第27話 敵味方の輸送機四十二機を、まとめて借ります
戦争が止まり。
相良湊が最初に手に入れたものは。
領土でも。
勲章でも。
昇進でもなかった。
敵軍の輸送機を、正式に借りる権利だった。
軍用AIは、その事実をまだ受け入れきれていない。
第一軍病院。
第三特別病棟。
相良湊特務少佐は、今日も病床へ固定されていた。
大型画面には。
休戦後第一号となる共同人道救難作戦。
救助対象。
味方捕虜。
八千二百名。
敵軍負傷兵。
五千一百名。
民間避難民。
二万四千名。
合計。
三万七千三百名。
場所。
敵国東部山岳地帯。
周囲の道路。
複数崩落。
鉄道。
土砂により寸断。
最寄りの大型輸送基地。
旧敵軍東部第六航空輸送基地。
使用可能輸送機。
四十二機。
湊が画面を見る。
全部飛べるのか。
軍用AIが答える。
完全稼働。
二十六機。
軽微な整備で飛行可能。
十一機。
要部品交換。
五機。
三十七機は今日中に使えるな。
相良特務少佐。
何ですか。
四十二機全部を使う前提で数えないでください。
でも救助対象は三万七千人。
輸送力は多いほうがいい。
軍用AIは新しい休戦協定を表示した。
共同人道回廊内。
双方の輸送装備。
救難装備。
医療設備。
工兵設備。
相互提供可能。
正式な手続きに従い。
湊が言う。
借りられる。
軍用AIの表示灯が赤くなる。
その一言だけ、非常に楽しそうに言わないでください。
病室にいた神代玲華が苦笑した。
今回は空軍の正式任務です。
私も現地指揮へ入ります。
白波凪沙は輸送計画を確認する。
海軍からは医療船二隻を沿岸へ。
避難後の重傷者受け入れを担当します。
久遠沙耶も地図を見る。
陸軍工兵は。
空港周辺道路と避難拠点を確保。
輸送車両も両軍合わせて千二百両。
湊は頷いた。
十分そうだな。
軍用AIが答える。
問題があります。
旧東部第六航空輸送基地。
主滑走路。
全長三千六百メートル。
中央部。
約八百メートルが破壊されています。
大型輸送機の離着陸に必要な連続区間を確保できません。
誰が壊した。
戦争初期。
味方空軍による滑走路攻撃。
神代が少し気まずそうに視線を逸らした。
作戦として必要でした。
湊が頷く。
責めてないです。
今直せればいい。
軍用AIが滑走路の損傷を表示する。
大型クレーター七。
舗装剥離。
多数。
完全修復。
最低三日。
応急復旧。
大型機対応なら十二時間。
救助対象のうち。
重傷者。
一千三百名以上。
十二時間待てない患者もいる。
湊は航空基地周辺の地図を見る。
滑走路。
誘導路。
格納庫。
六車線の軍用高速道路。
航空基地から西へ伸びる。
長さ。
直線部分二・九キロメートル。
湊が指した。
この道路。
飛行機降ろせないか。
軍用AIが即答する。
通常は道路です。
見れば分かる。
幅は。
片側三車線。
中央分離帯。
側壁。
街灯。
標識。
外せば。
軍用AIが道路幅を計算する。
障害物撤去後。
使用可能幅。
四十五メートル。
大型輸送機最低必要。
四十二メートル。
路面強度。
軍用規格。
大型車両対応。
大型輸送機の着陸荷重。
一部区間で不足。
補強できるか。
敵基地に航空用の仮設舗装板。
四千枚。
味方工兵も運んでいます。
軍用AIが沈黙した。
湊が言う。
滑走路が壊れてるなら。
道路を滑走路にする。
軍用AIが諦めたように答える。
可能です。
神代がすぐに立ち上がった。
現地へ飛びます。
道路上の障害物を撤去。
仮設舗装板。
簡易進入灯。
移動管制装置。
両軍工兵を全部使えば。
どれくらいで。
久遠が計算する。
最短三時間。
湊が言う。
二時間半。
軍用AI。
値切らないでください。
◇
旧敵軍東部第六航空輸送基地。
休戦成立から。
まだ二時間。
昨日まで。
味方から見れば攻撃目標。
敵軍から見れば前線輸送拠点。
その基地へ。
両国の軍用車両が同じ門から入ってきた。
味方陸軍工兵。
敵軍工兵。
味方空軍整備兵。
敵軍輸送航空隊。
互いに。
まだ少し距離を取っている。
武器は外周警備部隊だけ。
基地内部。
非武装。
それでも。
昨日まで撃ち合っていた相手。
簡単に笑い合えるわけではない。
敵輸送航空隊の指揮官。
マルタ・シュナイダー大佐が。
神代玲華を見る。
あなたが。
