↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/53

第九杯目 ダイマシマシオー、始動④

中央通りは、片側二車線の道が四つ角で交わっている。その交差点の真ん中に、ムサーシが立っていた。


バスが横倒しになって、フロントガラスが白く砕けている。街路樹が斜めに倒れていた。歩道には人が座り込んでいる。腕を押さえた人、足を押さえた人。逃げ遅れた老人を、若い男が引きずるようにして路地へ入っていくのが見えた。


アオガッパの数は一昨日より多かった。ざっと数えて二十はいる。横倒しのバスの上で跳ね、閉まったシャッターを叩いていた。


角のビルの陰に、四人が先に着いていた。交差点に残った人の目は、横倒しのバスにしか向いていない。五人はビルの裏へ回り込み、腕輪に食券を差し込んだ。


「マシマシチェンジ!」


五人が陰から出たとき、ムサーシが倒れた街路樹をまたいで、こちらへ体ごと向き直った。


「来たか」


ムサーシが右手を開いた。刀が現れたときには、もう走り出している。途中のアオガッパを一体踏み潰して、真っ直ぐレッドへ来る。


「雑魚と逃げ遅れはこっちで持つ! 三田は正面!」


「はい!」


ブラックが撃ちながら左へ走った。カラメシューターの弾が路面で跳ねて、アオガッパの群れがそちらへ向く。イエローが左の歩道へ飛び込み、群れの横腹を両腕のスライサーで薙いでいく。グリーンは横倒しのバスによじ登って、車体の上で跳ねていたアオガッパを射落とした。ホワイトは車道を横切って、歩道で腰を抜かしている若い女のところへ走った。


ムサーシの刀が、もう間合いに入っていた。


レッドは受けた。重い。押し返して、離れ際に小手を打つ。刀が下りてくるより先に、ワシワシメーンが籠手を叩いていた。


ムサーシが一歩退いて、切っ先を小さく揺らした。一昨日は、この揺れで打つ場所を選ばされた。今日は、揺れが目に入るより先に、体が面へ出ていた。刀が上がって受けたが、受けた根元から折れる。


「……読めぬ」


ムサーシが柄を捨てて、左手を開いた。次の刀が現れる。


刀は、折るたびに次が出てくる。三本目を折ったころには、レッドの息が上がっていた。ムサーシの方は、息一つ乱れていない。四本目を受けた拍子に足が滑って、片膝が路面についた。


