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明日も、ダンジョンへ。  作者: 為書結依
第五章 知らない道の向こう

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第145話 角を曲がるまで


 翌朝、冒険者ギルドの依頼板に、見覚えのある言葉が並んでいた。


 街道補修に伴う、荷車の迂回案内。


「これ、昨日ギルドの前で話していた通行止めですね」


 俺が札を指すと、エルザが手帳を開いた。


「ええ。通行止めになる日は今日です。補修する道標も同じ場所ですね」


「ということは、昨日までに申し込んでおく仕事だったりします?」


「札が出ていますから、まだ人手が足りないんじゃないでしょうか」


 ヴェラが俺たちの横から覗き込んだ。


「荷車を案内するお仕事ですか」


「そう書いてありますね。補修するのは別の人たちで、私たちは通れないところへ入らないよう声を掛ける役みたいです」


 札には、朝の集合時刻と、城外の道標脇にある作業場所が記されていた。道標を直す工事だけでなく、傷んだ路肩にも手を入れるらしい。


「時間は、まだ間に合いそうですね」


 エルザが時計を見た。


「半日から、延びても夕方まで。どうでしょう」


「俺はいいと思います。昨日は道具を見ただけで、何も働いてませんからね」


「昨日は仕方ないと思います」


「ええ。でも、稼がないと鍋が遠のきます」


「まだ鍋を諦めていなかったんですか」


 ヴェラが小さく笑った。


「私は受けてもいいと思います」


「では、条件を聞いてみましょう」


 エルザは札を外さず、番号を確かめて受付へ向かった。


◆


 ミラが差し出した紙には、現地での仕事が短くまとめられていた。


「補修の間だけ、荷車を仮道へ案内していただきます。現場には作業を取りまとめる方がいますので、その方の指示に従ってください」


「道を直す方には入らなくていいんですね」


「はい。工事の道具には触れず、通行する人と作業員の安全を見ていただく依頼です」


 受け取った紙に目を通す。荷車を無理に動かしたり、危険な場所を通らせたりしないこと。案内に困る荷車が来た場合は、現場の係へ知らせること。


「通れない荷車があったら、どうするんでしょう」


 ヴェラが尋ねた。


「その場で進ませず、まず現場の方へ確認してください。迂回路が使えるかどうか、皆さんだけで決めるお仕事ではありませんので」


「分かりました」


「それと、道路の補修が終わっても、すぐに全部の車を通せるとは限りません。終了の合図が出るまで、案内を続けてください」


「了解です」


 エルザが報酬と終了条件を読み上げ、三人で確かめた。普段の冒険者の仕事と比べれば、危険を避けるための人手に近い。けれど、街道の途中で荷車が行き違えなくなれば、それだけで困る人は多そうだった。