神代玲華空将補。
そうです。
三年前。
我々の輸送編隊を四機落とした。
神代は一瞬だけ黙る。
軍事目標として。
攻撃しました。
分かっている。
こちらも。
あなたの基地へミサイルを撃った。
二人の間に。
少し重い沈黙。
そこへ。
病室から湊の通信が入る。
あの。
二人が画面を見る。
今使える輸送機。
どれですか。
マルタが少し驚く。
まずそれを聞くのか。
はい。
三万七千人待ってるので。
敵味方の話は。
後でいいです。
今は。
飛べる機体を教えてください。
マルタは。
数秒。
湊を見つめる。
それから。
格納庫一覧を開いた。
大型輸送機。
十四機。
中型。
十九機。
高速医療輸送機。
九機。
うち現在飛行可能。
大型九。
中型十二。
医療機五。
湊が聞く。
残り十一機。
何が壊れてますか。
整備兵が答える。
大型三機。
タイヤ交換。
中型四機。
航法装置。
医療機四機。
酸素系統。
部品は。
あります。
なら直す。
マルタが尋ねる。
どちらの整備規格を使う。
軍用AIが割り込む。
飛行可能になれば。
どちらでも構いません。
味方規格。
敵規格。
混在禁止。
機体単位で元の規格を維持。
必要な部品だけ相互提供。
湊が言う。
整備員も。
機体を知ってる人がそのまま直したほうが早い。
神代が頷く。
敵軍整備兵は敵軍機。
こちらの整備兵は。
足りない部分を支援。
マルタも答える。
異論なし。
少しだけ。
空気が変わった。
敵だから。
ではなく。
その機体を一番よく知っているから。
仕事が決まった。
◇
軍用高速道路。
全長二・九キロメートル。
両軍工兵が。
一斉に作業を始めた。
中央分離帯。
撤去。
照明柱。
撤去。
道路標識。
撤去。
非常電話。
撤去。
道路脇の防護柵。
必要部分だけ外す。
舗装の弱い箇所へ。
仮設航空舗装板。
大型クレーンが並ぶ。
一枚。
二枚。
何百枚。
路面へ固定。
湊は病室から配置を見る。
道路中央に全部敷かなくていい。
主脚が通る場所だけ厚く。
久遠が理解する。
車輪走行帯を重点補強。
残りは路面そのまま。
作業量を減らせます。
軍用AIが再計算。
完成予測。
二時間四十一分。
あと十一分。
相良特務少佐。
何。
二時間半への値切り交渉は成立しません。
でもだいぶ縮んだ。
工兵が優秀だからです。
湊は少し笑う。
一方。
高速道路の両端では。
移動式の管制灯が設置される。
誘導灯。
簡易進入灯。
風向計。
消防車。
救急車。
路面確認用無人車。
敵軍の航空管制官と。
味方空軍の管制官が。
同じ移動管制車へ座る。
最初は。
互いに言葉が少ない。
敵側管制官。
進入角。
三度。
味方側管制官。
大型機なら。
西側進入のほうが障害物が少ない。
風は。
東風。
なら西から着陸。
東へ離陸。
意見が一致する。
一つずつ。
昨日までの敵。
という言葉が。
作業の中で薄れていく。
◇
救助地点。
東部山岳避難区。
三万七千三百名。
休戦を知った人々は。
山間の複数拠点から。
航空基地へ向かっていた。
敵軍輸送車。
味方軍輸送車。
民間バス。
装甲を外した兵員輸送車。
大型貨物車。
ありとあらゆる車両。
道路には。
白い共同人道回廊の旗。
昨日なら。
敵車両を見れば隠れた。
今日は。
同じ道を。
同じ方向へ走っている。
ある味方捕虜が。
敵軍の大型バスへ乗ることを拒んだ。
俺は。
あいつらの車には乗らない。
運転していた敵兵は。
何も言わない。
捕虜は。
収容生活で痩せていた。
腕には傷。
敵軍服を見るだけで。
顔が強張る。
通信を受けた久遠が。
別の味方車両を回そうとする。
湊が止める。
無理に乗せなくていい。
捕虜が画面を見る。
乗りたい車を選んでください。
少し遅くなっても。
その人が。
安心して乗れるほうで。
軍用AIが配車を調整。
味方側バス。
十一分後に到着。
敵側運転兵が。
静かに車を前へ動かし。
道路を空ける。
何も言わない。
謝罪も。
言い訳も。
今はしない。
捕虜も。
何も言わなかった。
十一分後。
味方バスへ乗る。
それでいい。
共同人道回廊は。
仲良くなるための場所ではない。
まず。
殺さない。
置いていかない。
それだけ。
◇
作戦開始から二時間三十九分。
軍用高速道路。
仮設滑走路。
