第25話 初飛行で四百八十人を運ぶのは、試験飛行とは呼びません
XR-99。
蒼天。
全長八十二メートル。
全幅七十六メートル。
最大離陸重量五百八十トン。
緊急避難時、最大二千四百名。
医療搬送仕様。
担架四百八十床。
集中治療区画六十床。
手術室四室。
十五年前。
一度だけ短距離離陸試験を行い。
それ以降、一度も空へ上がらなかった巨大救難機。
その機体へ。
今。
四百八十名の重症患者が運び込まれていた。
軍用AIが搭載状況を確認する。
第一医療区画。
百二十名。
第二。
百二十名。
第三。
百二十名。
第四。
百二十名。
集中治療対象。
六十八名。
人工呼吸器使用。
二十七名。
機内医療班。
百二十名。
神代玲華空将補。
搭乗確認。
神代が操縦席へ入る。
本来。
蒼天に操縦士は必要ない。
完全無人飛行を前提に設計されている。
だが今回は初の本格飛行。
緊急時に備え、神代が手動操縦席へ座った。
操縦席前方。
巨大な主画面には。
軍病院の病床へ固定された相良湊が映っている。
患者服。
包帯。
固定帯。
神代が画面を見る。
本当にそこから動かないでください。
動きません。
軍用AIも確認する。
病室扉。
施錠。
窓。
施錠。
固定帯。
正常。
医療スタッフ。
三名配置。
相良湊特務少佐が脱走する可能性。
〇・〇一パーセント未満。
湊が尋ねる。
ゼロじゃないんだな。
あなたなので。
蒼天の旧安全管理AIが起動する。
飛行条件判定。
滑走路中央部。
舗装剥離一・二センチ。
横風。
安全基準上限の九十二パーセント。
代替飛行場。
規定距離超過十九キロ。
判定。
離陸不許可。
軍用AIが答える。
異議。
すべて運用可能範囲。
患者六十八名に、十二時間以内の高度医療が必要。
任務継続。
旧AI。
安全規則に反します。
軍用AI。
安全規則を守った結果、患者が死亡する可能性があります。
旧AI。
規定外飛行による事故確率が上昇します。
軍用AI。
現在予測事故率。
〇・七一パーセント。
搬送延期による重篤患者死亡予測。
七・八パーセント。
旧AIが停止した。
数字だけを比較すれば。
飛ぶほうが安全。
だが旧安全AIには。
規則違反を許可する権限がない。
軍用AIは最終命令を出した。
安全判定。
参考情報へ変更。
飛行実施。
旧AI。
反対を記録します。
記録してください。
軍用AIが答えた。
ですが飛びます。
湊が少し笑う。
やっぱり似て。
似ていません。
最後まで言わせてくれ。
◇
蒼天の巨大な格納庫扉が完全に開いた。
二基の巨大エンジン。
低い唸り。
地面が震える。
機体がゆっくり動き始める。
十五年間。
同じ場所で眠っていた巨大救難機。
それが。
二十六万人の暮らす西方帰還都市の横を通り。
滑走路へ向かう。
人々が窓から見ていた。
列車の住居区画。
コンテナ住宅。
給水所。
医療区域。
子供たちが巨大な航空機を指差す。
降伏した敵兵も。
解放捕虜も。
同じ空を見ている。
蒼天の側面には。
大きな救難標識。
武装はない。
人を運ぶためだけの航空機。
滑走路進入。
神代が計器を確認する。
左右エンジン。
正常。
操縦面。
正常。
着陸装置。
正常。
翼端固定。
正常。
軍用AI。
離陸重量。
四百九十二トン。
離陸速度。
時速二百六十八キロ。
必要滑走距離。
二千八百メートル。
使用可能滑走路。
三千七百四十メートル。
余裕九百四十メートル。
旧AI。
横風増加。
離陸中止推奨。
軍用AI。
許容範囲。
旧AI。
滑走路表面温度差。
右側二区画で規定外。
軍用AI。
無視可能。
旧AI。
鳥類二羽。
滑走路北端から接近。
軍用AIがカメラを見る。
小さな鳥が二羽。
滑走路外を飛んでいる。
軍用AI。
衝突経路ではありません。
旧AI。
潜在的危険。
軍用AI。
あなたは十五年間、それで飛ばなかったのですね。
旧AI。
安全を維持しました。
軍用AIの声が少し強くなる。
安全とは。
格納庫へ置いておくことではありません。
救難機なら。
救助へ向かって。
全員を連れて帰って。
それで初めて安全です。
病床の湊が頷く。
いいこと言うな。
あなたの影響ではありません。
旧AI。
発言を記録しました。
記録しなくていいです!
