第百二十二話 守る者たちの、朝
一 戦いの、後で
総力戦の、翌朝。
アステリアは——傷を、負いながらも、無事だった。
北側の、城壁の、あった場所。バルガの、光の城壁が、消えた後には——魔獣との、激戦の、跡が、残っていた。崩れた、岩。抉れた、大地。
住民たちが、片付けを、始めていた。だが
——その顔は、暗く、なかった。むしろ、晴れやかだった。町を、守り抜いた、誇りが、あった。
アルクが、その様子を、見回っていると——ヴィナが、声をかけてきた。
「ヴィナ」アルクは言った。
「——昨日の、お前の、戦い。見事だったな」
「見ていたのか」ヴィナは言った。
「ああ」アルクは言った。「お前が、いなかったら
——もっと、被害が、出てた」
二 ヴィナの、戦い(回想)
——昨日の、総力戦。
バルガが、城壁で、北を、守り。ガドルが、大地を、操り。リィナが、空を、撃ち。ネッサが、地上を、足止めし。アルクが、巨大魔獣に、向かう。
その、戦いの——もう一つの、最前線。
町の、東側。
城壁の、手薄な、その場所に——魔獣の、別動の、群れが、押し寄せていた。
もし、そこを、抜かれれば——避難する、住民の、ど真ん中だった。
「東は——あたしが、守る!」ヴィナが、叫んでいた。
だが——ヴィナ一人では、数十体の、群れを、抑えきれない。
以前の、ヴィナなら
——一人で、抱え込んで、無理を、しただろう。三年間、一人で、戦ってきた、癖で。
でも——昨日の、ヴィナは、違った。
「ギルドの、みんな!」ヴィナは、近くの、冒険者たちに、叫んだ。「あたしに——力を、貸してくれ!」
ヴィナが——初めて、自分から、仲間を、頼った。
「ヴィナ様!」冒険者たちが、駆けつけた。
「あたしが、前に、出る!」ヴィナは言った。
「お前たちは——あたしの、後ろを、固めろ!
あたしが、崩した敵を、お前たちが、仕留めろ!
——連携で、いくぞ!」
「了解です——!!」
ヴィナの、ギフト——《守護の剣聖》。
古龍ヴェルダが、言った。『お前のギフトは、率いる力だ。一人で戦うな。仲間と、共に戦え』
ヴィナが——カトレアを、構えた。四つの宝石が、輝いた。亡き、仲間の、想いと、共に。
「《守護の剣聖》——陣を、開く!」
ヴィナの、剣から——光が、広がった。
その光が——ヴィナの、後ろの、冒険者たちを、包んだ。
「体が——軽い!」冒険者たちが、驚いた。「力が
——湧いてくる!」
「あたしの、ギフトだ」ヴィナは言った。「あたしの、後ろにいる者は——皆、強くなる。守られながら、戦える。——だから、思い切り、戦え!」
三 率いる、剣聖
ヴィナが——先頭で、魔獣の、群れに、斬り込んだ。
「《双花繚乱》——!!」
ヴィナの、剣が、舞った。魔獣の、群れを、薙ぎ、崩していく。
そして——ヴィナが、崩した、魔獣を。後ろの、冒険者たちが、ヴィナの、ギフトで、強化された、力で——仕留めていった。
ヴィナが、前で、崩し。冒険者たちが、後ろで、仕留める。
完璧な——連携だった。
「すごい——!」冒険者たちが、沸いた。「ヴィナ様の、後ろにいると——こんなに、強くなれる!」
「あたし一人じゃ——この群れは、抑えられなかった」ヴィナは、戦いながら、言った。
「でも——お前たちが、いれば。あたしが、前で、戦い、お前たちが、支える。——だから、守れる」
ヴィナの、剣聖の、陣は——東側を、完全に、守り抜いた。
一体たりとも——住民の方へ、抜けさせなかった。
その、戦いを——傷ついた、冒険者を、庇いながら、ヴィナは、思った。
一人じゃ、ない。
もう——一人で、全部を、背負わなくて、いい。
仲間が、いる。後ろを、任せられる、仲間が。
守りながら——守られている。
「これが——剣聖の、戦い方か」ヴィナは、つぶやいた。「悪く——ないな」
四 誇りを、取り戻す(現在)
「——お前のおかげで、東側は、一人も、欠けなかった」アルクは言った。「ギルドの、みんなも、言ってた。『ヴィナ様の、後ろは、最強だ』って」
「……そうか」ヴィナは、少し、照れた。「あたしは——ただ、ヴェルダに、言われたことを、やっただけだ。一人で、戦わずに、みんなと、戦う、って」
「それが、できたのが——お前の、成長だ」アルクは言った。「昔のお前なら——一人で、抱え込んで、無理を、してた。でも、昨日のお前は——自分から、仲間を、頼った。率いた。——立派だったよ」
「アルク……」ヴィナは言った。
「ヴィナ様——!」
その時。
昨日、共に、戦った、冒険者たちが、駆けてきた。
「ヴィナ様! 昨日は、ありがとうございました!」冒険者たちが、言った。「ヴィナ様の、後ろで、戦えて——光栄でした! また、ぜひ、率いてください!」
「お前たち——」ヴィナは言った。
「俺たち——ヴィナ様に、ついていきます!」冒険者たちが、言った。「アステリアの、剣聖に!」
「……剣聖、か」ヴィナは、苦笑した。「大げさな、肩書きだ。——でも」
ヴィナが——少し、笑った。
