第百二十四話 水の、道
一 ミズチ族、来たる
星見の湖から、戻って——数日後。
約束通り、ミズチ族が——アステリアに、やってきた。
年長者と、子供たち。十数人ほどの、一団。彼らは、水辺を、離れるのが、不安なのか、特製の、水を、満たした、小さな器を、抱えて、おそるおそる、町に、入ってきた。
「ようこそ、アステリアへ!」ネッサが、笑顔で、迎えた。
ミズチ族が——町を、見て、目を、丸くした。
「これが——アステリア」年長者が、つぶやいた。
「賑やかね……。こんなに、たくさんの、種族が、一緒に」
ちょうど、コダマ族の、子供たちが、駆け寄ってきた。
「わあ、青くて、きれい!」コダマ族の子が、ミズチ族の子を、見て、言った。
「あなたたち、緑の、角が、あるのね!」ミズチ族の子が、言った。
子供たちは——種族の、違いなど、気にせず。すぐに、仲良く、なった。
「子供は、早いな」ヴィナが、苦笑した。
アルクは、微笑んだ。「これが——アステリアだ」
二 水が、足りない
だが——一つ、問題が、あった。
ミズチ族は——水の、生き物。長く、水を、離れていると、体が、乾いて、弱ってしまう。
「すまない」年長者が、申し訳なさそうに、言った。「楽しいのだが——わたしたちは、水辺を、離れて、長くは、いられない。そろそろ——湖に、戻らないと」
「そうか——」アルクは言った。「それは、困ったな。せっかく、仲良くなれたのに。
——町に、長く、いられないのか」
「ええ」年長者は言った。「だから——わたしたちは、いつも、湖から、出られなかった。他の種族と、交わることも、できずに」
ミズチ族の、子供たちが——名残惜しそうに、コダマ族の子と、別れを、惜しんでいた。
「また、遊べる?」コダマ族の子が、聞いた。
「うん——でも」ミズチ族の子は、悲しそうに、言った。「湖まで、遠いから……」
その光景を見て——アルクは、考えた。
ミズチ族が、町に、来られない。湖が、遠い。
なら——町と、湖を、繋げばいい。水で。
「ミズチ族のみんな」アルクは言った。「もし——町と、星見の湖を、水で、繋いだら。いつでも、行き来、できるか?」
「水で——繋ぐ?」年長者が、言った。
「澄んだ、水の、道を、作る」アルクは言った。「お前たちが、泳いで、町まで、来られる、水の道を。
——どうだ?」
ミズチ族が——目を、見開いた。
「そんなことが——できるの?」
「できる」アルクは言った。「俺の——《創生》なら」
三 水の街道
アルクは——リィナ、カイン、ドルムたちと、計画を、立てた。
「星見の湖から、アステリアまで」カインが、《叡智の設計者》で、最適な、経路を、描いた。「リィナの、地形の、見立てを、活かして——自然に、水が、流れる、経路を、引く」
「湖が、町より、高い位置に、あります」リィナが、言った。「だから——水は、自然に、町へ、流れます。ポンプは、要りません」
「水路の、幅は——ミズチ族が、泳げるように、広く」アルクは言った。「深さも、十分に。
——ただの、水路じゃない。水の、街道だ」
「面白い!」ドルムが、腕を、まくった。「水の、道とは——前代未聞だ! 我ら職人の、腕の、見せどころよ!」
そして——ミズチ族の、知恵も、加わった。
「水を、清らかに、保つには——」ミズチ族の年長者が、言った。「ところどころに、水を、浄化する、石を、置くといい。わたしたちが、水を、清める技を、使えば——その水路は、ずっと、澄んだまま、保てる」
「ミズチ族の、力で——水が、清らかに」アルクは言った。「それは、いいな。——町に、清らかな水が、流れれば。住民も、潤う。畑も。星の雫の、果実も」
四 創る、繋ぐ
工事が、始まった。
ガドルが、《開拓の豪傑》で——湖から、町までの、経路を、ならした。岩を、砕き、大地を、整える。
「いくらでも、ならしてやる!」ガドルは、豪快に、言った。
アルクが——《創生》で、水路を、創った。ミズチ族との、縁で、解放された、「水の創造」の力を、使って。
ただの、溝では、なかった。
澄んだ、青い、石で、縁取られた、美しい、水の道。広く、深く、ミズチ族が、ゆったりと、泳げる、水路。