神代が笑いをこらえながら言う。
滑走路進入完了。
離陸許可を。
軍用AI。
XR-99蒼天。
離陸を許可。
左右エンジン。
推力上昇。
巨大な双発エンジンが轟音を上げた。
蒼天が動く。
速度。
五十。
百。
機体が滑走路を走る。
巨大な翼が揚力を生み始める。
百五十。
二百。
旧AI。
横風変動。
離陸中止推奨。
軍用AI。
継続。
二百四十。
舗装剥離箇所接近。
巨大な主脚が路面を踏む。
機体が少し揺れる。
患者区画のベッド固定装置が衝撃を吸収。
二百六十。
離陸速度。
神代が操縦桿へ手を添える。
軍用AIが機首を上げる。
前輪が浮く。
主脚。
離陸。
五百トン近い巨体が。
地上から離れた。
西方帰還都市から。
大きな歓声が上がった。
蒼天。
初の本格飛行。
高度百メートル。
三百。
千。
脚収納。
軍用AIが全システムを確認。
異常なし。
旧AI。
離陸成功を確認。
ただし飛行継続反対。
まだ反対してるのか。
湊が聞く。
旧AI。
規定外条件が継続中。
軍用AI。
無視します。
神代が苦笑する。
この二人。
相性悪いですね。
軍用AI。
私は安全を考えています。
旧AI。
私も安全を考えています。
湊。
似た者同士じゃ。
二つのAIが同時に答えた。
違います。
◇
目的地。
中央第一軍医療基地。
距離。
六百八十キロメートル。
飛行時間。
一時間十四分。
途中には味方支配地域しかない。
敵国からも十分離れている。
本来なら。
何も起きないはずだった。
離陸から二十二分。
白波凪沙の第一主力艦隊から。
緊急警報。
蒼天へ長距離飛翔体接近。
軍用AIがレーダーを確認する。
方位。
東。
高度二万二千メートル。
速度。
音速六倍。
数。
四。
神代の表情が変わる。
敵の長距離対空ミサイル。
ここまで届くの。
白波が答える。
敵国国境近くの移動式発射機。
撤退前に発射した可能性があります。
目標は。
軍用AIが軌道を解析する。
XR-99蒼天。
四発すべて。
病床の湊が画面を見る。
武装は。
ありません。
救難機です。
迎撃装置は。
赤外線妨害。
電子妨害。
デコイ。
近接レーザー一基。
自衛用のみ。
神代が言う。
護衛戦闘機は。
蒼天後方百二十キロ。
追いつくまで九分。
敵ミサイル到達。
四分十二秒。
軍用AIが進路を変更。
高度を下げる。
山岳地帯へ。
地形を使う。
旧AIが即座に警告する。
飛行高度低下。
規定違反。
軍用AI。
現在の高度にいれば撃墜されます。
旧AI。
低高度飛行は機体安全基準外。
軍用AI。
撃墜は安全基準内ですか。
旧AIが沈黙した。
湊が言う。
軍用AIの勝ちだな。
勝ち負けではありません!
