第百二十一話 みんなで、守る
一 城壁、立つ
魔獣の、群れが——アステリアに、迫った。
「《不落の城壁》——!!」
バルガが、ギフトを、発動した。
町の、北側に——巨大な、光の城壁が、立ち上がった。今までより、ずっと、大きく、ずっと、堅固に。古龍の、稽古で、ギフトの、底力を、引き出した、バルガの、城壁だった。
魔獣の、群れが——その城壁に、殺到した。
ドゴオオオン、と、轟音。
だが——城壁は、揺らがない。
「ここは——通さん!」バルガが、咆えた。「俺が
——城だ!」
そして——バルガは、稽古で、覚えた、新しい力を、使った。
「受けた力を——返す!」
城壁が、魔獣の、突進を、受け止め——その衝撃を、溜め、跳ね返した。
光の、衝撃波が——城壁に、群がる、魔獣を、薙ぎ払った。
「すげえ——!」ギルドの、冒険者たちが、沸いた。
「あの、大男一人で——群れを、止めてる!」
二 大地と、雷
「だが——数が、多い!」ガドルが、叫んだ。
「城壁を、回り込もうとしてる!」
「させるか!」ガドルが、ヴェルグリンドを、地面に、叩きつけた。
「《開拓の豪傑》——大地よ、立て!」
稽古で、覚えた、新しい力。
ガドルの、足元から——大地が、隆起した。岩の、壁が、せり上がり、魔獣の、回り込む、進路を、塞いだ。さらに、地面が、割れ、落とし穴が、魔獣を、飲み込んだ。
「大地を——操る!」ガドルは、豪快に、笑った。
「これが——俺の、開拓の力だ!」
「ガドルさん、戦場を、創り変えてます!」ネッサが、言った。
空からは——飛行する、魔獣も、いた。
「上は——私です」リィナが、トニトルスを、掲げた。
「《探究の賢者》——解析」
リィナの、目が——魔獣を、見抜いた。一体、一体の、弱点を。澱みの、核の、位置を。
「見えました」リィナは言った。「全部——弱点が、見えてる」
「《嵐の瞬獄雷・極》——必中!」
リィナの、雷が——飛行する魔獣の、弱点を、寸分違わず、撃ち抜いた。一撃で、一体ずつ、確実に。
「データの、極致です」リィナは、冷静に、言った。「外しません」
三 命を、育む
「地上の、魔獣が——城壁の、隙間から!」カインが、叫んだ。
「あたしが——足止めします!」ネッサが、前に、出た。
「《豊穣の招来者》——大地の恵みよ!」
稽古で、覚えた、新しい力。
ネッサが、地面に、手を、かざすと——大地から、無数の、青い蔓が、伸びた。蔓が、魔獣の、足を、絡め取り、その動きを、止めた。
「コレン! アクオス!」ネッサが、召喚獣を、呼んだ。
白銀のコレンと、青い水竜アクオスが、現れた。
「《絆炎・黄金奏》!」コレンの、黄金の炎が、魔獣を、焼いた。
「アクオス、お願い!」アクオスの、清らかな水が、味方を、癒し、守った。
「優しい力こそ——強い」ネッサは、古龍の言葉を、思い出して、微笑んだ。「あたしも——みんなを、守れる!」
四 ガレオの、初陣
その時。
城壁の、一角が——魔獣の、猛攻で、ひび割れた。
「しまった——!」バルガが、呻いた。「一体——抜けた!」
抜け出した、魔獣が——避難する、住民の、方へ、向かった。コダマ族の、子供たちの、方へ。
「危ない——!!」
子供たちが、逃げ遅れた。魔獣の、爪が——子供たちに、迫る。
その時。
「させるかあああ——!!」
ガレオが——飛び込んだ。
両手の、剣で——いや。
《創生》で、与えられた、義手で——子供たちを、庇うように、立ちはだかった。
「《守りの誓い》——!!」
ガレオの、ギフトが、発動した。
ガレオの、体から——淡い、光が、広がり、子供たちを、包んだ。絶対の、守りの、盾。自らの、命を、賭けた、守り。
魔獣の、爪が——ガレオの、光の盾に、叩きつけられた。
ガレオが——耐えた。義手で、剣を、構え、子供たちを、背に、庇いながら。
「俺は——もう、失わない!」ガレオは、叫んだ。「仲間も! 子供も! 誰一人——失わせるものか!」
ガレオが——両手の、剣で。アルクが、与えた、その手で。
魔獣に——斬りかかった。
ライナに、教わった、剣筋。守るための、剣。
魔獣の、澱みの核を——両手の、二刀が、貫いた。
魔獣が——崩れ、消えた。
「ガレオさん——!」子供たちが、叫んだ。
「もう、大丈夫だ」ガレオは、子供たちを、振り返って、微笑んだ。「俺が——守るからな」
子供たちが——ガレオに、しがみついた。
「ガレオ兄ちゃん——!」
「ああ」ガレオは、義手で、子供の頭を、そっと、撫でた。その手は——温かかった。「もう——怖くない」
五 ライナと、ガレオ
「ガレオ!」ライナが、駆け寄った。「無事か!」
「ライナさん」ガレオは言った。「俺——守れました。今度こそ。誰も——失わずに」
「ああ」ライナは言った。「見事だった。——お前は、立派な、守り手だ」
「ライナさんに——教わったおかげです」ガレオは言った。
「いや」ライナは言った。「お前自身の、強さだ。——お前の、『守りたい』という、想いが。お前を、強くした」
その時——また、魔獣の、群れが、押し寄せてきた。
「まだ——終わっちゃ、いない」ライナは、剣を、構えた。「ガレオ。——背中を、預ける。共に、戦おう」
「はい——!」ガレオが、両手の、剣を、構えた。
