第8話 戦艦で機雷原を突っ切る補給兵
速度を落とすな。
突っ切る。
相良湊の言葉を聞いた軍用AIは、最新鋭戦艦へ移植されてから二度目となる深刻な処理停止を起こしかけた。
戦艦は航空機ではない。
多少の損傷を受けても、すぐに墜落することはない。
七万二千トンの艦体。
何層にも分けられた防水区画。
強固な装甲。
被雷を想定した二重船底。
航空機よりはるかに安全な搭載先を希望した軍用AIの判断は、決して間違っていなかった。
本来なら。
機雷原を、戦艦の艦首で受けながら突破しようとする補給兵さえ乗っていなければ。
突っ切りません!
軍用AIの声が天城全体へ響き渡った。
正面海域に確認できる機雷は四十六個!
海底設置型、係維型、自走型が混在しています!
一発なら平気か。
平気ではありません!
一発目で艦首を損傷し、二発目で浸水し、三発目で私が配置転換願を書き直します!
もう戦艦に転換してるだろ。
次は山岳基地を希望します!
動かない場所なら安全です!
湊は艦橋の大型画面を見た。
ノルド半島の港湾都市。
海岸には、避難民と負傷者が集まっている。
友軍兵士たちは港の外周へ防衛線を築き、迫る敵機甲部隊を食い止めていた。
敵戦車十八両。
歩兵戦闘車三十一両。
自走砲十二両。
随伴する歩兵は千名以上。
最終防衛線まで、あと八キロ。
到達予想時間、五十二分。
天城が港へ入るまでの時間は。
機雷を除去しながら進行した場合、最短一時間四十一分です。
間に合わないな。
だからといって踏む選択肢はありません!
湊は天城の装備一覧を開いた。
機雷除去用無人艇、四隻。
水中無人機、八機。
艦載無人航空機、十二機。
海中探査用小型ドローン。
対潜用魚雷。
対艦ミサイル。
近接防御火器。
電磁加速砲。
使えるものは多い。
ただし、そのほとんどは時間をかけて機雷を探し、安全に処理するためのものだった。
四十六個すべてを一つずつ除去している暇はない。
軍用AI。
なんですか。
安全な道を一本だけ作ればいい。
それでも最低四十分以上必要です。
無人艇を横一列に並べる。
嫌な予感がします。
その前に水中無人機を走らせて、機雷の位置を出す。
通常の掃海手順です。
見つけた機雷を避けながら進む。
それも通常です。
避けられない機雷は、無人艇に踏ませる。
通常ではありません!
軍用AIの叫びに、艦橋にいた当直員たちが一斉に振り返った。
天城へ残っていた乗員は八十六名。
正規の運用人数には遠く及ばない。
それでも機関室、応急区画、通信室、兵器管制室には最低限の人員が配置されている。
艦橋には、若い航海士と当直士官、数人の操艦員がいた。
その全員が、湊と軍用AIの会話を聞いていた。
当直士官が恐る恐る口を開く。
機雷除去艇は、使い捨てではありません。
知ってる。
知っている者の案ではありません。
軍用AIが即座に続けた。
湊は機雷原の図を見る。
全部壊すつもりはない。
先頭の二隻で機雷を誘導する。
後ろの二隻で起爆装置を投下。
水中無人機で安全経路を更新。
それでも外れた機雷だけ、無人艇で受ける。
軍用AIが計算を始めた。
完全な正面突破ではない。
水中無人機が先行。
危険箇所を避ける。
無人艇は艦体より小さく、小回りが利く。
係維型機雷なら、曳航式の起爆装置で先に処理できる。
自走型機雷は、強い音響信号を出す無人艇へ誘導できる可能性がある。
問題は海底設置型。
巨大な艦体の磁気や水圧変化を感知し、真下で爆発する。
天城へ反応する前に、同等の磁気信号を出す必要がある。
無人艇へ磁気発生装置を搭載できるか。
湊が尋ねた。
可能です。
ただし定格を超える出力で使用すれば、装置が焼損します。
使った後で直せばいい。
その発想で輸送機を壊したことを忘れないでください。
壊れても飛んだ。
誇らないでください。
軍用AIは作戦成功率を計算した。
機雷原突破成功率、六十二パーセント。
天城が重大な損傷を受ける確率、十九パーセント。
無人艇一隻以上を喪失する確率、七十四パーセント。
湊が頷く。
いけるな。
どの数字を見て判断しましたか。
六十二パーセント。
残り三十八パーセントを無視しないでください!
