第百二十三話 湖の、ほとりで
一 未知への、誘い
町が、落ち着いた、ある日。
リィナが、アルクに、提案した。
「アルク」リィナは言った。「一つ、相談が」
「なんだ?」
「アステリアの、周りには
——まだ、誰も、足を踏み入れていない、土地が、広がっています」リィナは言った。「《探究の賢者》で、感じるんですが——西の方に、大きな、水の、気配が、あります。おそらく
——湖です。それも、かなり、大きい」
「湖か」アルクは言った。
「探索して、みたいんです」リィナは言った。
「新しい土地には——新しい資源が、あるかもしれない。新しい、生き物も。——アステリアの、発展のためにも、周辺を、知っておくべきです」
「それに——」リィナは、少し、目を、輝かせた。
「単純に——未知の土地は、興味深いです。データの、宝庫、ですから」
「リィナらしいな」アルクは、笑った。「よし——探索に、行こう」
二 探索隊
探索隊が、組まれた。
アルク、ヴィナ、ネッサ、リィナ。守り手たち。そして——ギルドの、冒険者が、数人。
「留守は——任せろ」ガレオが、言った。防衛隊長として。「町は、俺と、ライナさんで、守る」
「頼んだ、ガレオ」アルクは言った。
西へ、向かって——半日。
リィナの、予感は——当たっていた。
森を、抜けると——そこに。
広大な、湖が——広がっていた。
「うわあ——!」ネッサが、声を、上げた。
「きれい——!」
澄み切った、湖。水面は、空を、映して、青く、輝いている。湖の、周りには、色とりどりの、花が、咲き、清らかな、空気が、満ちていた。
「澱みが——まったく、ない」リィナが、言った。「これほど、清らかな、水は——故郷では、見たことが、ありません」
「すごい、場所だな」アルクは言った。
三 水辺の、住人
湖の、ほとりを、歩いていると——ネッサが、何かに、気づいた。
「あ——アルクさん」ネッサが、小声で、言った。
「あれ——見てください」
湖の、浅瀬。
そこに——小さな、生き物たちが、いた。
人のような、姿。だが——背は、コダマ族より、さらに、小さい。肌は、水のように、透き通り、淡く、青く、光っている。背中には、魚の、ひれのような、薄い、膜があり、頭には、貝殻のような、飾りが。
水辺で——楽しそうに、戯れていた。
「水の——精霊?」ヴィナが、つぶやいた。
『……敵意は、ない』エニが、言った。『あの者たちからも、澱みは、感じない。穏やかで
——純粋な、生命だ。長く、この湖で、静かに、暮らしてきた』
「コダマ族とは、また、違う種族か」アルクは言った。
その時。
水辺の、生き物の、一匹——小さな、子供が、岩場で、足を、滑らせた。深い、ところへ、落ちそうに、なる。
「危ない——!」ネッサが、叫んだ。
だが——その子は、水の、生き物。水の中なら、平気かと、思いきや——その、子供は、まだ、泳ぎが、苦手なのか、深みで、もがいた。
「あたしが——!」ネッサが、駆けようとした。
だが——その前に。
アルクが——動いていた。
四 手を、伸ばす
アルクが、湖に、飛び込み——もがく、子供を、抱き上げた。
「大丈夫か」アルクは言った。
水の、子供が——きょとんと、アルクを、見た。それから——こくり、と、頷いた。
アルクは、その子を、岸に、運んだ。ルミの、回復の光で、温めながら。
その様子を——水辺の、生き物たちが、遠くから、緊張して、見ていた。見知らぬ、来訪者を、警戒して。
だが——アルクが、子供を、優しく、岸に、下ろし、傷が、ないか、確かめるのを見て。
彼らの、警戒が——少しずつ、解けていった。
一匹の、年長らしい、生き物が——おずおずと、近づいてきた。
「……あなたは」その生き物が、言った。エニの、縁の力で、言葉が、通じた。鈴のような、澄んだ声。
「この子を——助けて、くれた」
「ああ」アルクは言った。「足を、滑らせて、落ちそうだったから。——もう、大丈夫だ」
「ありがとう……」年長の生き物は言った。
「あなたたちは——悪い者では、ないのね。わたしたちを——傷つけに、来たのかと」
「まさか」アルクは言った。「俺たちは——この近くで、国を、築いている。この、湖を、見に、来ただけだ。——あなたたちが、いるなら、なおさら、仲良く、したい」
五 ミズチ族
「わたしたちは——ミズチ族」年長の生き物は言った。「この、星見の湖で、長く、暮らしてきた。
