第九杯目 ダイマシマシオー、始動⑤
五機が組み合わさって、マシマシオーが交差点に立った。コクピットに五人が並ぶ。
「オーションカリバー!」
マシマシオーの右手に、太麺の大剣が握られる。ムサーシが刀を振り上げた。
オーションカリバーとムサーシの刀がぶつかった。受け止めたマシマシオーが、アスファルトを剥がしながら後ろへ押し下げられる。
「重い……!」
イエローが操縦桿にしがみついている。
「ヤサイ、ヌキ。アブラ、カラメ、マシ」
ブラックが前を向いたまま言った。マシマシオーの両脚に力が入り、踵が路面に食い込む。押し下げられていた機体が、そこで止まった。
次に打ち合ったとき、オーションカリバーがムサーシの刀を根元から叩き折った。ムサーシの背中で袋がふくらむ。折れた刀を捨てた左手に、新しい刀が握られていた。
「地上と同じです。炉を潰さないと、刀は何本折っても出てきます」
「炉は背中だ。正面からじゃ届かない」
ブラックが言った。
「千代太さん、ウズラボム! まず足を止めてください!」
「はい!」
ホワイトが差込口の食券を、下まで押し込んだ。マシマシオーの右脚の脛に、箱型のラックが組み付く。
「撃ちます!」
ラックが開いて、斑の入った弾が二十発、まっすぐムサーシへ飛んだ。ムサーシが刀を体の前で回す。弾が一発ずつ斬られて、届く前に宙で爆ぜた。
最後の一発が爆ぜたとき、煙の向こうからムサーシが突っ込んできた。
「全部斬った!?」
イエローが声を上げた。
「あの刀を止めないと、何を撃っても届かない」
ブラックが言った。
グリーンがイエローの席を振り返った。
「チーズアームで絡めて、動かなくなったところをネギセイバーで切る。一緒に出して」
「おう!」
イエローとグリーンが、差込口の食券を同時に押し込む。両腕の装甲が一度光って、消えた。
「……あれ?」
「出ない」
「ウズラボムが着いたままだからだ。装備は一度に一つまでだろ」
「じゃあ外せばいいんだろ」
「順番に着け替えるしかないです。ウズラボム、下ろします!」
ホワイトが操作盤を叩いた。右脚のラックが光にほどけて消え、両腕に装甲が組み上がり始める。
組み上がりきる前に、ムサーシが踏み込んできた。刀が、マシマシオーの肩口から胸へ斬り下ろされる。コクピットの天井から火花が降って、警告音が鳴り始めた。
「掴まって!」
グリーンが叫んだのと同時に、マシマシオーが背中から倒れた。レッドは操縦桿にしがみついて、席に残った。ほかの四人は、席から床へ投げ出された。
「みんな、生きてるか!」
イエローが床から叫んだ。
「……生きてる」
ブラックが肩を押さえたまま答えた。
正面の画面に、刀を振り上げたムサーシが映っている。
「腕の装甲、まだ組み上がってません。もう一度……」
「間に合わない。着け替えるたびに、あいつはその隙に斬り込んでくる」
ブラックが言った。
レッドは操縦桿を握ったまま、床の四人を見た。イエローが壁を伝って立とうとしている。グリーンは床に手をついて、起き上がろうとしている。ブラックは肩を押さえて、画面のムサーシを睨んでいる。
次にあの刀が落ちてきたら、四人とも斬られる。
「……斬らせるか」
操縦桿を握る手に、力が入った。
「立て!」
四人の席の差込口で、挿してあった食券が一斉に光った。
「なに、これ」
床に手をついたまま、グリーンが自分の席を見上げた。
「席に戻れ!」
ブラックが肩を押さえて、自分の席へ這い上がる。四人がそれぞれの席に着くと、光る食券が、差込口の奥へひとりでに沈んでいった。
「おい、俺、押してねえぞ」
「私も」
レッドは操縦桿を押し込んだ。倒れていたマシマシオーが、片手で路面を押して起き上がる。右腕をチーズアームが、左腕をネギセイバーが覆い、右脚にウズラボムのラックが、左脚にキムチキャノンが組み付いた。
「嘘だろ。さっき、二つも無理だったのに」
