第百四十五話 断たれた、糸
一 孤立
宣戦布告から——一夜が、明けた。
アステリアは——静かな、緊張に、包まれていた。
「同盟国との、通信玉——すべて、繋がりません」フィリアが、報告した。蒼白な顔で。「ガラントとも。知の国とも。完全に——澱みで、妨害されています」
「故郷との、門は?」アルクは、エニに、聞いた。
『……侵されている』エニが、苦しげに、言った。
『澱みが——縁の糸に、絡みついて。門を、開こうとすると——澱みが、流れ込んでくる。今、無理に、開けば—— ヴァルナ・クロスに、澱みを、招き入れることに、なる』
「故郷とも——切り離されたか」アルクは言った。
「ヴァルガルドの、狙い通りです」カインが、言った。「同盟国の、救援も。故郷からの、援軍も。すべて——断たれた。アステリアは——完全に、孤立しました」
「七日後の、総攻撃」ライナが、言った。「奴らは
——この、孤立した、七日の間に。アステリアを——滅ぼす、つもりだ」
町に——重い、空気が、流れた。
初めての、国家間の、戦争。しかも——孤立無援。
二 諦めない
だが——アルクは。
顔を、上げた。
「孤立——か」アルクは言った。「ヴァルガルドは
——そう、思ってる。同盟国を、断ち。故郷を、断ち。アステリアを、独りにした、と」
「アルク——」ヴィナが、言った。
「でも——違う」アルクは言った。「縁は——通信玉や、門だけ、じゃない。俺たちが——これまで、結んできた、縁は。そんな、簡単に——断ち切れるものか」
「どういう、ことだ?」ガドルが、言った。
「考えてみろ」アルクは言った。「ガラントのゼルダ。知の国のミネルヴァ。空の、ウィンドラ族。故郷の、ゴウダや、ドーグ。——みんな、アステリアと、本物の、縁で、結ばれてる。通信が、途絶えたくらいで。——あいつらが、俺たちを、見捨てると、思うか?」
「……いや」ヴィナは言った。「思わない」
「だろ?」アルクは言った。「むしろ——通信が、途絶えたことに。あいつらは、必ず、気づく。『アステリアと、連絡が、取れない。何か、あったんじゃないか』って。——本物の、縁なら。断たれても
——向こうから、繋ぎに、来てくれる」
「でも——」フィリアが、言った。「それを、待っているだけでは。七日後に、間に合うか——」
「待たない」アルクは言った。「こっちから——繋ぎ直す」
三 繋ぎ直す、方法
「エニ」アルクは言った。「故郷との、門が、澱みに、侵されてるなら——その、澱みを、浄化すれば。門は、開けるんだな?」
『……そうだ』エニは言った。『だが——縁の糸に、絡みついた、澱みは。根深い。浄化するには——時間が、かかる。それに、私一人では』
「俺が、いる」アルクは言った。「《還元》で
——縁の糸の、澱みを、浄化する。エニ——お前は、縁の糸を、たぐってくれ。俺が、澱みを、浄化する。——二人で、門を、取り戻す」
『……わかった』エニは言った。『やってみよう』
アルクと、エニが——力を、合わせた。
エニが——澱みに、絡みつかれた、縁の糸を、必死に、たぐる。アルクが——その糸に、絡んだ、澱みを、《還元》で、一本ずつ、浄化していく。
地道で——根気の、要る、作業だった。
だが——アルクは、諦めなかった。
「ゴウダさん。ドーグさん。ターク——」アルクは、つぶやきながら、浄化を、続けた。「みんなとの、縁を。——必ず、取り戻す」
四 向こうからも
その時。
エニが——気づいた。
『……アルク』エニが、言った。『縁の糸が——向こうからも、たぐられている』
「向こうから?」アルクは言った。
『故郷から——誰かが。アステリアとの、縁を。必死に、たぐり寄せようと、している』エニは言った。
『澱みに、阻まれても。諦めずに——繋ごうと、している』
「ゴウダさんたちか——!」アルクは言った。
『そして——ガラントからも。ミネルヴァからも』エニは言った。驚いたように。『各国が——アステリアとの、縁を。向こうから、繋ぎ直そうと、している。通信が、途絶えたことに、気づいて。——心配して。手を、伸ばしてくれている』
「ほら——な」アルクは、微笑んだ。「言った、だろ。本物の、縁なら。断たれても——向こうから、繋ぎに、来てくれる、って」
