第八杯目 同じロットの仲間④
「……クソボケが、よう殺してくれたなぁ」
声は、ビルの四階あたりから聞こえた。
「腹立つわぁ。うち、二杯目からが本番やねん!」
五人が腕輪の「大」のボタンを押し、大きくなった食券を頭上に掲げた。五枚の食券が夜空へ舞い上がって、噴水の残骸の上で五つの機体に変わる。
「増増合体!」
組み上がったマシマシオーの足が、広場の石畳を踏み割った。五人がそれぞれの操縦席で腰を落とし、同じ足を前に置く。
巨大なゴクダクが胴を傾け、白濁が滝になって落ちてきた。石畳が白く埋まり、マシマシオーの足首まで沈む。
「またこれかよ!」
マシマシオーが足を抜こうとしたところへ、四本の腕が左右から来た。オーションカリバーで二本を払う。残る二本に肩と脚を打たれて、機体の膝が落ちた。その腿まで、粘りが這い上がってくる。
マシマシオーがカリバーで胴を斬りつけた。切り口はすぐに白濁で埋まって、跡も残らない。
ゴクダクが笑うと、巨大な胴が揺れた。
「でっかいと、粘りもでっかいんやで。雑魚が戻ってきたら、かえって弱なってるやんか。コロコロ寝返る落伍者抱えて、よう戦えるなぁ」
「もう一回!」
マシマシオーがもう一度斬りつける。切り口は浅く、すぐにまた埋まった。
「軽いな」
ブラックが表示の数字を読んだ。
「今の一撃、四人分しか乗っていない」
「……みんな、振るのがばらばらなんです。関内さんが一番早くて、三田くんがそれにつられて。俺、どこに合わせればいいか分からなくて」
「じゃあ、どうしろってんだよ」
「俺が合図します。全員、見えてるので」
ゴクダクの腕が四本とも上がった。巨大な影が広場を覆う。巨大な胴が、笑いで揺れた。
「前橋さん、あんた裏切ることもろくにでけへんかったなぁ。そのくせ、のこのこ戻ってきて。役立たずはどこにおっても役立たずや。死んだらええんちゃうん」
「……馬鹿にするな。俺の戦う場所は、俺が決める!」
操縦席の差込口で、白の食券が光り始めた。ホワイトがそれを下まで押し込む。マシマシオーの右脚に、装備が接続された。
『ウズラボムだ』
脛の外側に沿って、箱型のラックが開く。中に、斑の入った卵形の小さな弾が、隙間なく詰まっていた。
「……卵の爆弾、ですか」
ホワイトがラックを真下へ向けて、数発撃ち込んだ。弾が足元で炸裂して、腿まで埋まっていた粘りが剥がれ飛ぶ。脚が抜けた。
「抜けた!」
巨大ゴクダクが胴の縁を左右へ開いた。鍋の口がマシマシオーの背丈まで広がる。
「ほんなら、まとめていこか」
「下がれ!」
「いえ。右脚を、あの中へ入れてください」
マシマシオーが右脚を鍋の口へ突き込んだ。粘りが脛に絡みついて、脚が膝まで呑まれる。
「なんや、自分から入ってきよった」
ホワイトが差込口の食券を、もう一度押した。
「ウズラボム!!」
呑まれた脛のラックが、鍋の中へ弾を吐き出した。弾は次々に炸裂して、巨大な鍋が内側から膨らんだ。
鍋の胴に、内側からひびが走った。
「なんで、また内側から」
「役立たずからの置き土産です」
マシマシオーが右脚を引き抜きざま、鍋を下から蹴り上げた。浮いた鍋へ向けて、オーションカリバーを振りかぶる。
「まだです。……まだ」
四人の手が、操縦桿の上で止まる。
「今!」
コクピットの表示が、百に跳ね上がった。太麺の刃が白く光る。
「ヌードルドライブ!!」
カリバーの刃が、鍋の縁から底まで通った。鍋が左右に裂けて、傾く。
「……嘘やん。うちが、あんな雑魚に」
裂けた鍋は、地面に倒れきる前にほどけて消えた。
---
広場に五人が降りた。人の引いた噴水の裏へ回ってから、装甲を解く。千代太が膝に手をついた。
ひばりが千代太の前に立って、キャップを脱いだ。
「前橋。私はお前のことを下に見た作戦を平気で立てた。ひどいことも言った。すまなかった」
ひばりが頭を下げる。
千代太が慌てて両手を前に出した。
「ちょ、目黒さん、やめてください。謝るのは俺のほうで」
「先に言わせろ」
ひばりが顔を上げて、忍の背中を押した。押し出された忍が、そのまま頭を下げる。
「……悪かった」
「関内さん」
「俺、前橋さんに最低なことばかり言ったよな」
「いえ」
「言い訳はしねえよ。俺の上着とか……前橋さんがみんなのためにいろいろやってくれてたの、何にも気づいてなくてさ。責めてばっかりで」
「……いえ、あれは勝手にやってただけで」
「高木ちゃんに言われるまで、気づきもしなかった。自分が恥ずかしいよ」
千代太が割れた石畳に膝をつき、両手をついた。
「前橋さん!?」
「謝らなきゃいけないのは、俺のほうです。みんなのことを、ゴクダクに売りました。……申し訳ありませんでした。目黒さんも関内さんも本当は謝らなくていいのに。俺なんかが戻ってきていい立場じゃないのは分かってます。分かってて、それでも」
「前橋さん、立ってください」
「でも、俺は」
ジロウが手を差し出した。
「立ってください、千代太さん」
「……三田くん、今」
忍がそっぽを向いた。
「あー、じゃあ俺も。立てよ、前ちゃん」
「ま、前ちゃん?」
「だーっ、うるせえな」
千代太がジロウの手を取って立ち上がった。
そのとき、空から白い、卵のようなものが一つ落ちてきた。ジロウが「伏せて!」と叫ぶより早く、それは石畳で弾けた。五人が爆風に転がる。その中を、人影がゆっくり降りてきた。
その怪人は女の形をしていた。全身が継ぎ目のない白い殻で、肩から腰まで一続きに覆われている。腹のあたりだけ殻が丸く欠けて、穴の縁が内側から濡れていた。顔には目があり、唇が黒い。
怪人は石畳に降り立って、殻の爪先で割れた石を撫でた。
「あら、もう片づいちゃったの。あたしがまだ何もしていないのに」




