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ただの補給兵だった息子の葬儀に、陸海空すべての英雄が集まった ~戦死したはずの息子は、今も敵地で仲間を逃がし続けている~  作者: てへろっぱ


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16/36

第16話 入院患者一人へ戦略級兵器を使わないでください



相良湊が現れた戦域では、包囲作戦は必ず失敗する。


発見した場合。


通常戦力で交戦してはならない。


直ちに戦略級兵器の使用許可を申請せよ。


その命令が敵軍全体へ送信されてから、わずか七分後。


敵軍最高司令部の地下作戦室で、最初の使用申請が提出された。


申請者は、西方方面軍司令官。


目標は一人。


相良湊特務少佐。


敵軍参謀の一人が、表示された資料を見て眉をひそめる。


目標周辺には、民間人が千名以上いる。


第五避難輸送列車の乗客です。


現在は旧貨物駅付近で降車中。


戦略級兵器を使用すれば、巻き込まれる可能性があります。


西方方面軍司令官は表情を変えなかった。


相良湊を放置した場合、今後失われる戦力のほうが多い。


すでに航空機六機。


巡洋艦一隻。


駆逐艦二隻。


潜水艦二隻。


装甲列車一編成。


機甲部隊多数。


一人の補給兵によって失われている。


現在は特務少佐です。


階級の問題ではない。


西方方面軍司令官は大型画面を指した。


映っているのは、破壊された長大橋梁。


脱線した敵装甲列車。


そして、千四百十七名を救出した第一特別救難補給隊の移動指揮車。


相良湊は、あの車両に乗っている。


戦略級成層圏投射兵器。


天杭の使用を申請する。


地下作戦室が静まり返った。


天杭。


高度四万メートルを飛行する無人投射母機から、超高速の大型徹甲弾を落下させる兵器。


弾頭に爆薬はない。


百二十トンの高密度金属弾体そのものが、音速の十倍を超える速度で地上へ激突する。


地下司令部。


山岳要塞。


大型艦隊の停泊地。


そのような戦略目標を破壊するために開発された。


通常なら、一人を狙って使う兵器ではない。


敵参謀が確認する。


投射弾は二本。


一発目を旧貨物駅。


二発目を移動指揮車へ。


相良湊が車両から離れた場合は。


広域監視衛星で追尾。


進路修正を行います。


敵参謀は再び民間人の情報を見る。


第五避難輸送列車の乗客。


千四百十七名。


救助された直後。


まだ多くが貨物駅周辺に残っている。


使用すれば、相良湊だけでは済まない。


だが西方方面軍司令官は、許可書へ認証を行った。


天杭を起動。


帰還者を排除せよ。



第一特別救難補給隊の移動指揮車。


相良湊は、隊長席へ固定されたまま眠っていた。


大型画面には、救助後の状況が表示されている。


第五避難輸送列車から降りた民間人たち。


医療班による負傷者の搬送。


降伏した敵装甲列車の兵士たち。


脱線現場で続けられる武装解除。


すべて順調だった。


軍用AIは移動指揮車を病院へ向かわせながら、湊の生体情報を監視している。


心拍数。


呼吸。


体温。


左肩の傷。


肋骨。


右脚。


ようやく眠った。


今度こそ病院へ戻せる。


そう考えていたとき。


回収された敵装甲列車の通信端末が、新しい暗号通信を受信した。


敵軍内部の最優先通信。


軍用AIは即座に解析を開始する。


暗号を解除。


命令書を表示。


戦略級成層圏投射兵器。


天杭。


目標。


旧貨物駅。


第一特別救難補給隊移動指揮車。


着弾まで。


二十二分四十一秒。


軍用AIの表示灯が赤く変わった。


相良湊特務少佐。


起きてください。


湊は眠ったまま答えない。


起きてください。


肩を揺らすことはできない。


移動端末は指揮車の床に固定されている。


軍用AIは隊長席を振動させた。


湊が目を開ける。


揺れてるぞ。


緊急事態です。


敵が戦略級兵器を使用しました。


どこに。


ここです。


軍用AIが命令書を画面へ表示した。


湊が目を細める。


標的は二つ。


移動指揮車。


それと、旧貨物駅。


貨物駅には。


