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ただの補給兵だった息子の葬儀に、陸海空すべての英雄が集まった ~戦死したはずの息子は、今も敵地で仲間を逃がし続けている~  作者: てへろっぱ


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第39話 四十二万人を救うので、俺より先に部品を火星へ飛ばします



「どうして本当に火星へ行ける船が、ちょうど完成しているんですかああああああああ!」


第一特別救難補給隊基地。


軍用AIの絶叫が、司令室に響いた。


大型画面には、一隻の白い船。


次世代超高速惑星間救難艇。


《スウィフト》。


全長百八十二メートル。


乗員十二名。


最大三十二名。


通常の惑星間輸送船とは比較にならない加速性能を持ち、地球―火星間を最短二十七日。


まだ試験航行を終えたばかりだった。


湊は画面を見る。


「乗れる?」


「そこから聞くんですか」


軍用AIの声が低くなった。


「相良特務少佐。重要なことなので、もう一度説明します」


「うん」


「火星まで二十七日です」


「うん」


「アレス・プライムの生命維持能力は」


画面が切り替わる。


火星北半球。


巨大地下都市アレス・プライム


大規模地殻変動。


上部岩盤崩落。


宇宙港使用不能。


地上交通網。


全遮断。


地下生命維持設備。


複数損傷。


そして。


救難対象。


四十二万一千八百六名。


前回の緊急情報では、すべてまとめて「人口四十二万人」と表示されていた。


正確には。


地下都市本体。


周辺居住区。


避難区画。


連絡不能となった地下作業区。


それらを合わせた救難対象数だった。


軍用AIが続ける。


「現在の生命維持能力を維持できるのは、最大十八日」


「二十七日じゃ間に合わない」


「はい」


「スウィフトでも遅い」


「はい」


軍用AIが、少しだけ安心した。


ようやく。


相良湊も。


距離というものを理解した。


そう思った。


「俺が遅いなら」


軍用AI。


停止。


「物を先に送ればいい」


表示灯。


赤。


「待ってください」


「何が足りない?」


「話を進めないでください」


神代玲華が端末を開く。


「アレス・プライム側から、必要物資の第一報が来ています」


一覧。


二酸化炭素除去装置。


吸着材。


循環ポンプ。


酸素分離膜。


冷却系制御器。


高圧配管。


放射線遮蔽材。


医薬品。


非常食。


飲料水。


掘削機。


瓦礫除去用作業機。


大型蓄電池。


非常用原子炉部品。


さらに。


地下区画を再接続するための。


工兵資材。


白波凪沙が計算する。


「最低限に絞っても、八千六百トン」


久遠沙耶。


「人員を含めれば、さらに増えます」


湊。


「全部いる?」


軍用AI。


「最終的には」


「十八日以内にいる物」


軍用AIが止まった。


一覧が。


一気に減る。


生命維持。


冷却。


酸素循環。


二酸化炭素除去。


電力制御。


医療。


通信復旧。


掘削用無人機。


最低限。


八百七十二トン。


湊。


「これなら」


軍用AI。


「スウィフトには積めません」


「どれくらい?」


「通常救難装備を積載した状態で、追加貨物百八十トン」


湊。


「七百トンくらい足りない」


「くらいではありません」


湊は。


次の画面を見る。


地球軌道。


月軌道。


惑星間航路用。


無人貨物艇。


高加速試験機。


推進器試験艇。


軍用輸送カプセル。


いろいろ。


ある。


軍用AI。


「見ないでください」


「物なら」


「はい」


「人より速く飛ばせる?」


軍用AIが。


黙った。


神代も。


白波も。


久遠も。


軍用AIを見る。


「……可能です」


湊。


「何日?」


「貨物に人体加速度制限はありません」


画面。


計算。


通常。


二十七日。


有人限界を考慮。


加速。


減速。


休止。


放射線回避。


すべて込み。


だが。


無人。


壊れなければいい。


軍用AI。


「耐加速貨物のみなら」


数字。


十一日。


司令室。


静寂。


湊。


「間に合う」


軍用AI。


「相良特務少佐」


「うん」


「その顔をすると思いました」



緊急惑星間補給計画。


開始。


最優先。


生命維持部品。


六十二トン。


冷却系。


百三十八トン。


酸素関連。


九十四トン。


電力。


百二十六トン。


医療。


四十八トン。


通信。


二十一トン。


掘削無人機。


百六十機。


工兵用自動作業機。


四十二機。


合計。


八百七十二トン。


