第百二十九話 執事セバスチャン
一 完璧な、男
セバスチャンが——アステリアに、来て。
その、有能ぶりは——すぐに、明らかに、なった。
彼は——一日で、アステリアの、状況を、すべて、把握した。商会の、帳簿。各種族との、関係。ガラントとの、外交の、経緯。——そして、来るべき、使者への、対応策を、瞬時に、まとめ上げた。
「皆様」セバスは言った。「ガラントの、使者を、迎えるにあたり——まず、迎賓の、間が、必要で、ございます。アルク様の、《創生》で——格式ある、広間を、お創りいただけますか。装飾は——わたくしが、指示いたします」
「あ、ああ」アルクは言った。「わかった」
「席次は——こちらに」セバスは、図を、示した。
「使者を、上座に。アルク様は、こちら。ヴィナ様は——」
セバスは——よどみなく、すべてを、采配した。
「料理は——ネッサ様の、お得意な、ものを、活かしつつ。ガラントの、武人が、好む、肉料理を、中心に。星の雫は——ガルゼス陛下、直伝の、温めた、飲み方で、お出しすれば——使者は、必ず、感銘を、受けましょう」
「皇帝の——飲み方まで、知ってるのか」アルクは、驚いた。
「外交に、関わる、情報は——すべて、頭に、入れて、おりますれば」セバスは、涼しい顔で、言った。
「すごい——」ネッサが、感心した。「セバスさん、なんでも、知ってる」
二 わちゃわちゃ、特訓
セバスは——アルクたちに、急ピッチで、作法を、叩き込んだ。
イリアの、教え方より——厳しく、しかし、的確だった。
「ガドル様」セバスは言った。「お辞儀の際——背は、丸めず、腰から。そう、でございます。——おお、見違えました」
「お、おう」ガドルが、照れた。「セバスの、教え方は——わかりやすいな」
「バルガ様。——硬さは、誠実さの、表れ。されど、少し、肩の力を。——左様、それで、ございます」
「セバスは——すごいな」バルガが、感心した。
「ネッサ様。——その、明るさは、何よりの、武器。されど、正式な、場では、ほんの少し、ゆっくりと。——ええ、完璧で、ございます」
「やった——!」ネッサが、喜んだ。
セバスは——一人ひとりの、個性を、見抜き、それを、活かしながら、作法を、教えた。ただ、型に、はめるのでは、なく。
「皆様の、飾らなさは——美点で、ございます」セバスは言った。「わたくしが、お教えするのは——その美点を、損なわず、なお、礼を、尽くす、術。——作法とは、相手を、敬う、心の、形。心が、あれば——形は、後から、ついて、まいります」
「いい、言葉だな」アルクは言った。
「セバスさん、教えるの、上手ですね」ネッサが、言った。
「恐れ入ります」セバスは、優雅に、礼を、した。
三 セバスの、秘密
その夜。
作法の、特訓が、終わり——皆が、くつろいでいた、時。
突然——町の、外れで、悲鳴が、上がった。
「魔の獣だ——!」
ネブロスの、魔獣。小規模だが——亀裂から、数体、漏れ出していた。防衛隊が、出動する。
「あたしも——!」ヴィナが、剣を、取った。
だが——その時。
逃げ遅れた、住民の、子供に——魔獣が、迫った。
「危ない——!」
誰もが——間に合わない、と、思った、その瞬間。
セバスチャンが——動いた。
優雅な、執事服の、ままに。
すっ、と、子供の前に、立ち——片手を、かざした。
「——《守護障壁》」セバスは、静かに、言った。
その手から——半透明の、光の、壁が、展開した。魔獣の、爪が——その壁に、阻まれた。びくとも、しない。
「な——!?」ヴィナが、驚いた。「セバス——魔法を!?」
「ご安心を」セバスは、微塵も、慌てず、言った。
「お子様は——わたくしが、お守りいたします」
セバスは——子供を、片腕で、守りながら。もう片方の、手で——次々と、障壁を、展開し、魔獣の、攻撃を、すべて、防いだ。
その、立ち居振る舞いは——執事の、優雅さを、保ったまま。一切、乱れない。
「すごい——!」ガレオが、駆けつけながら、言った。「セバスさん、強い——!」
防衛隊が、到着し——魔獣は、討たれた。
セバスは——子供を、無事に、親元へ、返すと。何事も、なかったかのように——服の、埃を、払った。
「お見苦しい、ところを」セバスは言った。
四 明かされる、過去
「セバス」アルクは言った。「あんた——ただの、執事じゃ、ないな」
「……ええ」セバスは——少し、目を、伏せた。
「イリア様が、言ってた」アルクは言った。「『少し、複雑な、過去が、ある』って。——よければ、聞かせてくれないか。無理にとは、言わない」
セバスは——しばらく、黙っていた。
それから——静かに、語り始めた。
「わたくしは——元は、さる、小国の、宮廷魔術師で、ございました」セバスは言った。「防御魔法を
——専門と、する。王と、王家を、守る、盾として、仕えて、おりました」
「宮廷魔術師——」アルクは言った。
「されど——その国は」セバスは言った。「澱みの、災厄により——滅びました。わたくしは——王家を、守りきれず。すべてを、失いました」
「……」
「以来——わたくしは」セバスは言った。「各地を、流れ、執事として、仕えながら、生きて、まいりました。防御魔法の、腕を、隠し——ただの、執事として。なぜなら——わたくしの、力は、誰も、守れなかった、無力な、力。誇る、資格など——ないと、思って、おりましたから」
「セバス——」