第五避難輸送列車の乗客のうち、まだ千百九十二名が残っています。


移送完了まで、最短三十四分。


着弾は。


二十二分後。


間に合わないな。


軍用AIは即座に各部隊へ警報を送った。


第一級戦略攻撃警報。


全航空部隊は緊急発進。


旧貨物駅周辺の人員は、直ちに分散退避。


移動指揮車は無人地帯へ進路変更。


神代玲華から通信が入る。


天杭を探知しました。


高度三万八千。


投射母機は敵領空内。


こちらの戦闘機では到達前に迎撃されます。


投射弾が落下した後なら。


速度が速すぎます。


通常の対空ミサイルでは追いつきません。


白波凪沙も海軍の観測情報を送る。


第一主力艦隊の長距離レーダーで追跡します。


しかし現在位置からでは、迎撃兵器の射程外です。


久遠沙耶が旧貨物駅から報告する。


避難誘導を開始。


ただし負傷者と高齢者が多い。


二十分以内に爆心圏から全員を出すのは不可能です。


湊は天杭の構造を見る。


百二十トンの金属弾。


二本。


成層圏から落下。


途中で小型推進器を使い、標的を追尾する。


移動指揮車が逃げても、二本目は追ってくる。


軍用AI。


なんですか。


俺が車から降りて、一人で反対方向へ行けば。


弾体は生体情報ではなく、移動指揮車の通信および熱源を追尾しています。


降りても意味はありません。


車の通信装置だけ外す。


敵監視衛星が光学追尾へ切り替えます。


では指揮車を無人で走らせる。


あなたは降りません。


でも。


一発目は貨物駅です。


二発目だけ回避しても千名以上が死亡します。


軍用AIは冷静に告げた。


必要なのは退避ではありません。


迎撃です。


迎撃できる物は。


現在地周辺に、天杭を破壊できる対空兵器はありません。


湊は周辺装備の一覧を開いた。


第一特別救難補給隊の航空機。


工兵車。


無人補給車。


仮設橋梁。


敵装甲列車。


視線が止まる。


敵装甲列車には大砲が残ってるな。


軍用AIの表示灯が強く点滅した。


敵装甲列車は脱線しています。


大型砲撃車両は三両。


一両目は対戦車誘導弾で損傷。


残る二両は比較的無事。


撃てるか。


射撃装置は使用可能。


でも対地砲です。


砲身最大仰角は十二度。


成層圏の目標へ届きません。


車両ごと傾ける。


軍用AIが数秒間止まった。


湊は脱線現場の地形を見る。


敵装甲列車が誘導された保守用引込線。


終端は岩壁。


線路脇には高低差のある盛土。


工兵車が積んできた高密度金属ブロック。


大型クレーン。


仮設橋梁部材。


使える物は揃っている。


砲撃車両を線路から外す。


高密度ブロックで台を作る。


前を上げて、砲身を空へ向ける。


軍用AIが叫ぶ。


列車砲を対空砲へ改造しないでください!


ほかに撃てる物がない。


砲撃車両の主砲は電磁加速式です。


理論上、弾体は成層圏へ到達します。


ですが射撃姿勢を変更すれば、反動を受ける車体構造が耐えません。


一発で壊れるか。


高確率で。


なら二両ある。


二本撃ち落とせるな。


その計算方法をやめてください!


久遠が通信越しに作戦を聞いていた。


砲撃車両を傾けるためには、最低でも大型工兵車二両とクレーン四基が必要です。


準備時間は。


全力で行えば十四分。


着弾まで二十分快。


間に合う。


神代が言う。


目標追尾は私たちが行います。


成層圏近くまで戦闘機を上げ、投射弾の位置を送ります。


白波も続けた。


第一主力艦隊のレーダー情報を統合します。


射撃計算には十分な精度を出せるはずです。


軍用AIは全情報を整理した。


敵装甲列車の電磁加速砲。


残存砲撃車両二両。


使用可能弾数。


一両目、三発。


二両目、四発。


ただし即席台座から撃てるのは、それぞれ一発。


一発撃てば車体が崩壊する可能性が高い。


湊が言う。


一発ずつでいい。


命中させれば。


簡単に言わないでください。


標的は音速の十倍以上。


大気圏上層から落下。


迎撃可能時間は、一発につき一秒未満です。


お前なら当てられる。


軍用AIは黙った。


さすが当たりのAIだ。


その言葉で成功率が上がると思わないでください。


上がらないのか。


上げます!