——だが、数は、少なく、力も、弱い。だから、いつも、ひっそりと、隠れて、生きてきた」
「星見の湖——きれいな、名前ですね」ネッサが、言った。
「夜に、なると——湖面に、満天の星が、映るの」ミズチ族の、年長者は言った。「だから——星見の湖」
「素敵です——!」ネッサが、目を、輝かせた。
「あなたたちの、国は——どんな、ところ?」ミズチ族の、子供たちが、興味津々で、聞いてきた。
「賑やかで、温かい、町だ」アルクは言った。「いろんな、種族が、一緒に、暮らしてる。コダマ族も、いる。故郷から、来た、人たちも。——みんな、笑って、暮らしてる」
「いろんな、種族が——一緒に?」ミズチ族の、年長者は、驚いた。「争わずに?」
「ああ」アルクは言った。「争う、理由が、ない。
——みんなで、与え合えば、争いなんて、起きない。よかったら——あなたたちも、遊びに、来ないか? もちろん、無理にとは、言わない。でも——仲良く、できたら、嬉しい」
ミズチ族の、年長者は——仲間たちと、顔を、見合わせた。
「……行ってみたい」子供たちが、言った。「賑やかな、町——見てみたい!」
「こら」年長者が、たしなめた。だが——その目も、少し、楽しそうだった。「……でも、そうね。あなたの、温かさを、信じてみたい。——わたしたちも、本当は、寂しかった。この、広い湖で、少ない仲間だけで」
六 新たな、縁
その時。
アルクは——自分の中で、《創生》が、また、解放されるのを、感じた。
『……アルク』エニが、言った。『今、ミズチ族と、縁が、結ばれた。——お前の《創生》が、また一段、解放された』
「ミズチ族の、知恵が——加わったのか」アルクは言った。
『そうだ』エニは言った。『ミズチ族は——水を、操り、清める技に、長けている。その知恵が——お前の創造に、加わった。お前は——水の知恵に、関わる、新たなものを、創れるように、なった』
「水の——アルクは、湖に、手を、かざした。試しに。
すると——湖の水が、応えるように、清らかな、光を、放った。アルクの、《創生》が、水と、響き合った。
「これは——アステリアの、水の、暮らしを、もっと、豊かに、できる」アルクは言った。「噴水も、水路も。——もっと、いいものが、創れそうだ」
「アルクさん、すごいです!」ネッサが、言った。
「ミズチ族のみなさんと、仲良くなったら——町が、もっと、潤いますね!」
ミズチ族の、年長者が——アルクに、言った。
「アルク、と言ったね」年長者は言った。「あなたの、町に——一度、行ってみたい。そして——もし、本当に、温かい場所なら。わたしたちも——仲間に、加わりたい」
「ああ」アルクは、笑った。「いつでも、歓迎する。——星見の湖の、みんなと、仲良くなれて、嬉しいよ」
七 湖面の、星
日が、暮れて。
探索隊は、その夜、湖の、ほとりで、野営した。ミズチ族も、一緒に。
ネッサが——湖の、幸を、料理した。ミズチ族が、分けてくれた、湖の、恵み。
「うまい——!」冒険者たちが、舌鼓を、打った。
そして——夜が、更けると。
星見の湖の、名の通り。
湖面に——満天の、星が、映った。
空の星と、湖の星が——上下で、瞬き、まるで、星の、海の中に、いるようだった。
「……きれい」ネッサが、つぶやいた。「こんな、きれいな、景色——初めて、見ました」
「ああ」ヴィナが、言った。「アステリアの、星空も、きれいだが——これは、また、格別だな」
ミズチ族の、子供たちが、湖面で、泳ぎ、星の、反射を、揺らして、遊んでいた。
アルクは——その、星の、海を、見つめて、思った。
新しい世界には——まだ、こんなにも、美しい場所が、あり。
まだ、見ぬ、種族が、いて。
まだ、結べる、縁が、たくさん、ある。
「アルクさん」ネッサが、隣に、来た。「この、湖
——アステリアの、みんなにも、見せたいです」
「ああ」アルクは言った。「ミズチ族のみんなが、来てくれたら——この、星見の湖のことも、教えてくれるだろう。——縁が、また、広がる」
「楽しみですね」ネッサが、笑った。
「ああ」アルクは、星の海を、見つめた。「——まだまだ、楽しいことが、ありそうだ」
星見の湖の、ほとりで。
新しい、縁が——また一つ、結ばれた。
アステリアの、世界は——少しずつ、広がっていく。
星のように——たくさんの、縁を、結びながら。




