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七、みんなで冒険。俺の決意

「そういう事なの。じゃ、ずっと隠してたんだ」


 一通り説明すると、母ちゃんは俺を見て言った。


 今朝、眠そうな母ちゃんに、昨夜の戦闘について話し始めた時の顔は忘れられない。休日の午前は引き続く説明で潰れた。

 衝撃を受けつつも、いつもの家事を始めた母ちゃんを横目にサツキに電話をかけ、無理を言って来てもらう約束をした。


「ウンディーネのサイトウさん、三時頃に来てもらうから」

「分かった。でも、ほんとにこんな事あるのかねえ。父さんには言わなくていい?」

「言っても信じないよ。母ちゃんだって昨日の事がなきゃ絶対信じないだろ」

「まあ、そりゃそうだけど」

 父ちゃんは関西にいる。単身赴任。幸いと言えば幸いだ。


 サツキは時間通りに来た。呼びつけたのはこっちなのにおやつ持参だった。

 母ちゃんは顔をじっと見ている。


「カズトから説明聞いたけど、ほんとにどうしようもないの? 危なすぎると思うけど」

 お茶を飲んで母ちゃんが言う。


「はい、でも私たちには何もできません。賢者の研究を待つしかないんです」

 サツキがいつもと違う声の調子で返事する。きちんとした感じは新鮮だった。


「今まで通り、情報集めて、向こうの世界についてちょっとでも多く知ろうよ」

 そう提案すると、二人共頷いた。言葉を続ける。

「それにしても、召喚される基準、あいつは『親和性』って言ってたけど、俺たち、あんなファンタジー世界に馴染んでるのかな」

「突飛な空想やファンタジーを受け入れやすい性格って言ってたわよね」


 サツキの言葉に母ちゃんが小さく笑う。席を外し、押し入れの奥をしばらくごそごそ探してアルバムを取り出してきた。


「あなたたちはともかく、私には資格あるわね」


 アルバムには若い頃の母ちゃんの写真があった。


 コスプレの写真だ。


 サツキが食い付いた。

「可愛いですー。これ『エルデスト・スクロールズ』の」

「そう、猫人」


 何の話だ?


 サツキが説明してくれる。


「ゲームのキャラよ。ファンタジーRPG。クラシマ君にもそういう血が流れてるんじゃない?」

「そりゃ、ゲームくらいちょっとはするけど、コスプレまではしねーよ。オタクじゃあるまいし」


「きゃー、こっちは『ウィザード・リー』ですか。初代だ。かっこ可愛いー」


 そのゲームなら知ってる。魔法使いで武闘家のリーが主人公のアクションRPGだ。しかし、ほんとに似合ってる。母ちゃん、何者だったんだ?


「けど、俺たち程度で召喚されるなら、現代人ならほとんど全員呼ばれる可能性あるって事じゃ……」

「そうよね。クラシマ君かしこい!」

「さすが我が子」

 ほめられても嬉しくない。


「賢者が言ってたじゃない、あっちは人類の妄想が作った世界だって。創作物を受け止めた人間の妄想のエネルギーが世界を作った。一人一人のエネルギーは小さいが、頭数は多いからって」

 サツキが言った。


「そうだね。妄想しない人間はいないもんな」


「塵も積もれば山となる。そうは言っても、世界まるごと一つ作り上げるほどなんて、人間の頭って大したものだわ」

 母ちゃんがお茶のおかわりを注ぎながら言った。


「どうするの、これから?」

 サツキが話を戻す。

「どうもしない、って言うより、どうもできない。さっきも言ったけど、これまで通り情報交換していこう」

「そうよね、やっぱりそれしかないか」


「それにしても、あっちの人と話ができたらなあ」

「また言ってる」

 サツキが母ちゃんに姫魔法使いについて俺が言った事を話した。やめろと止めたが聞かなかった。


「あら、まだ子供かと思ってたのに色気づいて」

 母ちゃんがからかうように言い、二人して真っ赤になった俺を見てにやにやしている。こいつら、いつの間に意気投合したんだ? 女ってこんなにあっさりしてるのか?


「あっ、もうこんな時間。じゃ、そろそろ」

 窓の外は日が落ちて暗くなりかけている。

「色々お話できてよかった。またいらっしゃい」

「はい、またコスプレ写真見せてください」


「カズト、送って行きなさい」

「え、大丈夫ですよ」

「いいから、男なんて使い倒せばいいのよ。帰りに醤油買ってきてね」


 外に出るとまだ日が残っており、サツキの顔を横から照らしていた。

「ごめん、母ちゃん、自分のペースでばっかり話して。うざかった?」

「ううん。いいお母さんよ。話が暗くならないようにしてくれたのよ」


 俺はぽかんとする。


「鈍感。選択の余地なしにこんな事に巻き込まれて、死んだらおしまいなのよ。普通だったら絶望して、理不尽さに怒り狂って八つ当たりしてもおかしくないのよ。クラシマ君はそうじゃないの?」


 少しの間返事できなかった。


「……ごめん。今言われて気づいたけど、俺、そこまで真剣に考えてなかった。……って言うか、分かってたのに逃げてたんだな。どこかゲームのつもりだった」


 分かれ道まで来た時、街灯が点灯した。


「でもさ、生き残ろうよ。みんなで」


 そう言うと、サツキはにっこり微笑んだ。


「クラシマ君、かっこいい」


 またぽかんとする俺に手を振り、サツキは帰っていった。


 帰り道、醤油を片手に考える。答えは出ない、いや、出てる。


 何があっても、みんなで生きていこう。睡眠不足だけど。


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