「ああ。——一緒に、戦おう」ヴィナは言った。「お前たちと、一緒なら——あたしは、もっと、強くなれる」
冒険者たちが——歓声を、上げた。
アルクは、その光景を、見て、微笑んだ。
元・一匹狼の、銀の剣士が
——今は、仲間を、率いる、剣聖に、なっていた。
五 ガレオ、防衛隊長に
復興が、進む中。
カインが、アルクに、提案した。
「アルク」カインは言った。「昨日の、総力戦で、わかったことが、あります。アステリアには
——きちんとした、防衛の、組織が、必要です」
「防衛の、組織?」
「ええ」カインは言った。「ネブロスの脅威は
——これから、増す。今回は、なんとか、退けましたが——次は、もっと、大きいかもしれない。だから
——常に、町を、守る、備えが、要ります」
「なるほど」アルクは言った。「防衛隊、か」
「そして——」カインは言った。「その、防衛隊の、隊長に、ふさわしい者が、います」
「誰だ?」
「ガレオです」カインは言った。
アルクは——少し、驚いた。
「ガレオを?」アルクは言った。
「ええ」カインは言った。「彼は——元・帝国兵で、戦いの、経験が、豊富です。そして——昨日、子供たちを、命がけで、守った。彼の、《守りの誓い》のギフトは——まさに、町を、守るためのもの。何より——彼には、『誰一人、失わせない』という、強い、信念が、ある」
「確かに——適任だな」アルクは言った。
「でも——本人が、受けるか」カインは言った。「彼は、まだ、自分に、自信が、ない。元・敵だった、負い目も、ある」
六 隊長の、任命
アルクは——ガレオを、呼んだ。
「ガレオ」アルクは言った。「お前に——頼みたいことが、ある」
「なんでしょう、アルクさん」ガレオは言った。
「アステリアの、防衛隊を、作る」アルクは言った。「その、隊長を——お前に、頼みたい」
ガレオが——目を、見開いた。
「俺が——隊長?」ガレオは、慌てた。「い、いや
——俺なんかに、そんな、大役は。俺は——元・敵で、片腕も——」
「片腕じゃ、ない」アルクは言った。「俺が、与えた、義手が、ある。両手で、戦えるだろう」
「で、でも——」ガレオは言った。
「俺は、昨日、一体、城壁を、抜けさせて
——子供たちを、危険な目に——」
「お前は、その、抜けた魔獣から——子供たちを、守った」アルクは言った。「命がけで。——お前ほど、『守る』ことに、本気な男は、いない。だから
——お前に、頼みたいんだ」
「アルクさん——」
「ガレオ」ライナが、横から、言った。「受けろ」
「ライナさん——」
「お前は——守れる男だ」ライナは言った。
「昨日、それを、証明した。お前の、『もう、誰も、失わない』という、想い。それは——防衛隊長に、一番、必要なものだ。——俺も、副官として、支える。だから——受けろ」
ガレオが——しばらく、黙っていた。
そして——義手を、握りしめた。アルクが、与えた、温かい手を。
「……わかりました」ガレオは言った。「お受け、します。アステリアの、防衛隊長を。——俺、命がけで、この町を、守ります。誰一人——失わせない。それが、俺の——生きる、理由です」
「ありがとう、ガレオ」アルクは言った。
「ガレオ兄ちゃん、隊長だって——!」子供たちが、喜んだ。「かっこいい——!」
「ああ」ガレオは、子供たちに、微笑んだ。「お前たちは——俺が、守るからな」
元・帝国兵の、ガレオが——アステリアの、防衛隊長に。
ライナが、副官に。
二人の、元・帝国兵が——今、町を、守る、要に、なった。
七 備えと、希望
その後。
アルクは——《創生》で、町の、防衛を、強化した。
北側だけでなく、町の、四方に
——いざというときに、バルガの城壁を、補助する、石の、防壁の、基礎を、創った。見張り台も、いくつか、増やした。
リィナが、《探究の賢者》で——地脈の、淀みを、探知する、仕組みを、考えた。
「これで——亀裂が、できる前兆を、察知できます」リィナは言った。「ネブロスの魔獣が、漏れ出す前に——備えられる」
「さすが、リィナ」アルクは言った。
防衛隊が、組織され。備えが、整い。
アステリアは——戦いを、経て、また一段、強い町に、なった。
「アルク」ヴィナが、言った。「いい、町に、なってきたな」
「ああ」アルクは言った。「みんなで——強く、なってる」
「次に、ネブロスが、来ても——今度は、もっと、うまく、守れる」ヴィナは言った。
「ああ」アルクは言った。「でも——」
アルクは、北の、地平線を、見た。地底に、眠る、脅威の、方を。
「ずっと、守ってるだけ、ってのも
——違う気がする」アルクは言った。「いつかは
——こっちから、ネブロスの、根源に、立ち向かわなきゃ、ならない。でも、その前に——もっと、知らなきゃ。この、新しい世界のことを。仲間のことを。
——力を、蓄えなきゃ」
「焦らなくていい」ヴィナは言った。「一歩ずつ、だ」
「ああ」アルクは言った。「そうだな」
復興を、終えた、アステリア。
その、強く、温かい町に——新しい、朝日が、差していた。




