表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの補給兵だった息子の葬儀に、陸海空すべての英雄が集まった ~戦死したはずの息子は、今も敵地で仲間を逃がし続けている~  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/37

第19話 敵軍の都市が、入院中の俺に降伏してきた



なぜ救難信号だけは絶対に聞き逃さないのですかあああああああ!


消灯された軍病院の病室へ、軍用AIの絶叫が響き渡った。


相良湊は病床へ固定されたまま、ゆっくり目を開ける。


発信地点は敵国領内。


敵軍第七収容都市。


民間人四万人。


捕虜三千人。


合計四万三千人。


そして救難要請の最後には、はっきりと記されていた。


相良湊を呼んでほしい。


湊が枕元のAI中枢を見る。


俺を呼んでるのか。


同姓同名の別人です。


階級まで書いてある。


偶然です。


相良湊特務少佐。


第一特別救難補給隊隊長。


敵軍識別名称、帰還者。


ここまで一致する相良湊が何人いる。


軍用AIは答えなかった。


病室の扉が開く。


第一級救難信号を受け、神代玲華、白波凪沙、久遠沙耶が戻ってきた。


三人とも休むため自室へ向かったばかりだった。


だが、敵国領内から四万三千人規模の救難要請が来たと聞き、数分で病室へ集合した。


神代が大型画面を見る。


発信者は。


敵軍第七収容都市の防衛司令官。


階級は少将。


敵の将官が、相良特務少佐を名指ししたのですか。


白波が通信記録を確認する。


暗号認証は正規の敵軍用回線。


偽装の可能性は低いですね。


久遠は都市の配置図を開いた。


第七収容都市。


戦争前は工業都市。


現在は敵軍が占領地域から連行した民間人と捕虜を集める収容拠点です。


守備兵力は。


敵軍二個旅団。


約九千名。


装甲車両五百両以上。


防空部隊。


鉄道警備隊。


都市外周には地雷原。


湊が尋ねる。


戦闘の意思なしと書いてある。


軍用AIが答える。


現地司令官は、全守備隊へ停戦命令を出したと主張しています。


捕虜三千名を解放。


民間人四万人も市内中心部へ集めています。


なぜ急に。


敵軍最高司令部から、都市破棄命令が届いたためです。


大型画面へ、新しい命令書が表示された。


第七収容都市。


収容継続困難。


撤退時、軍事施設、鉄道、発電所、浄水施設を完全破壊。


捕虜および収容民間人の移送は行わない。


敵に利用される可能性のある物資は焼却。


都市司令官は、その命令へ従わなかった。


民間人四万人。


捕虜三千人。


彼らを残して都市機能を壊せば、多くが死ぬ。


守備隊九千名も、撤退用車両と燃料を破壊すれば帰れなくなる。


現地司令官は、最高司令部の命令を拒否。


全守備隊へ武装停止を命じた。


そして、敵軍の中で唯一。


敵兵が武器を捨てた後は攻撃せず。


捕虜も民間人も必ず連れて帰ると知られている人物へ、通信を送った。


相良湊。


湊は少し考えた。


救助すればいいんだな。


軍用AIが強く答える。


行きません。


まだ何も言ってない。


敵国領内です。


直線距離六百二十キロメートル。


敵軍支配地域を越える必要があります。


あなたは入院中。


病床から動けません。


遠隔なら。


通信だけで四万三千人を救助するつもりですか。


前にもできた。


規模が違います!


黒崎宗一郎海将も通信で会議へ加わった。


相良。


敵国領内からの要請だ。


罠の可能性もある。


でも捕虜三千人の生体情報は確認できるんでしょう。


軍用AIが答える。


一部。


収容者名簿。


監視映像。


医療記録。


複数の情報が一致しています。


少なくとも、多数の民間人と捕虜が存在することは事実です。


黒崎が続ける。


問題は救助方法だ。


四万三千人を一度に運べる輸送手段は、こちらにない。


航空機だけでは何百往復も必要。


地上車列を向かわせれば、敵国領内を六百キロ走ることになる。


海路も使えない。


第七収容都市は内陸部。


周辺の鉄道は。


白波が調べる。


都市中央駅から西方国境へ続く幹線鉄道。


複線。


貨物用と旅客用。


敵軍の主要補給線です。


湊の目が止まった。


列車は残ってるか。


軍用AIが都市の車両一覧へ接続する。


旅客列車十二編成。


貨物列車二十一編成。


装甲列車三編成。


機関車五十八両。


客車百七十六両。


貨車四百両以上。


燃料は。


都市内鉄道基地へ十分な備蓄。


四万三千人を運べるか。


複数編成へ分乗すれば可能です。


ただし。


軍用AIの声が重くなる。


都市から西方国境まで、鉄道距離七百四十キロ。


途中に敵軍基地十二。


鉄道橋十九。


トンネル八。


最高司令部が反乱を把握すれば、線路を破壊します。


それより前に出る。


現地の列車を借りる。


軍用AIが叫ぶ。


都市一つ分の鉄道車両を少し借りる感覚で言わないでください!