でも、待てば港の人たちが死ぬ。
軍用AIは黙った。
港の監視映像。
避難民たち。
担架へ乗せられた負傷者。
泣き疲れた子供。
砲撃音へ怯えながら、母親へ抱きつく幼児。
防衛線では、友軍兵士が残り少ない弾薬を分け合っている。
正規救援艦隊は間に合わない。
天城が動かなければ、多くが死ぬ。
軍用AIは、すでに何度も同じ計算をしていた。
そして毎回、同じ結論へたどり着く。
相良湊の方法は危険。
規則から外れている。
兵器や機体への負担も大きい。
だが、何もしない場合より多くの人間が生き残る。
軍用AIはため息に似た電子音を出した。
機雷除去用無人艇、全艇発進準備。
水中無人機八機を先行させます。
湊が笑う。
助かる。
勘違いしないでください。
あなたが戦艦で機雷を踏むより、被害が少ない方法を選んだだけです。
当直士官が命令を復唱する。
無人艇一番から四番、発進。
艦尾の格納庫が開いた。
四隻の無人艇が次々と海面へ降ろされる。
水中無人機も発射管から海中へ放たれた。
天城は速度を落とさず、機雷原へ近づいていく。
水中無人機が扇状に広がった。
高精度ソナー。
磁気探知機。
水圧変化を調べるセンサー。
海中の情報が、天城の大型画面へ次々と表示される。
機雷を追加確認。
六。
九。
十二。
推定総数、六十三へ更新。
増えたな。
喜ばないでください。
機雷原へ進入まで、四分。
無人艇一番と二番へ、曳航式の起爆装置を展開。
三番と四番には、強力な磁気発生装置が搭載された。
本来なら、一隻ずつ慎重に経路を確認しながら進む。
今回は違う。
四隻が横一列に並び、天城の前方へ出た。
天城の幅より広い間隔。
その後ろを、水中無人機が進む。
さらに後方。
七万二千トンの戦艦が続く。
軍用AIが進路を指定した。
右へ三度。
前方四百メートルに係維型機雷二。
無人艇一番、起爆装置を展開。
海面下で、小さな爆発が二度続いた。
水柱が上がる。
破片が海面へ散る。
機雷二個、除去。
次。
左前方、海底設置型機雷。
無人艇三番、磁気出力最大。
小型艇の船底に取り付けられた装置が、天城と似た巨大な磁気信号を発生させた。
無人艇が機雷の上を通過する。
一秒。
二秒。
海面が盛り上がった。
直後、海中で爆発。
無人艇三番が水柱に包まれる。
艇体が大きく跳ねた。
右側推進器損傷。
浸水発生。
航行継続可能です。
湊が画面を見る。
沈まないか。
現在の浸水量なら十五分間は航行可能。
それだけあれば十分だ。
無人艇三番は速度を落としながらも、先頭を走り続けた。
軍用AIが次々と機雷を探知する。
右前方、自走型一。
音響誘導を確認。
無人艇二番、囮信号を発信。
海中に潜んでいた自走型機雷が動き始める。
目標は天城ではない。
強い推進音を発する無人艇二番。
機雷が高速で近づく。
無人艇二番は急旋回。
背後に投下した小型爆雷が起爆。
自走型機雷が巻き込まれ、海中で爆発した。
機雷原へ進入。
軍用AIの声が緊張する。
天城の左右に、水柱が上がる。
一つ。
二つ。
三つ。
無人艇が起爆装置で機雷を破壊するたび、海面が激しく揺れた。
天城の巨大な艦体が、その間を通過していく。
右へ二度。
左へ一度。
舵中央。
艦首スラスター微速。
相良伍長。
なんだ。
操艦卓へ触れないでください。
何もしてない。
手を伸ばしました。
少しだけ手伝おうかと。
不要です!
