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そしてまた

「で、結局どうなったんすか?」

「おまえがそれを聞くのか?」


 学校への登校途中。事の顛末を聞いてきた蘇芳を一瞥すると、古雅は疲れたようにため息を漏らした。


「実質ふられたも同然の状況で、相手をふるという不思議空間に巻き込まれたんだが。何だアレ? 罰ゲームか?」

「きっちりふったってことは、山田の意図は分かってたんでしょ。アンタがハッキリしなかった自業自得でしょうよ」

「……」


 ぐうの音も出ず無言で苦虫を噛み潰す古雅。

 この人にもこんなガキっぽい一面があるんだなあと、蘇芳はどこか達観した気持ちでそれを眺める。

 同時に女装してるときと違いすぎてこりゃ幻滅するわとも。

 別に普段の古雅が常時こんな調子なわけではなく、それなりに尊敬できる先輩なのだが。


「勝手でごめんなさいって謝られた」

「ああ」

「謝られて泣かれた」

「ああ」

「俺って最低だな」

「ああ」

「……」

「……」

「……そこは否定しろよ」

「こういう時は男が悪者になるべきでしょうよ」

「何だそのかっこいいセリフ。惚れるぞ」

「どうぞ」

「マジか」

「ああ」

「……」

「古雅さん」

「何だ?」

「アンタ寝てねーでしょ」

「……おう」


 そう答えるなり、ふらりとよろけて蘇芳に支えられる古雅。

 普通の人間なら音を上げるような過密スケジュールをこなしている超人も、恋愛に関しては打たれ弱かったらしい。



「おはよう」

「……」


 登校途中で信号待ちをしている桐生さんを見かけたので挨拶すると、何故か元々大きい目をさらに見開いて呆然としていた。

 もしかして私の背後に何かあるのかと振り向いてみたけれど何もない。一体何事だろうか。


「どうしたの?」

「え? あ、いや。おはようリオン。何かリオンが可愛かったから」


 返事はしたものの、まだどこか様子がおかしい桐生さん。

 というか何だろうその耳慣れない形容詞は。新手の褒め殺しだろうか。


「いやどこがって言われると分かんないんだけど。別に化粧とかしてないよね? 目とか眉に手を入れたわけでもないっぽいし」


 そう言ってマジマジと私の顔を見つめてくる桐生さん。

 そんなに見ても私の顔は変化しないと思うのだけれど。


「……まいっか。それで今日の放課後なんだけどさー」


 どうやら諦めたらしく歩き始めた桐生さんに追従する。

 一体何だったのだろうか。


「そういえばリオン。結局副会長とはどうすんの?」


 思い出したように、普通の人なら聞くのを躊躇うであろうことをあっさりと聞いてくる桐生さん。

 それに嫌な感じがしないのもある種の人徳だろうか。この人なら仕方ない。そんな気分になる。


「……デートに誘うならどこがいいかな?」

「おっ! やっぱり諦めてなかったね」


 私の問いに、桐生さんは待ってましたとばかりに笑って見せる。


「まったく愛理も副会長も難しく考えすぎなんだよね。一回ふらりふられたくらいで関係が終わるわけじゃないってのに、何であんな重大事件みたいに身構えてんだか」

「桐生さんは軽く考えすぎだと思うけど」


 でもまあ確かに。

 あれほど思いつめていたというのに、一回仕切り直そうと決めて一晩経ってしまえば、何をあんなに悩んでいたのだろうと不思議なくらい気楽になった。

 そして同時に、古雅稜さんという人の素顔はどんなものだろうかと好奇心が湧いてくる。


「それで、今度はちゃんと副会長のことを好きになれそう?」


 桐生さんの言葉にしばし考える。

 そしてそんなことは考えるまでもないのだと、ただ当たり前のことに気付く。


「分からない」

「アハハ。そりゃそうだ」


 きっと理屈ではないのだろう。人を好きになるということは。

 だから私と古雅先輩の関係がこれからどうなるかなんて、分かるはずがない。


「お、噂をすれば副会長と蘇芳だ」

「え?」

「おーい副会長!」


 桐生さんの声につられて二人が振り返ると、蘇芳くんはどこか呆れたような顔をし、古雅先輩は驚いたように目を丸くしていた。


「はよーっす副会長。あと蘇芳」

「おう。おはよう」

「あ、うん。おはよう。……山田さんも、おはよう」

「はい。おはようございます」


 私が挨拶を返すと、古雅先輩はまたしても何か不意をつかれたように驚き、そして顔を反らしてしまった。


 その所作から感じる古雅先輩との距離。でもきっとそれは最初からあった距離であり、これから縮めなければならない想いなのだろう。

 私たちの関係なんて、ある意味始まってすらいなかったのだから。


「古雅先輩。今度の日曜日はお暇ですか?」


 だから、これから私たちがどうなるかは分からないけれど。

 もう一度。貴方との関係を始めさせてください。


 これにて終わりとなります。

 最後までお付き合いくださりありがとうございました。


 ちなみに気付いている読者の方も多かったようですが、この作品の中心人物とも言える古雅稜という人物は、私が以前書いた「イケメンに告白されたけどゴメン無理」という作品の主人公でもあります。

 間が空いたので設定に矛盾もありますが、興味がある方は読んでみてください。

 ただしコメディ作品なので、これ以上古雅先輩のイメージを壊したくない人は読まないことをお勧めします。

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