完成。
軍用AIが路面を確認する。
全長二千八百四十メートル。
有効幅四十五メートル。
大型輸送機。
最大離陸重量を八十二パーセント以下へ制限。
着陸可能。
神代が最初の飛行試験を行う。
使用機。
敵軍中型輸送機。
無人状態。
マルタが尋ねる。
なぜ我が軍機を最初に。
神代が答える。
この滑走路で最も離着陸距離が短い。
壊れてもいいからではありません。
軍用AIが小さく。
相良特務少佐なら言いかねません。
聞こえてるぞ。
無人輸送機が進入。
高度百。
五十。
着陸。
主脚。
道路へ接地。
機体がわずかに跳ねる。
制動。
道路脇。
数メートル先にガードレール。
だが直進維持。
停止。
必要距離。
千七百メートル。
余裕あり。
軍用AIが告げる。
仮設滑走路。
運用開始可能。
湊が言う。
全機飛ばす。
軍用AIが即座に訂正する。
順番にです。
道路は一本。
着陸と離陸。
同時にはできません。
十五分間隔で。
大型。
中型。
医療機。
全部回す。
軍用AIが輸送計画を作成。
重傷者。
高速医療輸送機。
五機。
次。
歩行困難者。
大型輸送機。
その後。
民間人。
捕虜。
敵軍負傷者。
搭乗順。
国籍ではなく。
医療優先度。
年齢。
移動困難度。
湊が言う。
それで。
マルタが画面を見る。
敵軍負傷兵を。
後回しにしないのか。
怪我が重い人から。
敵味方は。
休戦してるんでしょう。
マルタは答えなかった。
代わりに。
最初の医療輸送機へ。
敵軍負傷兵二十七名と。
味方捕虜の重傷者三十名。
民間人の子供十二名。
同じ機体へ載せた。
◇
離陸。
一機。
二機。
五機。
十機。
仮設滑走路から。
次々と輸送機が飛び立つ。
機体標識。
味方。
敵。
混在。
だがすべての機体へ。
共通の白い救難識別灯。
共同人道回廊。
攻撃禁止。
神代が空中全体を統制する。
マルタが基地側を統制。
軍用AIが。
全航空機の位置。
燃料。
搭乗人数。
医療状態。
受け入れ先を同時管理。
湊は病床から。
全体を見ていた。
現在搬送。
八千人。
一万二千。
一万八千。
敵軍の大型輸送機が。
味方領内の軍医療基地へ着陸。
味方大型輸送機が。
敵国側の山岳基地へ戻ってくる。
昨日なら。
撃墜対象。
今日は。
どちらも。
人を運ぶだけの飛行機。
◇
三万七千人のうち。
二万九千名を搬送した頃。
山岳地帯で。
大きな地震。
休戦とは関係のない。
自然の揺れ。
航空基地全体が振動した。
仮設滑走路。
損傷。
軍用AIが即座に道路を確認する。
西側。
約九百メートル地点。
山腹崩落。
土砂が高速道路へ流入。
仮設滑走路。
使用可能長。
二千八百四十メートルから。
一千九百六十メートルへ短縮。
大型輸送機。
離陸不能。
現在基地に残る大型機。
十三機。
救助対象。
八千二百名。
そのうち。
歩行困難者一千三百名。
湊が聞く。
土砂をどける時間。
重機最大投入。
二時間四十分。
山がまだ動いています。
二次崩落危険。
作業員を近づけられません。
中型機だけなら。
一千九百六十メートルで離陸可能。
残る中型機。
六。
医療機。
三。
全部でも。
何往復。
軍用AIが計算する。
最低八往復。
四時間以上。
二次崩落予測。
山体センサー。
大規模崩壊。
最短二時間以内。
間に合わない。
湊は基地内の大型輸送機を見る。
十三機。
どれも。
二千五百メートル前後の滑走路が必要。
何か短くできないか。
軍用AI。
機体重量を下げる。
燃料を最小限。
搭乗者を減らす。
それでも。
最低二千二百メートル。
二百四十メートル足りない。
湊が道路の終端を見る。
仮設滑走路。
東側終端。
その先。
高速道路は。
緩やかに下っている。
だが途中に。
料金所跡。
幅が狭い。
大型機の翼は通らない。
壊せるか。
料金所をですか。
無人化済み。
現在使用されていません。
工兵車で撤去。
二十分。
その先を滑走路に使えば。
追加三百メートル。
軍用AIが答える。
ただし。
路面幅。
三十八メートル。
大型機の主脚は通せます。
翼は道路脇の照明柱へ接触。
全部倒す。
照明柱六十四本。
無人工兵車で。
湊が言う。
二十分で。
久遠が通信越しに答える。
やります。
軍用AIが叫ぶ。
また時間を値切りましたね!