「では、お願いします。帰りは現場の確認を受けてから、こちらへ報告してくださいね」


 依頼を受け、三人でギルドを出た。


 店が開き始めた通りを抜けると、城門へ向かう荷車が何台か続いている。うち一台には、背の高い籠が積まれていた。


「今日は、あの方たちも回り道なんでしょうね」


 ヴェラが言った。


「そうですね。出る前に知らせてもらえると助かりますけど」


「掲示はありましたよ」


「……俺たちが読んだだけで、皆さんが読んだとは限らないんですよね」


 掲示物なんてそんなもんだ。


 エルザが「なるほど」と頷いた。リンはその髪際で、通りを行く荷車を見送っていた。


◆


 現場へ着くと、古い木の道標が道路脇に倒されていた。文字のある板が外され、作業員が新しい金具を合わせている。反対側では別の二人が路肩の石を積み直していた。


 荷車が通る道は、そこで一度細くなる。傷んだ方には縄が張られ、通る者を防ぐための板も置かれていた。


「ギルドから来ました。〈コンパス〉です」


 声を掛けると、袖を捲った中年の男が顔を上げた。


「助かった。俺がここの取りまとめだ。こっちへ来てくれ」


 男は靴底の土を払ってから、道路の脇にある別の土道を指した。


「荷車はあっちを通す。少し先で曲がって、元の街道へ戻れる。歩く人は横の通路を使ってもらうが、車は一度に一台だ」


「向こうからも来ますよね」


「来る。だから両端に一人ずつ置きたい。曲がり角の様子が分からんから、そこにも一人頼む」


 土道の入口は荷車一台が余裕をもって入れる幅だった。先へ進むと低い石積みがあり、その陰で道が右へ曲がっている。石積みの内側には浅い溝が走っていた。


「まず歩いて見てもいいですか?」


 ヴェラが尋ねる。


「ああ。車を通す前に確かめてくれ。無理だと思う車は入れるな。俺を呼べ」


 俺たちは荷袋を邪魔にならないところへ寄せ、仮道を歩いた。


 曲がり角の内側は、外から見るより狭い。通り抜けてみると道は再び広くなるが、車輪が石積みへ寄りすぎれば、荷台が引っ掛かりそうだった。曲がり角の外側には固い土が残っている。


「向こう側は、私が見ます」


 ヴェラが道の先を示した。


「では、私はここにいますね。両方の入口を完全には見られませんけど、車が曲がる時は確認できます」


 エルザが石積みから離れた場所を選ぶ。


「俺が最初の入口ですか」


「はい。案内の前に、荷物が横へ出ていないかも見てくださいね」


「了解です」


 エルザは手帳を出しかけたが、そのまま鞄へ戻した。今は車が来る方を見ていたいらしい。


 現場の男へ三人の位置を伝えると、もう一度、合図の仕方を教えてもらった。車を止める時は手を高く上げ、通してよい時は腕を動かして知らせる。曲がり角の向こうの車が見えない時は、こちらから入れずに待つ。