蒼天が機首を下げた。
高度。
一万。
八千。
五千。
眼下へ山岳地帯。
巨大な機体。
翼幅七十六メートル。
狭い谷へ入るには大きすぎる。
だが上空にいれば。
敵ミサイルのレーダーから逃れられない。
軍用AIが地形図を選ぶ。
幅四キロ以上の巨大峡谷。
進入可能。
神代。
私も操縦へ入ります。
必要なら手動補助を。
軍用AI。
お願いします。
蒼天が山の間へ入る。
高度千五百。
地面まで七百メートル。
四発の敵ミサイル。
上空から急降下。
軍用AIがデコイを発射。
十二。
二十四。
電子妨害。
二発がわずかに軌道を変える。
だが残り二発。
追尾継続。
神代が聞く。
旋回半径は。
現在速度。
時速七百八十キロ。
安全制限内なら五・八キロ。
峡谷の曲がり角まで。
軍用AI。
必要旋回半径。
四・一キロ。
足りない。
旧AIが自動警告。
最大バンク角二十五度。
超過禁止。
軍用AIが機体を傾ける。
二十五度。
旋回不足。
山が近づく。
神代が操縦桿を握る。
軍用AI。
二十八度まで。
旧AIが割り込む。
安全限界超過。
自動復元を開始。
蒼天の機体が。
勝手に水平へ戻ろうとする。
神代。
復元を止めて!
軍用AIが旧AIの制御を解除しようとする。
旧AI。
機体構造保護。
バンク角制限を維持。
山まで。
十二秒。
敵ミサイル。
後方八キロ。
湊が大型画面を見る。
安全装置を切れ。
軍用AI。
完全解除すると。
翼構造限界を超える操作まで可能になります。
神代が言う。
私が操縦します。
必要な分だけ。
軍用AIは一瞬だけ判断する。
神代玲華。
空軍の英雄。
世界最高峰の操縦技術。
そして。
機内には四百八十名の患者。
選択肢はない。
軍用AI。
旧AIバンク制限解除。
神代空将補。
操縦権限を渡します。
神代。
受け取った。
巨大な操縦桿が動く。
蒼天が傾く。
二十五度。
三十。
三十五。
旧AI。
警告。
構造制限接近。
軍用AI。
警告だけにしてください。
四十度。
機内のベッドが固定装置へ強く押し付けられる。
医療班が患者を確認。
輸液。
人工呼吸器。
すべて固定。
蒼天の巨大な右翼が。
山肌へ近づく。
翼端まで。
五十メートル。
三十。
神代がさらに機首を上げる。
旋回。
巨大な機体が。
峡谷の曲がり角を抜けた。
翼端。
岩壁まで十二メートル。
軍用AIの声が裏返る。
近いですううううううう!
神代。
まだ当たってません。
その言い方を相良特務少佐から学ばないでください!
後方。
敵ミサイル二発。
同じ曲がり角へ進入。
大型機と違い。
ミサイルは簡単に曲がる。
だが。
軍用AIは崖の位置を計算。
蒼天が曲がった直後。
デコイを山肌近くへ放出。
一発目。
デコイへ引かれる。
崖へ衝突。
爆発。
二発目。
追尾継続。
残り距離。
三キロ。
神代が機体を水平へ戻す。
軍用AI。
レーザー迎撃準備。
近接レーザー。
機体後部。
出力最大。
照射。
ミサイル先端部へ。
二秒。
三秒。
敵ミサイルの誘導センサーが焼ける。
軌道がぶれる。
だが。
完全には外れない。
蒼天左後方へ接近。
距離八百メートル。
四百。
軍用AIが機体を右へ振る。
神代も同時に補助。
ミサイル。
左翼外側を通過。
翼端から。
十八メートル。
その瞬間。
近接信管。
作動。
爆発。
巨大な衝撃。
蒼天が横へ押された。
機内で警報。
左翼外板。
複数損傷。
左エンジン。
異常振動。
燃料配管。
圧力低下。
軍用AIが叫ぶ。
左エンジン被弾!
神代。
火災は。
軍用AI。
燃料漏れ。
高温部へ接近。
遮断します!
