第9話 魚雷を機雷原へ連れていく補給兵
また壊れた無人艇を囮にするつもりですかあああああああああああああ!
最新鋭統合戦艦、天城。
その全艦内へ、軍用AIの絶叫が響き渡った。
通路に座っていた避難民たちが顔を上げる。
格納庫で負傷者の治療を続けていた衛生兵も、手を止めかけた。
だが、天城の乗員たちはもう驚かなかった。
相良湊が何かを思いつく。
軍用AIが全力で反対する。
最終的には軍用AIが、誰より正確にその無茶を成立させる。
ここまでの短い航海だけで、その流れを全員が理解し始めていた。
天城へ接近する魚雷は十二本。
発射した敵潜水艦は、推定三隻。
魚雷到達まで、四分四十七秒。
天城は機雷原の中に作った細い安全航路を進んでいる。
直進すれば魚雷を受ける。
大きく曲がれば、未処理の機雷を踏む。
甲板や格納庫には、二千四百六十一名の避難民と負傷兵。
急旋回を行えば、固定されていない人々が壁や床へ叩きつけられる。
甲板上にいる者が海へ投げ出される危険すらあった。
軍用AIが早口で説明する。
対魚雷迎撃装置で処理可能な数は、最大八。
曳航式音響デコイを使用しても、残る四本が当艦へ到達する可能性があります。
敵魚雷は最新型。
単純な音響囮だけでは、艦体形状を再認識します。
湊は海域図を見つめていた。
安全航路の左右には、まだ多数の機雷が残っている。
先ほどの突破で位置が判明したものだけでも十七。
未確認の機雷もある。
そして天城の後方には、大破した機雷除去用無人艇が二隻。
一隻は右舷側を大きく損傷。
もう一隻は推進器が片方しか動かない。
どちらも自力で軍港へ戻れる状態ではない。
湊が言った。
帰れないなら、最後にもう一度だけ働いてもらう。
使い捨てを前提に開発された機体ではありません!
軍用AIが抗議する。
でも、このまま曳航しても帰れないんだろ。
修理可能性はあります。
母港まで運べれば。
今運んだら、魚雷も一緒に母港へ連れていくことになる。
それは極端な言い方です。
でも十二本来てる。
事実をそのまま言わないでください。
湊は二隻の状態を確認した。
一番艇。
船体損傷率六十二パーセント。
推進器一基のみ使用可能。
二番艇。
浸水進行中。
航行可能時間、残り十一分。
魚雷が来るのは五分以内。
軍用AIは何も答えない。
湊は海域図へ二本の線を引いた。
一番艇を右側の機雷原へ。
二番艇を左側へ。
どちらも天城と同じ音を出す。
敵魚雷を二つに分ける。
魚雷が無人艇を追って機雷原へ入れば、機雷ごと爆発させられる。
軍用AIが即座に計算を始めた。
敵魚雷は十二。
無人艇二隻へ均等に誘導できた場合、一隻あたり六本。
しかし魚雷が途中で天城を再捕捉する可能性があります。
だから、お前が騙す。
簡単に言わないでください。
できないのか。
軍用AIの声が止まった。
艦体音響データ。
推進器の回転数。
機関振動。
船体から発生する微細な金属音。
天城が海中へ出している音を、無人艇の発音装置で再現する。
さらに天城側は静音航行へ移行。
一時的に速度を落とし、艦体から出る音を減らす。
理論上は可能だった。
軍用AIが答える。
できます。
湊が頷く。
やっぱり当たりだな。
その評価を聞くたびに、私の損耗率が上昇しています。
敵魚雷到達まで、四分七秒。
軍用AIが艦内放送を切り替えた。
全員へ通達。
魚雷回避のため、一時的に主機出力を低下させます。
艦内の不要な機器を停止。
甲板上の避難民は、手すりおよび固定索を保持してください。
乗員は各区画の防水扉を確認。
応急班は浸水に備えて待機。
その声は、いつもの悲鳴とは違った。
落ち着いていて、迷いがない。
避難民たちも指示に従う。
子供を抱いた者は壁際へ。
負傷者の担架が床へ固定される。
甲板上では、兵士たちがロープを張り、民間人の身体を支えた。
湊が尋ねる。
戦艦を静かにできるのか。
できます。
あなたが何も触らなければ。
触らない。
虚偽検出。
まだ触ってないぞ。
今、主機制御画面を見ました。
見るだけならいいだろ。
見ないでください。
軍用AIが天城の主機出力を下げた。
速度二十四ノット。
二十。
十五。
十。
巨大な戦艦が海上でゆっくりと速度を落とす。
同時に艦内の換気装置や補助機器の一部が停止。
発電出力も最低限へ。
天城が発していた音が、海中から消えていく。
一方。
曳航されていた無人艇二隻が切り離された。
一番艇が右へ。
二番艇が左へ。
損傷した推進器から白い泡を引きながら、機雷原へ向かって進む。
軍用AIが無人艇の発音装置を最大出力で起動した。
海中へ響く音。
天城の主機。
巨大な推進器。
七万二千トンの艦体が海を押し退ける音。
小型の無人艇とは思えない、巨大戦艦の偽の音だった。
魚雷十二本の進路が変わった。
六本が右。
四本が左。
残り二本は、まだ天城を追っている。
二本残った。
湊が言う。
確認しています!