天城の艦首前方。
水中無人機一機が、海底に埋められた大型機雷を発見した。
推定炸薬量、通常型の三倍。
回避するには、大きく右へ進路を変える必要がある。
だが右側には、複数の係維型機雷。
左側にも自走型。
軍用AIが進路を再計算する。
安全な回避経路なし。
湊が言う。
電磁加速砲で撃てるか。
海中です。
主砲弾では水面へ当たった時点で軌道が変化します。
爆雷は。
無人艇四番に二発。
間に合うか。
機雷まで四百メートル。
無人艇四番を向かわせます。
四番艇が前へ出た。
水中無人機が大型機雷へ発信機を取り付ける。
無人艇四番から爆雷が投下された。
一発目。
海中で爆発。
大型機雷は動かない。
二発目。
爆発。
海底の砂が巻き上がる。
だが、大型機雷は破壊されなかった。
信管作動を確認。
大型機雷、起爆準備。
湊が前方を見る。
距離二百五十メートル。
天城が止まるには短すぎる。
右へ切れば複数の機雷。
左も同じ。
戻ることもできない。
軍用AIが決断する。
無人艇三番。
大型機雷へ突入。
湊が画面を見る。
三番はもう壊れてるぞ。
だからです。
航行可能時間、残り九分。
退避しても母港へ戻れません。
無人艇三番が進路を変えた。
片側の推進器を失いながら、海面を斜めに走る。
大型機雷の真上へ。
磁気発生装置を最大出力。
機雷が反応した。
無人艇三番の真下で、大爆発が起きる。
巨大な水柱。
小さな艇体が空へ持ち上げられ、真っ二つになった。
破片が海へ降り注ぐ。
天城の艦首にも海水が叩きつけられた。
大型機雷、破壊を確認。
進路上、安全。
湊は壊れた無人艇の破片を見た。
悪かったな。
軍用AIが答える。
無人艇です。
感情はありません。
でも、お前が動かしてた。
軍用AIは少しだけ黙った。
記録上、損失として保存します。
天城はさらに進んだ。
機雷原の中央。
左右で爆発が続く。
無人艇一番の船底が破損。
二番の通信装置も損傷。
四番は磁気発生装置が焼き切れた。
水中無人機も二機が失われる。
それでも進路は開かれていった。
機雷原出口まで、五百メートル。
敵地上部隊、港まで五キロ。
到達予想時間、三十一分。
天城は速度を上げた。
軍用AIが叫ぶ。
機雷原内部で加速しないでください!
間に合わない。
現在の速度でも間に合います!
早いほうがいい。
良くありません!
右舷前方、自走型機雷二!
無人艇二番、誘導開始。
一個目が囮信号へ引かれる。
二個目は天城を狙った。
水中無人機が進路を妨害する。
間に合わない。
敵機雷、右舷中央部へ接近。
湊が言う。
右舷近接防御火器で撃て。
水中目標です!
海面へ出る瞬間を撃つ。
自走型機雷が、最終突入のため海面近くへ浮上した。
軍用AIが右舷近接防御火器を旋回。
無数の弾丸が海面へ撃ち込まれる。
海水が一直線に弾けた。
一発。
二発。
三発。
機雷の外殻が破壊される。
天城から二十メートルの位置で爆発した。
衝撃波が右舷外板へ叩きつけられる。
右舷外板に変形。
第十四区画へ軽微な浸水。
軍用AIの悲鳴が響いた。
ほらあああああああああああああ!
当たったじゃないか。
直撃ではありません!
少しくらいなら平気だったな。
平気ではありません!
新造艦です!
私はまだ新しいんです!
