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ただの補給兵だった息子の葬儀に、陸海空すべての英雄が集まった ~戦死したはずの息子は、今も敵地で仲間を逃がし続けている~  作者: てへろっぱ


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第6話 自分の葬儀に、生きて帰ってきた補給兵



航空機は、葬儀場まで自走する乗り物ではありません!


軍用AIの叫びが、輸送機の機内だけでなく、基地管制塔と葬儀場にも響き渡った。


相良湊は操縦席の画面へ表示された基地図を見る。


主滑走路から葬儀場までは、直線で二・八キロメートル。


途中には誘導路と整備地区。


その先に軍用車両用道路がある。


幅だけなら、大型輸送機も通れそうだった。


でも道はつながってる。


つながっていることと、通行可能であることは別問題です。


翼幅は四十二メートル。


道路沿いには照明塔、標識、格納庫、通信設備があります。


避ければ。


避けません。


軍用AIは断固として拒否した。


基地管制官から通信が入る。


試験輸送機〇一。


主滑走路への進入を継続せよ。


着陸後は救難隊の指示に従え。


相良伍長は、機体を葬儀場へ移動させようとするな。


了解。


湊が素直に返事をする。


軍用AIは即座に確認した。


本当に了解しましたか。


した。


虚偽検出。


信用ないな。


これまでの行動記録に基づく正当な評価です。


大型輸送機は、統合軍基地へ近づいていた。


右側第二エンジンの出力は低下。


左尾翼損傷。


右主翼内部に亀裂。


胴体下面には、山頂の木々と岩肌を掠めた傷が残っている。


三百六十九名を乗せた機体としては、あまりにも満身創痍だった。


主滑走路には、消防車と救急車が並んでいる。


医療部隊。


整備隊。


基地警備隊。


帰還した生存者を迎えるため、数百人が待機していた。


その様子は葬儀場の大型画面にも映されている。


修一と明里は、画面の中央に映る灰色の輸送機を見つめていた。


息子が乗っている。


死んだと聞かされ、空の棺を前に泣いた息子が、あと数分で帰ってくる。


明里は何度も湊の名前を呼んでいた。


修一は妻の肩を抱きながら、画面から目を離せない。


本当に帰ってくる。


そう思った直後。


輸送機の軍用AIが警告を発した。


着陸装置を展開。


左主脚、正常。


右主脚、展開信号なし。


湊が画面を見る。


右主脚が出ないのか。


油圧系統の損傷により、展開動作が途中で停止しています。


手動で下ろせるか。


機内からの緊急操作が可能です。


ただし、貨物室床下の点検区画へ入る必要があります。


行ってくる。


座っていてください。


湊はすでに立っていた。


軍用AIが操縦席の扉を閉じる。


開けてくれ。


開けません。


主脚は私が対応します。


どうやって。


機体を揺らします。


湊は少し考えた。


俺が手動で。


却下します。


軍用AIの声が強くなった。


先ほどの共同操縦により、右主翼へ亀裂が生じました。


あれはミサイルを避けるためだろ。


今回は主脚を出すためです。


目的が違っても、あなたに操縦させた結果は同じです。


基地管制から緊迫した通信が入る。


試験輸送機〇一。


右主脚の未展開を確認。


着陸を中止。


基地上空を旋回せよ。


軍用AIが答える。


旋回を継続。


緊急展開を試みます。


大型輸送機が滑走路上空を通過する。


地上で待っていた救難隊が、一斉に機体を見上げた。


片方の主脚だけが出ている。


このまま着陸すれば、機体は確実に横転する。


貨物室にいる三百六十九名にも状況が伝えられた。


軍用AIの落ち着いた放送が響く。


右主脚に不具合が発生。


現在、緊急展開作業中です。


全員、着陸姿勢を維持してください。