「息が上がっておるぞ」


「そっちこそ、もう何本目だ」


「数えておらぬ」


ムサーシが刀に体重を掛けてきた。片膝をついたまま、鍔元で押し合う形になる。


「答えは持ってきたか。誰がために振るう。誰を守る。なぜ貴様が」


「……分からない。でも、お前にこの街は斬らせない」


ムサーシは、しばらく黙っていた。それから刀を引いて、間合いを取り直した。レッドは立ち上がって、構え直した。


「剣は戻ったようだ」


切っ先が、レッドの喉へ向く。


「だが、答えはまだだ」


バスの上から、グリーンが叫んだ。


「三田くん、背中の袋! あれがふくらんで、火がぼってなったら、刀が出てくる! さっきからずっとそう!」


弓を握ったままの手で、ムサーシの背中を指している。


左の歩道から、イエローが叫び返した。


「そんなとこ見てたのかよ」


「見てたよ! 三回くらい! あと、横の丸いの、たぶん油! 湯気が出てないもん!」


「油?」


「刀って、最後に冷やすでしょ! あそこでやってるの!」


「なんで知ってんだよ、そんなこと」


「テレビで見た!」


ムサーシがバスの上を見た。


「小賢しい」


刀が投げられた。車体に突き立って、外板を裂く。グリーンはその前に、反対側へ飛び降りていた。ムサーシの右手には、もう次の刀がある。


アオガッパは、もう五、六体しか残っていなかった。ホワイトが若い女を路地へ運び込んで、走って戻ってくる。


「関内、刀を落とせ! 前橋は後ろだ、炉を潰せ!」


ブラックが叫んだ。


「言われなくても!」


イエローが低く突っ込んで、右手の刀をスライサーで跳ね上げた。刀が宙を回って、離れた路面に落ちる。ムサーシが左手を開いた。背中の袋がふくらんだ。


次の刀が出る前に、ブラックが撃った。三発が脇の丸い槽の外殻で弾け、四発目で殻が割れた。割れ目から油が噴き出して、ムサーシの脚を伝い、路面に広がる。


「ぬう」


ムサーシの左手に、刀が現れかけた。刀身は赤く溶けたままで、刃の形にならずに路面へ滴った。


ムサーシの背後に、ホワイトが回り込んでいた。背中の炉へ、アブラハンマーを真上から振り下ろす。炉の枠がひしゃげて、革の袋が破れた。炉の火が消えた。


ムサーシの膝が路面を打った。


イエローがとどめに飛び込んだ。ムサーシは横へ転がって、さっき跳ね上げられた刀を路面から拾い、片膝のままスライサーを受け止めた。そのままイエローを押し返して、立ち上がる。


「……見事」


ムサーシが刀を正眼に構え直した。切っ先が、レッドの喉を向いている。


「もはや、次はない。ならば、この一本に賭けるのみよ」


レッドが前に出て、面を打った。ムサーシはそれを受けると、力任せに打ち返してきた。もう切っ先を揺らして、レッドの打ちを読もうとはしない。


上から叩きつけてくる刀を、レッドはワシワシメーンで受け続けた。受けるたびに刃が欠け、腕が痺れていく。膝が沈んだところへ、ムサーシが体ごとぶつかってきた。鍔迫りのまま押し込まれて、背中が横倒しのバスに当たる。


ムサーシが一歩退いて、刀を振りかぶった。後ろはバスで、もう下がれない。


気づいたときには、レッドはワシワシメーンをムサーシの顔へ投げつけていた。


ムサーシは、振り下ろしかけた刀でそれを叩き落とした。刀は止まらずに下まで振り抜かれて、切っ先が路面を打つ。弾かれたワシワシメーンは、光になって腕輪へ戻っていった。


切っ先が路面を打った瞬間、レッドはバスを蹴って、ムサーシの懐へ踏み込んでいた。


「豚斬包丁!」


腕輪から大剣が出る。両手で柄を握って、腰を落とす。


「おお」


「天地返し!」


路面すれすれから、豚斬包丁を振り上げた。刃がムサーシの腰から胸へ、鉄の板を斬り上げていく。頭上で刃を返し、同じ筋を真上から斬り下ろした。


鉄の胴が、斬られた筋から左右に開いた。ムサーシの体が、仰向けに倒れる。


「……次の戦いでけりをつけてくれよう……」


裂けた胸の奥から、ムサーシの声がした。爆炎が上がる。


イエローがその場にしゃがみ込んだ。


「終わった?」


「まだだろうな」


ブラックが空を見上げている。


ムサーシが倒れた跡に、煙が集まっていく。その下で、アスファルトが持ち上がった。信号機が飲まれ、横倒しのバスが軋みながら押し上げられていく。裂けた鉄の板が寄り集まって、割れた炉が形を取り戻していく。


立ち上がったムサーシの頭は、角のビルの屋上より上にあった。裂けていた背中の袋がふくらみ、炉にまた火が入る。


「……さあ、もう一度勝負だ。レッドよ、まだ答えを聞いておらぬでな」


「ま、ですよねー。背中の袋も直ってやがる」


イエローが呻いた。


「わかりきってた展開だろ。さっさと行くぞ」


ブラックが先に、腕輪の「大」を押した。四人も続く。食券が指を離れて、機体の形を取る。ホムラブタが炎を曳いて交差点へ降りた。アーリオタンクとスプラウトスピードが左右から滑り込み、ラードエクスプレスとソースミキサーが後に続いた。


「増増合体!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。