第九杯目 ダイマシマシオー、始動④
中央通りは、片側二車線の道が四つ角で交わっている。その交差点の真ん中に、ムサーシが立っていた。
バスが横倒しになって、フロントガラスが白く砕けている。街路樹が斜めに倒れていた。歩道には人が座り込んでいる。腕を押さえた人、足を押さえた人。逃げ遅れた老人を、若い男が引きずるようにして路地へ入っていくのが見えた。
アオガッパの数は一昨日より多かった。ざっと数えて二十はいる。横倒しのバスの上で跳ね、閉まったシャッターを叩いていた。
角のビルの陰に、四人が先に着いていた。交差点に残った人の目は、横倒しのバスにしか向いていない。五人はビルの裏へ回り込み、腕輪に食券を差し込んだ。
「マシマシチェンジ!」
五人が陰から出たとき、ムサーシが倒れた街路樹をまたいで、こちらへ体ごと向き直った。
「来たか」
ムサーシが右手を開いた。刀が現れたときには、もう走り出している。途中のアオガッパを一体踏み潰して、真っ直ぐレッドへ来る。
「雑魚と逃げ遅れはこっちで持つ! 三田は正面!」
「はい!」
ブラックが撃ちながら左へ走った。カラメシューターの弾が路面で跳ねて、アオガッパの群れがそちらへ向く。イエローが左の歩道へ飛び込み、群れの横腹を両腕のスライサーで薙いでいく。グリーンは横倒しのバスによじ登って、車体の上で跳ねていたアオガッパを射落とした。ホワイトは車道を横切って、歩道で腰を抜かしている若い女のところへ走った。
ムサーシの刀が、もう間合いに入っていた。
レッドは受けた。重い。押し返して、離れ際に小手を打つ。刀が下りてくるより先に、ワシワシメーンが籠手を叩いていた。
ムサーシが一歩退いて、切っ先を小さく揺らした。一昨日は、この揺れで打つ場所を選ばされた。今日は、揺れが目に入るより先に、体が面へ出ていた。刀が上がって受けたが、受けた根元から折れる。
「……読めぬ」
ムサーシが柄を捨てて、左手を開いた。次の刀が現れる。
刀は、折るたびに次が出てくる。三本目を折ったころには、レッドの息が上がっていた。ムサーシの方は、息一つ乱れていない。四本目を受けた拍子に足が滑って、片膝が路面についた。
「息が上がっておるぞ」
「そっちこそ、もう何本目だ」
「数えておらぬ」
ムサーシが刀に体重を掛けてきた。片膝をついたまま、鍔元で押し合う形になる。
「答えは持ってきたか。誰がために振るう。誰を守る。なぜ貴様が」
「……分からない。でも、お前にこの街は斬らせない」
ムサーシは、しばらく黙っていた。それから刀を引いて、間合いを取り直した。レッドは立ち上がって、構え直した。
「剣は戻ったようだ」
切っ先が、レッドの喉へ向く。
「だが、答えはまだだ」
バスの上から、グリーンが叫んだ。
「三田くん、背中の袋! あれがふくらんで、火がぼってなったら、刀が出てくる! さっきからずっとそう!」
弓を握ったままの手で、ムサーシの背中を指している。
左の歩道から、イエローが叫び返した。
「そんなとこ見てたのかよ」
「見てたよ! 三回くらい! あと、横の丸いの、たぶん油! 湯気が出てないもん!」
「油?」
「刀って、最後に冷やすでしょ! あそこでやってるの!」
「なんで知ってんだよ、そんなこと」
「テレビで見た!」
ムサーシがバスの上を見た。
「小賢しい」
刀が投げられた。車体に突き立って、外板を裂く。グリーンはその前に、反対側へ飛び降りていた。ムサーシの右手には、もう次の刀がある。
アオガッパは、もう五、六体しか残っていなかった。ホワイトが若い女を路地へ運び込んで、走って戻ってくる。