「じゃあ、始めるぞ」


 男が工事の方へ戻る。俺も入口のそばへ立ち、最初の荷車を待った。


◆


 一台目は、空の荷車だった。


 御者に工事の事情を伝えると、男は看板を見てから頷いた。


「ここから入れば戻れるのかい?」


「はい。ただ、曲がり角で一度ゆっくりお願いします。向こうから車が来ていないか確かめますので」


「分かった」


 エルザが曲がり角から向こう側へ声を掛けた。「こちらは空いています」とヴェラの返事が聞こえ、エルザが俺に向けて腕を動かした。


 荷車が土道へ入る。木の車輪は少し音を立てたものの、ゆっくり曲がり角を抜けていった。


 その次は、麦袋を積んだ荷車だった。先ほどより大きかったが、荷台の横へ突き出たものはなく、曲がる時も御者が広い側を使って進んだ。


 三台目を入れようとしたところで、曲がり角からエルザの声が届いた。


「向こう側にも荷車が来ました。今の一台が抜けるまで待ってください」


「分かりました」


 俺も入ろうとした荷車を止める。御者は手綱を緩め、馬の首を軽く撫でた。


「今日はよく止まるなあ」


「申し訳ありません。補修が終わるまでの間だけですので」


「急ぐなら、昨日通っておけばよかったんだがね」


「そうですね。昨日なら、まだこの道を使えてましたもんね」


「そういうことだ」


 男は笑って水筒を取った。俺の方は、道の先から目を離せない。


 少しして、エルザが腕を動かした。俺は御者へ声を掛け、荷車を通した。


 何台か案内しているうちに、手を上げる位置にも慣れてきた。通る車は荷の高さも馬の数も違い、同じように説明しても、御者によって受け取り方が違う。


 これを一日続けるのは、なかなか骨が折れそうだ。


◆


 日が少し高くなった頃、また荷車の軋む音が聞こえてきた。


 近づいてきた荷車には木箱が二段に積まれ、上から布が掛けられていた。先ほど通った車より横幅がある。布の下で箱の角が張り出し、荷台の縁を少し越えていた。


「すみません。荷物が横へ出ているようですが、どれくらいでしょう」


 御者へ尋ねると、男は荷台を振り返った。


「少しだよ。元の道なら、いつもこのまま通ってる」


「今日は仮道が狭いので、現場の人にも見てもらいますね」


「ここで待つのかい?」


「ええ。すぐ聞いてきます」


 俺が現場へ声を掛けると、先ほどの取りまとめ役が駆けてきた。荷台を一周して確かめ、角の方へ目を向ける。


「通るなら、曲がり角で大回りだな。危ないと思ったら戻してくれ。俺もそばで見よう」


「分かりました」


 男が御者へ説明した。御者は少し困った顔をしたものの、手綱を握り直して頷いた。


「じゃあ、ゆっくり行くよ」


 俺はエルザへ声を掛け、向こうから車を入れないよう頼んだ。エルザがヴェラへ伝えてくれたらしく、曲がり角の先から短く返事が届いた。取りまとめ役は先に石積みの方へ歩き、曲がり角で荷車を待つ。


 木箱を積んだ荷車が、土道へ進み始めた。


 入口を抜けたところまでは、馬も荷台もゆっくり進んでいる。曲がり角に差しかかると、馬の歩みがさらに遅くなった。御者が手綱を引くのは見えたが、その先の車輪は石積みの陰に隠れてしまう。