イエローが自分の右腕を見下ろしている。
四つの装備と機体の継ぎ目が消えて、マシマシオーが一回り大きくなった。
「ダイマシマシオー!」
五人の声がそろった。
ムサーシが刀を下ろした。
「……ハハッ、面白い。よかろう」
刃が構えられる。
「相手になってくれる!」
「行きます!」
ムサーシが踏み込んでくる。地上で、レッドとの間合いを一足で詰めてきたのと同じ踏み込みだった。
「ひばりさん、足元!」
「もう撃ってる!」
左脚のキムチキャノンが、ムサーシが次の一歩を下ろす路面を撃った。赤いガスが路面で爆ぜて、穴が開く。ムサーシの足が穴を踏み抜き、巨体が前へつんのめった。とっさについた左手で、倒れるのはこらえる。前へかがんだムサーシの背中で、炉の口が上を向いていた。
「千代太さん!」
「はい!」
右脚のラックが開いた。弾が高く弧を描いて、空を向いた炉の口へ落ちていく。弾は炉の中で爆ぜた。炉が内側から割れて、燃えていた火が路面へ散らばる。脇の革の袋も、飛んだ破片に裂かれてしぼんだ。ムサーシの右手は、まだ刀を握っている。
「忍さん、刀!」
「任せろ!」
チーズアームが伸びた。融けたチーズが糸を引いて、刀身に絡みつく。ムサーシが振り解こうとするが、引けば引くほど糸が増えて刀が重くなっていく。
「乃絵さん!」
「うん!」
ネギセイバーの刃が細かく震えて、チーズごと刀身を根元から削ぎ落とした。ムサーシの手に柄だけが残る。
「オーションカリバーで行くぞ!」
「レッド」
「なんだ」
「答えは、出たか」
「答えになってるか分からないけど、最低でも、この人たちだけは絶対に守りたい」
「守る相手が見えておれば、剣は振れる。……それでよい」
ムサーシが、喉の奥で短く笑った。
「来い」
ダイマシマシオーが右足を出し、オーションカリバーを両手で持ち上げた。五人分の力が、柄を握った掌に集まっていく。刀身が白く伸びた。
ムサーシは柄を構えて、刃を待った。
「ダイヌードルドライブ!」
振り抜いたオーションカリバーが、ムサーシの右肩から左の腰へ抜けた。
「よい剣であった」
斬られた筋から、鉄の体が二つに分かれて崩れ落ちる。路面に落ちた右手は、柄を握ったままだった。
爆発が交差点を包んだ。
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十時近くに、五人は魁星へ帰り着いた。
忍は膝を擦りむいていて、千代太のワイシャツは袖が破れている。ひばりは左肩を庇うようにして椅子に座った。大豚が丼を五つ並べる。
「食え」
ジロウは手を合わせて、「いただきます」と言った。
忍が途中で一度、割り箸を落とした。拾おうとして背中が痛んだらしく、そのまま新しいのを取っている。乃絵が水を注ぎ足した。
「店主。今日、誰も押してないのに、食券が四枚とも差込口に沈んだ。それで装備が四つ同時に着いた。三田が何かしたのか」
大豚は答えずに、釜の湯を落としている。
「冷める。食え」
ひばりはしばらく大豚の背中を見ていたが、それ以上は聞かずに箸を取った。
ジロウは箸を置いて、右手を握って開いた。操縦桿を握っていた指が、まだ少し痺れている。
「ジロウ。ダイマシマシオー、また出せんの?」
忍が箸で豚をつまんだまま、ジロウの手を見ている。
「……たぶん」
「たまたまなのかよ! 聞いてて不安になるわ」
忍が笑って、豚にかぶりついた。
カウンターの端で、千代太が腰を上げた。丼をカウンターの上へ戻しかけていた乃絵の前で、少し迷ってから口を開く。何を言っているのかは聞こえない。
乃絵は丼を持ち上げたまま、千代太を見ている。口が短く動いた。千代太が深く頭を下げる。
乃絵は丼をカウンターの上に置いて、両手を顔の前で振った。ジロウは二人から目を離して、自分の丼の麺をすすった。
明日も稽古がある。今日鷹志から取った面を、もう一度打てるか試したいと思った。