アルクが、こちらから、浄化し。
仲間たちが——向こうから、たぐり寄せる。
澱みに、阻まれた、縁の糸が——両側からの、想いで。少しずつ——繋がっていく。
五 縁の、奔流
「みんな!」アルクは、仲間たちに、言った。
「力を、貸してくれ! 俺たちの、縁を——みんなで、繋ぎ直す!」
ヴィナが——カトレアを、掲げた。「あたしの、縁も——使え!」
ネッサが——喚魂環を、掲げた。「あたしも——!」
ライナが。ガレオが。バルガが。ガドルが。リィナが。カインが。フィリアが。セバスが。守り手たちが。コダマ族が。ミズチ族が。ウィンドラ族の、シエルが。——アステリアの、みんなが。
それぞれの、結んだ、縁を——差し出した。
エニが——その、すべての、縁を、束ねた。
『これが——アステリアの、結んできた、縁の、すべて』エニが、言った。『一つや、二つ、断たれても。——こんなにも、たくさんの、縁が、ある』
無数の、縁の糸が——澱みを、押し返した。
アルクの、《還元》が——澱みを、浄化し。両側からの、想いが——糸を、たぐり。アステリアの、無数の縁が——澱みを、燃やし尽くした。
そして——。
故郷との、門が——開いた。
同盟国との、通信玉が——光を、取り戻した。
六 繋がる、声
『アルク——! 聞こえるか——!』通信玉から
——ゴウダの、声。『よかった——! 急に、連絡が、途絶えて。心配したぞ——!』
「ゴウダさん——!」ネッサが、涙ぐんだ。
『こっちも——必死に、繋ごうとしてたんだ』ゴウダの声。『何か、あったんだろう。——言え。アステリアに、何が、起きてる』
「軍事国家ヴァルガルドが——」アルクは言った。
「七日後に、総攻撃を、仕掛けてくる。同盟国を、孤立させて——アステリアを、滅ぼす、つもりだ」
『——なるほど。だから、通信を、断たれたのか』ゴウダの声が、低くなった。『卑怯な、手を。
——いいか、アルク。すぐに、冒険者を、集める。故郷からも——援軍を、送る』
別の、通信玉からは——ガラントの、ゼルダの、声。
『アルク殿——! 無事か——!』ゼルダの声。『通信が、途絶えて。嫌な、予感が、していた。
——ガラントの、軍を——率いて、向かう! 同盟国の、誼だ!』
ミネルヴァからも——
『アステリアを——孤立させる、罠とは。許せません。我が国の、知識を。総動員して——支援します!』
空からは——ウィンドラ族の、シエルが、すでに、仲間を、呼んでいた。
「ウィンドラ族も——空から、加勢する!」シエルが、言った。
断たれた、はずの、縁が——次々と、繋がっていく。
そして——その、すべてが。
アステリアを——助けるために。
七 独りじゃない
「……ほら、な」アルクは、つぶやいた。涙を、こらえて。
「アルク——」ヴィナが、言った。
「ヴァルガルドは——間違ってた」アルクは言った。「縁を、断てば。アステリアは、独りに、なる、と、思ってた。でも——違った。縁は——断たれても。みんなが、繋ぎ直してくれる。なぜなら——」
アルクは——仲間たちを、見渡した。
「俺たちが——これまで。たくさんの人に、与えてきたからだ」アルクは言った。「困ってる人に、手を、伸ばしてきた。縁を、結んできた。——その、与えてきたものが。今。みんなを——呼んでる。『アステリアを、助けたい』って」
「与えてきたものが——返ってきてるんですね」ネッサが、涙を、流して、言った。
「ああ」アルクは言った。「これが——アステリアの、強さだ。一国だけ、じゃない。同盟国も。故郷も。多種族も。——みんなで、繋がってる。だから——独りじゃ、ない」
アルクは——北の、ヴァルガルドの、方を、見た。
「来い、ヴァルガルド」アルクは言った。静かに。だが、力強く。「お前たちが、どれだけ——縁を、断とうとしても。俺たちの、縁は——断ち切れない。七日後——迎え撃つ。みんなで」
断たれた、はずの、縁が——より、強く、繋がった。
孤立させる、罠は——逆に。アステリアの、縁の、強さを。証明する、結果に、なった。
決戦まで——あと、七日。
だが——アステリアは、もう。
独りでは、なかった。
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