今回は現地司令官が貸してくれる。


まだ許可を得ていません。


通信をつないでくれ。


黒崎が止める。


待て。


まず統合参謀本部の承認が必要だ。


敵国領内へ部隊を入れるなら、戦略作戦になる。


湊が答える。


承認を待つ間に、敵が都市を攻撃するかもしれない。


すでに動いています。


軍用AIが敵軍通信を解析した。


敵最高司令部。


第七収容都市守備隊を反乱軍と認定。


近隣の第十八機甲軍団へ鎮圧命令。


航空部隊にも攻撃準備。


到着予測。


地上部隊、三時間二十二分。


航空攻撃、最短一時間十四分。


黒崎の表情が変わった。


一時間では、こちらの部隊は間に合わない。


湊が言う。


だから現地の装備を使う。


列車。


防空部隊。


装甲車。


全部まだあるんだろ。


軍用AIは答えた。


あります。


敵軍は撤退命令を出しましたが、現地司令官が破壊作業を停止しています。


現地の九千人に、四万三千人を守ってもらう。


列車へ乗せる。


敵の攻撃を防ぎながら西へ走る。


神代が地図を見る。


航空支援が届くまで、最短二時間。


それまでは現地防空部隊だけで耐える必要があります。


白波は鉄道網を確認する。


国境へ到達しても、線路規格が違います。


こちら側の鉄道へ直接は乗り入れできません。


久遠が答える。


国境駅で乗り換え。


しかし四万三千人の乗り換えには時間がかかります。


国境の手前に大規模貨物操車場があります。


湊が指した。


そこへこちらの列車を向かわせる。


敵側から来た列車と並べる。


人を移す。


貨物は。


置いていく。


現地の車両は。


軍用AIが先に警告する。


持ち帰りません。


線路規格が違うんだろ。


なら国境側で使う。


接収した地域の復旧に使える。


持ち帰る気ですね!


