
「隊長は現在着替えでいないのでね!まずは副隊長のスキアー!」
ロゴスがそう言うなり、隊の一番前にいた者が手を挙げた。副隊長の服は隊士達のそれとは違い、黒い厚底ブーツに、黒いフード付きのローブを羽織っている。まるで陰そのもののようだ。
「次に、隊の皆さま!人数を数えます!」
この、将励隊は、おおよそ数百人単位で構成されている。日本各地を監視対象にするわけだから、その分、魔王軍のなかでも群を抜いて多い。
「全員いらっしゃいますね!では、次に防衛隊の方々!」
防衛隊は名の通り、魔王城(というより山そのものだが)の防衛、管理をする者たちだ。特徴としては将励隊と比べ、人数が圧倒的に少ない。精鋭の集まりということである。
「隊長のテュモス!」
「はいよ。」
ここの隊長はテュモスだ。が、本人はあまりうれしく思っていない。彼としては、もっと戦いに行きたいのだ。
「続いて副隊長のアスピタ!」
「はいっす!」
テュモスとは正反対の、ハキハキした声が聞こえた。
アスピタは可愛らしい顔立ちをしていて背丈は普通の青年より少し低いぐらい、こっちの副隊長はスキアーとは違い、普通の隊服を羽織っている。
しかし、背中には十字の入った巨大な盾を背負い、さながら亀の甲羅のように見える。
「隊士の方々も…、全員いらっしゃいますね!では次!」
そういうとロゴスは一段と声を張り上げた。
「王撰騎隊!」
「「はい!!」」
これまでより更に威勢のある声が集会所に響いた。その声にふさわしい、よく鍛えられた隊士達が立ち上がる。
「気をつけ!…隊長は私なのでよいとして、副隊長!」
「「はい!」
ロゴスがそういうと今までとは変わって、2つの声が返事をした。ロゴスはさらに意気込んで呼びかける。
「セルバーレ!セレーネ!」
「「副隊長、セルバーレ!セレーネ!」
声の主は後ろのほうの筋骨隆々の2人組…ではなく、
前の方にいる(当然かもしれないが)2人の女性だった。
顔も背丈もそっくりだが、片方は上の袖は短く、ズボンはひざ上ほどの桁の隊服を身にまとい、
もう片方は手と足、どちらも隠れそうなほど丈の長い隊服を着用している。
「王撰騎隊総員、休め!」
「「はい!」」
王撰と言う肩書に恥じないためにか、ロゴスも含め彼らは統率力や迫力が他の隊とは段違いだ。一目見て強いとわかる集団である。
「全員いますね!総員、気をつけ!」
「「はい!」」
長かった集会のオープニングは終わり、それぞれの隊員が今日は何の話があるのかと何となく身構え始めた時だった。
バーンと大きな音を立てて、集会所の扉が開いた。
「ワレ、ここにあり!」
大きなポーズをして、教科書で見る縄文人のような奇抜な髪型をした魔王が現れた。
「「「…。」」」
「…ん?」
魔王は爆笑を期待していた顔だったが、微妙な空気を感じて顔が濁り始めた。
「ロ、ロゴス。なぜ皆、こんな静かなのだ?」
「魔王様…。」
ロゴスは露骨にあきれた顔をした。
「…。」
まおうは大きなポーズのまま、苦虫を噛み潰した、そのうえで飲み込んだようなひどい顔になった。が、多分このままでは何も進まないので、気を取り直すことにした。
「さて、諸君。まずは久々の再会を喜ぼう。」
「「「…はい!お久しぶりです、魔王様!」」」
ぶっちゃけこの場の全員が慣れているので、今更どうってことないのが現状である。
「なぜか今回はロゴスが緊急集会にしたようだが、ワレが起きただけなので、そんなに気負う必要はないからな。」
「いえ、重要な要件です!」
そ、そうかな?と少し嬉しそうな魔王にまたまた呆れた顔のロゴスだ、さっき話が進まないから気を取り直したはずなのに、魔王様は何をしているんだか…。
「それで、魔王様、話を進めてください。」
「うむ。」
そういうと魔王は急に冷静になり、近所にいる優しそうなおじさんから皆を統率する王へと雰囲気を変えた。そのメリハリの良さが、皆を引きつける方法でもあるのだろうか。
「ワレも起きたばかりで、時代が過ぎた人間界の様子を確認しておきたい。なので、特に戦闘命令は出さない。」
魔王は集会所に響き渡るよう、ますます声を張り上げた。
「よって王撰騎隊、防衛隊は数日の間は魔王城周辺で自由行動。あまり目立つ真似はしないように。将励隊は異変調査屋本部に潜入し、できる限り奴らの状況確認をしてくれ。」
「「「はい!」」」
「なお、魔王城の警備は今までどおりしてくれ。久しぶりの緊急集会なのに、たいした命令もなく手短ですまないが、以上だ。では、早急に行動するように。」
そういうと、魔王はロゴスに目配せをした。魔王様は仕事をしようとすればできるのだからもっと真面目にやってほしい、というのがロゴスの考えである。しかし、本人は一切そんな事を考えていない様子だ。
「では、これで本日の集会を終わりにします!総員、気をつけ!礼!」
「「「ワレら、魔王様の名のもとに!」」」
ちなみに魔王様は、このあと自身の人間界巡りを共に行く参加者を募ったらしいですが、エピシミアしか反応してくれなかったそうです。悲しいね。
「うう、誰もいないか…。」
「魔王様、シミア、行く。」
「エピシミアか?どこに行っていたんだ。なぜ集会に来なかった。」
「着替えてた。」
「そうか…。」
「そんなことより、シミアも行くよ。」
「…、礼を言う、エピシミア。みな薄情なものよ、誰も我と共に行きたいと言ってくれないではないか!」
「どんまい、魔王様。」
追記∶おいおい、キャラ紹介忘れてたよ!
・スキアー
呪術廻戦の黒沐死みてえなもんです(適当)
・アスピタ
顔のイメージは特にないですが、絶対に髪にアホ毛が
あります。そして絶対にオレンジ色。
・セルバーレ
双子の片方。元気なほうだと思ってもらえれば
・セレーネ
双子のもう片方。静かなほう。




