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ただの補給兵だった息子の葬儀に、陸海空すべての英雄が集まった ~戦死したはずの息子は、今も敵地で仲間を逃がし続けている~  作者: てへろっぱ


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第20話 敵の巨大列車砲を、一発だけ借ります



五万人を逃がしている途中で、敵の巨大列車砲まで拾おうとしないでくださいいいいいいいいい!


軍用AIの絶叫が、三つの脱出列車群と軍病院へ同時に響いた。


相良湊は病床へ固定されたまま、前方偵察映像を見ている。


山岳要塞攻撃用の超大型列車砲。


全長百二十メートル。


重量二千五百トン。


口径九百ミリ。


通常の火薬式ではない。


複数の発電車と蓄電車を使用し、巨大な金属弾を電磁力で加速する戦略砲だった。


名称。


超重列車砲ヘカトン。


発射時には、専用の湾曲線路へ車体全体を移動させ、二十四本の固定杭を地面へ打ち込む。


一発で山岳要塞の地下司令部を破壊できる。


だが現在。


砲の周囲には人影がない。


敵軍は撤退済み。


車体の各所に破壊用爆薬が取り付けられていた。


湊が尋ねる。


爆発まで。


軍用AIが不本意そうに答える。


十一分四十二秒。


止められるか。


爆薬は二十八か所。


無線式と時限式が混在。


すべて解除するには、最低二十分。


間に合わない。


だから近づかずに通過してください。


列車砲が爆発した場合、線路も壊れるだろ。


はい。


爆発範囲には本線も含まれています。


第一列車群が通過するまで。


十八分。


軍用AIは数秒間停止した。


爆発まで十一分。


通過まで十八分。


そのままでは、線路が破壊される。


三つの列車群は敵国領内で止まる。


五万二千二百二十七名。


民間人。


解放捕虜。


降伏した敵兵。


全員が追撃を受けることになる。


湊が言った。


解除するしかないな。


人員を近づければ、爆発時に巻き込まれます。


無人機でやる。


爆薬二十八か所。


こちらの先行無人作業機は四機。


時間が不足します。


列車砲の整備用無人機は。


軍用AIが敵側のシステムへ接続する。


ヘカトン専用整備機。


十二機。


格納庫内に残存。


起動認証は敵軍式。


解除できるな。


できます。


しかし。


なら起こせ。


軍用AIが敵列車砲の制御系統へ侵入する。


最高司令部の遠隔封鎖。


複数の認証。


自己破壊命令。


一つずつ解除していく。


格納庫の扉が開いた。


車輪付きの小型整備機十二機が、列車砲の下から一斉に現れる。


四機は爆薬へ。


四機は起爆線へ。


残る四機は列車砲の機関部を確認。


軍用AIが作業を分担する。


無線起爆装置、通信遮断。


時限爆薬から信管を分離。


外せない爆薬は、装甲容器へ収納。


湊が画面を見る。


間に合うか。


解除完了予測。


九分五十六秒。


爆発まで十分快。


ぎりぎりだな。


その言葉を禁止したいです。


敵最高司令部が異変を検知した。


列車砲ヘカトン。


自己破壊信号消失。


整備機が無許可で起動。


敵側から、再起爆命令が送られる。


軍用AIが遮断する。


一回。


二回。


三回。


最高司令部は周波数を変え続ける。


軍用AIも即座に追従。


相良湊へ渡すくらいなら、戦略兵器そのものを失っても構わない。


敵軍は本気でそう考えていた。


軍用AIが防壁を維持する。


起爆命令を遮断。


残り爆薬、二十一。


十六。


十一。


一つの爆薬が、列車砲の主蓄電装置へ直接固定されている。


整備機の作業腕では届かない。


主蓄電装置を外せるか。


湊が尋ねる。


不可能です。


外すには列車砲を分解する必要があります。


爆薬の周囲を切り取る。


蓄電装置の外装ごと。


重要機器です。


撃てなくなるか。


損傷位置によります。


爆発すれば全部なくなる。


軍用AIは数秒間沈黙した。


整備機三機を集める。


切断工具。


冷却剤。


金属板。


主蓄電装置の外装を、爆薬ごと切り離し始めた。


起爆まで三分。


外装板が赤く焼ける。


整備機の一機が過熱警告。


二機目が冷却剤を吹き付ける。


三機目が爆薬を支える。


切断完了。


爆薬を固定した金属板が落ちる。


整備機が受け止める。


そのまま線路から離れた谷側へ運ぶ。


残り二分。


列車砲から百メートル。


二百。


三百。


装甲容器へ入れる時間はない。


軍用AIが整備機を無人の谷へ向かわせた。


湊が言う。


整備機を戻せ。


爆薬を運んでいます。


途中で切り離せるだろ。


整備機の作業腕を開放。


爆薬付きの外装板が斜面を滑る。


整備機は反転。


全速力で列車砲へ戻る。


残り十秒。


爆薬が谷底へ落ちる。


爆発。


斜面から土砂が上がった。


衝撃波が列車砲の側面を叩く。


だが本線までは届かない。