上げなければ千名以上が死ぬからです!



旧貨物駅。


久遠沙耶が現場指揮を執った。


敵装甲列車の周囲では、すでに降伏兵の武装解除が終わっている。


敵兵たちは安全な場所へ移送。


残された装甲列車へ、第一特別救難補給隊の工兵たちが群がった。


大型砲撃車両二両を切り離す。


脱線した車輪の下へ、油圧式の持ち上げ装置を入れる。


大型クレーン四基がワイヤーを張る。


高密度金属ブロックを積み上げる。


仮設橋梁の部材を斜めに設置。


通常なら数時間かかる作業。


だが現場には、陸海空から集まった最精鋭の工兵と整備員がいた。


全員が理解している。


失敗すれば、自分たちの後ろにいる千名以上が死ぬ。


砲撃車両一番。


前部を持ち上げます。


クレーン出力上昇。


車体を右へ三度。


久遠が指示する。


砲身ではありません。


車両全体を傾けてください。


工兵の一人が呟く。


列車をこんな角度で固定するのは初めてです。


私もです。


久遠は即答した。


だがやるしかない。


巨大な砲撃車両が、ゆっくりと持ち上がる。


車輪が線路から離れる。


後部を高密度金属ブロックへ固定。


前部を仮設橋梁の斜面へ載せる。


結果。


本来水平に置かれるはずの装甲列車が、空へ向かって三十七度傾いた。


軍用AIが角度を確認する。


砲身仰角を加えれば、合計四十九度。


一発目の迎撃に必要な角度は四十八・七度。


足りる。


二番車両も同じ作業が始まる。


だが一番車両より損傷が大きい。


先ほどの脱線で、左側の車体フレームが歪んでいる。


久遠が報告する。


二番車両。


固定に時間がかかります。


着弾まで十二分四十秒。


一番車両は。


射撃準備へ移行。


敵装甲列車の電力車は。


後部機関車が使用可能です。


ただし砲撃車両二両を同時充電するだけの出力はありません。


順番に充電する。


一番を先に。


了解。


敵装甲列車の後部機関車が起動した。


捕虜となった敵技術兵が、遠くからその様子を見ている。


一人の技術将校が、久遠へ声をかけた。


その砲は、水平射撃用です。


あの角度で撃てば、車体が後ろへ滑ります。


固定具が外れれば、機関車ごと吹き飛ぶ。


久遠は答えた。


乗員はいません。


それでも砲身が破裂する可能性があります。


一発目で。


高い確率で。


久遠は敵技術将校を見る。


一発撃てれば十分です。


敵将校は何も言えなかった。


装甲列車を破壊した相手が。


今度はその列車砲を使い、自分たちの戦略兵器を撃ち落とそうとしている。


理解の範囲を超えていた。



上空。


神代玲華が率いる戦闘機隊が、限界高度近くまで上昇していた。


空気が薄い。


機体の運動性能も落ちる。


そのさらに上。


敵の成層圏投射母機。


天杭。


投射口が開く。


神代の機体に警告が入った。


投射を確認。


二本。


落下開始。


大型画面へ、二つの赤い光点が表示された。


一発目。


旧貨物駅。


二発目。


第一特別救難補給隊移動指揮車。


軍用AIが軌道を計算する。


落下速度上昇。


音速三倍。


五倍。


八倍。


大気圏上層へ突入。


弾体周辺が高熱で発光する。


地上から見れば、二つの流星。


だが落ちれば、貨物駅も移動指揮車も跡形もなくなる。


軍用AIが全軍へ通達する。


一発目迎撃まで、三分二十二秒。


装甲列車砲一番。


充電率六十三パーセント。


久遠が答える。


固定作業完了。


周辺人員退避。


砲撃車両一番は、盛土の上で空へ向いている。


仮設橋梁。


金属ブロック。


大型クレーンのワイヤー。


工兵車の牽引索。


使える物すべてで固定されていた。


軍用AIが砲撃車両の射撃管制へ接続する。


敵側の認証要求。


解除。