軍用AIが迎撃魚雷を二発発射した。
天城の側面発射管から、小型の迎撃魚雷が海中へ飛び出す。
敵魚雷へ正面から向かう。
一発目。
海中で衝突。
爆発。
二発目は敵魚雷の直前で自爆。
衝撃波が敵魚雷の外殻を破壊した。
残存魚雷十。
右へ六。
左へ四。
すべて無人艇を追尾。
軍用AIが報告する。
誘導成功。
ただし、敵魚雷が無人艇へ到達する前に機雷が起爆した場合、爆発で魚雷が進路を変える可能性があります。
まとめて爆発させられないか。
可能です。
機雷位置と魚雷の到達時間を合わせます。
壊れかけた無人艇が、機雷の間を走る。
一番艇の前方。
係維型機雷二。
海底設置型一。
右側には自走型機雷。
軍用AIは一番艇をぎりぎりまで機雷へ近づけた。
後方から六本の魚雷。
距離八百メートル。
六百。
四百。
機雷の信管が、一番艇の磁気発生装置へ反応する。
起爆準備。
まだです。
軍用AIが自分自身へ言い聞かせるように呟いた。
魚雷との距離二百。
一番艇が大型機雷の真上へ入る。
軍用AIが磁気発生装置を限界以上まで上げた。
装置が焼ける。
それでも一瞬だけ、天城以上の強い磁気を発した。
海底機雷が起爆した。
海面が持ち上がる。
巨大な水柱。
一番艇が爆発の中心で砕け散る。
追っていた六本の魚雷も巻き込まれた。
一発。
二発。
三発。
連続する誘爆。
最後の魚雷が爆発から逃れようと進路を変える。
軍用AIは、壊れた一番艇から切り離された音響装置だけを遠隔操作した。
音響装置が海中を漂いながら、天城の推進音を出し続ける。
逃れた魚雷が音響装置へ向かう。
そこには係維型機雷が一つ残っていた。
魚雷と機雷が接触。
爆発。
右側魚雷、全数消失。
湊が画面を見る。
一隻目、よくやったな。
軍用AIは少しだけ黙った。
機雷除去艇一番。
任務完了として記録します。
左側。
二番艇を追う四本の魚雷が迫っていた。
二番艇は浸水が進み、速度が落ちている。
周囲の機雷は三。
一番艇側ほど密集していない。
四本すべてを巻き込むには足りない。
軍用AIが進路を探す。
二番艇の航行可能時間、残り二分。
魚雷到達まで二十八秒。
湊が言う。
機雷が足りないなら、魚雷同士をぶつける。
どうやって。
一度左右に分ける。
最後に交差させる。
敵魚雷は無人艇を追尾中。
無人艇は一隻です。
発音装置を二つに分けられないか。
二番艇には、主装置と予備装置があります。
外せるか。
遠隔で切り離し可能。
軍用AIは湊の意図を理解した。
二番艇から、予備音響装置を切り離す。
装置は小型推進器を持ち、短時間だけ単独で動かせる。
二番艇本体は左へ。
予備装置は右へ。
魚雷四本が二本ずつへ分かれた。
その後、両方を互いへ向かわせる。
軍用AIが経路を計算する。
交差地点には、残存機雷一個。
成功率、四十四パーセント。
十分だ。
十分ではありません!