ミズチ族が——その水路に、水を、満たし、清める技を、かけた。すると——水路の水が、星見の湖と、同じ、清らかな、輝きを、放った。
「……できた」アルクは、額の、汗を、拭った。
星見の湖から——アステリアまで。
一本の、清らかな、水の街道が——繋がった。
「やってみるね!」ミズチ族の、子供が——水路に、飛び込んだ。
そして——すいすいと、泳ぎ始めた。湖から、町まで。水の道を、通って。
「着いた——!」子供が、町の、水路の、終点で、顔を、出した。「湖から、町まで、泳いで、来られた——!」
「やった——!」コダマ族の子供たちが、喜んだ。
「これで、いつでも、遊べる——!」
ミズチ族の子も、喜んだ。
五 水辺の、庭
水の街道は——町に、たくさんの、恵みを、もたらした。
ミズチ族が、いつでも、町に、来られるように、なった。彼らは、水路を、泳いで、町を、訪れ、コダマ族や、人間と、交流した。
そして——ミズチ族が、清めた、湖の水は。
ただの、水では、なかった。
「この水——疲れが、取れる」住民の一人が、水路で、手を、洗って、言った。「不思議と、体が、軽くなる」
「星見の湖の、水は——清らかな、魔力を、含んでいるの」ミズチ族の年長者が、言った。「だから——癒しの、力が、ある。疲れた、体を、癒す」
「それは——すごいな」アルクは言った。「町中に、癒しの水が、流れる、ってことか」
さらに——その水を、畑に、引くと。
作物が——より、豊かに、実った。星の雫の、果実も——香りが、より、高く、なった。
「星の雫の、品質が——上がりました」ネッサが、商会の、帳簿を、見て、言った。「ミズチ族の、水のおかげです! もっと、美味しく、なったって、評判です!」
そして——アルクは、水の街道の、途中に、特別な場所を、創った。
コダマ族の、緑と、ミズチ族の、水が、融合した——水辺の、庭。
澄んだ、水路の、ほとりに、コダマ族が、育てた、花や、木々が、茂り。水辺には、ミズチ族が、憩い、木陰には、人間や、コダマ族が、くつろぐ。
多種族が——一緒に、憩える、庭。
「いい、場所だな」ヴィナが、水辺の庭で、言った。「水と、緑と——みんなが、いる」
「ああ」アルクは言った。「これが——アステリアの、形だ。いろんな種族が、それぞれの、力を、持ち寄って。一緒に、潤う。——共に、生きる」
六 繋がる、縁
水の街道が、完成し——ミズチ族が、正式に、アステリアの、仲間に、加わった。
「アルク」ミズチ族の年長者が、言った。「ありがとう。——あなたのおかげで、わたしたちは、湖から、出られた。他の種族と、交われた。長い、孤独が——終わった」
「礼は、いらない」アルクは言った。「お前たちの、水を清める力が——町を、潤してくれてる。お互い様だ」
「いいえ」年長者は言った。「あなたは——わたしたちに、居場所を、くれた。それは——何にも、代えがたい」
その時。
アルクの肩で——エニが、光の輪を、回した。
『……縁が、また、深まった』エニが、言った。『コダマ族。ミズチ族。故郷の、人々。帝国の、民。——アステリアは、たくさんの、縁で、結ばれた、町に、なった』
「ああ」アルクは言った。「与えるほど——縁が、増える。縁が、増えるほど——町が、豊かになる」
『そして——お前自身も』エニは言った。『お前の《創生》は——縁と共に、どんどん、大きくなっている。今のお前なら——いつか、もっと、遠くまで、繋げるかもしれない』
「遠くまで——?」アルクは言った。
『水の道を、引いたように』エニは言った。『いつか——空間そのものを、繋ぐことも。離れた、場所と、場所を。あるいは——世界と、世界を、もっと、自由に』
「世界と、世界を——」アルクは、つぶやいた。「そうなれば——故郷との、行き来も、もっと、楽に、なる」
『焦らず、縁を、結んでいけ』エニは言った。『その先に——お前の、力の、本当の、形が、ある』
「ああ」アルクは、頷いた。
星見の湖から、流れる、清らかな、水。
その水で、潤う、町。
水辺の庭で、憩う、多種族の、人々。
アステリアは——また一つ、豊かに、温かく、なった。
水の、縁で。