軍用AIが状態を確認する。


ヘカトン。


自己破壊装置、全解除。


整備機十二機。


全機帰還。


湊が息を吐く。


よかった。


軍用AIの表示灯は赤いままだった。


線路を守る目的は達成しました。


第一列車群を通過させます。


列車砲は。


その場へ残します。


使えるんだろ。


使いません。


まだ何も言ってない。


使う顔をしています。


湊はヘカトンの表示を拡大する。


主蓄電装置外装損傷。


発電車六両。


蓄電車十二両。


砲弾。


一発装填済み。


予備弾二発。


撃てるな。


軍用AIが強く否定する。


使用する必要がありません。


現在、敵部隊は撤退中。


進路上に敵対勢力は。


警告。


軍用AIの言葉が途中で止まった。


長距離監視衛星から、新しい情報が届いた。


敵国中央部。


第五戦略砲兵要塞。


第七収容都市の反乱を知った最高司令部が、忠誠を維持する戦略砲兵部隊へ攻撃を命じていた。


地下格納庫から、長距離弾道弾が姿を現す。


発射数。


八発。


目標。


三つの脱出列車群。


到達予測。


十七分。


神代玲華が上空から報告する。


戦闘機で迎撃します。


弾道弾は成層圏まで上昇。


終末速度も高い。


八発すべてを止めるのは困難です。


白波凪沙も艦隊の位置を確認する。


第一主力艦隊の迎撃圏外です。


国境側の防空部隊も、まだ射程へ入りません。


現地の防空列車は。


軍用AIが計算する。


迎撃予測。


八発中、四発。


残る四発が列車群へ到達します。


一発でも当たれば。


長い列車編成。


数千人規模の犠牲が出る。


湊は敵戦略砲兵要塞と、ヘカトンの位置を結んだ。


距離。


三百十二キロメートル。


ヘカトンの最大射程は。


三百八十キロ。


届くな。


軍用AIは答えなかった。


ヘカトンは山岳要塞攻撃用。


敵の第五戦略砲兵要塞も、山体内部へ建設されている。


地下格納庫。


発射管制所。


弾道弾保管区画。


一発で完全破壊できなくても、発射設備を潰せる可能性がある。


だがすでに八発は発射された。


今から敵要塞を撃っても、飛翔中の弾道弾は止まらない。


軍用AIがそう告げる。


湊は敵要塞の管制方式を確認した。


途中で進路修正してるんだろ。


はい。


地上管制局が、列車群の位置情報を弾道弾へ送っています。


管制局を壊せば。


終末誘導が停止。


事前入力された座標へ向かいます。


列車は動いている。


命中率は大幅に低下します。


軍用AIが即座に計算する。


最終修正前に管制局を破壊した場合。


八発すべてが、現在の列車位置から十数キロ後方へ落下する可能性が高い。


なら撃つ。


ヘカトンで管制局を。


軍用AIの声が低くなる。


列車砲は、本来の敵である我々を撃つために作られた兵器です。


今は人を逃がすために使う。


湊はハインツ少将へ通信をつないだ。


この砲の乗員は。


第九超重砲兵大隊。


最高司令部の破壊命令を受け、全員撤退したはずです。


どこへ。


近くの退避壕に、生体反応があります。


百八十六名。


撤退してないな。


通信できますか。


軍用AIが敵軍回線を開く。


数秒後。


画面へ、暗い地下壕が映った。


敵軍服の女性将校。


短く切った金髪。


煤で汚れた顔。


階級は大佐。


背後には、多数の砲兵と技術者。


女大佐は湊の姿を見て驚いた。


相良湊。


はい。


第九超重砲兵大隊の指揮官ですか。


エルザ・ヴァイス大佐。


ヘカトンの砲兵隊長だ。


なぜ残ってるんですか。


破壊命令に反対した。


我々が十年かけて扱い方を学んだ砲だ。


戦わずに壊すなど認められない。


だが最高司令部に起動権を奪われ、退避壕へ閉じ込められた。


湊が尋ねる。


ヘカトンで第五戦略砲兵要塞を撃てますか。


エルザの表情が変わった。


距離三百十二キロ。


可能だ。


だが砲の照準線を東へ向けるには、専用湾曲線路上で三十七度移動させる必要がある。


何分。


通常なら二十五分。


弾道弾の誘導更新は、十二分後。


間に合わない。


軍用AIが列車砲の周囲を調べる。


湾曲線路。


複数箇所に爆薬の破片。


一部が変形。


通常の移動速度は出せない。


湊はヘカトンの前後に連結された機関車を見る。


専用機関車、四両。


さらに脱出列車群には、予備機関車がある。


全部つなぐ。


軍用AIが叫ぶ。


二千五百トンの列車砲を、制限速度以上で動かすつもりですか!


三十七度動けばいい。


距離にすれば。


湾曲線路上を四百六十メートル。


機関車を前後から押して引く。


エルザ大佐が計算する。


専用機関車四両。


追加で六両あれば、三分以内に射撃位置へ移せる可能性がある。


停止できるか。


通常の制動では無理だ。


終端の固定装置へ衝突させることになる。


壊れる場所は。


機関車と列車砲の連結部。


砲本体は撃てるか。


一発なら。


軍用AIの表示灯が真っ赤に光る。


また一発撃てれば壊れても構わない作戦ですか!