捨てるよりいい。


黒崎は病室の湊を見る。


計画としては成立する可能性がある。


だが現地司令官が本当に従う保証はない。


通信をつないでください。


直接話す。


軍用AIが敵軍回線へ接続した。


暗号認証。


複数の中継点を経由。


大型画面が切り替わる。


敵軍の司令室。


疲れ切った男が映った。


五十代。


少将の階級章。


周囲には参謀と通信兵。


壁の画面には、都市中心部へ集まる民間人たち。


敵司令官は湊の姿を見る。


病床。


患者服。


固定帯。


数秒間、言葉を失った。


あなたが。


相良湊特務少佐。


はい。


敵司令官の目が固定帯へ向く。


負傷しているのか。


入院中です。


その状態で、我々の通信へ応じたのか。


呼ばれたので。


軍用AIが割り込む。


本来は睡眠中でした。


救難信号を感知して起きました。


敵司令室が静まり返る。


敵司令官は姿勢を正した。


私は、第七収容都市防衛司令官。


アルベルト・ハインツ少将。


最高司令部の都市破棄命令を拒否した。


現在、守備隊九千百二十二名は私の指揮下にある。


戦闘の意思はない。


捕虜三千二百四十四名。


収容民間人三万九千八百六十一名。


全員を解放する。


合計四万三千百五名。


軍用AIが人数を修正した。


先ほどの概算より百五名増加。


湊が尋ねる。


怪我人は。


重傷者四百八十六名。


歩行困難者二千人以上。


食料は。


三日分。


水は。


浄水施設が稼働中。


敵が来るまで。


航空攻撃まで、おそらく一時間。


ハインツ少将は湊を見つめた。


我々は降伏する。


だが最高司令部は、捕虜になる前に都市ごと消すつもりだ。


こちらの防空部隊だけでは、長く耐えられない。


なぜ俺を。


敵司令官は迷わず答えた。


あなたは、武器を捨てた敵を撃たない。


だが攻撃を続ける者は確実に倒す。


そして一度救助対象と決めれば、敵地でも全員を連れて帰る。


こちらでも、そう知られている。


湊は数秒黙った。


それから言った。


分かりました。


全員連れて帰ります。


病室。


敵司令室。


統合参謀本部。


通信を聞いていたすべての人間が、息を止めた。


ハインツ少将が問い返す。


四万三千人だ。


分かってます。


守備隊九千人も含めれば、五万二千人を超える。


武器を捨てて降伏するなら、その人たちも置いていかない。


敵司令官の表情が揺れた。


我々まで。


攻撃しないなら、もう敵じゃない。


軍用AIが補足する。


ただし、全武装の解除。


兵器管制権限の引き渡し。


捕虜および民間人への安全保証。


すべての軍事情報提供が条件です。


ハインツ少将は即答した。


受け入れる。


都市内全兵器の管制権を移譲する。


戦車。


装甲車。


防空ミサイル。


装甲列車。


航空機。


すべてだ。


湊の目が少し明るくなる。


全部使っていいんですか。


軍用AIが絶叫した。


そこで喜ばないでください!


ハインツ少将は初めて、わずかに笑った。


好きに使ってくれ。


どうせ最高司令部からは、すべて破壊しろと言われている。


なら壊す前に借ります。


正式に譲渡します。


敵軍の都市司令官が。


兵器も車両も鉄道も。


都市内の全装備を相良湊へ渡した。


軍用AIの表示灯が、激しく赤く点滅する。


敵軍の命令。


相良湊へ装備を渡すな。


現地司令官の決定。


全装備を渡す。


完全に逆です。


湊が答える。


助かる。


助かるのはあなたではなく、私以外の全員です!