二人の、元・帝国兵が——背中合わせに、戦った。
ライナの、剣と、魔法。ガレオの、二刀と、守りの盾。
二人は——息の合った、連携で、魔獣を、退けていった。かつて、利用され、苦しんだ、二人が。今は——共に、町を、守る、戦士として。
六 賦活師の、力
戦況は——アステリア側に、傾いていた。
だが——その時。
最後に、一際、巨大な、魔獣が——亀裂から、現れた。
今までの、魔獣とは——格が、違った。山のような、巨体。全身から、噴き出す、濃密な、澱み。
「あれは——!」リィナが、息を、呑んだ。「澱みの、密度が——桁違いです! この前の、魔獣の、比じゃ、ない!」
巨大な魔獣が——咆哮した。その声だけで、城壁が、軋んだ。
「アルク——!」ヴィナが、叫んだ。
「ああ」アルクは、前に、出た。「あれは——俺が、やる」
アルクは——リフレインを、握った。そして、《創生》の力を、込めた。
古龍の、稽古を、思い出す。『《創生》を、戦いで、自在に、操れ』
「俺は——もう、咄嗟の、思いつきじゃ、ない」アルクは、つぶやいた。「自在に——創る」
アルクが——思い描いた。
あの、巨大な魔獣の、澱みを、断ち、貫く
——光の、大剣を。
「《創生》——光輪の、大剣!」
リフレインが——眩い、光に、包まれ。巨大な、光の、大剣へと、姿を、変えた。今までより、ずっと、洗練された、自在な、創造。
「みんな——力を、貸してくれ!」アルクは、叫んだ。
「ああ——!!」
エニが、縁の糸で、全員を、繋いだ。仲間たちの、力が——アルクに、流れ込む。ヴィナの、剣聖の力。ネッサの、豊穣の力。バルガの、守り。ガドルの、大地。リィナの、解析。ライナと、ガレオの、覚悟。——町の、みんなの、想い。
アルクの、光の大剣が——一際、眩く、輝いた。
「いくぞ——!!」
アルクが——巨大な魔獣へ、駆けた。
巨大な魔獣が、澱みの、奔流を、放った。
だが——アルクの、光の大剣が、その澱みを、斬り裂いた。
そして——魔獣の、巨体を。
みんなの、想いを、乗せた、一撃が——両断した。
巨大な魔獣が——光に、包まれ、浄化され、消えていった。
七 守り抜いた、町
戦いが——終わった。
魔獣の、群れは——全て、退けられた。
亀裂は——アルクが、《還元》で、澱みを、浄化し、《創生》で、塞いだ。
そして——アステリアは。
誰一人——欠けることなく。守り抜かれた。
「……勝った」ガドルが、息を、整えた。
「みんなで——守り抜いたんですね」ネッサが、涙を、流して、笑った。
住民たちが——避難所から、出てきた。無事だった、町と、自分たちを、守ってくれた、みんなを見て、歓声を、上げた。
「ありがとう——!」「町が、守られた——!」
ガレオが——子供たちに、囲まれていた。
「ガレオ兄ちゃん、かっこよかった——!」
「ああ」ガレオは、義手で、涙を、拭った。
「俺——守れた。今度こそ。誰も——失わずに」
ライナが、ガレオの、肩を、叩いた。
「よくやった、ガレオ」ライナは言った。
「ライナさん——」ガレオは、号泣した。
「俺——アステリアに、来て、よかった。皆さんに、会えて——よかった。手を——もらえて、よかった。俺、初めて——誰かを、守れたんです。仲間の分まで——」
「ああ」ライナは言った。「お前の、死んだ仲間も——きっと、喜んでる」
アルクが——近づいた。
「ガレオ」アルクは言った。「その手——役に、立ったか?」
「はい——!」ガレオは、義手を、見つめた。「この手で——守れました。あなたが、くれた、この、温かい手で。——ありがとう、ございます、アルクさん。本当に——ありがとう」
「礼は——いらない」アルクは、微笑んだ。「お前が、大切なものを、守れた。——それが、一番、嬉しい」
八 星空の、誓い
その夜。
町を、守り抜いた、祝いの宴が——開かれた。
ネッサの、ごちそう。星の雫。歌と、竪琴。笑い。
ガレオも——その、真ん中で、笑っていた。子供たちに、囲まれて。仲間に、囲まれて。
「アルク」ヴィナが、隣に、来た。「今日は
——いい、戦いだった」
「ああ」アルクは言った。「みんなで——守り抜いた」
「ガレオも——立派だったな」ヴィナは言った。
「義手で、子供を、守って。——お前が、与えた手で」
「ああ」アルクは言った。「あいつは——もう、立派な、アステリアの、仲間だ」
アルクは——宴を、見渡した。
ガレオ。ライナ。元・敵だった者たちが——今、町の、みんなと、笑っている。
与えることで、結ばれた、縁。それが——傷を、癒し、人を、繋ぎ、町を、守る、力に、なっていた。
「アルク」ヴィナは言った。「お前は——本当に、すごいな」
「俺じゃ、ない」アルクは言った。「みんなだ。——みんなで、守った。みんなで、創った。だから——強い」
星空の下。
アステリアの、灯が——今夜も、温かく、瞬いていた。
まだ、地底には——ネブロスの脅威が、眠っている。防壁は、揺らぎ続けている。
でも——アステリアは、もう、無力な、町じゃ、ない。
みんなで、守り、みんなで、創る——強い、町に、なっていた。
一つ、また一つと——灯が、増えていく。
星の女神に、見守られた、希望の国。
その物語は——まだ、始まったばかりだった。




