第百二十七話 誇りと、誇り
一 武人の、一撃
手合わせが——始まった。
ゼルダが——先に、動いた。
長身から、繰り出される、戦斧の、一撃。豪快で、しかし、洗練された、武の国の、剣技。その、速さと、重さは——並の、戦士なら、一撃で、沈むほどだった。
だが——ヴィナは、それを、見切った。
カトレアで、受け流し——身を、翻す。
「……ほう」ゼルダが、目を、細めた。「私の、一撃を、受け流すか。並の、腕では、ない」
「あんたこそ」ヴィナは言った。「重くて、速い。——いい、斧だ」
二人が——再び、激突した。
戦斧と、剣が、火花を、散らす。ゼルダの、豪快な、攻めを、ヴィナが、巧みに、いなし、隙を、突く。一進一退の、攻防が、続いた。
ガラントの、騎兵団も。アステリアの、住民も。固唾を、呑んで、見守った。
「すごい——!」住民の一人が、言った。「ヴィナ様が——あの、軍団長と、互角に——!」
二 一人の、強さ
戦いの、中で。
ゼルダが——感心したように、言った。
「ヴィナ。お前、強いな」ゼルダは言った。「これほどの、剣士は——ガラントにも、そういない。
——だが」
ゼルダの、攻めが——一段、激しくなった。
「一人の、強さでは——私が、上だ」ゼルダは言った。「武の国で、磨いた、この武。——お前一人では、いずれ、押し負ける」
ゼルダの、言う通りだった。
純粋な、個の、武では——長年、武の国で、鍛え抜かれた、ゼルダに、分が、あった。ヴィナの、剣が
——次第に、押され始めた。
「……っ」ヴィナが、膝を、つきかけた。
以前の、ヴィナなら——ここで、一人で、無理を、して、押し返そうと、しただろう。三年間、一人で、戦ってきた、癖で。
でも——今の、ヴィナは、違った。
「ゼルダ殿」ヴィナは言った。息を、整えながら。
「あんたは——強い。一人の、武なら、あんたの、勝ちだ。認める」
「なら——」ゼルダは言った。
「でも」ヴィナは——立ち上がった。「あたしは——もう、一人じゃ、ない」
三 縁の、力
「アルク!」ヴィナが、叫んだ。「力を、貸してくれ!」
「ああ!」アルクが、応えた。
アルクが——ヴィナに、付与を、かけた。アルファの力で。「速く、鋭く、強く」
エニが——縁の糸で、ヴィナと、仲間たちを、繋いだ。
ネッサの、想い。ガドルの、想い。バルガの、想い。リィナの、想い。ライナの、想い。ガレオの、想い。——町の、みんなの、想いが。
ヴィナの、剣に——宿った。
ヴィナの、《守護の剣聖》が——輝いた。
「これが——あたしの、強さだ」ヴィナは言った。
「あたし、一人の、力じゃ、ない。——みんなと、繋がった、力だ」
ヴィナの、剣が——一段、鋭く、速く、なった。押されていた、攻防が——一気に、逆転した。
「これは——!?」ゼルダが、目を、見開いた。
「《双花繚乱》——!!」
ヴィナの、剣が——舞った。仲間の、想いを、乗せて。
ゼルダの、戦斧を——弾き飛ばした。
ゼルダの、戦斧が——宙を、舞い、地に、突き刺さった。
勝負が——ついた。
四 ゼルダの、問い
ゼルダが——武器を、失い、立ち尽くした。
だが——その顔に、悔しさは、なかった。むしろ
——困惑が、あった。
「……今のは、何だ」ゼルダは言った。「お前
——途中まで、私に、押されていた。なのに——急に、力が、跳ね上がった。あれは——付与の、力か?」
「それも、ある」ヴィナは言った。「でも——それだけじゃ、ない。あれは——みんなの、想いだ」
「みんなの——想い?」
「あたしの、後ろには——仲間が、いる」ヴィナは言った。「アルクが。ネッサが。みんなが。——あたしが、押されたとき。みんなの、想いが、力を、くれた。あたしは——一人で、戦ってるんじゃ、ない。みんなと、戦ってるんだ」
ゼルダが——アステリアの、人々を、見渡した。
ヴィナを、見つめる、仲間たち。住民たち。多種族の、人々。皆、ヴィナを——自分のことのように、応援していた。
「……お前たちは」ゼルダは言った。「皆が——一人の、剣士を、支えているのか。一人の、勝利を——皆で、喜んでいる」
「ああ」ヴィナは言った。「それが——アステリアだ」
五 二つの、生き方
「ゼルダ殿」アルクが、進み出た。「あんたは——
『一人の、強さでは、自分が、上だ』と、言った。その通りだ。個の、武なら——あんたの、勝ちだった」
「アルク——」
「でも」アルクは言った。「アステリアの、強さは
