↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/53

第七杯目 裏切りのトッピング⑤

厨房の奥で電子音が鳴ったのは、その二十分後だった。大豚が商店街の東の外れだと告げた。四人が着いたとき、通りの真ん中にダルマンとゴクダクが並び、その横に千代太が立っていた。


「前橋さん」


ジロウが呼んだ。千代太はジロウの方を見なかった。


「なんでそこにいるんですか。こっち来てください」


忍が前へ出た。


「この期に及んで怪人の味方かよ。なんとか言えよ!」


「うるさい」


千代太が小さい声で言った。


「え」


「うるさいです。さっきから、ずっと」


千代太が顔を上げた。


「トロいだの、陰キャだの、さんざんバカにしといてさ。今更被害者面か? ふざけんじゃねえぞ!」


「前橋さん!」


千代太が腕輪に食券を差した。


「マシマシチェンジ」


白い装甲が千代太を覆った。ホワイトは槌を呼び出して、四人の正面に立った。


「いいですよ、俺が悪者で」


「え」


ホワイトが槌を持ち上げた。槌の重みで、肩が一度沈む。


「俺、ずっとこうなりたかったんだ」


「何言って」


「真面目にやって、軽く見られるくらいなら」


「そんなこと」


「はじめから、悪者でいたかったんだよ!」


槌が路面を叩き割り、アスファルトが放射状に持ち上がった。


「おお、ええやん」


ゴクダクが四本の腕で拍手した。


「ほな、ダルマン、あとは白の人と頼むわ」


「承知しました」


「え、あなたは」


ホワイトがゴクダクを振り返った。


「うち、喧嘩は向いてへんねん」


ゴクダクは路地の奥へ下がっていった。


「マシマシチェンジ!」


四人が変身した。ダルマンが丸い体を揺すると、白い粒がまた路面に散らばった。踏めば、脂を踏んだように足が滑る。


「関内、まずダルマンからだ」


「分かってる!」


「前橋は後回しだ。先にダルマンを止める」


ホワイトが槌を肩に担いだまま言った。


「また後回しですか。いつもそうですよね、俺は」


「うわっ、っと!」


イエローが粒を踏んで転んだ。そこへホワイトが槌を振り下ろす。レッドが間に入って、豚斬包丁で受け止めた。


「っ、重い!」


「三田くん!」


「大丈夫です!」


「大丈夫じゃないですよね」


ホワイトは槌を引くと、今度はレッドの脇腹めがけて横に振った。受け止めたばかりで構え直す間がなく、槌はまともに入った。レッドは横へ飛ばされて、店のシャッターに背中から叩きつけられた。


「三田くん!」


イエローが右へ跳んで槌をかわした。跳んだ先に、もう粒が撒いてあった。


「うわっ」


グリーンの矢がダルマンの胴に刺さって止まった。


「浅いっ!」


グリーンが矢を番え直そうと下がった。三歩目の足が、粒を踏んだ。


「なんで」


「ずっと後ろで見てましたから」


「癖を読まれてるな」


ブラックが言った。銃口はダルマンに向けたままだった。


「読まれてるって、どうすんだよ!」


「いつもどおり右へ跳べ。着く先は私が空ける」


イエローが右へ跳んだ。跳ぶ先の粒をブラックの弾が先に弾き飛ばした。イエローは粒のない路面に着地して、そのままホワイトの懐へ踏み込んだ。スライサーがホワイトの槌に当たって、弾かれた。


「っ、重っ」


「力じゃ、俺に勝てませんよ」


「うるせえ!」


イエローがもう一度打ち込んだ。また弾かれ、三度目でスライサーの刃が槌の柄に食い込む。イエローが刃をひねると、柄が削れた。ホワイトが槌を持ち替えた隙に、グリーンの矢がその肩に当たった。