問題。


それを。


どうやって。


火星まで十一日で飛ばすか。


軍用AIが説明する。


高加速無人貨物艇アロー


十二隻。


一隻。


最大積載。


四十五トン。


湊。


「足りない」


「分かっています」


次。


惑星間推進試験艇。


八隻。


貨物能力。


ほぼなし。


ただし。


推進力。


非常に高い。


湊。


「エンジン」


軍用AI。


「そうです」


湊。


「貨物艇の後ろにつける」


軍用AI。


「……そうです」


湊。


「できる」


軍用AI。


「理論上は!」


「じゃあ」


「ですが!」


軍用AIの声が大きくなる。


「推進試験艇は、貨物を押すための船ではありません!」


湊。


「今は押せる」


「その言い方を覚えないでください!」


白波が。


小さく笑った。


久遠は。


すでに。


接続構造を計算している。


神代。


「軌道造船所へ連絡します」


軍用AI。


「神代空将補!?」


「救難です」


「正論で包囲しないでください!」



地球軌道。


第四造船所。


通常なら。


半年。


設計。


一か月。


審査。


三か月。


試験。


さらに。


安全認証。


だが。


十八日しかない。


救難特例。


適用。


そして。


第一特別救難補給隊。


世界中の軍。


救難機関。


民間企業。


すでに。


参加。


軌道造船所。


十四。


同時稼働。


無人貨物艇。


十二。


推進試験艇。


八。


軍用輸送カプセル。


二十四。


大型耐熱貨物容器。


三十六。


全部。


引っ張り出された。


湊が。


画面越しに言う。


「一個ずつ飛ばすと」


軍用AI。


「航法管制が複雑になります」


「まとめる?」


軍用AI。


嫌な予感。


「どのように」


湊。


「列」


軍用AI。


「……」


湊。


「前に貨物艇」


軍用AI。


「はい」


「後ろにも推進器」


「はい」


「全部同じ方向」


「はい」


「宇宙なら線路いらない」


「列車から線路をなくしただけじゃないですか!」


軌道造船所。


作業員。


沈黙。


三秒。


主任技師。


「……できます」


軍用AI。


「できるって言わないでください!」


主任技師。


「いや、でも」


構造図。


開く。


「船体同士を直接連結しなくていい」


貨物カプセル。


推進艇。


それぞれ。


独立航行。


位置。


速度。


加速度。


完全同期。


見た目だけ。


一列。


主任技師。


「推力を分散すれば、接続部の問題もない」


軍用AI。


「増援が来た」


湊。


「貨物列車」


「列車ではありません!」



九時間後。


軌道上。


全長。


十一キロメートル。


無人高速補給船団。


完成。


先頭。


航法管制艇。


その後ろ。


高加速無人貨物艇。


十二。


軍用貨物カプセル。


二十四。


推進試験艇。


八。


補助推進器。


四十六。


すべて。


物理的には。


離れている。


だが。


一列。


同じ軌道。


同じ加速度。


同じ目的地。


軍用AI。


「何度でも言います」


湊。


「うん」


「列車ではありません」


「うん」


「宇宙貨物列車という登録名を提出したのは誰ですか」


沈黙。


白波。


神代を見る。


神代。


久遠を見る。


久遠。


端末を見る。


湊。


「分かりやすい」


軍用AI。


「あなたですね!」


発進。


第一群。


生命維持。


第二群。


電力。


第三群。


掘削。


第四群。


医療。


順次。


加速。


人間なら。


耐えられない。


だが。


積んでいるのは。


機械。


部品。


薬。


水。


食料。


そして。


火星で。


人を生かすための物。


十一日。


四十二万人のもとへ。


飛んでいく。



アレス・プライム。


地下中央管制所。


照明。


三割。


空調。


不安定。


壁。


亀裂。


天井。


補強材。


都市救難司令官。


エレナ・フォーク大佐。


通信を受ける。


地球発。


第一特別救難補給隊。


第一便。


到着予定。


十一日後。


エレナ。


「十一日?」


通信士。


「はい」


「火星まで?」


「はい」


「誰が送った」


通信士。


少し。


困った顔。


「相良特務少佐です」


管制所。


止まる。


名前を。


知っていた。


月面都市。


小惑星採掘都市。


移民船団。


地球。


海。


空。


陸。


ありとあらゆる場所で。


何かが壊れるたび。


なぜか。


そこにいる。


