第二話 東家の苦難
静江が喪主となり賢二の葬儀が行われた。
「この度は本当に何と言っていいか。」
賢二の同僚が伏し目がちに言葉をかける。
「本日はお忙しいところ参列いただいてありがとうございます。生前も大変お世話になりました。」
静江は一人一人に丁寧にお礼を述べ、頭を下げる。
早くに父親を亡くしてしまった子供たちを不憫に思い、涙を流しながら浩太の頭を撫でる者もいる。
高齢の祖父母は息子に先立たれてしまったことに憔悴し、呆けたように椅子に座っていた。
家族全員がふわふわした悪い夢の中にいるような気分だ。
静江は自分が何とかしなければと気丈に振舞っている。
今まで静江は、穏やかだが一本芯の通った賢二に何事頼り、その後ろをついて来た。
それでよかった。
しかし、その賢二がいなくなってしまった今、自分がこの家族を支えていかなければならない。
皮肉にも、賢二がいなくなって今更ながらにその存在の大きさを実感していた。
経済的にも静江は家族を養っていかなければならない。子供達にはこれから教育費などのお金がかかる。今のパート勤務ではとても無理だ。もっと収入の得られる正規の職につかなければならないだろう。果たして自分が雇用してもらえるのだろうか。
賢二の死を悲しむ間もなく、静江には家族を支えるという重責がのしかかる。
葬儀から時間がたつにつれ、賢二の母きよは息子に先立たれてしまった悲しみに沈みつつも、家族の先行きへの不安が大きくなってきた。
きよ夫婦はもう高齢で、外に出て働くことはできない。むしろこの先はだんだんと体が不自由になって家族の世話になる側だ。
まだ子育てに手間もお金もかかり、それが静江一人の肩にのしかかる。静江は静かで控えめな性格だから、何でも一人で背負い込んでしまわないか心配だ。少しでも静江の力にならなければと、きよは少しずつ前を向き始めていた。
賢二は子煩悩な父親だった。
天気の良い日には、近くの川に子供たちを連れて行き、よく魚釣りや水遊びをした。
毎年夏休みには家族で温泉旅行に行くのが東家の恒例行事だった。温泉好きの浩太はいつまでも温泉につかりはしゃいでいた。真理子も旅館の豪華な料理を見ては、料理の品数を数え嬉しそうだった。そしてそんな子供たちの笑顔を見ることが賢二の幸せであった。
真理子はそんな優しいお父さんが大好きだった。
「お父さん、曇ってどうしてあんなに大きいのに空に浮かんでいるの?」
「雲は水でできているけれど、その水の粒がとても小さいから上昇気流っていう上向きの風に支えられて落ちてこないんだよ。」
「へえ、そんな仕組みなんだ。」
「そうだ。学校の勉強も捨てたもんじゃない。知識を持つと世の中や自然の見え方が違ってくるから。」
真理子の疑問にも丁寧に答えてくれる、そんな父を尊敬もしていた。
お父さんに会いたい。会ってまた話がしたい。
でもそれは口に出してはいけないことだとわかっていた。母や祖父母を困らせ悲しませるだけだ。
お母さんはこれからきっと大変だから、私が少しでも役に立たなければ。
真理子はそう思っていた。