「イリア様には——よくして、いただきました」セバスは言った。「されど——わたくしのような、過去を持つ者が、王女の、お側に、いては、ご迷惑。だから——お城を、離れたので、ございます」
セバスが——アルクを、見た。
「アルク様」セバスは言った。「正直に、申し上げます。わたくしは——もう一度、誰かを、守りたい。今度こそ——守りきりたい。その思いだけで——生きて、まいりました。アステリアの、皆様を、見て——思いました。ここでなら——わたくしの、力も、誰かの、役に、立てるかもしれぬ、と」
五 居場所
「セバス」アルクは言った。「あんたの、力は——無力なんかじゃ、ない」
「アルク様——」
「さっき、あんたは——子供を、守った」アルクは言った。「立派に。あんたの、防御魔法で。——それは、誰かを、守れる、力だ」
「ですが——わたくしは、かつて、守りきれず——」
「過去は、関係ない」アルクは言った。「ガレオも——昔、仲間を、守れなかった。でも、今は——立派に、町を、守ってる。あんたも、同じだ。——これから、守ればいい。今度こそ」
セバスが——言葉を、失った。
「それに」アルクは、笑った。「あんたの、作法の、知識は——アステリアに、絶対、必要だ。外交も、運営も——あんたがいれば、安心だ。そして——防御魔法も、ある。作法の、達人で、防御の、達人。——最高の、仲間じゃ、ないか」
「アルク様——」
「セバスさん——!」ネッサが、言った。「ぜひ、アステリアに、いてください! あたしたち、作法、教えてほしいし。それに——一緒に、ごはん、食べたいです!」
ライナが、言った。「ここは、居場所を、くれた。お前にも——居場所が、ある」
セバスが——深く、頭を、下げた。
その、優雅な、所作の、中に——わずかに、震えが、あった。
「……ありがとう、ございます」セバスは言った。「この、セバスチャン。——生涯、アステリアに、お仕えいたします。皆様を——今度こそ、お守りいたします。作法も、外交も、防御も。——すべて、この身に、かけて」
「ああ」アルクは言った。「よろしく頼む、セバス」
その時。
セバスの、体が——淡く、光った。
『……アルク』エニが、言った。『セバスに——女神の、小さなギフトが、宿った。彼の、「今度こそ、守りたい」という、真摯な心に——女神が、応えたのだ』
「セバスさんにも——ギフトが!」ネッサが、喜んだ。
「これは——」セバスが、自分の、体の、光を、見て、驚いた。
『お前のギフトは——「不動の、守り手」』エニが、言った。『お前が、守ると、誓った場所を——揺るぎなき、聖域に、する力。お前の、防御魔法を——何倍にも、高める』
「わたくしに——そのような、力が」セバスは、感極まった。「女神様は——わたくしのような、者にも」
「セバス」アルクは言った。「あんたは——もう、無力じゃ、ない。これから——たくさんのものを、守れる」
「……はい」セバスは言った。
六 ファーストレディ
数日後。
セバスの、特訓で——アルクたちは、見違えるほど、作法を、身につけた。
そして——セバスは、ある提案を、した。
「アルク様」セバスは言った。「外交の、場には
——アステリアの、『顔』が、必要で、ございます。アルク様は、長として、どっしりと、構えて、いただく。されど——華やかに、場を、取り持ち、各国の、要人を、もてなす、役も、要ります」
「華やかに——?」アルクは言った。
「ヴィナ様」セバスは——ヴィナを、見た。「いかがでしょう。その役を——お引き受け、いただけませんか」
「あたしが!?」ヴィナが、驚いた。「あたしは——剣士だぞ!? 華やかとか——柄じゃ、ない」
「いいえ」セバスは言った。「ヴィナ様は——凛として、美しく、芯が、おありです。それに——ゼルダ殿との、一件で、武人としての、誇りも、示された。武も、礼も、兼ね備えた、お方。——外交の、顔として、これ以上の、適任は、おりません」
「で、でも——」ヴィナが、たじろいだ。
「ヴィナさん、似合うと思います!」ネッサが、言った。「ヴィナさん、ドレス、着たら——絶対、きれいです!」
「ドレス!?」ヴィナが、真っ赤に、なった。「あ、あたしが——ドレスなんて——!」
「いいじゃないか」アルクが、言った。「ヴィナの、新しい、一面だ。——見てみたい」
「アルク——!」ヴィナが、さらに、赤く、なった。
「お、お前は——そういうことを、さらっと——!」
「ふふ」セバスが、微笑んだ。「では——決まり、でございますね。ヴィナ様の、淑女としての、作法も
——わたくしが、お教えいたします」
「うう——」ヴィナが、頭を、抱えた。「剣の、特訓より——きつそうだ」
平時は——華やかな、ファーストレディとして、外交を。
戦時は——勇猛な、剣聖として、町を、守る。
ヴィナの——新たな、役割が、始まろうとしていた。
「楽しみだな、ヴィナ」アルクは、笑った。
「……笑うな」ヴィナは、ぶっきらぼうに、言った。だが——その顔は、満更でも、なさそうだった。
アステリアに——新たな、仲間、セバスチャン。
そして——ヴィナの、新たな、挑戦。
ガラントの、使者を、迎える、準備は——着々と、整っていった。
お読みいただき、ありがとうございます。
ご評価、リアクション、ブックマーク頂けますと執筆の励みになります。
どうぞよろしくお願いします。