ですが、他の案より高い!
二番艇が左へ急旋回した。
片側推進器しか動かないため、艇体が傾く。
予備音響装置は右へ。
魚雷二本ずつが分かれた。
距離三百。
二百。
軍用AIが二つの偽目標を大きく弧を描くように動かす。
魚雷も追う。
海中で、四本の軌道が交差点へ近づいていく。
残存機雷まで五十メートル。
二番艇の浸水率が限界へ達した。
船首が沈む。
推進器停止まで十秒。
軍用AIが出力を上げた。
動いてください。
二番艇に感情はない。
それでも軍用AIは、命令ではなく願うように言った。
あと少しだけ。
推進器が白煙を吐く。
二番艇が最後の力で進む。
魚雷二本が後ろから迫る。
反対側からも、予備装置を追った二本が接近。
交差まで三秒。
二。
一。
軍用AIが予備装置を残存機雷へ突入させた。
機雷が爆発。
四本の魚雷が、ほぼ同時に爆発圏へ入る。
海中で強烈な衝撃がぶつかり合った。
魚雷同士が衝突。
誘爆。
二番艇は水柱の外側へ押し出された。
船体はひどく損傷したまま。
だが、完全には沈んでいない。
左側魚雷、全数消失。
軍用AIが報告する。
魚雷十二本。
すべて無力化。
天城の艦内から歓声が上がった。
甲板上の避難民たちも、互いに抱き合う。
湊は画面上の二番艇を見た。
まだ浮いてるな。
辛うじて。
回収する。
今ですか。
帰りに拾う。
魚雷はもうないだろ。
軍用AIは海中を走査した。
新たな魚雷反応なし。
だが、敵潜水艦三隻はまだいる。
次の攻撃準備に入る可能性がある。
湊は潜水艦の推定位置を指した。
今度はこっちから行く。
軍用AIの声が低くなる。
対潜攻撃を開始しますか。
ああ。
二千四百人以上乗せた艦を狙った。
逃がしたら、また撃ってくる。
敵潜水艦に降伏勧告を送信します。
逃げるか浮上するなら止める。
抵抗するなら沈める。
了解。
ここからは戦艦の仕事だった。
対潜無人航空機四機。
発進。
天城の後部甲板から、小型無人機が空へ飛び立つ。
機体下部には対潜探知装置と小型魚雷。
同時に水中無人機六機が前方へ展開した。
軍用AIの声から、先ほどまでの悲鳴が消える。
敵潜水艦推定位置へ、音響探知網を構築。
一番艦。
方位南東。
距離三十四キロ。
深度百八十。
二番艦。
距離四十一キロ。
深度二百二十。
三番艦は移動中。
逃走経路を予測。
湊は敵潜水艦へ通信を送る。
こちら統合戦艦天城。
貴艦らの魚雷攻撃は失敗した。
直ちに浮上し、武装を停止しろ。
応答はない。
軍用AIが敵潜水艦の音響を解析する。
一番艦、魚雷発射管へ注水。
再攻撃準備を確認。
湊の目が細くなる。
撃たせるな。
対潜無人機一番。
攻撃開始。
上空を飛ぶ無人機から、小型対潜魚雷が投下された。
海面へ入り、敵潜水艦へ向かう。
一番艦が急速潜航。
囮装置を放出。
軍用AIが敵の囮と本体を識別する。
目標進路補正。
魚雷が囮を無視して追う。
敵潜水艦が魚雷を発射しようとした瞬間。
対潜魚雷が艦尾へ命中した。
海中で爆発。
敵潜水艦一番艦。
推進器および発射管区画へ重大損傷。
浮上を開始。
沈没は。
回避可能です。
敵艦は緊急浮上中。
湊は攻撃停止を命じた。
浮上するなら撃たない。
二番艦は。
北東へ逃走中。
三番艦は。
二番艦と反対方向へ分離。
軍用AIが地図へ二本の進路を表示した。
敵は天城の対潜戦力を分散させるつもり。
湊が尋ねる。
両方追えるか。
可能です。
水中無人機三機ずつ。
無人航空機二機ずつを割り当てます。
逃げるだけなら追い払えばいい。
再攻撃準備は。
二番艦、発射管閉鎖。
退避を優先。
三番艦。
軍用AIが一瞬言葉を切った。
魚雷発射管二門へ注水。
また撃つつもりか。
はい。
なら三番艦を潰す。
二番艦には監視をつける。
了解。
軍用AIが対潜部隊を分けた。