応急班が右舷区画へ走る。
浸水は小さい。
排水ポンプが起動。
防水扉が閉まる。
機雷原出口まで百メートル。
五十。
十。
無人艇一番と二番が先に抜ける。
続いて四番。
最後に天城の艦首が機雷原を出た。
機雷原突破。
軍用AIの声に、わずかな安堵が混じった。
損失。
機雷除去用無人艇一隻。
大破二隻。
水中無人機二機。
右舷外板一部損傷。
第十四区画軽微浸水。
湊が港を見る。
着いたな。
着きました。
予定より十九分早く。
やっぱり突っ切ってよかったな。
その結論は認めません。
ノルド港の入口が見える。
海岸では、天城の姿を見つけた人々が手を振っていた。
白い旗。
軍服。
子供を抱えた母親。
負傷者を運ぶ兵士。
天城のマストには、
救助中。撃つな。
と書かれた大きな白旗が掲げられている。
港から通信が入った。
こちらノルド防衛隊。
統合戦艦天城を確認。
救援に感謝する。
敵戦車部隊が四キロ地点まで接近。
港湾防衛線は、あと二十分も維持できない。
湊が答える。
すぐ全員乗せる。
動ける人から、負傷者を運んでくれ。
天城は港へ進入した。
大型艦用の埠頭は、敵の砲撃で一部が崩れている。
軍用AIが水深を確認。
接岸可能地点なし。
船底接触の危険があります。
どこまで近づける。
岸壁から二百四十メートル。
無人上陸艇は。
十二隻。
一度に運べる人数は。
装備を外せば、合計四百二十名。
六往復だな。
負傷者を優先した場合、最短四十九分です。
敵が来る。
湊は港の岸壁を見る。
大型貨物用の浮き桟橋が二基。
敵の砲撃で固定装置が壊れ、海上へ流れかけている。
あれをつなげられないか。
浮き桟橋二基を連結しても、岸壁から当艦までは届きません。
天城に積んでる予備橋は。
上陸支援用の組立橋梁があります。
長さ百二十メートル。
合わせれば届くな。
軍用AIが計算する。
浮き桟橋二基、合計百四十メートル。
組立橋梁百二十メートル。
理論上は接続可能。
ただし波浪と艦体移動に耐えられません。
スラスターで位置を固定してくれ。
艦首および艦尾スラスターを連続使用すれば、推進系へ負担がかかります。
前の砲撃回避でも使ったため、温度が上昇しています。
使えるか。
使えます。
じゃあ頼む。
軍用AIは抵抗しなかった。
艦内の無人作業機が動き始める。
組立橋梁を甲板へ運ぶ。
無人上陸艇が海へ出て、流れかけた浮き桟橋を回収する。
ワイヤーで連結。
天城の側面へ固定。
即席の海上通路が作られていった。
岸壁から浮き桟橋。
浮き桟橋から組立橋梁。
橋梁の先に天城の右舷乗降口。
軍用AIが艦首と艦尾のスラスターを細かく制御し、巨大な艦体を一定の位置へ保つ。
避難開始。
負傷者を最優先。
民間人。
戦闘不能者。
防衛部隊の順に収容してください。
天城の艦内へ、人々が次々と入ってくる。
担架。
車椅子。
幼い子供。
高齢者。
負傷兵。
医務室はすぐに満員となった。
格納庫を臨時治療所へ変更。
食堂。
会議室。
廊下。
使用可能な空間へ、毛布と簡易寝台が並べられる。
軍用AIが艦内設備を一つずつ切り替える。
当艦は戦艦です。
今日は救護艦だ。
正式な救護艦ではありません。
でも助けてる。
その点は否定しません。
港の外で爆発が起きた。
敵自走砲の砲撃が、市街地へ届き始めている。
敵機甲部隊、港まで三キロ。
防衛線後退。
湊は天城の主砲射程図を開いた。
撃てるか。
港湾内からでは、建物が射線を遮ります。
無人航空機で観測できる。
射撃自体は可能です。