時間がない。


湊は作戦を始めた。


まず民間人と捕虜を列車へ。


重傷者は医療列車。


歩けない人を先に。


守備隊は最後。


ハインツ少将が部下へ命令する。


中央駅。


東貨物駅。


南操車場。


三か所へ分散。


軍用AIが全列車を統合管制する。


旅客列車十二編成。


貨物列車の貨車を臨時客車へ改造。


床へ毛布。


手すり。


簡易便所。


水。


食料。


必要な物資を積む。


軍用AIが都市内の放送設備へ接続した。


第七収容都市の全住民へ。


これより西方国境へ避難します。


荷物は最小限。


子供、高齢者、負傷者を優先。


指定された駅へ移動してください。


武装した者は、すべての武器を集積所へ置いてください。


抵抗しない者への攻撃は行いません。


市内の人々が動き始める。


収容施設の門が開く。


捕虜たちが外へ出る。


何年も閉じ込められていた者。


家族を失った者。


歩けない仲間を背負う者。


敵兵たちは武器を地面へ置き、彼らへ道を開けた。


不安そうな視線。


怒り。


恐怖。


だが衝突は起きない。


ハインツ少将が全守備隊へ告げた。


我々は降伏する。


捕虜と民間人の避難を支援。


命令へ違反する者は拘束する。


相良湊特務少佐の指示に従え。


都市中の敵兵が、一人の入院患者の指揮下へ入った。


軍用AIが防空システムへ接続する。


長距離対空ミサイル十二基。


中距離防空車両三十八両。


近接防御砲六十四基。


戦闘機十八機。


迎撃ドローン百二十機。


かなりあるな。


湊が言う。


軍用AIは警告する。


これは敵国の主要収容都市です。


防空戦力は大規模。


ですが敵最高司令部が識別コードを無効化すれば、同士討ち防止機能も解除されます。


相手も知ってる防空網だ。


攻撃方法も分かってる。


配置を変える。


軍用AIが聞き返す。


固定式の対空ミサイルもあります。


無人牽引車で動かす。


建物の間へ隠す。


使用していない列車へ乗せて、射撃位置を変え続ける。


軍用AIの処理が止まる。


対空ミサイルを貨物列車へ搭載するつもりですか。


線路が都市全体へある。


固定されてるより狙われにくい。


ハインツ少将が部下へ確認する。


可能か。


敵防空部隊の指揮官が答えた。


ミサイル発射機を貨車へ固定すれば。


電源車も必要です。


発電機を積む。


湊が即答する。


レーダーは別の貨車。


発射したら列車ごと移動。


軍用AIが計算する。


移動式鉄道防空隊。


準備時間三十二分。


敵航空攻撃まで四十九分。


可能です。


やれ。


敵軍の貨物駅で、前例のない改造が始まった。


大型クレーンが対空ミサイル発射機を持ち上げる。


貨車へ載せる。


固定具を溶接。


発電車両を連結。


レーダー車。


通信車。


弾薬車。


一編成の移動式防空列車が完成していく。


二編成。


三編成。


装甲列車は。


湊が尋ねる。


三編成。


主砲、対空砲、兵員輸送車両。


全部使用可能です。


避難列車の前後へつける。


先頭一編成。


中央一編成。


最後尾一編成。


敵地を七百キロ走る。


道中の地上部隊を排除する必要がある。


軍用AIが答える。


守備隊の戦車と装甲車も、並行道路を走らせます。


ただし燃料が足りません。


どれくらい。


全車両を動かせば、国境までの半分。


必要な車両だけ選ぶ。


残りは列車へ載せる。


戦車輸送用貨車を使用。


機関車が引けば燃料を使わない。


敵司令官が感心したように画面を見る。


我々は撤退時、戦車を自走させることしか考えていなかった。


補給兵なので。


湊は当然のように答えた。


運ばなくていい物まで動かすと、燃料が減る。


軍用AIが小さく呟く。


兵器の使い方は非常識ですが、補給計算だけは正確です。


だけは余計だ。


列車の編成が組まれていく。


先頭。


装甲列車一号。


線路点検用無人車両。


地雷除去貨車。


その後ろへ、旅客列車。


医療列車。


貨物改造客車。


途中に防空列車。


後方へ戦車輸送貨車。


最後尾に装甲列車三号。


全体を一列にすれば長すぎる。


軍用AIは三つの列車群へ分けた。


第一列車群。


民間人と重傷者。


第二列車群。


捕虜と歩行可能な民間人。


第三列車群。


降伏守備隊と軍用装備。


各列車群の間隔は十五分。


同時に攻撃されないよう分散。


だが離れすぎれば守れない。


神代が空軍の支援計画を送る。


こちらの戦闘機隊は、二時間後に合流。


空中給油を受けながら国境まで護衛します。


白波は長距離ミサイル艦隊を国境側へ移動。


射程内へ入った敵航空基地を牽制します。


久遠は国境付近へ機甲部隊を集結。


敵列車群が到着した瞬間、守備隊を武装解除し、避難民を受け入れる。


黒崎が統合参謀本部の最終承認を伝えた。


第一特別救難補給隊。


第七収容都市集団脱出作戦。


承認。


ただし相良湊特務少佐は病室から動かない。


湊が答える。


分かってます。


虚偽検出なし。


軍用AIは少し驚いた。


本当に行くつもりがない。


四万三千人を動かすには、全体を見たほうがいい。


現場にいたら一か所しか見えない。


軍用AIの表示灯が青くなった。


初めて隊長らしい判断をしました。


今まで隊長じゃなかったからな。


現在も入院患者です。


敵航空攻撃まで三十一分。


都市中央駅。