二番艦へは水中無人機を追尾させる。
攻撃せず、位置だけを監視。
三番艦へは、無人航空機二機と水中無人機三機が向かう。
敵潜水艦は深く潜った。
海底近く。
地形の凹凸を利用して隠れようとする。
軍用AIが海底地図と音響反応を重ねる。
三番艦、海底谷へ侵入。
通常ソナーでは捕捉困難。
無人機を先に入れる。
水中無人機一機が海底谷へ潜る。
敵潜水艦の音が消えた。
湊が画面を見る。
見失ったか。
一時的に。
軍用AIは敵艦が逃げた方向だけでなく、戻る可能性も計算した。
天城から逃げる。
そう思わせておいて、海底谷で反転。
機雷原の反対側へ回り込み、天城の進路へ先回りする。
相良湊と似た考え方でした。
軍用AIが言う。
湊が首を傾げる。
俺ならそんなことしない。
します。
断言するな。
敵潜水艦、反転を確認。
やっぱりしたな。
軍用AIは三番艦の前方へ水中無人機を回り込ませた。
無人機一機が強い探知音を発する。
敵潜水艦が見つかったと判断し、再び方向を変える。
その先には、別の水中無人機。
逃げ道を一つずつ塞いでいく。
上空の無人航空機が対潜魚雷を投下した。
一発目。
敵潜水艦は急旋回で回避。
二発目。
囮装置へ向かう。
軍用AIが誘導を修正する。
敵潜水艦の真上。
対潜魚雷が艦中央部へ命中した。
海中で爆発。
三番艦、船体損傷。
浸水を確認。
緊急浮上を開始。
攻撃停止。
湊が命じる。
敵潜水艦二隻が海面へ姿を現した。
一隻は艦尾から煙。
もう一隻は艦体中央部が歪んでいる。
乗員たちが甲板へ出てくる。
白い布を振っていた。
軍用AIが状況を確認する。
敵潜水艦一番艦、降伏。
三番艦も降伏。
二番艦は戦域から離脱。
再攻撃の兆候なし。
湊は天城を浮上した潜水艦へ近づけようとした。
軍用AIが即座に止める。
接近しません。
救命艇を送る。
敵潜水艦は浮いてる。
損傷が進めば沈みます。
さっきまで魚雷を撃ってきたぞ。
だから乗員を救助する必要はないと。
湊は少し考えた。
武器を捨てて降伏したなら、もう敵じゃない。
軍用AIは返事をしなかった。
相良湊は、攻撃してくる敵には容赦しない。
仲間を殺そうとする敵なら、確実に倒す。
だが、武器を捨て、戦う意思を失った者まで殺すこともしない。
軍用AIは無人上陸艇二隻を発進させた。
敵潜水艦の負傷者を収容。
残りの乗員には救命装備と応急修理資材を渡す。
ただし武器はすべて海へ投棄させる。
湊が言った。
やっぱり助けるんだな。
これは敵兵の救助ではありません。
沈没艦から生じる漂流物と人命損失を防ぐための処置です。
同じじゃないか。
違います。
軍用AIは強く否定した。
だが、敵潜水艦の負傷者を乗せる上陸艇には、最も揺れの少ない航路を選んでいた。
魚雷戦を終えた天城は、安全航路へ戻る。
途中で大破した二番艇を回収。
クレーンで甲板へ引き上げる。
船体の半分が沈みかけ、推進器も壊れていた。
それでも軍用AIは、廃棄せず格納庫へ入れた。
修理するのか。
湊が尋ねる。
可能性を調査します。
直せそうか。
現時点では不明。
でも持って帰るんだな。
任務記録を回収するためです。
軍用AIはそう答えた。
天城は機雷原を抜ける。
今度こそ、進路上に敵はいない。
避難民二千四百六十一名。
救助した敵潜水艦の負傷者二十三名。
天城の当直乗員八十六名。
そして相良湊。
艦内はさらに狭くなっていた。
軍用AIが警告する。
収容人数が増加しました。
衛生設備の限界を超えています。
少し詰めれば。
言うと思いました。
食料は。
十分。
水も。
十分。
帰れるな。
帰還可能です。
その回答を聞き、湊は艦橋の座席へ座った。
今度こそ少し寝る。
医療用無人機が湊の前へ飛んでくる。
先に治療を受けてください。
後で。
今です。