◇
工兵車。
十二両。
道路東側へ。
料金所跡。
無人。
大型排土板で押す。
コンクリート柱。
破壊。
屋根。
大型クレーンで引き倒す。
照明柱。
無人作業車が根元を切断。
一本。
十本。
三十。
六十四。
道路脇へ倒す。
ガードレールも外す。
舗装確認。
仮設板。
残りの予備。
全部敷く。
作業時間。
二十三分。
湊が言う。
三分オーバー。
久遠が返す。
十分早いです。
軍用AIが大きく同意する。
久遠陸将補が正しいです。
使用可能滑走路。
二千二百七十メートル。
軍用AIが大型輸送機の離陸計算を行う。
燃料。
目的地まで。
予備一回分のみ。
搭乗人数。
通常の六割。
貨物。
医療以外すべて降ろす。
離陸重量。
安全限界ぎりぎり。
必要距離。
二千二百三十メートル。
余裕。
四十メートル。
軍用AIの声が低くなる。
相良特務少佐。
何。
これは。
非常に嫌です。
俺も。
湊は大型機を見た。
でも。
残ってる人がいる。
軍用AIは答えた。
分かっています。
◇
最初の大型輸送機。
敵軍所属。
操縦は。
マルタ・シュナイダー大佐。
軍用AIが自動操縦を補助する。
機内。
避難民六百二十名。
うち歩行困難者百十二名。
滑走路。
二千二百七十メートル。
離陸必要距離。
二千二百三十。
マルタが操縦桿を握る。
十五年前。
この道路を。
軍用滑走路にする訓練はしたことがある。
神代が通信で答える。
私も。
敵国側で。
二人が少し笑った。
同じことを。
別々の軍で訓練していた。
今は。
同じ人たちを逃がすために使う。
マルタ。
推力最大。
巨大な輸送機が加速する。
速度。
百。
百五十。
二百。
道路幅。
狭い。
左翼端。
照明柱を撤去した跡。
右翼。
山側。
機体が少し流れる。
神代が空から風を伝える。
右から突風。
三秒後。
マルタが先に補正。
二百四十。
離陸速度。
機首上げ。
だが。
浮かない。
軍用AIが叫ぶ。
重量と気温の影響!
必要速度を四キロ上方修正!
道路残り。
二百メートル。
百五十。
マルタが操縦桿を保持。
速度。
二百五十一。
機首。
さらに一度。
主脚が浮く。
道路終端。
残り。
四十メートル。
離陸。
大型機が。
高速道路の端から。
わずかに落ち込むように空へ出る。
高度。
五メートル。
十。
上昇。
軍用AIの絶叫。
近すぎますうううううう!