ブラックがダルマンの腹を狙って撃った。三発、四発。五発目で腹の一点が凹み、そこからこぼれていた粒が一瞬途切れた。


「そこか」


「あっ、そこはやめてください」


ブラックは同じ一点に撃ち込み続けた。ダルマンの体から、粒がこぼれなくなった。


「今だ!」


イエローが走った。


「ガーリックミンス!」


スライサーの刃がダルマンの胴に入って回り、切り口から白い粒がこぼれ落ちた。


「ベジタブルピアース!」


光の帯が裂け目を貫いて、ダルマンを路面に縫い止めた。とどめを刺しに跳んだレッドの足を、横から来た槌が空中で払った。


「っ」


レッドが落ちた先に、ホワイトが立っていた。槌が上がる。


「三田くん!」


グリーンの矢がホワイトの肩に当たって、槌が逸れた。ホワイトがグリーンの方を向いた。


「……小岩さんも、撃つんですね」


レッドがそういう間に、グリーンは、次の矢を番えていた。


「くっ……こうなったら!」


矢がもう一本飛んだ。ホワイトがそれを槌で払った隙に、レッドはダルマンの懐へ潜り込んだ。縫い止められた丸い体の下へ刃の腹を差し入れ、すくい上げて仰向けに返す。


「天地返し!」


レッドは倒れた胴へ跳んで、豚斬包丁を振り下ろした。丸い胴が縦に割れて、黒い煙になって散った。


やがてその黒い煙が地面で渦を巻いて膨らみ、商店街のアーケードの屋根を越えて立ち上がった。ダルマンが巨大化した。


「一度、殺されたんですよ、私。困るんですよ、予定にないことは!」


四人は腕輪の「大」のボタンを押し、大きくなった食券を頭上に掲げた。食券は指を離れて、赤、黄、緑、黒の四つの機体の形を取った。


「白がいない! 右脚が足りない!」


「そりゃそうでしょ」


ホワイトも同じように食券を掲げた。ラードエクスプレスは四機と巨大なダルマンのあいだへ走り込み、そこで停まった。


「前橋さん、どいてください!」


レッドが叫んだ。


「やだね」


「どけって言ってんだよ!」


白い機体が、四機の前で車体を横に振って道を塞ぐ。


「これじゃ合体できません!」


『落ち着け』


大豚の声がコクピットに入った。


『四人でもマシマシオーへの合体はできる』


「え」


『マシマシオーは神豚の力で動く。四人の力を合わせれば、あいつ一人の力より強い。あいつの機体ごと合体に引っ張りこめる』


「やります」


レッドが言った。操縦桿を、両手で握り直す。


「みなさん、力を貸してください」


「どうやって!」


「よくわからないですが根性です! 絶対負けないって思ってください!」


「適当すぎるだろ!」


四人が差込口の食券に手を当てた。四枚の食券が光ると、白い機体が揺れて、車体が路面から浮いた。


「なんだこれ、動かねえ!」


車体が路面を削りながら、四機の方へ引き寄せられていく。


「やめろ! 離せ!」


四人が操縦桿を握り直した。


「増増合体!」


マシマシオーが通りに着地した。組み込まれた右脚の操縦席から、ホワイトが外へ飛び出した。高い脚から路面に叩きつけられて転がり、そこで変身が解けた。


「……くそ」


千代太は肘をついて起き上がろうとしたが、肘が崩れた。


コクピットの表示に、出力 89% と出た。


「……八十九? 一人抜けて、まだ八十九あんの?」


イエローが表示を見たまま言った。


「前橋の分は、十一だったということだ」


ブラックが言った。


「ほらな」


イエローが操縦桿を握り直す。


「やっぱ雑魚だったんじゃん、あいつ」


「関内。今、その十一が足りなくて困ってるんでしょ」


「困ってねえってとこ見せてやるよ」


「今は後だ。来るぞ」


マシマシオーが巨大なダルマンの撒いた粒を踏んだ。


「アブラ、カラメ、マシマシ!」


イエローが叫んだ。腕から熱が抜けて、脚に移る。滑る足を踏ん張ったが、持ちこたえられなかった。


「っ、力が足りない!」


「押し返してください!」


「いやいや、押し返してるって!」


マシマシオーの足が粒で滑って、二歩押し流された。そこへ巨体の腕が落ちてきて、受けた左膝が路面を割った。


「大きいと、撒ける量も段違いですね。予定以上です」


「押し返せません!」


「押し返すな。足元は粒だ。横へ滑って、向こうに空を押させろ」


ブラックが言った。


マシマシオーが腕を受けたまま左へ滑った。押していた相手がいなくなって、巨体が前へつんのめる。


「おっと、そっちに逃げますか」


「今です!」


マシマシオーがオーションカリバーを振り下ろした。一度目で、粒を撒く口を潰す。


「あっ、そこは、困ります!」


「粒、止まりました! 立てます!」


二度目で胴が裂ける。太麺の刃が白く光り始めた。


「ヌードルドライブ!!」


三度目で胴が割れた。


「この敗北は、予定に、ありません……」


割れた巨体は崩れ落ち、黒い煙になって通りいっぱいに広がった。煙が晴れたあとには、割れたアスファルトだけが残っていた。


「降りるぞ」


ブラックが操縦桿から手を離した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。