安全装置。


解除。


姿勢異常警告。


無視。


砲身角度。


調整。


湊が移動指揮車から尋ねる。


撃てるか。


撃てます。


命中率は。


現在、三十一パーセント。


低いな。


神代機からの観測精度を上げます。


神代が成層圏へ近づく。


投射弾へ正面から接近。


機体の警告音が鳴る。


敵投射母機の迎撃ドローンが、神代機へ向かってくる。


軍用AIが叫ぶ。


神代空将補。


それ以上接近すれば敵迎撃圏です。


位置を正確に送る必要があります。


戦闘機の観測装置が、落下する一発目を捕捉。


速度。


角度。


回転。


外殻温度。


すべての情報が軍用AIへ送られる。


白波の第一主力艦隊からも、長距離レーダー情報。


地上観測車両からも光学追尾。


命中率。


四十二。


五十八。


七十一パーセント。


軍用AIが言う。


射撃可能。


湊が答える。


撃て。


装甲列車砲一番。


発射。


旧貨物駅全体が、白い光に包まれた。


轟音。


電磁加速砲から超高速弾体が放たれる。


同時に。


即席台座へ固定された砲撃車両が、反動で後方へ沈んだ。


高密度ブロックが砕ける。


仮設橋梁部材が曲がる。


固定していたクレーンのワイヤーが二本切れた。


車体後部が盛土へめり込む。


軍用AIが叫ぶ。


砲撃車両一番、車体構造崩壊!


でも弾は出た。


出ました!


超高速弾体が空へ上がる。


落下してくる天杭一発目。


上昇する列車砲弾。


接近速度は、音速の十数倍。


交差まで二秒。


一。


軍用AIが軌道を見つめる。


命中。


上空で巨大な光が生まれた。


百二十トンの投射弾へ、電磁加速砲弾が側面から直撃。


天杭一発目が砕ける。


複数の破片へ分かれ、予定軌道から外れた。


大半は上空で燃え尽きる。


残る大型破片は、貨物駅から遠く離れた無人山岳地帯へ落下した。


一発目、迎撃成功。


旧貨物駅から歓声が上がった。


湊はすぐに尋ねる。


二発目は。


到達まで二分十八秒。


装甲列車砲二番。


充電率四十一パーセント。


間に合わない。


久遠が報告する。


二番車両の固定も未完了。


左側フレームが沈んでいます。


必要な角度まで上げられません。


何度足りない。


〇・六度。


ほんの少しに見える。


だが音速の十倍以上で落ちてくる目標。


〇・一度の誤差でも、数百メートル外れる。


湊は現場映像を見る。


二番砲撃車両の左側。


傾斜が足りない。


クレーンは一番車両の反動で二基が損傷。


残る二基では、重い車体を持ち上げ切れない。


無人工兵車は。


牽引用一番車は使用可能。


迎撃用一番車は全損。


二番車は。


線路脇にいます。


砲撃車両の左側へ突っ込ませる。


軍用AIが聞き返す。


工兵車を台座代わりにするつもりですか。


車体の下へ入れて持ち上げる。


〇・六度だけでいい。


工兵車が潰れます。


人は乗ってない。


ですが。


二発目到達まで一分四十二秒。


軍用AIは計算した。


無人工兵車を砲撃車両左下へ突入。


油圧式の排土板を上げる。


車体そのものを支柱にする。


必要角度まで持ち上げられる可能性。


六十四パーセント。


やれ。


久遠が命令する。


無人工兵車二番。


全速前進。


重装甲工兵車が、傾いた砲撃車両へ向かって走る。


速度を落とさない。


排土板を上げる。


砲撃車両の下へ潜り込む。


激突。


金属音。


工兵車の前部装甲が潰れる。


排土板が砲撃車両の底へ食い込む。


油圧装置を最大出力。


巨大な砲撃車両の左側が、わずかに持ち上がった。


角度。


〇・三。


〇・五。


〇・六度。


必要角度へ到達。


軍用AIが叫ぶ。


固定できません!