「関内、刀を落とせ! 前橋は後ろだ、炉を潰せ!」
ブラックが叫んだ。
「言われなくても!」
イエローが低く突っ込んで、右手の刀をスライサーで跳ね上げた。刀が宙を回って、離れた路面に落ちる。ムサーシが左手を開いた。背中の袋がふくらんだ。
次の刀が出る前に、ブラックが撃った。三発が脇の丸い槽の外殻で弾け、四発目で殻が割れた。割れ目から油が噴き出して、ムサーシの脚を伝い、路面に広がる。
「ぬう」
ムサーシの左手に、刀が現れかけた。刀身は赤く溶けたままで、刃の形にならずに路面へ滴った。
ムサーシの背後に、ホワイトが回り込んでいた。背中の炉へ、アブラハンマーを真上から振り下ろす。炉の枠がひしゃげて、革の袋が破れた。炉の火が消えた。
ムサーシの膝が路面を打った。
イエローがとどめに飛び込んだ。ムサーシは横へ転がって、さっき跳ね上げられた刀を路面から拾い、片膝のままスライサーを受け止めた。そのままイエローを押し返して、立ち上がる。
「……見事」
ムサーシが刀を正眼に構え直した。切っ先が、レッドの喉を向いている。
「もはや、次はない。ならば、この一本に賭けるのみよ」
レッドが前に出て、面を打った。ムサーシはそれを受けると、力任せに打ち返してきた。もう切っ先を揺らして、レッドの打ちを読もうとはしない。
上から叩きつけてくる刀を、レッドはワシワシメーンで受け続けた。受けるたびに刃が欠け、腕が痺れていく。膝が沈んだところへ、ムサーシが体ごとぶつかってきた。鍔迫りのまま押し込まれて、背中が横倒しのバスに当たる。
ムサーシが一歩退いて、刀を振りかぶった。後ろはバスで、もう下がれない。
気づいたときには、レッドはワシワシメーンをムサーシの顔へ投げつけていた。
ムサーシは、振り下ろしかけた刀でそれを叩き落とした。刀は止まらずに下まで振り抜かれて、切っ先が路面を打つ。弾かれたワシワシメーンは、光になって腕輪へ戻っていった。
切っ先が路面を打った瞬間、レッドはバスを蹴って、ムサーシの懐へ踏み込んでいた。
「豚斬包丁!」
腕輪から大剣が出る。両手で柄を握って、腰を落とす。
「おお」
「天地返し!」
路面すれすれから、豚斬包丁を振り上げた。刃がムサーシの腰から胸へ、鉄の板を斬り上げていく。頭上で刃を返し、同じ筋を真上から斬り下ろした。
鉄の胴が、斬られた筋から左右に開いた。ムサーシの体が、仰向けに倒れる。
「……次の戦いでけりをつけてくれよう……」
裂けた胸の奥から、ムサーシの声がした。爆炎が上がる。
イエローがその場にしゃがみ込んだ。
「終わった?」
「まだだろうな」
ブラックが空を見上げている。
ムサーシが倒れた跡に、煙が集まっていく。その下で、アスファルトが持ち上がった。信号機が飲まれ、横倒しのバスが軋みながら押し上げられていく。裂けた鉄の板が寄り集まって、割れた炉が形を取り戻していく。
立ち上がったムサーシの頭は、角のビルの屋上より上にあった。裂けていた背中の袋がふくらみ、炉にまた火が入る。
「……さあ、もう一度勝負だ。レッドよ、まだ答えを聞いておらぬでな」
「ま、ですよねー。背中の袋も直ってやがる」
イエローが呻いた。
「わかりきってた展開だろ。さっさと行くぞ」
ブラックが先に、腕輪の「大」を押した。四人も続く。食券が指を離れて、機体の形を取る。ホムラブタが炎を曳いて交差点へ降りた。アーリオタンクとスプラウトスピードが左右から滑り込み、ラードエクスプレスとソースミキサーが後に続いた。
「増増合体!」




