第八杯目 同じロットの仲間③
アオガッパの群れが二つに割れた。五人の方へ来たのは半分もいない。残りは噴水の向こうへ走っていく。ベンチの脇で、腰の曲がった老人が杖を落として動けずにいた。花壇の陰には、ベビーカーを抱えるようにして女がしゃがみこんでいる。最初に振り返ったのはホワイトだった。
「関内さん、前お願いします!」
ホワイトが老人とアオガッパの間に走り込み、槌を石畳へ叩きつけた。敷石が波を打って持ち上がり、先頭の三体が足を取られて転ぶ。そこへブラックが一発ずつ撃ち込むと、三体は青い煙を上げて消えた。
「前橋、後ろ回られてる!」
「はい!」
回り込んだ二体がベビーカーへ手を伸ばす。その手が届く前に、グリーンが歩道橋の階段の途中から射た。一体が肩を貫かれて横へ倒れ、もう一体がそれに躓いた。
「下がって! 橋の下へ!」
グリーンが階段を飛び降りる。ホワイトは槌を腕輪へ戻して老人を抱え上げたところで、背中に三発もらった。体が前へ泳ぐ。老人は腕の中にいる。
「どけ、邪魔」
イエローが割り込んで、二振りのスライサーでアオガッパを薙ぎ払った。そこで、イエローの手が止まる。
「……っ、違う」
「!!」
「後ろ、任せた」
「はい!」
イエローが刃を横へ振り抜いて、アオガッパの群れを左右に割った。できた隙間へ、レッドが低く走り込む。すれ違いざまに一体を斬り、返す刃でもう一体を斬った。
「三田くん、右!」
グリーンの矢がレッドの耳の脇を抜けて、右の一体が仰け反った。
ブラックが群れの奥へ撃ち込んで、後続の足を止める。そのあいだにホワイトは老人を花壇の陰に座らせ、ベビーカーの女を歩道橋の下へ押しやった。腕輪から槌を呼んで、群れの背中側へ回る。両手で持った槌を下から掬い上げると、三体がまとめて浮いて、噴水に落ちた。
「アオガッパ!」
残りを五人で片づけるあいだ、ゴクダクは噴水の縁で四本の腕を組んで見ていた。
「なんで捌けとんの」
「一人増えたんでね!」
「ボケが」
ゴクダクが噴水の縁から立ち上がって、胴を大きく揺すった。
「ほんなら、うちも本気出さなあかんなぁ」
胴が傾いて、白濁が広場一面に降った。石畳に落ちた白濁は糸を引いて広がり、五人の装甲の足裏に貼りついた。
「っ、足が」
ゴクダクが笑った。
「聞いとる? そこで走ったら足首いくで。粘りやったら、うちに勝てる子ぉおらんし」
イエローが片足を引き抜こうとして、体勢を崩す。そこへ来た腕を、ホワイトが槌で横から払い上げた。
「なんで前橋さんだけ動けんの」
ホワイトが膝まで沈んだ足を、太腿から引き上げた。粘りが伸びて、途中でぶつぶつと切れる。その端を、次の一歩で踏み潰した。
「沈みきる前に、次を踏んでるだけです。……目黒さん、俺の足跡を撃ってください。踏んだところは粘りが薄いので、剥がれると思います」
ブラックがホワイトの足跡に沿って、間隔を詰めて撃っていく。弾が粘りを弾き飛ばし、下から石畳が覗いた。
「関内さん、そこ通れます!」
「早く言えよ!」
イエローが足を抜いて、ホワイトの背中側を回る。
ゴクダクが四本の腕を揃えてホワイトへ向けた。
「よう踏ん張るなぁ。ほな、上から行こか」
四本が同時に落ちてくる。ホワイトが槌を立てて二本を受けた。柄が軋み、膝が石畳へ食い込む。残る二本が肩と背中へ入った。ホワイトは倒れかけて、左足で堪える。
「まだです」
「往生際わるいなぁ」
「関内さん!」
イエローがホワイトの肩を踏み台にして跳び、スライサーを上から腕の付け根へ振り下ろした。刃は粘って止まる。そこへブラックが三発撃ち込んだ。粘りが飛んで、刃が一気に滑る。腕が一本、落ちた。
「あ」
グリーンが粘りに膝をついて射た。矢は隣の腕の付け根に入って、その腕が垂れ下がる。
「二本しかあらへんで」
ホワイトが膝に手をついて、体を押し上げた。
「さっき、言いましたよね。四人でどうにかなると思ってたのか、って」
「……言うたなぁ」
「二本でどうにかなると思ってるんですか」
ゴクダクが残る二本を胴の中へ引っ込めた。代わりに胴が膨れ上がって、縁が人の背丈を越える。
「腕がのうなったら、あとは押し潰すだけやんか。どきぃ!」
胴が傾いて、そのまま転がってきた。石畳が割れて、砕けた敷石が跳ね上がる。噴水の柱が根元から折れた。
「避けろ!」
ブラックが叫んで、四人が左右へ飛んだ。ホワイトだけが正面に残り、槌を石畳へ突き立てた。柄を両手で握って、肩からぶつかる。踵が石畳を削って一メートル、二メートルと下がり、そこでようやく止まった。
「なんで止まんの」
「体重なら、負けないので」
ホワイトが押し返した。今度は足が前へ出る。
ホワイトが胴を押さえているあいだに、イエローが側面へ回り込んだ。右のスライサーを突き入れ、刃を寝かせたまま縁に沿って走る。縁が裂けた。ブラックがその裂け目へ撃ち込み続けて、口を広げていく。
レッドが裂け目に足をかけて胴の上へ跳び、豚斬包丁を根元まで突き立てた。それでも、底までは届かない。
「前橋さん、上から!」
ホワイトが槌を石畳から引き抜いて、振りかぶった。
「チャンキークラッシュ!!」
槌が豚斬包丁の柄尻を真上から打ち、刃が胴の底まで抜けた。
「……役立たずの分際で、ようやるわ」
胴にひびが回って、ゴクダクは崩れ落ちた。流れ出した白濁が、石畳に広がりながら黒く煙って消えていく。あとに、親指ほどの欠片が一つ残った。広場に降っていた白濁も、跡形なく消える。
ホワイトが槌を下ろして、四人の方へ向き直った。頭を下げかけたところで、欠片が石畳の割れ目へ沈んだ。
割れ目から白濁が噴き上がり、折れた噴水を丸ごと飲み込んで、鍋の形に固まっていく。縁が外へ反り返った巨大な鍋が、広場に立ち上がった。