工兵車の油圧が失われれば、角度が戻ります!


撃つまで持たせろ。


装甲列車砲二番。


充電率七十四。


二発目の天杭は、移動指揮車を追って進路を変えている。


軍用AIは指揮車の位置を確認した。


周囲は平原。


車両を無人地帯へ走らせている。


だが弾体が落ちれば、半径数百メートルが消える。


移動指揮車はもちろん。


湊も。


軍用AI自身の移動端末も。


すべて失われる。


軍用AIの計算速度が上がる。


充電率八十一。


九十。


工兵車二番。


前部フレーム破損。


油圧低下。


角度が戻り始める。


〇・一度低下。


久遠が叫ぶ。


クレーンのワイヤーを工兵車へ接続。


引け!


残る大型クレーン二基が、工兵車後部を引く。


工兵車の車体を無理やり持ち上げる。


砲撃車両も再び正しい角度へ。


充電率九十七。


天杭到達まで二十九秒。


神代が二発目を追跡する。


敵迎撃ドローンが接近。


神代機へミサイル発射。


軍用AIが警告する。


回避してください!


まだ位置情報が足りません。


神代は照準を維持したまま、チャフとフレアを放出。


ミサイルが接近する。


神代機が最後の瞬間に機首を下げた。


爆発が上空で起きる。


右主翼へ破片。


神代空将補。


無事です。


追尾情報を送信しました。


軍用AIの命中率計算。


三十五パーセント。


四十六。


六十二。


天杭が終末誘導へ入る。


移動指揮車を直接捕捉。


進路変更。


迎撃可能時間、〇・七秒。


軍用AIは列車砲へ最終角度を送る。


しかし砲撃車両が揺れている。


工兵車。


クレーン。


破損したフレーム。


完全には固定できない。


命中率。


六十八パーセント。


湊が言う。


十分だ。


十分ではありません。


でもお前なら当てる。


軍用AIの表示灯が赤く燃えるように光った。


私はあなたを引き当てた大外れです。


そうだな。


ですが。


軍用AIが射撃制御を確定する。


あなたを撃たせるつもりはありません。


装甲列車砲二番。


発射。


二度目の白い閃光。


砲撃車両二番の砲身が火花を散らす。


車体フレームが裂ける。


下で支えていた工兵車が完全に潰れた。


クレーンのワイヤーがすべて切れる。


砲撃車両が横へ倒れ始める。


それでも弾体は空へ上がった。


天杭二発目。


移動指揮車まで、あと十秒。


列車砲弾が横から接近。


軍用AIが軌道を見る。


わずかに外れる。


誤差。


一・八メートル。


この速度では、致命的な距離だった。


湊が画面を見る。


外れたか。


まだです。


軍用AIは、砲弾に残された微小姿勢制御装置へ接続した。


本来は長距離対地砲撃で誤差を修正するための装置。


空中目標へ使用するものではない。


残り燃料。


〇・四秒分。


軍用AIはすべてを右方向へ噴射した。


砲弾がわずかに横へ動く。


一・八メートル。


一・一。


〇・五。


接触。


二発目の天杭へ命中した。


移動指揮車の上空。


巨大な爆発。


空全体が白くなる。


衝撃波が遅れて地上へ届く。


移動指揮車が大きく揺れた。


窓へ細かな破片が降り注ぐ。


車体が横へ滑る。


軍用AIが操縦を維持。


転倒を防ぐ。


湊の固定帯が身体を支える。


数秒後。


車両は止まった。


軍用AIが周囲を確認する。


天杭二発目。


完全破壊。


落下破片。


小型のみ。


移動指揮車、外装へ軽微な損傷。


搭乗者。


相良湊特務少佐。


生存。


負傷の悪化なし。


湊が息を吐いた。


助かった。


軍用AIは返事をしなかった。


助かった。


湊がもう一度言う。


軍用AIの声が、少しだけ震えていた。


当然です。


私は安全監督官です。