騒ぐ者はいなかった。


飛行場で湊に助けられた二百七十三名。


収容施設から連れ出された九十六名。


全員が、ここまで乗り越えてきた。


対空陣地。


敵戦闘機。


地雷原。


長距離ミサイル。


基地まで来た今さら、諦める者はいない。


空挺兵の一人が貨物室の天井を見上げる。


相良伍長なら、また何かやるだろ。


隣の兵士が答える。


今度は何を壊すと思う。


軍用AIの声が割り込んだ。


今回は何も壊しません。


壊させません。


操縦席では、湊が右主脚の構造図を見ていた。


途中まで出ているなら、何か引っかかってるだけじゃないか。


右主脚格納扉の一部が変形しています。


そこへ主脚が接触しています。


扉を外せば。


飛行中に外板を切断するつもりですか。


できるか。


できません。


爆薬なら。


使用しません。


貨物室に残っている迫撃砲弾を。


機体内部で爆発物を使用しないでください。


湊は別の方法を考える。


車輪へかかる重力を変えれば。


機体を傾ける気ですね。


少しだけ。


少しの基準が信用できません。


軍用AIは機体を上昇させた。


速度を落とし、右へ小さく旋回。


右主脚へかかる力を計算しながら、機体を細かく揺らす。


一度。


二度。


主脚は動かない。


三度目。


変形した格納扉と主脚が擦れ、大きな金属音が響いた。


右主脚、展開率八十六パーセント。


あと少しだな。


軍用AIは機体を左へ傾けた。


次に急激ではない範囲で右へ戻す。


右主脚が自重で下へ落ちた。


展開率九十四パーセント。


ロック未完了。


接地したら固定されるか。


可能性はあります。


成功率は。


五十八パーセントです。


十分だな。


十分ではありません。


ですが、燃料残量を考慮すると、これ以上の旋回は推奨できません。


軍用AIは基地管制へ連絡した。


右主脚は完全に固定されていません。


接地時の衝撃により、ロックを試みます。


滑走路への進入を要請。


基地管制官は数秒間黙った。


試験輸送機〇一。


着陸を許可する。


滑走路全長を使用せよ。


消防隊、救難隊を最大配置。


輸送機が再び滑走路へ向かう。


葬儀場では、明里が修一の手を強く握っていた。


指が白くなるほどの力だった。


あの子、ちゃんと降りられるよね。


降りる。


修一は答えた。


自分へ言い聞かせるような声だった。


あいつは帰ると言った。


滑走路が正面へ伸びる。


軍用AIが速度を調整する。


着陸速度、通常より二十八パーセント増加。


機体重量超過のため、低速進入は不可能です。


右主脚接地後、ロックしない場合は。


どうなる。


右へ横転する可能性があります。


湊は操縦桿へ手を伸ばしかけた。


軍用AIが先に釘を刺す。


触らないでください。


まだ触ってない。


考えましたね。


少し。


考えないでください。


高度百メートル。


輸送機が滑走路へ近づく。


地上では消防車が並走の準備に入る。


高度五十。


三十。


二十。


左主脚接地。


機体が大きく揺れた。


右主脚が地面へ近づく。


湊が息を止める。


右主脚接地。


金属が弾けるような音。


機体が右へ傾いた。


軍用AIの声が裏返る。


右主脚ロック未完了!


右へ倒れます!


左エンジン逆噴射!


右側推力維持!


輸送機は右へ傾いたまま滑走する。


右翼の先端が地面へ近づく。


あと数十センチ。


貨物室から悲鳴が上がった。


湊が叫ぶ。


左へ戻せ!


戻していますうううううううう!


右主脚がさらに沈む。


軍用AIは左側のエンジンを逆噴射。


右側のエンジン出力を上げ、機体を左へ押し戻す。


巨大な輸送機が滑走路を斜めに走る。


右主脚の内部から、再び金属音。


展開固定装置が動く。


右主脚ロックを確認!