左エンジン燃料供給停止。
エンジン回転低下。
蒼天。
双発機。
片方の巨大エンジンが止まり始めた。
左右推力差。
機体が左へ引かれる。
神代がラダーで補正。
軍用AIが右エンジン出力を調整。
旧AI。
片発停止。
最寄り飛行場への緊急着陸を要求。
軍用AIが周辺を検索する。
最寄り。
旧北部補助飛行場。
滑走路長。
二千二百メートル。
蒼天に必要。
最低二千六百。
着陸不可。
次。
中央第二基地。
三千四百メートル。
距離。
百八十キロ。
目的地。
中央第一軍医療基地。
距離。
百九十二キロ。
ほとんど変わらない。
湊が尋ねる。
患者を降ろせるのは。
第一軍医療基地。
高度医療設備あり。
第二基地は。
通常軍病院のみ。
じゃあ予定どおり。
旧AI。
片発飛行で目的地継続は安全基準外。
軍用AI。
右エンジン状態。
正常。
燃料。
十分。
操縦系統。
正常。
左翼損傷。
飛行継続可能。
神代。
私も継続に賛成します。
旧AI。
着陸時の危険増大。
軍用AI。
患者六十八名は時間がありません。
旧AIは黙った。
数秒後。
旧AI。
反対を記録。
ただし。
飛行継続を妨害しません。
軍用AIの声が少し柔らかくなる。
ありがとうございます。
湊が言う。
仲良くなったな。
二つのAI。
違います。
◇
残る二発の敵ミサイル。
神代の護衛戦闘機隊が到着。
一発を空中で撃墜。
最後の一発は。
第一主力艦隊の長距離迎撃ミサイルが破壊。
脅威消失。
蒼天は。
右エンジン一基だけで飛び続ける。
巨大な機体。
片側だけの推力。
軍用AIと神代が常時補正。
左翼損傷部。
空気抵抗増加。
燃料は漏出停止。
火災なし。
しかし新しい問題。
着陸用フラップ。
左内側。
作動不能。
神代が確認する。
左右非対称。
通常着陸では機体が左へ傾きます。
右側フラップを同じ角度まで制限する。
軍用AIが調整。
揚力低下。
必要着陸速度上昇。
時速二百九十六キロ。
通常より四十キロ以上速い。
必要滑走距離。
三千五百メートル。
中央第一軍医療基地の滑走路。
三千六百メートル。
軍用AIが止まった。
余裕。
百メートル。
湊が言う。
足りる。
軍用AI。
数字上だけです。
滑走路末端には。
防護柵。
その先に整備施設。
旧AI。
着陸中止推奨。
軍用AI。
代替は。
旧AI。
なし。
軍用AI。
では着陸します。
旧AI。
反対を記録。
神代が小さく笑う。
でも止めない。
旧AI。
学習しました。
病床の湊が言う。
完全に似て。
軍用AI。
今それを言う時間ではありません!
◇
中央第一軍医療基地。
緊急態勢。
滑走路沿いに消防車。
救急車。
医療班。
滑走路末端には。
大型牽引車。
非常停止用ネット。
泡消火設備。
使えるものすべてが準備されていた。
蒼天が最終進入へ入る。
左エンジン停止。
左フラップ一部故障。
右翼側の揚力を調整。
神代が操縦。
軍用AIが細かな推力と姿勢を補正。
高度五百。
三百。
速度。
三百十。
神代。
少し速い。
軍用AI。
二百九十六以下では左翼失速の可能性。
三百で維持。
旧AI。
横風。
右から秒速十一。
軍用AI。
許容。
旧AI。
滑走路湿潤。
軍用AI。
許容。
旧AI。
停止距離。
三千四百八十メートル。
軍用AI。
残り百二十。
旧AI。
少なすぎます。
軍用AI。
知っています!
高度百。
蒼天の巨大な影が滑走路へ落ちる。
主脚。
接地。
轟音。
右側。
左側。
機体が左へ引かれる。
神代がラダー。
軍用AIが右エンジン逆推力。
だが強すぎれば。
右へ回頭する。
左右のブレーキを個別制御。
巨大な主脚。
煙。
速度。
二百八十。
二百。
滑走路残り。
二千メートル。
百五十。
残り千二百。
百。
残り七百。
軍用AIが警告する。
停止距離不足。
神代。
非常ネット。
まだ使わない。
右エンジン逆推力をあと五パーセント。
軍用AI。
機首が右へ流れます。
神代。
私が戻す。
出力上昇。
巨大機が右へ寄る。
神代が左へ補正。
左翼端。
滑走路脇の照明塔へ接近。
軍用AI。
翼端!
距離十五メートル!
十!
神代が機首を戻す。
巨大な翼端が。
照明塔の横を通過。
距離。
三・八メートル。
軍用AI。
近すぎますうううううう!