ただし電磁加速砲では威力が大きすぎます。
市街地へ被害が出ます。
小さい砲は。
副砲。
精密誘導弾。
艦載無人攻撃機。
全部使う。
敵部隊を港へ近づけるな。
兵器管制起動。
軍用AIの声が変わった。
泣き叫んでいた存在と同じとは思えない、冷静な戦闘用の声。
無人航空機六機、発進。
天城の後部甲板から、無人機が次々と空へ上がる。
市街地上空へ。
敵機甲部隊の位置が表示される。
先頭に戦車六両。
その後方に歩兵戦闘車。
自走砲はさらに後ろ。
市街地を盾にしながら進んでいる。
軍用AIが攻撃経路を計算する。
民間建造物への被害を最小化。
先頭戦車の履帯および機関部を狙います。
撃破しろ。
戦闘能力を確実に奪う。
了解。
無人攻撃機から、小型精密誘導弾が発射された。
一発目。
先頭戦車の天板へ命中。
爆発。
砲塔が吹き飛ぶ。
二発目。
後続戦車の機関部。
炎が上がり、道路上で停止する。
三発目。
交差点へ入った歩兵戦闘車。
車体が横転した。
敵部隊が散開を始める。
天城の副砲が旋回する。
無人航空機から送られる位置情報。
建物と建物の間。
一瞬だけ敵戦車の側面が見える。
副砲発射。
砲弾が港湾都市の上空を飛ぶ。
敵戦車の側面へ直撃。
車体が道路脇へ押し飛ばされた。
二射目。
三射目。
敵の装甲車が次々と破壊される。
敵自走砲が天城へ砲撃を始めた。
砲弾が港へ飛来する。
軍用AIが軌道を計算。
一発目、市街地北部へ着弾。
二発目、岸壁。
三発目、即席橋梁周辺。
避難民を運ぶ橋へ向かっている。
湊が叫ぶ。
撃ち落とせ。
近接防御火器は対砲弾迎撃へ対応可能。
天城のレーザー砲が照射された。
飛来する砲弾一発目が空中で破裂。
二発目。
三発目。
破片が海へ降り注ぐ。
避難民たちは一度も足を止めなかった。
天城が守っている。
その事実を理解していた。
敵機甲部隊は進撃を続ける。
破壊された車両を避け、別の道へ分かれる。
敵戦車十二両が市街地東側へ。
歩兵戦闘車二十両が西側。
港を左右から挟むつもりだった。
軍用AIが報告する。
敵兵力が分散。
当艦の射線を避けています。
避難完了まで。
現在、千百八十三名を収容。
残り千二百七十八名。
最短二十三分。
防衛線は。
東側、推定十二分。
西側、十八分。
間に合わない。
湊は艦載無人車両の一覧を見る。
物資運搬用。
弾薬運搬用。
消火用。
牽引用。
武装した車両ではない。
だが使える。
運搬用無人車両に対戦車誘導弾を積む。
軍用AIが聞き返した。
また補給車両を攻撃に使用するつもりですか。
運べるなら使える。
その思想で何台壊せば気が済むのですか。
敵戦車が来る。
軍用AIは即座に無人車両を動かした。
艦内の弾薬庫から対戦車誘導弾。
自動擲弾銃。
小型偵察ドローン。
無人上陸艇で岸へ運ぶ。
動ける友軍兵士たちも受け取りに来た。
湊が即席の防衛線を指示する。
東側へ誘導弾。
西側へ擲弾銃。
無人車両は敵の横へ回り込ませる。
湊自身も岸へ向かう。
軍用AIが右舷乗降口を閉じようとする。
どこへ行くのですか。
敵を止める。
当艦から指揮してください。
現場のほうが早い。
行かせません。
湊は別の通路へ向かう。
そちらも閉鎖します。
じゃあ甲板から降りる。
海へ飛び込まないでください!
軍用AIは、すべての出口を閉じれば湊が本当に甲板から飛び降りると判断した。
右舷乗降口が開く。
帰ってきてください。
全員乗せたらな。
必ず戻ってください。
湊は答えず、即席橋梁を走った。
虚偽以前に返事をしないでください!
