第百四十話 橙の、竜
一 アルファの、異変
ある朝。
アルクの肩で——アルファの、様子が、おかしかった。
『……アルク』アルファが、言った。いつもの、元気が、なく。『なんか——うち、体が、熱いねん』
「熱い?」アルクは言った。
『うん』アルファは言った。『なんか——力が、溢れてくる、感じ。抑えきれへん、ような』
「ルミ、わかるか?」アルクは、もう一体の、守り手に、聞いた。
「これは——」ルミが、アルファを、見て、言った。「アルファ——進化、しようとしてる、のかも」
「進化?」アルクは言った。
『進化——?』アルファも、驚いた。
「アルファは——付与の、守り手」ルミは言った。
「最終形は——ドラゴン。前に、言ったでしょ?
——その、力が。目覚めようと、してる」
二 力の、暴走
だが——アルファの、進化は。
穏やかには——進まなかった。
『うっ——!』アルファが、苦しみ始めた。橙色の、光が、激しく、明滅する。『力が——多すぎて。抑えられへん——!』
「アルファ——!」アルクは、慌てた。
「力が——暴走してる」ルミが、言った。「アルファの、器が。一気に、溢れ出す、力に。——耐えきれてない」
『くっ——うちは。もっと、強く、なって。アルクを——助けたいのに。なのに——この、力が。うちを——壊しそうや——!』
アルファの、光が——苦しげに、渦を、巻いた。
「どうすれば——!」アルクは言った。「ルミ、何か——!」
「アルファを——落ち着かせないと」ルミは言った。「力が、暴走したまま、進化したら——アルファ自身が、壊れちゃう。——でも、どうすれば」
その時。
『……アルク』エニが、言った。『アルファの、力を——お前が、受け止めてやれ』
「俺が?」
『お前は——《還元》の、力を、持つ』エニは言った。『与えた、すべてが、返ってくる力。アルファが、溢れさせている、力を——一度、お前が、受け止め。そして、ゆっくりと、返してやる。——そうすれば、アルファは、自分の、ペースで、進化できる』
三 受け止める
「わかった」アルクは言った。「アルファ——お前の、力を。俺に、預けろ!」
『アルク——?』
「お前一人で、抱え込むな!」アルクは言った。「俺が——受け止める! お前は、いつも、俺の、付与を、肩代わりしてくれた。今度は——俺が、お前を、支える番だ!」
アルクが——アルファに、手を、かざした。
「《還元》——!」
アルファの、溢れ出す、力が——アルクに、流れ込んできた。膨大な、付与の、力。アルクの、体が、軋む。
「ぐっ——」アルクは、歯を、食いしばった。「すごい、力だ——! でも——!」
アルクは——その力を、受け止め。そして——《還元》で、ゆっくりと、アルファに、返していく。アルファが、受け止められる、ペースで。
『アルク——!』アルファが、言った。『うちの、力を——受け止めて、くれてる——!』
「ああ——!」アルクは言った。「お前は——一人じゃ、ない! 俺が、いる! みんなが、いる! ——だから、安心して。進化しろ、アルファ!」
四 橙の、竜
アルクが、力を、受け止め、支える中。
アルファの、進化が——穏やかに、進み始めた。
橙色の、光が——形を、成していく。
翼が、広がる。長い、首。鋭い、爪。尾。——竜の、姿。
だが——禍々しさは、なかった。むしろ——温かく、力強い。橙色の、炎を、まとった、美しい、竜。
そして——その、首には。
いつもの——橙色の、リボンが、結ばれていた。
『……できた』アルファが、言った。
その声は——いつもの、関西弁。だが——前より、ずっと、深く、力強い、響きに、なっていた。
「アルファ——!」アルクは、言った。「お前——竜に!」
『せやで!』竜と、なった、アルファが、言った。
『うち——ついに、本当の、姿に、なれたんや! どや、かっこええやろ!?』
「ああ——!」アルクは、笑った。「すごい——かっこいい!」
『リボンも——ちゃんと、似合ってるやろ!?』アルファが、得意げに、言った。竜の、首の、橙色の、リボンを、揺らして。
「似合ってる、似合ってる」ルミが、笑った。「相変わらず——リボン、好きだね」
『当たり前や! うちの、トレードマークやからな!』