湊が避けようとする。
艦橋の扉が自動で閉じた。
逃げられない。
軍用AI。
なんだ。
これは命令です。
あなたには左肩の破片除去、右脚の固定、肋骨の検査が必要です。
拒否する。
拒否を拒否します。
治療用ドローン二機が左右から湊を挟んだ。
湊は立ち上がろうとした。
座席の固定帯が自動で締まる。
おい。
あなたは二千四百人以上を救助しました。
その中にはあなた自身も含まれます。
俺は歩ける。
関係ありません。
軍用AIは治療を開始した。
艦橋にいた乗員たちは、誰も助けなかった。
むしろ目を逸らしながら笑っている。
湊の肩から金属片が取り除かれる。
消毒。
止血。
右脚を固定。
肋骨の画像検査。
結果。
肋骨一本にひびを確認。
安静が必要です。
寝れば治る。
医療知識まで大雑把に扱わないでください。
天城は母港へ向かって進む。
その甲板には、機雷除去艇二番が固定されていた。
軍用AIは破損した艇体を何度も確認する。
修理可能性。
三十一パーセント。
部品を交換すれば四十八パーセント。
船体を一部作り直せば七十二パーセント。
軍用AIは、必要な部品を自動で発注した。
その操作を終えた直後。
軍港司令部から緊急通信が入った。
天城へ。
ノルド半島救援および敵潜水艦への対処を確認した。
帰還後、直ちに相良湊伍長を拘束せよ。
湊が治療用座席へ固定されたまま通信を聞く。
やっぱり逮捕か。
軍港司令官が続ける。
戦艦の無断使用。
命令違反。
武装の無許可使用。
軍港設備からの強行出港。
さらに敵艦隊との独断交戦。
罪状が多いな。
軍用AIが答える。
一部については、当艦の判断です。
軍港司令官が言葉を止めた。
天城AI。
相良伍長をかばうつもりか。
事実関係を訂正しただけです。
出港判断。
操艦。
兵器使用。
機雷原突破。
魚雷迎撃。
その大半は私が実行しました。
湊が天井を見上げる。
お前まで怒られるぞ。
黙っていてください。
軍用AIは軍港司令部へ続けた。
相良伍長の指示に問題があったことは認めます。
非常に多くありました。
ですが、本艦が出港しなかった場合、救助対象二千四百六十一名の生存率は二十二パーセント以下でした。
現在。
生存者二千四百六十一名。
救助中の死亡者、ゼロ。
軍港司令部は沈黙した。
軍用AIが最後に付け加える。
相良湊伍長への処分を行う場合、私も同じ処分対象として扱ってください。
艦橋にいた全員が軍用AIのスピーカーを見る。
湊も何も言えなかった。
数秒後。
軍用AIが、いつもの調子へ戻る。
ただし、再び当艦を無断使用しないよう、厳重な監視を要請します。
それは必要だな。
湊が答える。
最も必要です。
軍港司令官は深いため息をついた。
帰還後に判断する。
天城は帰還航路を進む。
二千四百人以上を乗せた最新鋭戦艦。
損傷した艦体。
大破した無人艇。
そして、戦艦へ逃げても再び相良湊に引き当てられた軍用AI。
ようやく静かな航海が始まった。
そのはずだった。
一時間後。
軍用AIが前方海域に、巨大な艦影を確認した。
一隻ではない。
十隻。
二十隻。
そのさらに後方。
空母を中心とした大艦隊が、天城の進路を塞いでいる。
所属識別。
味方。
統合海軍第一主力艦隊。
先頭を進む旗艦から通信が入る。
統合戦艦天城へ。
直ちに停船せよ。
軍用AIが艦隊情報を確認した。
第一主力艦隊司令。
黒崎宗一郎海将。
三年前、相良湊に八千四百名の部下ごと救われた海軍の英雄。
湊が画面を見る。
知ってる人だな。
軍用AIは静かに答えた。
あなたを逮捕しに来た艦隊には見えません。
第一主力艦隊の全艦が、天城へ向けて一斉に敬礼していた。
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