マルタが息を吐く。
飛んだ。
神代が答える。
お見事です。
マルタは。
少し黙った後。
あなたに言われるとは思わなかった。
私も。
二人とも。
昨日まで敵。
今日は。
同じ空で。
救難機を飛ばしていた。
◇
二機目。
三機目。
大型輸送機が。
一機ずつ離陸。
全機。
搭乗者数を減らす。
機内へ乗れない人は。
次便。
焦らせない。
滑走路脇で。
水。
食料。
医療。
第十機。
離陸。
残る避難民。
千四百名。
大型機。
三。
中型。
二。
あと一便で。
ほぼ全員。
そのとき。
山体監視センサー。
警報。
第二崩落。
予測。
十分以内。
軍用AIが叫ぶ。
全救助対象。
直ちに最終搭乗。
大型機三機。
中型機二機。
合計最大収容。
二千八百名。
全員乗せられます。
湊が言う。
離陸順。
重い機体から。
軍用AIが訂正する。
滑走路損傷時。
最後の機体が離陸不能になる危険。
短距離離陸できる中型機を最後。
大型三機を先。
了解。
大型機一号。
発進。
二号。
発進。
三号。
搭乗者。
四百七十名。
味方捕虜。
敵軍負傷兵。
民間人。
混在。
機体が加速。
その瞬間。
山腹から。
小さな岩が落ち始める。
軍用AI。
崩落開始。
滑走路西側。
すでに使えない。
東側道路。
まだ使用可能。
大型機。
速度二百。
必要二百五十。
前方。
道路脇の斜面から。
巨大な岩。
一つ。
道路へ転がり落ちる。
離陸進路。
中央。
軍用AIが叫ぶ。
障害物!
停止距離。
足りません。
湊が映像を見る。
道路脇。
大型装甲回収車。
二両。
救難用に配置。
巻き上げ機。
高出力。
湊が言う。
引け。
軍用AIが即座に理解。
二両の装甲回収車。
道路左右。
高張力索。
巨大岩へ。
すでに事前配置されていた無人作業機が、索を岩へ射出。
固定。
回収車。
最大出力。
岩を左右から引く。
動かない。
輸送機。
速度二百二十五。
距離。
六百メートル。
回収車。
タイヤ空転。
軍用AI。
牽引不足!
湊が言う。
後ろの重機もつなぐ。
ブルドーザー四両。
回収車後部へ。
同時牽引。
岩が。
少し動く。
一メートル。
二。
まだ道路中央。
輸送機。
速度二百四十。
距離。
三百。
マルタの声。
中止できない。
軍用AI。
分かっています!
回収車六両分の力。
岩が路肩へ動く。
道路中央から。
五メートル。
輸送機の主脚は通れる。
だが。
右翼側。
岩の上部と。
翼端の高さが近い。
神代が上空から叫ぶ。
左へ寄せて!
マルタが操縦桿をわずかに左。
輸送機。
道路幅ぎりぎり。
左主脚。
舗装端まで。
一・二メートル。
右翼端。
岩まで。
十二メートル。
八。
五。
通過。
軍用AIの絶叫。
翼端近すぎます!
離陸速度。
到達。
マルタ。
機首上げ。
大型輸送機が空へ浮く。
直後。
後方で。
山腹が大きく崩れた。
仮設滑走路の半分以上が。
土砂に飲まれる。
最後の大型機。
離陸済み。
残る中型機二機。
滑走路。
使用可能区間。
一千百メートル。
中型機必要距離。
一千三百。
二百足りない。
残る人員。
三百六十二名。
湊が尋ねる。
中型機二機。
軽くすれば。
最低一千百八十。
八十メートル不足。
道路の先。
もう延ばせない。
前方は。
緩い下り坂。
でも舗装は続いてる。
軍用AIが地図を見る。
正式な道路幅。
三十四メートル。
中型機なら。
主脚も翼も通る。
障害物。
道路標識五。
監視ゲート一。
撤去に。
十分。
二次崩落予測。
六分。
湊が言う。
飛行機が通れるだけ壊す。
軍用AIの表示灯が真っ赤になる。
撤去と言ってください!
