第八杯目 同じロットの仲間②
南口の広場には噴水があって、東の端に歩道橋が架かっている。四人は駅舎の柱の陰で変身してから、広場へ出た。
ゴクダクは噴水の縁に腰かけていた。
「待ってたで。この腕も、やっと言うこと聞くようになったわ」
ゴクダクが白い腕を回しながら、腰を上げた。
レッドが先に出た。低く踏み込んだところへ、腕が次々に来る。一本目を豚斬包丁で払うと手首まで痺れが上がり、二本目を潜った先で、三本目に胸を叩かれた。レッドはそのまま、胴の正面に張りつく。
「わあ、前来るなぁ。さっきはもっと丁寧に来とったのに」
「関内さん、右!」
「見えてる!」
イエローが右から入った。右のスライサーを腕の付け根へ滑らせると、刃は途中で粘って止まった。左の刃で腕を突き放して、右を引き抜く。
「くっそ、また止まる!」
「止まるで。うち、そういう体やもん」
四本目と五本目がイエローへ向く。腕がほとんど正面へ集まったところで、ブラックが白い腕の肘を撃った。
「おい。そこ、さっきも」
「二度目だ」
ブラックが撃ち続ける。反動が肩へ抜けるたび、踵で押し戻した。白い腕の一本が肘のところで跳ねて、下がる。
「うっとうしいなぁ」
ゴクダクが胴を回して、もう一本の白い腕をブラックへ伸ばした。その拍子に、背中が歩道橋の方を向く。
グリーンは歩道橋の踊り場で、手すりに左肘を預けて弦を引き絞っていた。放った矢が白い腕の肘に入って、装甲が一枚外へめくれる。粘りが糸を引いて、板の下に黒い隙間が開いた。
「前橋さん!!」
レッドが隙間へ向かって叫ぶ。ゴクダクの六本の腕が、振り上げた高さで固まった。
「なんや、これ」
「悪かったって! 聞くから出てこい!」
「前橋、出てこい。お前に言うことがある」
「前橋さん、帰ってきてください」
グリーンが手すりから身を乗り出す。矢はもう番えてあった。
白い腕が震えて、胴の白濁が波打つのをやめた。胴の奥から、低く掠れた声がした。
「……嫌ですよ」
レッドが一歩前に出た。
「前橋さん、ごめんなさい。ひとりでいろいろ抱えてたのに、俺、何も聞けなくて──」
「うるさい」
「え」
「うるさいって言ってるんだよ! 役立たずなのは、俺が一番分かってんだよ! 本当はムカついてるんだろ! 裏切り者なんだから、堂々と罵ればいいだろ! 悪くもないってわかってんのに謝って、どこまで俺を惨めにさせたら気が済むんだよ!」
白濁が縁まで盛り上がり、めくれた板を下から舐める。板が元の位置へ戻って、継ぎ目が消えた。
「危ないとこやったわ。継ぎ目な、覚えたで」
六本の腕が一度に動く。地上の三人がまとめて吹き飛び、噴水の縁まで転がった。
レッドが石畳に手をついて起き上がる。ゴクダクは白い腕を二本とも胴の前で交差させて、肘を内側に隠していた。
「三田くん、肘が隠れてる! あれじゃ射てない!」
レッドが豚斬包丁を腕輪へ戻した。
「三田くん?」
レッドが正面から一直線に走った。迎えに来た三本の腕のうち、一本目を肩で受け、二本目に腰を打たれ、三本目は潜る。そのまま懐へ入って、交差した白い腕の一本に両腕でしがみついた。
「は? なにしてんの」
レッドがその腕を、交差の外へ引きずり出しにかかる。ゴクダクが腕を振った。レッドの足が石畳から浮き、噴水の水しぶきが上がる。レッドは指を組んだまま、装甲の継ぎ目に爪先を引っ掛けて、体重を全部そこへ預けた。
「離してぇな!!」
胴の前で交差していた腕がほどけた。レッドがしがみついた腕は外へ引き伸ばされて、肘の継ぎ目が開く。もう一本の白い腕が、レッドを引き剥がしにきた。
「関内さん!」
「言われなくても!!」
イエローが二振りのスライサーで、その腕を肘から弾いた。戻ってくるまでの一拍で、グリーンが射た。矢はレッドの頭の上を抜けて開いた継ぎ目に入り、装甲を三枚まとめてめくり上げた。
レッドが腕を離して、剥がれた場所の正面に降りた。
「前橋さん、役立たずなんかじゃないです! この前、逃げ遅れたお年寄りを路地の奥まで運んでたの、前橋さんじゃないですか!」
「お前、昨日、俺がどっちに跳ぶか全部読んでたろ。役立たずに、あんな真似できるかよ」
ゴクダクの腕は六本とも下りている。
「なんですか、それ」
胴が内側から膨らんで、縁が外へ押し出された。
「なんですか、それ……」
胴の内側を、拳で叩く音がした。二度、三度と続く。
「待ち、待ちぃ」
ゴクダクが胴を押さえた。白い腕の装甲にひびが走る。
「あかんて、それもううちのや!!」
「返せ」
胴が裂けて、千代太が石畳へ転がり出た。手をついて、一度咳き込む。
ゴクダクの肩から、白い装甲が剥がれ落ちていく。板は石畳に着く前に消え、白い腕の手首から抜けた黒い腕輪だけが、千代太の前に転がった。千代太がそれを拾って、左の手首にはめる。
「前橋さん」
「遅くなりました」
千代太の髪から、白濁が滴っている。
「三田くん。あとで、全部謝ります」
「はい」
「でも、その前に」
千代太が腕輪に食券を差した。手は、震えていなかった。
「このケリは俺がつける!」
「マシマシチェンジ!」
白い装甲が肩から順に組み上がった。アブラホワイトが手を開いて、アブラハンマーを握る。ゴクダクが後ずさる。腕は四本に戻っていた。
「ちょお待ちぃ」
ゴクダクが胴の中を掻き回した。
「クソー! アオガッパ!!」
渦を巻いた白濁の中から、アオガッパが次々に這い出してくる。広場の敷石が、青い体で埋まっていった。
「アオガッパ」
「アオガッパ」
「アオガッパ」
「うわ、多」
ゴクダクが噴水の縁に腰を戻して、四本の腕を組んだ。
「ほれ、こうなったら手っ取り早いほう行こか。そっちの人ら、悲鳴上げさせーな!」