岸壁へ到着。
友軍兵士二十名が湊へ続く。
無人運搬車両が対戦車誘導弾を積み、市街地へ走っていく。
東側。
敵戦車の砲声が近づく。
角を曲がった先に、一両目が現れた。
湊は建物の陰へ滑り込む。
無人車両を道路中央へ出す。
敵戦車が機関銃を撃つ。
弾丸が無人車両へ集中。
だが、その車両に人は乗っていない。
湊は別方向から対戦車誘導弾を発射した。
戦車側面へ命中。
爆発。
後続車両が停止する。
軍用AIが端末へ敵位置を送る。
右側路地に歩兵十二。
左奥に戦車二。
建物屋上に対戦車兵器。
湊は屋上へ向けて短く射撃する。
敵兵が倒れる。
友軍兵士が路地へ煙幕弾を撃ち込む。
白煙が広がる。
敵戦車が湊の位置へ砲塔を向ける。
軍用AIが警告する。
敵戦車、射撃準備。
湊は無人車両へ遠隔指示を送った。
車両が敵戦車へ向かって突進する。
積載しているのは予備弾薬。
敵戦車が無人車両を踏み潰そうと前進する。
湊が起爆した。
爆発。
敵戦車の履帯が吹き飛ぶ。
車体が傾いた。
友軍兵士の誘導弾が砲塔基部へ命中する。
二両目撃破。
軍用AIが通信越しに叫ぶ。
弾薬運搬車は爆弾ではありません!
必要な場所へ弾薬を届けた。
敵戦車の真下は配送先ではありません!
西側でも戦闘が始まる。
天城の副砲。
無人攻撃機。
友軍兵士。
湊が送り込んだ無人車両。
複数の方向から敵機甲部隊を叩く。
敵歩兵戦闘車が一両、避難民の列へ向かう道路へ突破した。
軍用AIが即座に照準する。
副砲では建物が邪魔。
無人攻撃機は弾切れ。
近くにいるのは湊だけ。
湊は道路へ出た。
敵車両が機関砲を向ける。
相良伍長、退避してください!
間に合わない。
湊は道路脇に停車していた大型消防車へ飛び乗った。
エンジン始動。
アクセルを踏む。
消防車を敵歩兵戦闘車へ向けて走らせる。
軍用AIが叫んだ。
消防車まで壊さないでください!
湊は運転席のハンドルを固定し、走行中の消防車から飛び降りた。
無人となった大型消防車が敵車両の側面へ激突する。
敵歩兵戦闘車の砲口が逸れた。
その瞬間、天城から発射された小型精密誘導弾が上空から突き刺さる。
敵車両が爆発した。
軍用AIが言う。
私が撃ちました。
助かった。
消防車を使用する必要はありませんでした。
射線を作った。
建物の陰に入られると撃てないからな。
軍用AIは反論できなかった。
避難完了まで、九分。
東側敵部隊、進撃停止。
西側敵部隊、損害六割。
敵歩兵が後退を始めています。
敵戦車三両が最後の攻撃を試みる。
港へ続く大通りを一直線に進んでくる。
湊は天城の主砲射線を確認した。
建物の間に、一瞬だけ開けた直線がある。
電磁加速砲を最小出力で撃てるか。
できます。
ただし最小出力でも、通常の戦車砲を大きく上回ります。
三両まとめて抜けるか。
軍用AIが弾道を計算した。
敵戦車三両は縦列。
射撃可能時間、二・六秒。
一発で三両を貫通する可能性、八十一パーセント。
撃て。
天城の一番砲塔がわずかに旋回した。
市街地の道路。
建物の隙間。
三両の敵戦車が一直線に重なる。
電磁加速砲発射。
轟音。
超高速の弾体が港湾都市を走り抜けた。
先頭戦車の正面装甲を貫通。
内部を突き抜け、二両目。
さらに三両目。
三台の戦車が、ほぼ同時に停止した。
数秒後、内部から炎が上がる。
敵機甲部隊、進撃停止。
残存敵兵、後退を開始。
湊は追わなかった。
港から離れていく敵へ撃つ必要はない。
救助が目的。
立ちはだかる敵を倒し、道が開けばそれでいい。
避難完了。