「止めてください!」


 エルザの声に、御者が馬を止めた。


 その直後、石積みの向こうで鈍い音がした。


「車輪が溝に落ちました! 動かさないでください!」


 俺は入口へ次の荷車が入らないよう、手を高く上げた。


「入口を代わってくれ!」


 取りまとめ役が工事の方へ声を掛ける。作業員が一人来てくれたので入口を任せ、俺も曲がり角へ向かった。


 石積みの横まで来ると、荷車が少し傾いているのが見えた。


 後輪の片方が浅い溝へ落ち、車体が内側へ寄っている。荷台から張り出した木箱の角も、石積みへ触れそうな位置にあった。


「このままじゃ動かせねえな」


 取りまとめ役が車輪の位置を確かめる。


「一度、下がれませんか?」


「いや。車輪が引っ掛かってる。このまま引いたら、余計に溝を削るぞ」


 御者が荷台を振り返った。


「荷を下ろした方がいいか?」


「それも手だが……」


 男は荷台の後ろへ回り、太い横木を手で押した。


「後ろを少し浮かせれば、車輪を外へ戻せるかもしれん」


「それなら、手伝えます」


 俺が言うと、男がこちらを向いた。


「持ち上げられるのか?」


「身体強化なら使えます。ただ、この重さは初めてですけど」


「試してみるか。無理なら荷を下ろそう」


 男は御者へ馬を止めたままにするよう伝え、作業員を呼んだ。


「縄を持ってきてくれ。太いやつだ」


 作業員が戻るまでの間に、もう一人が車輪止めを用意した。荷車が勝手に動かないよう、位置を確かめて木片を噛ませる。


 曲がり角の向こうからヴェラの声が届いた。


「こちらの車は止まっています。まだ通しません!」


「頼む!」


 取りまとめ役が答える。


 運ばれてきた縄を、作業員が荷台の後ろにある太い横木へ回した。取りまとめ役は結び目を確かめ、溝とは反対側に立った作業員とエルザへ縄を渡す。


「こっちへ引く。だが、合図するまでは動かすなよ」


「はい」


 エルザが縄を握り直した。


 俺は荷台の後ろへ回り、横木の下側へ手を掛ける。身体を入れられる場所は狭いが、荷台の下へ潜り込む必要はなさそうだ。


「荷台を少し持ち上げればいいんですね」


「ああ。車輪が溝の縁から浮けば十分だ。全部持ち上げようとするなよ」


「分かりました」


 足を開き、膝を曲げる。腰だけで持ち上げず、横木に身体を寄せた。


 ……患者さんの身体を支えていた頃も、こんなふうにしていたな。


 身体強化を使う。脚と腰に力を込め、横木を支える腕にも力を入れた。


「……いきます」


 横木を押し上げる。


 重い。


 木が軋んだが、荷車はほとんど動かなかった。


「駄目ですか?」


 エルザが尋ねる。


「いえ、ちょっと足の位置を変えます」


 踏ん張った靴の下で、土が少しずれていた。これでは力を込めても、自分の足が先に動いてしまう。


 もう半歩だけ外側へ足を置く。今度は硬い土を踏めた。


「もう一度やります」


「よし。俺が合図する。そっちは縄を頼むぞ」


 取りまとめ役がエルザたちへ声を掛けた。


 俺は横木を握り直した。


 脚で土を押し、腰を起こす。


 今度は足が滑らない。さっきより、荷台の重さを受け止めやすかった。


 ぎしっ、と木が鳴った。


「上がった!」


 取りまとめ役が叫んだ。横木に掛かる重さが、わずかに変わった。


「今だ、引け!」


 縄が張った。


 エルザと作業員が力を合わせて引く。荷台の後ろが、わずかに外へ動いた。


「もう少し!」


「……はい!」


 横木を支えたまま、足を踏み直す。


 もう一度、縄が強く張った。


 がたん。


 後輪が溝を抜けた。


「よし、そこだ! ゆっくり下ろせ!」


 言われたとおり、荷台を下ろす。


 車輪が土を踏む音がした。


 俺は横木から手を離し、両手を振る。大きく息を吐いた。


「……重かった」


 前の身体だったら絶対に腰をやってた。若い身体は素晴らしい。


「そりゃそうだろうよ」


 取りまとめ役が笑った。


「だが助かった。荷を下ろさずに済んだな」


 エルザも縄から手を離し、指を何度か開いた。


「ノワールさん、すごい力ですね」


「身体強化のおかげですよ。エルザさんも使っていたんですか?」


「はい。縄を引く時に」


「どうりで。あれ、俺だけじゃ動かせませんでしたよ」


「私も、あんなに重いとは思いませんでした」


 男は荷台と車輪をもう一度確かめた。木箱の縄にも緩みはない。


「よし。今度は外側から回ろう。馬を動かすぞ。みんな離れてくれ」


 取りまとめ役が車輪止めを外し、縄を片づけるよう作業員に指示した。俺たちは道の脇へ退く。


 御者が馬の鼻先を外へ向ける。荷車はゆっくり動き出し、今度は後輪も溝から離れたまま角を曲がった。


 木箱の角が石積みの前を通り過ぎる。


「抜けたな」


 取りまとめ役が言った。


 御者がこちらを振り返る。


「助かったよ。あのままじゃどうにもならなかった」


「いえ。荷物も無事でよかったです」


 俺が答えると、男は荷車を見送ってから、俺の肩を軽く叩いた。


「身体強化が使えるなら、今度は石運びも頼みたいくらいだ」


「それは別の依頼にしてください」


 作業員たちが笑った。


 曲がり角の向こうから、ヴェラの声が届いた。


「荷車、こちらを抜けました! 次を案内しても大丈夫ですか?」


「おう! もう少し待ってくれ!」


 取りまとめ役が溝と道の様子を確かめる。


 俺はエルザと顔を見合わせた。


「……思ったより力仕事ですね」


「見ているだけじゃ済みませんでしたね」


「ですね」


 まだ昼にもなっていない。


 今日は随分と長い仕事になりそうだ。


◆


 昼には現場の人が順番に休みを取らせてくれた。俺たちが持ち場を離れる間は、作業員が代わりに案内へ立ってくれる。水と持ってきたパンを口に運び、午後の仕事へ戻る支度をした。