最初の列車へ、重傷者が運び込まれる。


医療車両。


担架。


酸素。


薬品。


敵軍衛生兵と解放された捕虜の医師が、同じ車両で治療を始める。


民間人も次々と乗車。


客車だけでは足りない。


貨車の床へ毛布。


側面へ転落防止柵。


大型コンテナも、扉を開放して臨時車両へ。


軍用AIが人数を数える。


第一列車群。


乗車完了。


一万六千四百人。


第二列車群。


一万五千九百人。


第三列車群。


民間人、捕虜、降伏兵。


合計二万名以上。


全体。


五万二千二百二十七名。


湊が確認する。


都市内に残ってる人は。


捜索中。


地下施設。


病院。


収容所。


工場。


一人ずつ確認。


最後まで残った敵兵が、建物を回る。


閉じ込められた者。


動けない者。


子供。


高齢者。


軍用AIが都市監視網から生体反応を探す。


北収容区。


地下独房に三名。


扉が開かない。


無人作業車を送る。


東病院。


手術中の患者六名。


医療列車発車を遅らせる。


南工業区。


避難を拒否する住民十二名。


理由は。


家畜を置いていけない。


貨物車へ家畜も乗せる。


軍用AIが言葉を失う。


大型家畜二百三十頭。


小型家畜六百以上。


貨車はあるだろ。


あります。


なら乗せる。


五万人規模の脱出列車へ、家畜用貨車まで追加された。


ハインツ少将が画面の向こうで笑う。


本当に最後の一人まで連れていくのだな。


人じゃないのも増えました。


軍用AIが答える。


湊は都市の地図を見る。


置いていったら、飼ってる人が戻ろうとする。


一緒に連れていけばいい。


軍用AIは反論しなかった。


敵航空攻撃まで十二分。


最後の生存者。


地下独房三名を救出。


病院の手術終了。


患者移送。


家畜貨車連結。


全市民、捕虜、降伏兵の乗車を確認。


ハインツ少将が司令室へ残っている。


湊が尋ねる。


乗らないんですか。


最後に都市の軍事設備を停止する。


機密資料も渡す。


その後、最後尾列車へ乗る。


一人で残るな。


参謀を五人残しています。


六人ならいいという意味ではありません。


軍用AIが言う。


敵航空攻撃まで九分。


軍用AIが警告する。


第一列車群。


今すぐ発車してください。


まだ全列車が準備できていません。


第一列車だけ先に出す。


重傷者が多い。


攻撃前に都市から離す。


ハインツ少将が命令する。


第一列車群。


発車。


巨大な列車群が動き始めた。


装甲列車を先頭に。


医療列車。


旅客列車。


貨物改造客車。


家畜貨車。


防空列車。


全長数キロメートル。


一万六千人以上を乗せた鉄道の都市が、西へ向かって走り出す。


十五分後に第二列車群。


さらに十五分後、第三列車群。


予定だった。


だが敵航空攻撃は、予定より早く来た。


軍用AIが上空を監視する。


敵戦略爆撃機十二機。


護衛戦闘機二十四機。


長距離巡航ミサイル。


発射数四十八。


都市および鉄道駅へ接近。


到達まで六分。


第二列車群は。


乗車完了。


機関車起動中。


今すぐ出せ。


第三列車群は。


軍用装備の積載が未完了。


捨てる。


湊は迷わず言った。


人だけ乗せる。


装備は後。


軍用AIが積載作業を停止。


戦車。


装甲車。


弾薬。


まだ貨車へ載せていない物は、その場へ置く。


敵の命令では破壊対象。


だが今は装備より人が先。


第三列車群。


降伏兵九千人のうち、二千名がまだ乗車していない。


貨物駅周辺。


走らせろ。


列車を低速で動かしながら乗せる。


危険です。


止まって攻撃を受けるよりいい。


軍用AIが駅構内の速度を時速五キロへ制限。


貨車の側面扉を開く。


敵兵たちが武器を捨てたまま走る。


一人ずつ列車へ飛び乗る。


仲間が手を伸ばす。


引き上げる。


ハインツ少将と参謀たちも司令室を出た。


装甲車で最後尾列車へ向かう。


巡航ミサイル到達まで三分。


移動防空列車。


射撃位置へ。


貨車へ載せられた対空ミサイル発射機が、線路上を走る。


第一防空列車。


中央駅北側。


第二防空列車。


南操車場。


第三防空列車。


西貨物線。


レーダー車両が巡航ミサイルを捕捉。


軍用AIが全防空兵器を統合する。


敵側の識別信号は無効。


すべて手動で敵味方を判定。


迎撃優先順位。


第一。


医療列車へ向かうミサイル。


第二。


駅。


第三。


発電所と浄水施設。


発射。


貨物列車から、対空ミサイルが次々と空へ上がった。


十二発。


二十四発。


三十六発。


敵巡航ミサイルへ向かう。


空中で爆発。


一発。


二発。


十発。


二十発。


軍用AIが迎撃を続ける。


残存巡航ミサイル二十一。


近接防御砲起動。


都市屋上。


駅周辺。


装甲列車。


無数の砲弾が空へ伸びる。


残り十五。


十。


七。


一発が第一列車群へ向かう。


すでに都市から十二キロ離れている。


防空列車の射程外へ近い。


神代の戦闘機隊は、まだ到着していない。


湊が列車の装備を見る。


先頭の装甲列車に大型砲がある。


対地砲です。


近接信管付きの弾は。


一部あります。


前にやったな。


装甲列車砲で空中目標を撃つ。


軍用AIが叫ぶ。


戦略級兵器を迎撃した前例を通常運用にしないでください!


