宵宮の灯(四) 二人そろって大吉。願いは、口に出すと叶わなくなるから
鈴当ての屋台をあとにして、私たちはようやく山の上の社までたどりつきました。
せっかく社まで来たのですから。私は当主さまにうちの名物のひとつを、おすすめすることにしました。
「当主さま。よろしければおみくじをいかがです。今日の運勢を占うんですよ。……あこちらはちゃんとお代を頂戴します。銅貨一枚、です」
「……銅貨一枚か」
「はい。こういうものは、きっちりいただきます」
私がにっこりそう言うと、当主さまはめずらしく素直に銅貨を一枚ちゃりん、とお納めくださいました。二人して筒をふって、ころり、と出てきたくじの番号のおみくじを、それぞれ開きます。
「わ。私、大吉です! やった。——ええと、なになに。『商い、いよいよ栄えん』。まあ、うれしい! それから……えっと、『恋愛。待ち人、来たる。ごく近きにあり』」
私はその恋愛のところを読んで、はて、と首をかしげました。
「待ち人、ですって。……はて。私に待ち人だなんて。当分そんな色恋沙汰には、ご縁がなさそうですけれど。——きっとこれは新しい上得意さまが来てくださる、というお告げですね!」
私がそう大まじめに言うと当主さまはなぜだかぐ、と言葉につまって。それから、そっと目をそらされました。
「当主さまは、いかがでした? 見せてくださいな」
私がのぞきこむと、当主さまのおみくじも、——これがまた大吉でした。そうして、その恋愛のところには、『想いいつか必ず通ず。焦るべからず』と。それはもうたいそう良いことが、書いてあるのです。
「まあ当主さまも大吉! それに、恋愛運もばっちり。——ふふ、よかったですね。きっとどこかに当主さまをお慕いする、すてきな御方がいるんですよ」
「…………」
当主さまは、なにもおっしゃいません。ただそのおみくじをじっと見つめたまま。なぜだかその耳の先が、ほんのり赤くそまっていたのでした。
* * *
おみくじを結んだあとは、せっかくですから二人そろって社にお参りをすることにしました。
鈴の下に、ならんで立ちます。まず私がお賽銭をそっと賽銭箱に。ちゃりん。つづいて当主さまも、なにやら、金色のモノがじゃらり、と。……当主さま。それはあきらかにお賽銭にしては多すぎます。けれど今夜ばかりは私もなにも申しません。二人そろってぱん、ぱん、と手を打ち鳴らして、それから静かに目をつむり手を合わせました。
——神さま。
私は心のなかで、そっと願いごとをとなえます。
私がこの山に来て、はじめての夏です。当主さまのあの氷の呪いも約束の一年をかけて、ゆっくりとあと半年ほどで、すっかり溶けることでしょう。そうしたら、私のお役目もおしまいです。——私はきっとこの山を出ていくことに、なるのでしょう。
……でも。
私は、ぎゅっと手を合わせます。
できることなら私はずっとここにいたい。この鈴の山に。にぎやかな門前町に。マーサさんやガンツさんやみんなのいる、この場所に。——そしてこの無口で無愛想でそれでいて金貨を貢いでは突き返される、へんてこな、この方のそばに。なぜだか自分でもわからないけれど、ここにいると私の胸はぽかぽかとあたたかくて、この暮らしをこの日々を私はどうしても、手放したくないのです。
どうか、神さま。このしあわせがずっと、ずっと続きますように。
目をあけると、となりの当主さまも、ちょうど手を下ろしたところでした。
「……なにを、願った」
当主さまが、ぼそりとおたずねになります。私はいたずらっぽく笑って、人さし指を口の前に立てました。
「ないしょです。——お願いごとはね、当主さま。口に出すと、叶わなくなっちゃうんですよ。だから言わないほうがいいんです」
「……そうか」
「はい。だから当主さまのお願いごとも、どうか内緒になさってくださいね。——そのほうがきっと叶いますから」
当主さまは、しばらく私の顔をじっと見つめて。それからふ、と目もとをやわらげて、「……ああ」とひとことうなずかれました。——おたがいの願いごとは、とうとう口にしないまま。私たちは、鈴の下をあとにしたのでした。
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——お代は、銅貨五枚。……ではなく、ブックマークをひとつ、いただけたらうれしいです。