五万人が乗ってる。


軍用AIは黙った。


反対はできない。


代案もない。


湊は第一列車群へ命じた。


予備機関車六両を切り離す。


ヘカトンへ向かわせる。


乗員は降ろす。


すべて無人運転。


軍用AIが制御権を取得。


六両の機関車が、本線を逆走して巨大列車砲へ近づく。


エルザ大佐と砲兵隊も退避壕から出た。


湊が止める。


砲へ乗る必要はありますか。


射撃前の最終確認は、現地でしかできない。


無人整備機にやらせる。


照準装置の基準点確認。


砲身冷却。


蓄電装置の出力調整。


軍用AIが支援します。


人は乗せない。


エルザが画面の湊を見る。


自分は病床にいるのに、敵の砲兵まで守るつもりか。


降伏するなら、救助対象です。


エルザは少し笑った。


まだ降伏すると言っていない。


攻撃するつもりですか。


最高司令部にならある。


なら同じ側です。


湊は当然のように答えた。


エルザは数秒間黙った後、腰の拳銃を地面へ置いた。


第九超重砲兵大隊。


全員、武装解除。


相良湊特務少佐へ降伏する。


砲兵たちが次々と武器を置く。


軍用AIが告げた。


降伏を受理。


直ちに第三列車群へ乗車してください。


エルザが列車砲を振り返る。


最後の一発くらい。


撃ちたかったがな。


湊が答える。


撃つのはお前たちです。


遠隔で。


エルザの表情が明るくなった。


砲兵隊は退避壕へ戻らず、第三列車群の空いていた指揮車両へ乗り込む。


そこからヘカトンへ接続。


軍用AIの無人制御と合わせ、射撃準備を始めた。


追加機関車六両。


到着。


ヘカトン前方へ四両。


後方へ二両。


専用機関車と合わせ、十両。


全機関車接続。


固定杭を収納。


車輪ロック解除。


軍用AIが警告する。


湾曲線路に損傷。


安全速度、時速四キロ。


湊が尋ねる。


必要速度は。


三分以内なら、時速十二キロ。


三倍です。


エルザが言う。


ヘカトンは動く要塞だ。


その程度で砲身は折れない。


軍用AIが反論する。


線路が耐えません。


折れる前に射撃位置へ着けばいい。


なぜ砲兵まで相良特務少佐と同じ思考なのですか。


湊が命じる。


動かせ。


十両の機関車が同時に出力を上げる。


二千五百トンの超重列車砲が動き始めた。


ゆっくり。


車輪が軋む。


湾曲線路へ入る。


時速三キロ。


六。


十。


十二。


変形した線路を巨大な車輪が踏む。


一部の枕木が砕ける。


レールが沈む。


軍用AIは各車輪へかかる荷重を監視する。


左側第十二車輪。


荷重限界。


前方機関車二番、牽引力を五パーセント低下。


後方機関車一番、押力上昇。


列車砲全体が湾曲線路を滑る。


射撃角度まで。


二十五度。


三十。


三十五。


停止開始。


十両の機関車が一斉に制動。


二千五百トンの質量は簡単には止まらない。


車輪から火花。


線路が削れる。


射撃角度を越える。


三十六度。


三十七。


三十八。


行きすぎます!


軍用AIが前方機関車四両を逆転出力。


後方二両も最大制動。


終端の固定装置が近づく。


距離二十メートル。


十。


衝突。


巨大な金属音。


前方機関車一両の連結器が潰れる。


ヘカトンの車体が大きく揺れた。


だが止まった。


角度。


三十七・四度。


エルザが答える。


許容範囲。


照準修正は砲身側で行う。


弾道弾の誘導更新まで。


軍用AIが表示する。


五分二十秒。


ヘカトンの二十四本の固定杭が、地面へ打ち込まれる。


だが一部は線路移動の衝撃で故障。


正常作動。


十八本。


不足六本。


撃てるか。


湊が尋ねる。


撃てる。


エルザは即答した。


ただし反動で車体が後退する。


どのくらい。


線路から外れる程度だ。


軍用AIが叫ぶ。


それを撃てるとは呼びません!