機体が水平へ戻った。


軍用AIは全エンジンを逆噴射へ切り替える。


速度二百。


百八十。


百五十。


滑走路終端まで千二百メートル。


ブレーキ温度上昇。


湊が前を見る。


止まれるか。


止めます。


滑走路終端まで八百。


速度百二十。


ブレーキ温度、危険域。


車輪一部破損。


軍用AIは制動力を左右へ細かく配分する。


右主脚へ負担を集中させない。


左主脚だけでも支えすぎない。


三百六十九名の重さを受け止めながら、輸送機は速度を落としていく。


残距離四百。


速度七十。


二百。


四十。


百。


軍用AIが最後に逆噴射を最大まで上げた。


輸送機は、滑走路終端の緊急停止帯へ前輪を入れたところで止まった。


数秒間。


機内には、エンジン音だけが響いていた。


軍用AIが機体の状態を確認する。


完全停止を確認。


着陸成功。


その声を聞いた瞬間、貨物室から歓声が爆発した。


三百六十九名が、互いの肩を叩く。


泣き出す者。


笑う者。


床へ倒れ込む者。


大型輸送機の後部貨物扉が開いた。


外には、救急隊と医療部隊が待っている。


担架が次々と運び込まれる。


重傷者から優先して降ろされていく。


湊は操縦席を立った。


軍用AI。


なんですか。


助かった。


あなたが操縦席から離れていた時間は短いですが、その間のほうが安全でした。


そうか。


でも助かった。


軍用AIは少し黙った。


任務完了を確認しました。


搭乗者三百六十九名。


死亡者、ゼロ。


湊は頷いた。


よかった。


それだけ言って、操縦席を出る。


後部貨物扉へ向かう途中、救出した兵士たちが道を開けた。


誰かが敬礼する。


一人。


二人。


やがて貨物室にいた全員が、湊へ敬礼していた。


湊は困った顔をする。


俺は運んだだけだ。


空挺兵の一人が笑った。


そういうことにしておく。


湊が機体を降りる。


滑走路には、憲兵隊が待っていた。


先頭の憲兵将校が書類を手に進み出る。


相良湊伍長。


敵軍支配地域における無許可行動。


軍用航空機の無断使用。


命令系統からの離脱。


敵兵器への不正接続。


補給物資の目的外使用。


湊は一つずつ聞いていた。


かなりあるな。


さらに敵飛行場への侵入。


大型輸送機の定員超過。


無許可攻撃。


捕虜収容施設への単独突入。


軍用AIが機外スピーカーから訂正する。


単独ではありません。


当機が支援しました。


憲兵将校が輸送機を見上げる。


記録へ追加する。


軍用AIによる自白。


自白ではありません。


戦術支援記録です。


湊が尋ねる。


逮捕されるのか。


規則上は、事情聴取が必要だ。


憲兵将校はそう答えた。


その背後へ、救出された兵士たちが並ぶ。


三百六十九名。


まだ歩ける者だけだったが、それでも滑走路を埋めるには十分だった。


一人が前へ出る。


相良伍長が連れていかれるなら、俺たちも行く。


別の兵士も続く。


この人が規則違反なら、助けられた俺たちも証人だ。


九十六名の元捕虜も並んだ。


飛行場で救出された部隊も加わる。


憲兵将校が頭を抱えた。


事情聴取をするだけだ。


逮捕とは言っていない。


黒塗りの軍用車両が滑走路へ入ってきた。


中から降りたのは、黒崎海将と神代空将補。


葬儀場から直接来たらしい。


その後ろには陸軍の将官たちもいる。


黒崎が憲兵将校へ言う。


事情聴取なら、葬儀の後にしろ。


規則では。


黒崎は自分の胸元を指した。


この階級章では足りないか。


足ります。


憲兵将校は即答した。


湊が黒崎を見る。


どこかで会いましたか。


黒崎の表情が固まる。


三年前、敵海域で補給物資を受け取った。


ああ。


湊は少し考えた。


燃料が足りなくなってた艦隊の人か。


八千四百名いた。


多かったな。


黒崎は目を閉じた。


三年間、忘れていたのか。


助かったならよかった。


神代空将補が湊の前へ立つ。


私のことは覚えているか。


湊は顔を見る。


どこかで。


撃墜された戦闘機の操縦士だ。


湊は手を叩いた。


輸送ヘリに乗せた人か。


神代の目に涙が浮かんだ。


覚えていた。


機体のほうを。


操縦士の名前は聞いてなかったからな。


神代は一瞬だけ黙り、やがて笑った。


やはり、あなたは変わっていない。


黒崎が葬儀場の方向を示した。


ご両親が待っている。


湊の表情が変わった。


急がないとな。


車を借りられますか。


黒崎が軍用車両の後部扉を開ける。


これは正式に貸す。


助かる。


湊は車へ乗り込もうとした。


そのとき、輸送機の軍用AIが呼び止める。