無人工兵車が走る。
標識。
引き倒す。
監視ゲート。
大型クレーンでは間に合わない。
装甲回収車。
巻き上げ索。
ゲート上部へ。
引く。
柱が曲がる。
倒れる。
道路外へ。
三分四十二秒。
中型機一号。
発進。
残る二百名。
二号機へ。
敵軍負傷兵。
味方捕虜。
民間人。
最後まで残っていた。
両軍工兵も搭乗。
最後の一人。
マルタ大佐。
神代が通信する。
あなたも乗ってください。
マルタ。
現地指揮官は最後だ。
神代。
そういうところまで同じでなくていいです。
無人で残る設備は。
軍用AIが管理。
マルタが最後に搭乗する。
中型機。
発進。
山崩れの音。
道路後方。
土砂が迫る。
速度百。
百五十。
滑走路。
ではない。
ただの高速道路。
機体は加速する。
必要速度。
百九十二。
道路残り。
二百。
百。
マルタが操縦桿を引く。
離陸。
後輪が。
道路終端の土砂へ触れる寸前。
浮いた。
中型輸送機が。
山間へ上昇する。
数秒後。
軍用高速道路全体が。
崩落した山肌に埋まった。
軍用AIが生体反応を確認する。
航空基地。
残存人員。
ゼロ。
救助対象。
味方捕虜。
八千二百名。
敵軍負傷兵。
五千一百名。
民間避難民。
二万四千名。
合計。
三万七千三百名。
全員。
航空機へ収容。
死亡者。
ゼロ。
軍用AIが少しだけ静かな声になる。
共同人道回廊。
第一回救難作戦。
救助完了。
病床の湊が笑った。
うまくいったな。
はい。
軍用AIも。
否定しなかった。
◇
その日の夕方。
敵軍輸送機。
味方軍輸送機。
合わせて三十七機。
すべて。
両国各地の受け入れ施設へ着陸した。
敵軍の機体から。
味方捕虜が降りる。
味方軍の機体から。
敵軍負傷兵が降りる。
誰も撃たない。
誰も捕まえない。
医療班が。
重い者から運ぶ。
空港の大型掲示板には。
新しい識別標識。
共同人道回廊。
帰還便。
敵味方を示す表示より。
大きく。
帰還。
と書かれていた。
神代玲華と。
マルタ・シュナイダー。
二人の空軍指揮官は。
同じ滑走路へ降り立った。
マルタが神代を見る。
次に会うときは。
空で撃ち合うと思っていた。
神代が答える。
私もです。
マルタ。
今日は。
一緒に三万七千人を運んだ。
神代。
そのほうが。
空軍の使い方としては好きです。
二人は。
短く敬礼した。
◇
第一軍病院。
夜。
軍用AIが作戦報告書をまとめる。
共同運用航空機。
三十七機。
仮設高速道路滑走路。
山崩れにより使用不能。
大型輸送機。
損失ゼロ。
中型輸送機。
損失ゼロ。
医療輸送機。
損失ゼロ。
人的被害。
軽傷者十二名。
死亡者ゼロ。
湊が少し驚いた。
今回は一機も壊れなかったな。
軍用AIの表示灯が。
ゆっくり青くなる。
はい。
正式に借りた装備を。
一機も壊さず返却できました。
成長したな。
あなたではありません。
私たちがです。
湊が笑う。
同じ部隊だろ。
軍用AIは。
少し黙った。
それから。
小さく答えた。
はい。
ですが。
相良特務少佐。
何。
共同人道回廊の成功を受け。
新しい救助申請が。
大量に届いています。
何件。
軍用AIが表示する。
陸路。
百八十二件。
海路。
七十三件。
空路。
九十五件。
合計。
三百五十件。
湊が画面を見る。
多いな。
軍用AIが続ける。
さらに。
休戦協定へ参加していない。
第三国からも。
人道支援の問い合わせ。
十七か国。
そのうち一か国から。
正式な救難要請。
湊が首を傾げる。
第三国。
はい。
戦争とは無関係の。
中立国です。
何があった。
軍用AIが新しい地図を表示した。
大洋上。
超大型旅客船。
乗客乗員。
八千六百十二名。
大規模火災。
機関停止。
台風圏へ漂流。
最寄り救難船。
到着まで十四時間。
沈没予測。
六時間以内。
白波から。
即座に通信。
海軍救難艦隊を出します。
黒崎海将。
第一主力艦隊も出せる。
神代。
大型輸送機から救難艇を投下します。
久遠。
陸軍工兵の浮橋部隊も港へ。
湊が少し考えた。
船。
大きいんだよな。
軍用AIが警戒する。
何を見ていますか。
近くにある。
共同使用可能な艦艇。
軍用AIの画面に。
一隻の情報。
休戦により武装封印中。
敵軍所属。
超大型航空母艦。
全長三百八十メートル。
艦載機八十機。
医療区画。
二千床。
救難用ヘリ。
三十六機。
湊が言った。
これ。
ちょっと借りれば。
軍用AIの絶叫が。
休戦した二国どころか。
救助要請を見守る十七か国へまで配信された。
正式に借りられるようになったからって、今度は敵の空母まで借りようとしないでくださいいいいいいいいい!