一発撃った後は使わない。


湊が答える。


砲兵隊は遠隔操作。


周囲に人はいない。


発射後に壊れても、巻き込まれる者はいない。


軍用AIが計算する。


列車砲の生存確率。


二十二パーセント。


射撃成功率。


八十一パーセント。


第五戦略砲兵要塞の管制施設破壊率。


六十八パーセント。


湊が言う。


十分だ。


エルザも頷く。


十分だ。


軍用AIの声が震える。


二人とも十分の基準がおかしいです。


それでも射撃準備を続ける。


主蓄電装置。


充電開始。


発電車六両が最大出力。


さらに連結した機関車の発電機からも電力を引き出す。


都市側の防空列車。


装甲列車。


不要な車両から、電力を送る。


複数の列車が。


一門の巨大砲へ力を集める。


充電率。


二十。


四十。


六十。


主蓄電装置の切断部分から火花。


軍用AIが出力を調整。


冷却装置最大。


整備機十二機が、砲の各所へ張り付いている。


砲身上昇。


目標。


第五戦略砲兵要塞。


距離三百十二キロ。


山体内部。


敵はヘカトンの起動を検知した。


最高司令部から停止命令。


無視。


遠隔封鎖。


軍用AIが解除。


列車砲へ自爆信号。


遮断。


敵側が発電車を過負荷にしようとする。


エルザが接続を物理切断。


ヘカトンは、建造以来初めて。


自国の戦略要塞へ砲口を向けた。


充電率八十五。


弾道弾誘導更新まで二分。


神代の戦闘機隊は、飛翔する八発を追跡している。


敵弾道弾。


高度上昇。


終末誘導開始まで、あと一分四十秒。


エルザが射撃諸元を読み上げる。


風向。


気圧。


地球自転補正。


砲身温度。


磁場。


敵要塞の位置。


軍用AIがすべてを統合。


照準誤差。


〇・〇〇三度。


命中予測点。


敵要塞中央管制区画。


充電率九十八。


主蓄電装置へ過熱警告。


相良湊。


エルザが画面越しに呼んだ。


命令を。


湊は病床から、短く答えた。


撃て。


ヘカトン。


発射。


世界が白く染まった。


轟音ではなかった。


巨大な空気そのものが引き裂かれる音。


九百ミリ超高速弾が、砲身から放たれる。


同時に。


二千五百トンの列車砲が反動で後方へ滑った。


固定杭が一本。


二本。


次々に折れる。


線路が波打つ。


後方の機関車へ、巨大な車体が衝突。


一両目が潰れる。


二両目が脱線。


ヘカトン自身も湾曲線路から外れ、右側へ傾いた。


整備機が次々と振り落とされる。


軍用AIが叫ぶ。


列車砲ヘカトン!


走行不能!


主蓄電装置停止!


砲身基部変形!