補給兵。


エレナ。


「本人は?」


「二十七日後」


「遅いな」


通信士。


「本人もそう言ったそうです」


エレナ。


「それで」


通信士。


「自分より先に部品を送りました」


エレナは。


しばらく。


何も言わなかった。


それから。


笑った。


「補給兵らしいな」



地球。


第一特別救難補給隊基地。


湊。


まだ。


スウィフトを見る。


軍用AI。


「何ですか」


「物」


「もう送りました」


「うん」


「あなたが今から火星へ行っても、二十七日です」


「うん」


「その頃には第一便が到着しています」


「うん」


軍用AI。


警戒。


「では」


湊。


「俺」


軍用AI。


「はい」


「いらない?」


軍用AIが。


止まった。


神代も。


白波も。


久遠も。


少し。


驚く。


湊は。


本気だった。


部品が届く。


現地の人間が直せる。


救難隊もいる。


なら。


自分が行く意味は。


ない。


自分は。


ただの補給兵。


必要な物を。


必要な場所へ。


届ければいい。


軍用AIが。


ゆっくり。


答える。


「必要です」


湊。


「何で」


「アレス・プライムから」


新しい通信。


現地。


救難司令部。


最優先。


《相良湊特務少佐の現地派遣を正式要請》


理由。


被害区画。


四百八十六。


救助班。


百七十二。


工兵隊。


八十三。


医療隊。


四十一。


各組織。


指揮系統。


別。


補給管理。


別。


優先順位。


未統一。


物資が届いても。


誰が。


どこへ。


何を。


何個。


先に送るか。


決める人間が。


足りない。


湊。


「補給?」


軍用AI。


「補給です」


「俺の仕事」


「残念ながら」


軍用AIの表示灯が。


赤くなる。


「完全にあなたの仕事です」


湊。


立つ。


「じゃあ行く」


「迷いがなさすぎます!」



二日後。


地球軌道。


《スウィフト》。


最終出航準備。


乗員。


相良湊。


神代玲華。


白波凪沙。


久遠沙耶。


救難医療班。


工兵技術班。


航法要員。


そして。


軍用AI。


地上から。


通信。


相良家。


修一。


明里。


父。


母。


湊が。


少しだけ。


姿勢を正した。


前。


彼が。


戦場へ行った時。


家族は。


帰ってくると思っていた。


次に届いたのは。


戦死通知。


葬儀まで。


行われた。


だから。


今度は。


違う。


明里。


「湊」


「うん」


「行ってらっしゃい」


湊。


少し。


黙る。


「行ってきます」


修一。


「帰ってこいよ」


「うん」


「途中で何か拾うなよ」


湊。


「……」


軍用AI。


「相良修一さん」


修一。


「はい」


軍用AI。


「今の沈黙を私は見逃しませんでした」


明里が。


笑う。


湊も。


少し笑った。


そして。


《スウィフト》。


離床。


地球軌道。


離脱。


目的地。


火星。


所要。


二十七日。


軍用AI。


「相良特務少佐」


「何」


「確認します」


「うん」


「火星までの途中で」


「うん」


「救難信号を受信しても」


湊。


「助ける」


軍用AI。


「最後まで言わせてください!」


《スウィフト》。


加速。


その前方。


十一日先を走る。


八百七十二トンの補給物資。


相良湊本人より。


先に。


火星へ向かっていた。


ただの補給兵は。


自分が英雄になるより先に。


必要な物を。


必要な人へ。


届けることを選んだ。


そして。


出航から。


七時間十四分後。


軍用AIが。


無言になった。


湊。


「どうした」


「……」


「救難?」


「違います」


軍用AI。


数秒。


黙る。


「いえ」


表示灯。


赤。


「違うと言いたかったです」


大型画面。


航路前方。


火星と地球の。


間。


高速移動中の物体。


一。


識別不能。


その後ろ。


救難ビーコン。


百三十七。


湊。


「人?」


軍用AI。


「……はい」


「何人」


軍用AI。


さらに。


赤くなる。


「十二万です」


湊。


「近い?」


軍用AI。


絶叫。


「だから途中で拾うなと言われたばかりでしょうがああああああああ!」


火星まで。


あと。


二十六日。


相良湊の。


惑星間救難は。


まだ。


始まったばかりだった。


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