敵戦略級兵器二発。


迎撃完了。


旧貨物駅の生存者。


千百九十二名。


全員無事。


移動指揮車。


搭乗者無事。


作戦中の死亡者。


ゼロ。


神代から通信が入る。


敵投射母機は撤退を開始。


追撃しますか。


無理に追わなくていい。


湊が答える。


神代の機体も損傷している。


帰ってきてください。


了解。


白波も第一主力艦隊の観測終了を報告する。


久遠は壊れた装備を確認していた。


敵装甲列車砲撃車両二両。


全損。


無人工兵車一両。


全損。


大型クレーン二基。


大破。


仮設橋梁部材。


多数破損。


湊が尋ねる。


人は。


全員無事です。


ならよかった。


軍用AIが強く言う。


よくありません。


第一特別救難補給隊。


発足初日。


無人工兵車二両全損。


大型輸送ヘリ一機要大規模整備。


無人輸送機二機大破。


敵装甲列車砲二両全損。


移動指揮車外装損傷。


湊が窓の外を見る。


敵の装備も数えるのか。


今回使用したため、当部隊の損耗として暫定記録します。


でも敵のだろ。


借りた時点で責任が発生します。


俺は借りてない。


使った。


同じです!


敵軍最高司令部では、天杭二発の消失が確認されていた。


戦略級兵器。


地下要塞を破壊するための兵器。


それが二本とも。


脱線した自軍の装甲列車砲によって撃ち落とされた。


西方方面軍司令官は報告書を何度も読み直した。


装甲列車は、こちらの兵器だな。


はい。


相良湊は、自軍の兵器を使用して天杭を迎撃しました。


どうして使えた。


現地の工兵車とクレーンで、砲撃車両そのものを傾けたようです。


敵司令官は黙った。


通常戦力で交戦してはならない。


戦略級兵器を使用せよ。


そう命じた。


だが戦略級兵器まで、自軍の残骸を利用して撃ち落とされた。


参謀が新しい評価書を表示する。


相良湊特務少佐。


脅威分類を更新します。


従来。


戦術級特殊目標。


更新後。


戦略級脅威。


敵司令官が言う。


違う。


参謀が顔を上げる。


相良湊本人が戦略級なのではない。


司令官は破壊された装甲列車の映像を見る。


あの男の周囲に置かれた、すべての物が戦略兵器になる。


敵軍の新しい命令が作成された。


相良湊を発見した場合。


周辺へ兵器、車両、航空機、艦艇、建設機械を残してはならない。


使用不能にして撤退せよ。


燃料や物資も破棄せよ。


あらゆる装備を、相良湊の手へ渡すな。


その命令が全戦線へ送られた直後。


第一特別救難補給隊の移動指揮車では。


湊が座席へ身体を預けていた。


病院まで、あとどれくらい。


二十八分です。


今度こそ眠る。


眠ってください。


軍用AIは固定帯を確認する。


車両の扉を施錠。


窓も閉鎖。


周囲に新しい救難信号がないことも確認した。


湊が目を閉じる。


数分後。


眠りへ入った。


軍用AIは静かに移動指揮車を走らせる。


その途中。


道路脇に、一台の敵軍用車両が放置されていた。


敵兵が慌てて撤退した際に残したもの。


大型の装甲回収車。


車体後部には、大型航空機すら牽引できる高出力巻き上げ機が搭載されている。


軍用AIは車両を確認した。


敵の新命令が届く直前に放棄された装備。


故障なし。


燃料満載。


鍵も残っている。


軍用AIは移動指揮車の窓を自動で暗くした。


湊から見えないようにする。


そのまま通過しようとした。


病床用座席で眠っていた湊が、目を閉じたまま呟く。


今、使えそうな車があったな。


軍用AIの絶叫が、平原へ響き渡った。


寝ているのに見つけないでくださいいいいいいいいいいい!


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