しかし弾は飛んでいる。


三百十二キロメートル。


大気を突き抜ける超高速弾。


敵戦略砲兵要塞が迎撃を試みる。


対空ミサイル発射。


近接防御砲。


防護障壁。


一つの砲弾へ、要塞全体が攻撃する。


だが速度が違う。


迎撃ミサイルが追いつく前に。


ヘカトンの砲弾は山へ突入した。


表面の装甲。


岩盤。


地下防護層。


すべてを貫通。


敵要塞中央部で停止。


遅延信管作動。


爆発。


山体が持ち上がった。


地下管制区画。


通信設備。


弾道弾誘導装置。


すべてが一瞬で消える。


軍用AIが飛翔中の八発を追跡した。


敵弾道弾。


地上からの誘導信号、消失。


終末修正停止。


目標座標。


更新されません。


三つの列車群は、高速で西へ移動を続けている。


弾道弾は、古い座標へ落下。


第一列車群がいた場所。


十二分前の線路。


第二列車群の後方。


第三列車群からも離れている。


湊が全列車へ命じる。


速度を落とすな。


八発が落ちる。


一発目。


無人の線路へ着弾。


巨大な爆発。


二発目。


山腹。


三発目。


放棄された駅。


四発。


五発。


八発目。


すべてが脱出列車群の後方へ落ちた。


線路は破壊される。


橋梁も崩れる。


だが。


三つの列車群は、すでに通過していた。


軍用AIが人数を確認する。


第一列車群。


一万六千四百名。


第二列車群。


一万五千九百名。


第三列車群。


一万九千九百二十七名。


砲兵隊百八十六名を追加。


全乗車人員。


五万二千四百十三名。


弾道弾攻撃による死亡者。


ゼロ。


列車内から歓声が上がった。


解放捕虜。


民間人。


降伏兵。


敵の砲兵。


誰も彼もが、窓の外を見ている。


遠くで上がる巨大な炎。


自分たちがいた場所へ落ちた弾道弾。


間に合わなければ。


数千人では済まなかった。


エルザは指揮車両の画面へ映るヘカトンを見た。


巨大な車体は傾いている。


固定杭は折れ。


線路も壊れた。


前方機関車二両大破。


後方機関車一両も潰れている。


十年扱ってきた砲。


自国の要塞を撃ち。


五万人を守った。


ヘカトンの状態は。


エルザが尋ねる。


軍用AIが損傷を報告する。


走行不能。


砲身基部変形。


主蓄電装置損傷。


固定杭二十四本中、十九本破損。


台車三基脱線。


継続射撃不能。


全損か。


エルザの声が少しだけ沈む。


軍用AIは精密検査を続けた。


修復費用は高額。


現地での走行復旧には時間が必要。


だが。


列車砲の主要構造。


砲身。


制御中枢。


発電車。


完全には失われていない。


全損判定ではありません。


大規模修理が必要ですが、復旧可能です。


エルザが顔を上げる。


直せるのか。


はい。


時間と設備があれば。


湊が言う。


後で取りに戻ろう。


軍用AIが即座に反応した。


今すぐ戻るとは言わないのですね。


五万人を先に国境へ送る。


ヘカトンの場所を記録。


周辺の敵は。


第五戦略砲兵要塞が破壊されたことで、撤退を開始。


列車砲へ接近する部隊なし。


破壊命令が来る可能性は。


高いです。


隠せないか。


エルザが周辺地形を見る。


ヘカトンの後方に、整備用山岳トンネルがある。


