↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/53

第八杯目 同じロットの仲間④

「……クソボケが、よう殺してくれたなぁ」


声は、ビルの四階あたりから聞こえた。


「腹立つわぁ。うち、二杯目からが本番やねん!」


五人が腕輪の「大」のボタンを押し、大きくなった食券を頭上に掲げた。五枚の食券が夜空へ舞い上がって、噴水の残骸の上で五つの機体に変わる。


「増増合体!」


組み上がったマシマシオーの足が、広場の石畳を踏み割った。五人がそれぞれの操縦席で腰を落とし、同じ足を前に置く。


巨大なゴクダクが胴を傾け、白濁が滝になって落ちてきた。石畳が白く埋まり、マシマシオーの足首まで沈む。


「またこれかよ!」


マシマシオーが足を抜こうとしたところへ、四本の腕が左右から来た。オーションカリバーで二本を払う。残る二本に肩と脚を打たれて、機体の膝が落ちた。その腿まで、粘りが這い上がってくる。


マシマシオーがカリバーで胴を斬りつけた。切り口はすぐに白濁で埋まって、跡も残らない。


ゴクダクが笑うと、巨大な胴が揺れた。


「でっかいと、粘りもでっかいんやで。雑魚が戻ってきたら、かえって弱なってるやんか。コロコロ寝返る落伍者抱えて、よう戦えるなぁ」


「もう一回!」


マシマシオーがもう一度斬りつける。切り口は浅く、すぐにまた埋まった。


「軽いな」


ブラックが表示の数字を読んだ。


「今の一撃、四人分しか乗っていない」


「……みんな、振るのがばらばらなんです。関内さんが一番早くて、三田くんがそれにつられて。俺、どこに合わせればいいか分からなくて」


「じゃあ、どうしろってんだよ」


「俺が合図します。全員、見えてるので」


ゴクダクの腕が四本とも上がった。巨大な影が広場を覆う。巨大な胴が、笑いで揺れた。


「前橋さん、あんた裏切ることもろくにでけへんかったなぁ。そのくせ、のこのこ戻ってきて。役立たずはどこにおっても役立たずや。死んだらええんちゃうん」


「……馬鹿にするな。俺の戦う場所は、俺が決める!」


操縦席の差込口で、白の食券が光り始めた。ホワイトがそれを下まで押し込む。マシマシオーの右脚に、装備が接続された。


『ウズラボムだ』


脛の外側に沿って、箱型のラックが開く。中に、斑の入った卵形の小さな弾が、隙間なく詰まっていた。


「……卵の爆弾、ですか」


ホワイトがラックを真下へ向けて、数発撃ち込んだ。弾が足元で炸裂して、腿まで埋まっていた粘りが剥がれ飛ぶ。脚が抜けた。


「抜けた!」


巨大ゴクダクが胴の縁を左右へ開いた。鍋の口がマシマシオーの背丈まで広がる。


「ほんなら、まとめていこか」


「下がれ!」


「いえ。右脚を、あの中へ入れてください」


マシマシオーが右脚を鍋の口へ突き込んだ。粘りが脛に絡みついて、脚が膝まで呑まれる。


「なんや、自分から入ってきよった」


ホワイトが差込口の食券を、もう一度押した。


「ウズラボム!!」


呑まれた脛のラックが、鍋の中へ弾を吐き出した。弾は次々に炸裂して、巨大な鍋が内側から膨らんだ。


鍋の胴に、内側からひびが走った。


「なんで、また内側から」


「役立たずからの置き土産です」


マシマシオーが右脚を引き抜きざま、鍋を下から蹴り上げた。浮いた鍋へ向けて、オーションカリバーを振りかぶる。


「まだです。……まだ」


四人の手が、操縦桿の上で止まる。


「今!」


コクピットの表示が、百に跳ね上がった。太麺の刃が白く光る。


「ヌードルドライブ!!」


カリバーの刃が、鍋の縁から底まで通った。鍋が左右に裂けて、傾く。


「……嘘やん。うちが、あんな雑魚に」


裂けた鍋は、地面に倒れきる前にほどけて消えた。


---


広場に五人が降りた。人の引いた噴水の裏へ回ってから、装甲を解く。千代太が膝に手をついた。


ひばりが千代太の前に立って、キャップを脱いだ。


「前橋。私はお前のことを下に見た作戦を平気で立てた。ひどいことも言った。すまなかった」


ひばりが頭を下げる。


千代太が慌てて両手を前に出した。


「ちょ、目黒さん、やめてください。謝るのは俺のほうで」


「先に言わせろ」


ひばりが顔を上げて、忍の背中を押した。押し出された忍が、そのまま頭を下げる。


「……悪かった」


「関内さん」


「俺、前橋さんに最低なことばかり言ったよな」


「いえ」


「言い訳はしねえよ。俺の上着とか……前橋さんがみんなのためにいろいろやってくれてたの、何にも気づいてなくてさ。責めてばっかりで」


「……いえ、あれは勝手にやってただけで」


「高木ちゃんに言われるまで、気づきもしなかった。自分が恥ずかしいよ」


千代太が割れた石畳に膝をつき、両手をついた。


「前橋さん!?」


「謝らなきゃいけないのは、俺のほうです。みんなのことを、ゴクダクに売りました。……申し訳ありませんでした。目黒さんも関内さんも本当は謝らなくていいのに。俺なんかが戻ってきていい立場じゃないのは分かってます。分かってて、それでも」


「前橋さん、立ってください」


「でも、俺は」


ジロウが手を差し出した。


「立ってください、千代太さん」


「……三田くん、今」


忍がそっぽを向いた。


「あー、じゃあ俺も。立てよ、前ちゃん」


「ま、前ちゃん?」


「だーっ、うるせえな」


千代太がジロウの手を取って立ち上がった。


そのとき、空から白い、卵のようなものが一つ落ちてきた。ジロウが「伏せて!」と叫ぶより早く、それは石畳で弾けた。五人が爆風に転がる。その中を、人影がゆっくり降りてきた。


その怪人は女の形をしていた。全身が継ぎ目のない白い殻で、肩から腰まで一続きに覆われている。腹のあたりだけ殻が丸く欠けて、穴の縁が内側から濡れていた。顔には目があり、唇が黒い。


怪人は石畳に降り立って、殻の爪先で割れた石を撫でた。


「あら、もう片づいちゃったの。あたしがまだ何もしていないのに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。