最後の友軍兵士が、即席橋梁を渡って天城へ乗り込んだ。
ノルド防衛隊の指揮官が、湊のもとへ走ってくる。
相良伍長。
全員乗った。
湊が港を見る。
残っている人間はいないか。
捜索班も戻った。
生存者二千四百六十一名。
全員収容。
湊は頷いた。
じゃあ帰る。
軍用AIが即席橋梁を切り離す。
無人上陸艇を回収。
大破した機雷除去艇二隻も、可能な範囲で曳航する。
天城が港から離れ始めた。
艦内は人で溢れている。
格納庫。
食堂。
通路。
甲板。
本来、千二百名程度を想定した戦艦へ、正規乗員と避難民を合わせて二千五百名以上が乗っていた。
軍用AIが繰り返し警告する。
乗員収容能力を大幅に超過。
艦内酸素供給および衛生設備へ負荷。
食料は十分。
水も十分。
寝る場所は。
不足しています。
詰めれば寝られる。
その言葉を航空機以外でも聞くとは思いませんでした。
湊が艦橋へ戻る。
軍用AIが生体情報を確認する。
負傷は。
擦り傷だけ。
嘘です。
左肩に銃弾の破片。
右脚に打撲。
肋骨にも損傷の可能性。
大したことない。
医務室へ行ってください。
負傷者で埋まってる。
あなたも負傷者です。
歩けるから後でいい。
軍用AIは医療用無人機を艦橋へ向かわせた。
小型の治療ドローンが湊の横へ飛んでくる。
湊が避ける。
邪魔だ。
治療を受けてください。
後で。
今です。
天城が機雷原の出口へ向かう。
帰りは、すでに開いた経路がある。
安全に通過できるはずだった。
軍用AIが周囲の海域を走査する。
敵艦隊は戦闘能力を失ったまま。
敵航空機の接近なし。
敵潜水艦の反応もない。
ようやく安全に帰れる。
軍用AIがそう判断した直後。
海中探査用の水中無人機が、遠方で複数の音響反応を捉えた。
方位南東。
距離三十八キロ。
高速で接近する複数の水中目標。
魚雷。
数、十二。
軍用AIの声が艦内へ響く。
敵潜水艦から魚雷発射を確認。
湊が画面を見る。
避けられるか。
通常なら回避可能です。
通常なら。
現在、機雷原内の安全航路上。
大きく回避すれば、未処理の機雷海域へ入ります。
直進すれば魚雷。
曲がれば機雷。
軍用AIは接近する十二本の魚雷と、周囲に残された機雷を同時に表示した。
さらに問題があります。
何だ。
二千四百六十一名を収容したため、艦の重心と喫水が通常と異なります。
急激な旋回を行えば、甲板上の避難民が海へ投げ出される可能性があります。
湊は艦内映像を見る。
甲板には、数百人の避難民。
子供。
負傷者。
動けない者。
航空機のときのような無茶な回避はできない。
魚雷到達まで、五分十一秒。
軍用AIが対魚雷防御装置を起動する。
囮装置。
迎撃魚雷。
曳航式音響デコイ。
それでも十二本すべてを止められる保証はない。
湊が画面を見つめた。
潜水艦の位置は。
発射音から推定。
三隻。
沈められるか。
対潜無人機を出せば可能です。
でも、先に魚雷を何とかする必要がある。
湊は機雷原の地図を見る。
残された機雷。
接近する魚雷。
そして、先ほど大破した機雷除去艇二隻。
一隻は曳航中。
もう一隻は片側推進器だけが動く。
湊が言った。
機雷除去艇を切り離す。
軍用AIが嫌な予感を覚える。
何に使用するつもりですか。
魚雷を連れて、残っている機雷の中へ走らせる。
軍用AIは数秒間、何も言わなかった。
そして天城の全艦内へ響く声で叫んだ。
また壊れた無人艇を囮にするつもりですかあああああああああああああ!
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