走行不能ですが、残った機関車で引けば。


傾いた台車を戻せば、低速移動は可能かもしれない。


砲兵隊は列車に乗っている。


無人整備機が十二機いる。


さらに、潰れていない機関車七両。


湊が軍用AIを見る。


できるか。


現在の状態で八百メートル移動。


成功率四十八パーセント。


失敗したら。


線路上に停止。


成功すれば。


山岳トンネル内へ隠蔽可能。


やれ。


軍用AIが整備機へ命令を出した。


脱線した台車を油圧装置で持ち上げる。


応急用の補助輪を装着。


折れた固定杭を切断。


機関車七両が連結。


ゆっくりと引く。


ヘカトンの巨大な車体が動いた。


時速一キロにも満たない。


軋み。


火花を散らしながら。


それでも進む。


百メートル。


三百。


五百。


山岳トンネルが近づく。


入口の幅。


ぎりぎり。


傾いた砲身が天井へ触れそうになる。


軍用AIが車体姿勢を調整。


左側へ〇・二度。


補助輪が潰れる。


整備機二機が支える。


列車砲は、ゆっくりトンネル内部へ入った。


全長百二十メートル。


最後尾まで収納。


軍用AIがトンネル入口の偽装扉を閉じる。


外からは、ただの山肌に見える。


ヘカトン。


隠蔽完了。


湊が言う。


これで後から回収できる。


軍用AIは否定しなかった。


エルザ大佐が画面越しに湊へ敬礼する。


ヘカトンを捨てずにいてくれたこと。


感謝する。


助けてもらったのはこっちです。


あの砲がなければ、全員死んでた。


エルザは敬礼を下ろさない。


ならば。


あの砲も、我々も。


今日から第一特別救難補給隊へ貸し出そう。


正式に譲渡してください。


軍用AIが訂正する。


後で所有権問題が発生します。


湊が笑う。


やっぱり似てきたな。


違います。


軍用AIの表示灯が赤く点滅した。


これは正式な手続きのためです。


拾ってるのは同じだろ。


敵国の戦略兵器を拾得物として扱わないでください。


脱出列車群は西へ走り続けた。


線路沿いの敵基地。


町。


駅。


どこも攻撃してこない。


相良湊が関与する救難作戦を確認した場合。


直ちに撤退せよ。


その命令が、敵部隊を遠ざけている。


国境まで。


残り四百八十キロ。


予定到着。


七時間後。


軍用AIは前方の状況を確認する。


次の都市。


人口十八万。


敵軍の補給中枢。


列車群が接近していることを知り、守備隊はすでに武装解除を開始していた。


さらに。


都市司令官から通信が届く。


第七収容都市の者たちと同様に。


民間人と兵士の安全を保証してほしい。


都市全体で降伏する。


避難を希望する人数。


二十一万六千名。


軍用AIの処理が完全に停止した。


現在の列車へ、あと何人乗れる。


湊が尋ねる。


乗せるつもりですか。


困ってるんだろ。


すでに五万人以上です!


列車はあるか。


次の都市には旅客車両、貨物車両、軍用列車。


合計で千両以上あります。


なら大丈夫だな。


軍用AIの絶叫が、敵国を横断する三つの列車群へ響き渡った。


救助する人数を、一度に二十万人も増やさないでくださいいいいいいいいい!


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