——個の、強さじゃ、ない。みんなで、与え合い、支え合う——縁の、強さだ。ヴィナが、強いのは——一人だからじゃ、ない。みんなと、繋がってるからだ」
「縁の——強さ」ゼルダは、つぶやいた。
「あんたたち、武の国は——個の、武を、磨いてきた」アルクは言った。「それは、立派なことだ。尊敬する。——でも、ネブロスの、魔の獣の、群れに、苦戦してるんだろ? 多くの、戦士を、失った、と」
「……ああ」ゼルダは、苦渋に、満ちた顔で、言った。「我が国の、最強の、戦士ですら——あの、群れの前には、一人では、敵わなかった。次々と——倒れていった」
「一人の、武では——限界が、ある」アルクは言った。「どんなに、強くても、一人は、一人だ。
——でも、みんなで、繋がれば。一人では、退けられない、群れも——退けられる。俺たちが、あの群れを、退けられたのは——みんなで、戦ったからだ」
ゼルダが——黙った。
「個の、武と。縁の、力」アルクは言った。「どっちが、上とか、下とか——じゃない。両方、大事だ。あんたの、武も。俺たちの、縁も。——だから、ゼルダ殿。脅威と、見なすんじゃなく。——一緒に、戦わないか? ネブロスという、共通の、敵に」
六 武人の、敬意
ゼルダは——長い、沈黙の後。
地に、突き刺さった、自分の、戦斧を、見た。それから——ヴィナを、見た。アルクを、見た。アステリアの、人々を、見た。
そして——ふっと、笑った。
「……負けたよ」ゼルダは言った。「武では、なく。——その、生き方に」
「ゼルダ殿——」
「私は、武の国で、生まれ、育った」ゼルダは言った。「『強き者が、全て』だと、信じてきた。一人で、強く、あれと。——だが、ここに来て、わかった。お前たちの、強さは——私の、知らない、強さだ。一人では、決して、たどり着けない、強さだ」
ゼルダが——ヴィナに、手を、差し出した。
「ヴィナ。——いい、勝負だった」ゼルダは言った。「お前は、強い。そして——お前を、支える、仲間たちは、もっと、強い。私は——それを、認める」
「ゼルダ殿」ヴィナは——その手を、握った。「あんたも、強かった。一人の、武人として——尊敬する」
二人の、女剣士が——固く、握手を、交わした。
武の国の、誇りと。与え合う国の、誇りが——今、互いを、認め合った。
「アルク」ゼルダは、アルクに、向き直った。「我が王に——報告しよう。『アステリアは、脅威に、あらず。共に、戦える、得難い、隣人なり』と。——そして、提案する。ガラントと、アステリアの、同盟を」
「同盟——!」アルクは言った。
「ああ」ゼルダは言った。「個の、武を、誇る、我らと。縁の、力を、持つ、お前たち。——共に、戦えば。ネブロスの、脅威にも、立ち向かえる。お前の、言う通りだ」
「ありがとう、ゼルダ殿」アルクは言った。
「——よろしく、頼む」
七 鋼の、友
その夜。
ゼルダと、ガラントの、騎兵団を、もてなす、宴が、開かれた。
ネッサの、ごちそう。星の雫。歌と、竪琴。
ゼルダが——星の雫を、一口、飲んで、目を、見開いた。
「これは——うまい!」ゼルダは言った。「ガラントの、武人は、皆、酒好きだ。——この酒、ガラントでも、売れるぞ!」
「ぜひ!」ネッサが、商会長の、顔で、言った。「ガラントとの、交易も、お願いします!」
「商売、上手いな」ゼルダは、笑った。
ヴィナと、ゼルダは——すっかり、打ち解けて、酒を、酌み交わしていた。
「ヴィナ。お前——昔は、一人で、戦っていたな?」ゼルダは言った。
「わかるか」ヴィナは言った。
「同じ、匂いが、する」ゼルダは言った。「私も——長く、一人で、強く、あろうと、してきた。だが——お前は、仲間を、見つけた。——羨ましいよ」
「あんたも——見つかるさ」ヴィナは言った。「武の国にも、仲間は、いるだろう」
「……そうだな」ゼルダは、少し、笑った。「これからは——アステリアという、仲間も、できた」
二人の、女剣士が——杯を、合わせた。
アルクは、その光景を、見て、微笑んだ。
武の国との、初めての、出会い。
それは——力比べから、始まって。
今は——友情に、変わっていた。
「アルク」ヴィナが、言った。「いい、出会いだったな」
「ああ」アルクは言った。「ガラントとは——いい、友に、なれそうだ」
星空の下。
アステリアに——また一つ、大きな、縁が、結ばれた。
武の国、ガラント。
力を、尊ぶ国が——縁の、強さを、認めた、夜だった。
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