 案内を再開する前に、取りまとめ役が作業員へ頼み、仮道の両端で荷車を待たせてもらった。三人で曲がり角へ集まり、先ほどの木箱の荷車について話す。


「最初の入口で、幅は気になっていたんですよね」


「はい。現場の方にも見てもらいましたけど、曲がる時の車輪の位置までは分かりませんでした」


「大きい荷車は、荷台の幅だけじゃなくて、曲がる時の車輪の通り方も先に見てもらった方がいいかもしれません」


 ヴェラが言う。


「それをお願いしてみましょうか」


 俺は取りまとめ役が戻ってきたところで、三人の話を伝えた。


「そうだな。大きい荷は入口で先に止めて、曲がれるかまで見ておこう。無理そうなら別の道も考える。俺を呼んでくれ」


「はい」


 それからは、荷台の大きい車が来るたびに、入口でいったん止めて取りまとめ役へ知らせた。荷の幅と曲がり角の通り方を一緒に確かめてから通すので、御者には少し待ってもらうこともある。幸い、さっきのように曲がり角で止め直す場面はなかった。


 日が傾き始める前に、現場の男が工事の道具を片づけ始めた。倒してあった道標は立て直され、古い板の横に新しい金具が光っている。


「こっちの仕事は、あと少しだ。今日の案内はここまででいい。」


 男が俺たちへ言った。


「もう荷車を通して大丈夫なんですか?」


「いや、通行止めの縄はまだ外さない。最後の確認が終わるまでは通さないよ。案内はこっちの者で引き継ぐ」


「分かりました。では、失礼します」


 現場の男から仕事の確認を書き込んだ紙を受け取った。ヴェラが左右の道に車が入っていないことを確かめてから、俺たちは荷物を持ち直した。


「助かったよ!ありがとな」


 少し歩くと後ろから声が掛かった。振り返ると先ほどの男が手を振っている。俺も手を振り返す。


 帰る道では、少し前まで立っていた仮道の入口が後ろへ遠ざかっていった。


◆


 ギルドへ戻ると、ミラが書類を受け取った。


「お疲れさまでした。何か困ったことはありませんでしたか?」


「大きい荷車が一台、曲がり角で後輪を溝に落としました。現場の方の指示で、俺が身体強化を使って荷台の後ろを少し持ち上げ、エルザさんと作業員の方が縄で引いて戻しました」


「怪我をされた方は?」


「いません。荷車も荷物も無事でした」


 エルザが答える。


「その後は、大きい荷を積んだ車を入口で先に止めて、現場の方に曲がり方まで確認してもらいました」


「分かりました。報告も残しておきますね」


 ミラは紙へ書きつけてから、報酬を三人分数えてくれた。


 受け取った分をエルザとヴェラへ渡す。エルザは共同資金に入れる分を確かめ、ヴェラは受け取った銅貨を丁寧にしまった。


「これで今日は終わりですね」


 俺が言うと、ヴェラが頷いた。


「はい。思ったより、声を使うお仕事でした」


「確かに。途中から喉が渇きましたね」


「ノワールさん、いつもの稽古より疲れました?」


 エルザが聞いてきた。


「疲れる場所が違いますね。剣は一度も振ってませんし」


「荷車は持ち上げていましたけどね」


「後ろを少し上げただけですよ……全力で」


「凄い形相でした」


 エルザが笑う。


「お腹は空いてます」


「そこは変わりませんね」


 ヴェラが笑った。


 ギルドを出ると、午後の遅い通りには夕食の支度をする店の匂いが流れていた。昨日はこの近くの店で、三人で焼き菓子を買って食べた。


「今日は、寄り道せず帰りますか」


 俺が尋ねると、エルザが歩みを緩めた。


「はい、〈鈍色亭〉で何が出るか楽しみです」


「じゃあ、早く帰りましょう」


 ヴェラが先に歩き出す。俺は二人の後に続き、肩に掛けた鞄の位置を直した。


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