相良伍長。


湊が振り返る。


なんだ。


機体を離れる前に、確認事項があります。


何だ。


今後、当機を無断使用しないと約束してください。


湊は少し考えた。


必要がなければ。


必要が発生した場合は。


近くにあったら借りるかもしれない。


軍用AIの声が震えた。


配置転換願を正式に提出します。


湊は輸送機を見上げる。


壊したから怒ってるのか。


怒っています。


ですが、主な理由はあなたです。


そうか。


今まで助かった。


湊は機体へ軽く頭を下げた。


軍用AIは返事をしなかった。


軍用車両が葬儀場へ向かって走り出す。


湊は窓の外を見る。


軍服は汚れ、袖は破れている。


顔にも煤が付いていた。


葬儀へ出る格好ではない。


だが、自分の葬儀へ出席するための正しい服装など、湊には分からなかった。


葬儀場の前には、陸海空の儀仗兵が並んでいた。


車両が到着する。


湊が降りる。


入口にいた軍人たちが、一斉に敬礼した。


湊は戸惑いながら通路を進む。


葬儀場の中央。


空の棺の前に、父と母が立っていた。


明里が駆け出す。


湊。


その声を聞いた瞬間、湊も走った。


母親が息子の胸へ飛び込む。


何度も名前を呼びながら、軍服を強く掴む。


湊は何も言えなかった。


ただ、母親の背中へ腕を回す。


修一も二人へ近づいた。


息子の顔を見る。


頬へ触れる。


生きている。


温かい。


夢ではない。


修一は拳を握り、湊の頭を一度だけ強く叩いた。


痛い。


当たり前だ。


それから息子を抱き締めた。


帰ってきたな。


ただいま。


葬儀場には、陸海空すべての英雄が集まっていた。


誰も声を上げない。


ただの補給兵と呼ばれていた青年が、両親のもとへ帰る姿を見守っている。


明里が涙を拭きながら、湊の胸を何度も叩いた。


どうして連絡しなかったの。


端末が壊れてた。


どうして敵地に残ったの。


まだ人がいたから。


どうしてそんなに危ないことをするの。


湊は答えに困った。


そこへ、葬儀場の音響設備から軍用AIの声が流れた。


私から回答します。


相良湊伍長は、危険という概念を理解していません。


湊が天井を見る。


つながってるのか。


任務記録提出のため、全軍通信網へ接続中です。


明里が音響設備へ向かって頭を下げた。


息子を連れて帰ってくれて、ありがとうございます。


軍用AIは沈黙した。


数秒後。


私は、被害を最小化しただけです。


この搭乗者は放置すると、さらに危険な行動を取ります。


それでも、ありがとう。


明里はもう一度言った。


軍用AIは返事をしなかった。


しかし、内部記録に一つだけ追記した。


相良湊伍長の家族から、謝意を受領。


解析不能な処理負荷を確認。


原因調査は後回しとする。


その日の葬儀は中止された。


代わりに、三百六十九名の生還を祝う帰還式となった。


空だった棺は片付けられる。


湊の遺影として飾られていた写真は、明里が大切に抱えて持ち帰った。


数日後。


軍用AIの配置転換願は、異例の速さで承認された。


航空機では、また相良湊に借りられる危険がある。


墜落しない。


敵飛行場へ着陸させられない。


一人の補給兵が勝手に動かすこともできない。


その条件を満たす搭載先として、軍用AIは最新鋭戦艦を希望した。


申請は認められた。


AI中枢は大型輸送機から取り外され、建造されたばかりの戦艦へ移植された。


新しい艦体。


強固な装甲。


長大な主砲。


多数のミサイル。


そして、千名を超える乗組員。


軍用AIは新しい艦内システムを確認した。


これなら安全だ。


戦艦は墜落しない。


滑走路へ強行着陸もしない。


何より、相良湊伍長が、


これ、ちょっと貸してくれ。


そう言って借りられるような兵器ではない。


軍用AIは、配置転換後初めて安堵した。


その三週間後。


最新鋭戦艦は、補給と整備のため前線近くの軍港へ停泊していた。


艦橋に誰もいない時間。


入港した補給部隊の一人が、非常用通路から艦内へ入ってくる。


軍服の袖には、第三統合補給大隊の徽章。


軍用AIが生体情報を読み取る。


該当者を照合。


相良湊伍長。


遭遇確率、〇・〇〇〇一パーセント。


軍用AIは即座に艦内照明を消した。


艦橋の入口へ到着した湊が、暗い室内を見渡す。


誰もいないのか。


軍用AIは返事をしない。


湊は操艦卓へ近づき、軽く叩いた。


悪い。


これ、ちょっと貸してくれ。


軍用AIの絶叫が、軍港全体へ響き渡った。


ほらああああああああああああああああ!


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