第百三十六話 知識という、宝
一 知の、恵み
知の国ミネルヴァとの、交流が——始まった。
フィリアたちが、もたらした、知識は——アステリアを、大きく、変えていった。
まず——医術。
「これは——傷の、手当ての、新しい、方法ですわ」フィリアが、医術書を、開いた。「薬草の、調合。傷の、清め方。——ルミ様の、回復魔法と、組み合わせれば。より、多くの、命を、救えます」
「すごいです——!」ネッサが、言った。「これで、町の、お医者さんも、もっと、たくさんの人を、助けられますね!」
次に——農業。
「ミネルヴァの、農法ですわ」フィリアが、コダマ族の、リーフに、教えた。「作物の、輪作。土の、休ませ方。——コダマ族の、知恵と、合わせれば。収穫量が——倍に、なりますわ」
「倍に——!?」リーフが、目を、輝かせた。「すごい! みんなが、もっと、お腹いっぱいに、なれる!」
そして——建築。
「この、構造を、使えば」フィリアが、設計図を、カインに、見せた。「より、頑丈で、美しい、建物が、建てられますわ」
「これは——見事な、理論だ」カインが、感心した。「アルクの《創生》と、組み合わせれば——もっと、立派な、町に、なる」
知の国の、知識は——アステリアを、内側から、豊かにしていった。
二 二人の、研究者
そして——リィナと、フィリアは。
すっかり——研究仲間に、なっていた。
「リィナ! 見て、ください!」フィリアが、興奮して、駆けてきた。「アルク殿の《創生》と、縁の、相関——ついに、法則性が、見えてきましたわ!」
「ええ」リィナが、データを、見て、頷いた。「縁の、数と、質が——《創生》の、解放段階に、比例している。やはり——私の、仮説通りです」
「それだけじゃ、ありません!」フィリアが、言った。「ネブロスの、澱みと——賦活師の、浄化の、関係も。古い、文献と、照らし合わせると——」
二人は——夜通し、研究に、没頭した。
「お前たち——少しは、寝ろ」アルクが、呆れて、言った。
「「あと少しです!」」二人が、同時に、言った。
「……気が、合うな」アルクは、苦笑した。
「リィナさん、楽しそうですね」ネッサが、言った。「いつも、クールなのに——フィリアさんといると、子供みたいです」
「同じ、匂いの、仲間に、出会えたんだ」ヴィナが、微笑んだ。「いいこと、だな」
三 古き王の、手がかり
ある夜。
リィナと、フィリアが——血相を、変えて、アルクを、訪ねてきた。
「アルク」リィナが、言った。「重要な、発見です」
「フィリア殿の、持ってきた、古文書と」リィナは言った。「私の、ネブロスの、調査データを——照合しました。そして——わかったことが、あります」
「なんだ?」アルクは言った。
「ネブロスの、魔獣が——統率され始めた、理由です」フィリアが、言った。「やはり——『澱みを、統べる、古き王』が。目覚めつつある、可能性が、高い」
「古き王——」アルクは言った。
「古文書に、よれば」フィリアが、言った。「その、王は——遥か、昔。この世界を、澱みで、覆おうとした、存在。女神様が——地の底に、封じた、と」
『……それは』エニが、言った。『女神様が、防壁を、張って、抑えている、地底帝国ネブロス。
——その、中心に、いる、存在かもしれぬ』
「ネブロスの——中心」アルクは言った。
「最近の、魔獣の、統率」リィナが、言った。「防壁の、綻び。澱みの、活発化。——すべて、その、古き王が、目覚めかけている、兆候、かもしれません」
「だが——」フィリアが、言った。「まだ、確証は、ありません。古文書も——断片的で。その、王が、何者で、どれほどの、力を、持つのか。——わからないことが、多すぎます」
「調べる、価値は、ある」リィナが、言った。「もし——その、王が、本当に、目覚めれば。今までの、魔獣の、群れとは——比べ物に、ならない、脅威に、なる」
四 備えと、日常
「わかった」アルクは言った。「リィナ、フィリア殿——引き続き、調べてくれ。古き王のことを。
——でも」
アルクは——仲間たちを、見渡した。
「焦らない」アルクは言った。「備えは、する。でも——今の、暮らしも、大切にする。アステリアは
——みんなで、創った、町だ。この、平和な、日々を、守るために——俺たちは、戦うんだ。だから——日々を、おろそかには、しない」
「いい、考えだ」ヴィナが、言った。
「ええ」セバスが、言った。「脅威に、怯えて、暮らすのでは、本末転倒。日々を、豊かに、生き、いざという時に、備える。——それが、賢明で、ございます」