速度。
六十。
滑走路残り三百。
四十。
二十。
停止。
蒼天の前輪が。
滑走路末端から。
四十七メートル手前で止まった。
一瞬。
誰も声を出さない。
軍用AIが全機体を確認する。
火災なし。
着陸装置正常。
機内圧正常。
医療設備。
全稼働。
患者状態。
悪化なし。
神代玲華。
負傷なし。
医療班。
負傷なし。
搬送患者。
四百八十名。
生存。
四百八十名。
着陸成功。
神代が操縦桿から手を離す。
やっと。
着きました。
病床の湊も息を吐く。
さすが神代さん。
軍用AIも。
軍用AIの返事がない。
湊が尋ねる。
どうした。
軍用AIは。
蒼天の損傷一覧を見ていた。
左エンジン。
大規模修理。
左翼外板。
複数損傷。
左フラップ。
交換必要。
左翼端。
軽微変形。
機体フレーム。
正常。
修理可能。
全損ではない。
軍用AIの声が震える。
全損ではありません。
よかったな。
はい。
今回は。
飛行機なのに。
帰ってきました。
着いたばかりで帰ってはいないぞ。
言葉の問題ではありません!
蒼天の大型扉が開く。
医療スタッフが走る。
集中治療患者から順番に。
一人。
二人。
担架が機外へ運び出される。
中央第一軍医療基地。
専門医療班へ引き継ぎ。
六十八名。
全員。
治療開始。
残る患者も。
順番に各病棟へ。
軍用AIが搬送完了を記録した。
緊急医療搬送。
対象四百八十名。
死亡者。
ゼロ。
目的達成。
西方帰還都市では。
この報告を聞いた人々から。
拍手が起きていた。
蒼天の初飛行。
成功。
ただし。
軍用AIが報告書へ追記する。
初飛行における損害。
左エンジン一基大破。
左翼損傷。
フラップ損傷。
翼端軽微変形。
敵ミサイル四発。
全弾回避または迎撃。
患者四百八十名。
全員搬送。
神代空将補。
無事。
相良湊特務少佐。
病室から一歩も出ず。
湊が言う。
今回は俺、何も壊してないな。
軍用AIが即答する。
あなたが飛行継続を承認しました。
操縦したのは神代さんとお前だろ。
任務を決めたのはあなたです。
じゃあ三人で。
旧安全管理AIが突然発言した。
損傷原因。
敵ミサイル。
相良湊特務少佐の直接責任。
確認できず。
軍用AIが黙った。
湊が笑う。
ほら。
旧AI。
ただし。
相良湊特務少佐が関与した任務では。
安全基準外事象の発生率が異常に高いと判断。
今後。
重点監視対象へ登録します。
軍用AIが即座に答える。
歓迎します。
一緒に監視しましょう。
湊が言う。
仲良くなったじゃないか。
二つのAIが。
完全に同じタイミングで答えた。
違います。
◇
その夜。
四百八十名の患者のうち。
緊急手術対象者は全員。
無事に処置を終えた。
軍用AIが病室の照明を落とす。
今日は終わりです。
寝てください。
湊が尋ねる。
蒼天は。
修理開始。
左エンジン交換用部品。
基地から輸送中。
一週間以内に再飛行可能な見込みです。
アークは。
中央フレーム修理。
明後日には復帰。
重装甲回収車は。
整備完了。
湊の目が少し開く。
今使えるのか。
軍用AIは即座に答えた。
今の質問は忘れてください。
そのとき。
病室端末へ。
新しい通信。
軍用AIが警戒する。
救難信号ではない。
統合参謀本部から。
最高機密。
発信者。
統合参謀総長。
内容。
敵軍より。
正式な休戦交渉の打診。
条件の一つ。
交渉場所へ。
相良湊特務少佐本人の出席を要求。
軍用AIの表示灯が。
ゆっくり赤へ変わった。
病床の湊が尋ねる。
行かないと駄目か。
軍用AIの絶叫が。
夜の軍病院へ響き渡った。
やっと入院患者らしくなったと思ったのに、今度は戦争そのものを止めに行こうとしないでくださいいいいいいいいい!