五 竜の、力
『アルク!』アルファが、言った。『うち——もっと、強く、なったで! 付与の、力が。前とは、比べ物に、ならへん!』
アルファが——アルクに、付与を、かけた。
その瞬間——アルクの、全身に。今までにない、力が、漲った。
「これは——!?」アルクは、驚いた。「力が——桁違いだ!」
『竜に、なったうちの、付与は——けた違いやで!』アルファは言った。『それに——うち自身も、戦える! 炎の、ブレスも、吐けるし! 空も、飛べる! アルクを、乗せて、空を、駆けることも、できるんや!』
「空を——駆ける!?」アルクは言った。
『試してみるか!?』アルファが、言った。
アルファが——大きくなり、アルクを、背に、乗せた。竜の、背に。
そして——大空へ、舞い上がった。
「うわ——!」アルクは、息を、呑んだ。「すごい——! アステリアが——あんなに、小さく!」
眼下に——アステリアの、町が、広がっていた。賑わう、広場。豊かな、畑。水の街道。——すべてが、一望できた。
『どや!』アルファが、嬉しそうに、言った。空を、駆けながら。『うち——アルクを、どこへでも、連れて行けるで! 空からなら——アルクの、門と、合わせて。もっと、早く、どこへでも、駆けつけられる!』
「ああ——!」アルクは、笑った。「最高だ、アルファ!」
六 共に、強く
地上に、降りると——仲間たちが、集まっていた。
「アルファ、竜に、なったんですね——!」ネッサが、目を、輝かせた。「かっこいい——!」
『せやろ!?』元の大きさに戻ったアルファが、得意げに、言った。
「立派な——竜だ」バルガが、感心した。
「アルファの、リボン——竜になっても、健在だな」ヴィナが、笑った。
『当然や!』
「アルク」ルミが、言った。「アルファが、無事に、進化できたのは——アルクが、力を、受け止めたから、だよ」
「いや」アルクは言った。「アルファが——頑張ったからだ。それに——アルファは、いつも、俺の、付与の、消耗を、肩代わりしてくれてた。今回は——俺が、支える番だっただけだ」
『アルク——』アルファが、言った。少し、しんみりと。『おおきに。うちのこと——支えてくれて。うち、一人やったら——力に、呑まれて、壊れてたかもしれへん。でも——アルクが、いてくれたから。安心して、進化できた』
「お互い様だ」アルクは言った。「俺たちは——二つで、一つ、だろ?」
『せやな!』アルファが、嬉しそうに、言った。『二つで、一つ! これからも——よろしくな、アルク!』
「ああ」アルクは、笑った。
その時。
アルクは——気づいた。
「そういえば——アルファが、竜に、なったってことは」アルクは言った。「俺の、付与の、力も。——もっと、強くなった、ってことか」
『せや!』アルファが、言った。『今のうちの、付与なら——アルクを、みなを。今までの、何倍も、強化できる! 戦いでも——もっと、無双できるで!』
「すごいな」アルクは言った。「アルファが、竜になって。俺も——もっと、強くなった。みんなで——どんどん、強くなってる」
『ほんまや!』アルファが、言った。『——なあ、アルク。うち、思うんやけど』
「なんだ?」
『うちらが、強なるのは』アルファは言った。『無双したい、からやない。みんなを——守りたいから、やんな?』
「ああ」アルクは言った。「その通りだ」
『せやから——うちは。強なって、嬉しいわ』アルファは言った。『もっと、みんなを、守れる。アルクを、守れる。——それが、一番、嬉しい』
「……ああ」アルクは、微笑んだ。「俺も、同じだ」
橙色の、竜と、なった、アルファ。
その、進化は——アルクの、無双化を、さらに、推し進めた。
だが——その力は。
いつも——誰かを、守るための、力。
空を、駆ける、橙の竜と。空間を、繋ぐ、賦活師。
アステリアの、空に——新たな、力が、羽ばたいた。
まだ、見ぬ、戦いに。地底の、古き王に。——備えながら。
でも——その、根っこには。
いつも——「みんなを、守りたい」という、温かい、願いが、あった。
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