第百三十七話 遠すぎる、距離
一 届かない、声
知の国との、交流が、深まり——アステリアは、ますます、栄えていた。
だが、ある日。
通信玉が——けたたましく、鳴った。故郷からの、緊急の、報せ。
『アルク! 聞こえるか!』ゴウダの、切迫した声。『大変だ——故郷の、東の、山岳地帯! セナの、いる、村が——澱みの、残り火が、暴発して。大きな、魔物が、湧いた! 村が——危ない!』
「セナの、村が——!」アルクは、立ち上がった。セナ。東の山岳地帯の、弓使いの、協力者。
『応援を、送りたいが——』ゴウダは言った。『山岳地帯は、遠い。ヴォルタから、馬でも、三日は、かかる。間に合わない! 頼む、アルク——お前たちなら!』
「すぐ、行く!」アルクは言った。
アルクは——エニに、頼んで、故郷への、門を、開いた。
門を、くぐり——ヴォルタへ。
だが——そこからが、問題だった。
二 間に合わない
「東の、山岳地帯まで——」カインが、地図を、見て、言った。「ヴォルタから——遠い。馬を、飛ばしても、二日。急いでも——間に合うか、どうか」
「二日——」アルクは、唇を、噛んだ。「その間に、村が——」
「アルク」ヴィナが、言った。「急ごう。少しでも、早く——」
一行は——馬を、駆って、東へ、向かった。
だが——山岳地帯は、遠かった。険しい、山道。深い、谷。馬では、進めない、場所も、多い。
半日、駆けても——まだ、半分にも、満たなかった。
「くそ——」ガドルが、焦った。「こんな、ペースじゃ——間に合わん!」
「セナの、村が——」ネッサが、不安そうに、言った。
アルクは——焦りを、感じていた。
力は、ある。みんなも、強くなった。なのに
——距離が。遠すぎる、距離が。間に合わせて、くれない。
救えるはずの、命に——手が、届かない。
「……もどかしいな」アルクは、つぶやいた。「すぐ、そこに、困ってる人が、いるのに。——遠すぎて、届かない」
三 エニの、言葉
休憩の、合間。
アルクが、焦りを、滲ませているのを見て——エニが、静かに、言った。
『……アルク』エニは言った。『お前は、今——「距離が、もどかしい」と、感じているな』
「ああ」アルクは言った。「もっと、早く——届きたい。でも、遠すぎる」
『覚えているか』エニは言った。『私が、以前、言ったことを。星見の湖まで、水の道を、引いたとき。——「いつか、空間そのものを、繋ぐことも、できるかもしれぬ」と』
「空間を——繋ぐ」アルクは、はっと、した。
『お前の《創生》は——もう、その段階に、近づいている』エニは言った。『家を、創り。道を、創り。水の街道を、創り。義手という、生命に関わるものすら、創った。——お前の、創造の力は、もう、「もの」の、領域を、超えつつある』
「でも——空間を、繋ぐなんて」アルクは言った。
「そんな、こと——できるのか?」
『お前の《創生》は——心の、写し鏡』エニは言った。古龍ヴェルダの、言葉を、なぞって。『お前が、今、何を、強く、願っているか。——それが、力の、形に、なる』
「俺が——願っているのは」アルクは、つぶやいた。「届きたい。——困ってる人の、ところへ。すぐに。距離なんて——飛び越えて」
四 距離を、越えて
『その願いこそ——お前の、新たな、力の、種だ』エニは言った。『お前は、与える者。離れた誰かにも——与えたいと、願う者。ならば——その、距離を、越える力が。お前の中に、芽生えても、おかしくない』
「俺の中に——」アルクは、自分の、手のひらを、見た。
『試してみろ、アルク』エニは言った。『「繋がりたい」と。「届きたい」と。——強く、願え。お前と、セナの村を。この、空間を——縁の糸で、手繰り寄せるように』
アルクは——目を、閉じた。
セナの村を、思い描く。会ったことのある、セナの、顔。そこに、暮らす、人々。今、魔物に、脅かされている、命。
届きたい。すぐに。この、もどかしい、距離を——越えて。
「ルミ」アルクは言った。「アルファ。キラ。
——みんなの、力を、貸してくれ。それと——エニ。お前の、縁の糸で。俺と、セナの村を、繋いでくれ」
『……やってみよう』エニが、言った。
エニの、縁の糸が——遥か遠く、セナの村まで、伸びていく。アルクが、かつて、セナと、結んだ、縁を、手繰って。
アルクは——その、縁の糸を、感じた。遠い、村との、確かな、繋がりを。
「《創生》——」アルクは、念じた。今までにない、力を、込めて。
空間そのものを。
縁の糸を、たぐり、手繰り寄せ——ここと、そこを、繋ぐ。
「——繋がれ!」
五 門が、開く
アルクの、目の前の、空間が——歪んだ。
光が、渦を、巻き——一つの、門が、現れた。
今まで、ルミが、開いてきた、亜空間の、扉とも。エニが、開く、二つの世界の、門とも、違う。
アルクの《創生》が——生み出した、空間の、門。
その、門の、向こうに——見えた。
東の、山岳地帯。セナの、村。魔物に、脅かされる、人々の、姿が。
「これは——!?」ヴィナが、息を、呑んだ。
「門だ」アルクは言った。自分でも、驚きながら。
「俺が——創った。ここと、セナの村を、繋ぐ、門。——縁の、糸を、たぐって。空間を、飛び越えた」
「空間を——飛び越えた!?」カインが、絶句した。
「二日、かかる、距離を——一瞬で?」
「行くぞ!」アルクは言った。「この門を、くぐれば——すぐ、セナの村だ!」
六 間に合った
一行は——アルクの、創った門を、くぐった。
次の、瞬間。
彼らは——東の、山岳地帯、セナの村に、立っていた。
二日の、距離を——一瞬で。
「アルク——!」セナが、駆け寄ってきた。弓を、手に。「来てくれたのか! でも——どうやって、こんなに、早く!?」
「説明は、後だ!」アルクは言った。「魔物は、どこだ!?」
「村の、入り口だ!」セナは言った。「澱みの、残り火が、暴発して——大きな、魔物が! 村人が——逃げ遅れて——!」
「行くぞ、みんな!」アルクは、叫んだ。
一行は——魔物に、立ち向かった。
澱みに、侵された、巨大な、魔物。だが——アルクたちは、もう、強かった。
「ヴィナ!」アルクは言った。
「ああ!」ヴィナが、駆けた。「《双花繚乱》——!!」
ガドルが、ガレオが、村人を、守り。リィナが、魔物の、弱点を、見抜き。ネッサの、コレンが、炎を、放つ。
そして——アルクが、《創生》で、刃を、創り。
《還元》で、魔物の、澱みを、浄化し——討ち取った。
村は——守られた。間に合った。一人も——欠けることなく。
「……助かった」セナが、安堵の、息を、ついた。
「ありがとう、アルク。お前たちが——間に合わなければ、村は——」
「間に合って——よかった」アルクは言った。
そして——アルクは、自分の、創った門を、振り返った。
まだ、開いている、空間の、門。
——ヴォルタの、休憩地点と、この村を、繋ぐ門。
「これは——すごい、力だぞ」アルクは、つぶやいた。「距離を——越えられる。困ってる人の、ところへ。——どこへでも、すぐに、駆けつけられる」
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