「だな」アルクは、頷いた。「フィリア殿。調査も、大事だけど——たまには、息抜きも、しろよ。アステリアには——美味しいものも、きれいな場所も、たくさん、ある」
「息抜き——?」フィリアが、きょとんと、した。「研究より、楽しいことなど——」
「ありますよ!」ネッサが、言った。「フィリアさん、星見の湖、見ました!? すっごく、きれいなんです! 今度、案内します!」
「星見の——湖?」フィリアが、本から、顔を、上げた。「それは——学術的に、興味深い——」
「学術じゃ、なくて!」ネッサが、笑った。「ただ、きれいだから、見るんです! 楽しいから!」
「……楽しいから」フィリアが、つぶやいた。少し、戸惑って。「そんな、理由で——何かを、するなんて。考えたことも——ありませんでしたわ」
五 知の国の、学者の、休日
数日後。
ネッサが——フィリアを、星見の湖に、案内した。リィナも——一緒に。
澄み切った、湖。空を、映す、水面。咲き乱れる、花々。
フィリアは——その光景を、見て。
本を——抱えたまま、立ち尽くした。
「……きれい」フィリアは、つぶやいた。本を、開くのも、忘れて。「こんなに——美しい、場所が」
「でしょう?」ネッサが、笑った。「記録、しなくて、いいんですか?」
「……いえ」フィリアは言った。本を、そっと、閉じた。「今は——ただ、見ていたい。記録、ではなく。——感じて、いたい」
「フィリア殿」リィナが、隣で、言った。「研究も、大事です。でも——時には、こうして。ただ、美しいものを、見るのも。——悪くない」
「……ええ」フィリアは、微笑んだ。「リィナ。あなたと——出会えて、よかった。研究、仲間としても。——それに」
フィリアが、湖を、見つめた。
「アステリアに——来て、よかった」フィリアは言った。「知識だけでは——わからないものが。ここには、ある。温かさ。美しさ。——縁。我が国にも
——伝えたい。知識と、心。両方が——大切だと」
ミズチ族の、子供たちが——湖で、泳いで、フィリアに、手を、振った。
「お姉ちゃん、一緒に、遊ぼ!」
「わ、わたくしが——!?」フィリアが、慌てた。「あの——わたくし、泳ぎは——」
「大丈夫! 浅いところ!」
「フィリアさん、行きましょう!」ネッサが、笑った。
「あ——ちょっと——!」
知の国の、生真面目な、学者が——子供たちと、水辺で、はしゃいだ。本を、岸に、置いて。
その姿は——いつもより、ずっと、楽しそうだった。
六 広がる、世界
星見の湖から、戻った、夜。
フィリアが——アルクに、言った。
「アルク殿」フィリアは言った。「我が国に——王に連絡をして、進言いたしますわ。『アステリアと、正式な、交流を、結ぶべし』と。知識と、力。そして
——心の、交流を」
「ありがとう、フィリア殿」アルクは言った。
「いいえ——お礼を、言うのは、わたくしの方です」フィリアは言った。「アステリアは——わたくしに、教えてくれました。知識だけでは、ない、ものを。
——本当に、ありがとう、ございます」
「また、来てくれ」アルクは言った。「いつでも。研究でも——息抜きでも」
「ふふ」フィリアは、笑った。「嬉しいです。でも、まだまだ帰国できませんわ」
知の国ミネルヴァとの、縁。
武の国ガラントに、続く——二つ目の、大国との、絆。
そして——リィナという、研究仲間を得て、フィリアは。
また——アステリアの、大切な、縁に、なった。
「アルク」ヴィナが、言った。「世界が——どんどん、広がっていくな」
「ああ」アルクは言った。「武の国。知の国。
——これからも、いろんな国と、縁を、結んでいく。それぞれ、違う、いいところが、ある。それを——分け合えば。世界は、もっと、良くなる」
「ネブロスの、影も——あるけどな」ヴィナが、言った。
「ああ」アルクは——北の、地底を、見た。「古き王、か。——でも、怖くない。一人じゃ、ない。武の国も、知の国も、味方だ。みんなで——備える。そして、いつか——その、根源に、立ち向かう」
アルクは——星空を、見上げた。
澱みのない、清らかな、夜空。
その下で——アステリアは、また一つ、縁を、結び、豊かに、なった。
知識という、宝を、得て。
そして——遠い地底に、蠢く、古き王の、影に、備えながら。
星の国の、物語は——まだまだ、続いていく。
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