撃てるか。


列車は走行中。


砲身仰角不足。


線路の先に勾配がある。


三キロ先。


上り勾配二・八パーセント。


そこまで巡航ミサイルは待ちません。


装甲列車の後部を下げる。


何で。


軍用AIは聞きながら、列車編成を確認した。


後部に低床貨車。


その上に大型工兵車。


工兵車を前へ移動。


装甲列車の後部貨車へ乗り上げる。


重量で後ろを沈ませ、砲身角度を上げる。


走行中の列車で重量移動を行うつもりですか。


ほかにない。


軍用AIは工兵車を遠隔操作。


低床貨車から連結渡板を展開。


重装甲工兵車が、走る列車の上をゆっくり前進する。


一両。


二両。


装甲列車後部へ乗り上げる。


車体が沈む。


砲身仰角。


三度上昇。


巡航ミサイルまで十秒。


神代から送られる長距離観測情報。


白波の艦隊レーダー。


都市防空網。


軍用AIが射撃を計算する。


命中率四十三パーセント。


湊が言う。


十分だ。


装甲列車主砲。


発射。


走行中の列車が大きく揺れた。


砲弾が空へ上がる。


巡航ミサイルの前方で炸裂。


無数の破片。


ミサイルの翼が切断される。


予定軌道から外れ、無人の荒野へ落下した。


第一列車群。


被害なし。


残る巡航ミサイル六。


四発は都市軍事施設。


二発は第三列車群。


近接防御砲が一発撃墜。


最後の一発が南操車場へ落ちる。


そこには、まだハインツ少将の装甲車。


第三列車群の最後尾まで三百メートル。


湊が叫ぶ。


ハインツ少将。


車を捨てて列車へ。


敵司令官が装甲車の扉を開ける。


参謀たちが走る。


最後尾貨車から手が伸びる。


一人。


二人。


ハインツ少将が最後。


貨車へ飛びつく。


味方だった敵兵たちが腕を掴む。


引き上げる。


装甲車は無人のまま線路脇を走り続ける。


巡航ミサイルが落下。


直撃。


装甲車が炎に包まれる。


爆風が最後尾列車を揺らす。


窓が割れる。


外板へ破片。


だが脱線はしない。


ハインツ少将は貨車の床へ倒れたまま、通信端末を拾った。


乗った。


湊が息を吐く。


よかった。


軍用AIが全列車を確認する。


第一列車群。


走行中。


第二列車群。


都市西端を通過。


第三列車群。


全乗員収容。


都市から離脱。


第七収容都市。


残存生体反応。


ゼロ。


五万二千二百二十七名。


全員、列車へ乗車。


都市の上空では、敵爆撃機が新たな爆弾投下へ入ろうとしていた。


だが。


神代玲華率いる統合空軍戦闘機隊が、東の空へ現れる。


相良特務少佐。


航空支援、到着しました。


遅れて申し訳ありません。


十分早いです。


敵爆撃機を止めてください。


了解。


神代の戦闘機隊が加速する。


敵護衛戦闘機と正面から交戦。


第一射。


長距離空対空ミサイル。


敵戦闘機が回避。


神代機は速度を落とさない。


爆撃機へ向かう。


敵から通信。


作戦を中止する。


退避する。


爆撃機が爆弾倉を閉じ、旋回を始めた。


敵軍最高司令部の新命令。


相良湊が関与した救難作戦を確認した場合。


直ちに撤退せよ。


敵航空部隊は、その命令へ従った。


神代が追撃の可否を尋ねる。


湊は答えた。


退くなら追わなくていい。


列車の護衛へ。


了解。


統合空軍の戦闘機が、三つの列車群上空へ展開する。


西へ。


国境へ。


五万人を超える人々を乗せた、史上最大規模の脱出列車が走る。


軍用AIが全編成を監視する。


線路前方。


次の敵基地まで四十二キロ。


敵部隊の動きは。


基地から車両が撤退中。


線路上の障害物を除去しています。


攻撃意思なし。


敵兵が自分たちで道を開けている。


相良湊が来る前に撤退するため。


そして装備を残せば使われると恐れ、持てる物はすべて運び出していた。


だが一つだけ。


あまりに重く。


撤去できない兵器が残っていた。


大型列車砲。


山岳要塞攻撃用。


全長百二十メートル。


重量二千五百トン。


敵兵は破壊用爆薬を設置していた。


湊が前方偵察映像を見る。


大きいな。


軍用AIが画面を閉じようとする。


見ないでください。


線路の横にある。


見ないでください。


まだ爆発してない。


見ないでください!


使えるか。


軍用AIの絶叫が、三つの脱出列車群と軍病院へ同時に響き渡った。


五万人を逃がしている途中で、敵の巨大列車砲まで拾おうとしないでくださいいいいいいいいい!


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


続きが気になる、面白かったと思っていただけましたら、ページ下部からブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです。


皆さまの応援が、今後の更新の大きな励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