第百二十話 与えられた、手
一 ガレオの、悩み
ガレオが、アステリアの、仲間に、なって。
ライナとの、特訓は、続いていた。ガレオの、片腕での、剣筋は、日に日に、鋭く、なっていた。
だが——ある日。
アルクは、ガレオが、訓練場の、隅で、なくなった右腕を、見つめて、ため息を、ついているのを、見つけた。
「ガレオ」アルクは、声をかけた。「どうした」
「あ——アルクさん」ガレオは、慌てて、姿勢を、正した。「いえ——なんでも」
「腕のこと、か」アルクは言った。
ガレオが——少し、俯いた。
「……はい」ガレオは言った。「片腕での、戦い方は——ライナさんが、教えてくれて。少しずつ、できるように、なってきました。でも——」
「でも?」
「やっぱり——両手が、あれば、と。思ってしまうんです」ガレオは言った。「剣を、握りながら、盾も、持てる。誰かを、抱えて、運べる。——できることが、増える。守れる、ものが、増える。——欲張りですよね。受け入れて、もらっただけでも、ありがたいのに」
「欲張りじゃ、ない」アルクは言った。
「え?」
「もっと、守りたい、と思うのは——優しさだ」アルクは言った。「ガレオ。——ちょっと、待ってろ」
アルクは——自分の、手のひらを、見つめた。
《創生》。与えたものに、形を与え、役割を与える力。
古龍ヴェルダの、言葉を、思い出す。『《創生》は、お前の、心の、写し鏡だ。何を、与えたいと、願うか。それが、そのまま、形に、なる』
「俺は——」アルクは、つぶやいた。「ガレオに、もう一度、両手で、大切なものを、守ってほしい」
二 《創生》、新たな段階
「ルミ。アルファ。キラ」アルクは、守り手たちを、呼んだ。「みんなの、力を、貸してくれ」
「うん」ルミが、頷いた。
『なんや、アルク、本気の顔やな』アルファが、言った。
『キラも、手伝う!』キラが、言った。
アルクは——ガレオの、なくなった右腕に、手を、かざした。
目を、閉じる。思い描く。ガレオの、失われた手を。もう一度、剣を、握り、盾を、持ち、誰かを、抱きしめられる、温かい手を。
「《創生》——」アルクは、念じた。
光が——ガレオの、肘から、先に、集まった。
その光が——ゆっくりと、形を、成していく。
手の、形に。指の、一本、一本まで。
「これは——!?」ガレオが、目を、見開いた。
光が、収束し——そこに、一本の、義手が、現れた。
精巧な、義手。青白い、輝きを、宿した、美しい造形。だが——ただの、作り物では、なかった。
「動かしてみろ」アルクは言った。
ガレオが——おそるおそる、その、義手の指を
——動かそうと、念じた。
すると——義手の、指が。
ぴくり、と——動いた。
「う——動いた!?」ガレオが、震える声で、言った。「俺の、意志で——動いてる!?」
「ああ」アルクは言った。「ルミの、空間の力と、アルファの、付与と、キラの、創造の力。それを、俺の《創生》で、束ねた。
——その義手は、お前の、魔力と、繋がってる。お前の、手の、代わりに、動く」
『縁の糸で、繋いだの』ルミが、言った。『その手と、ガレオの、心を。だから——ガレオの、思った通りに、動く。本当の、手みたいに』
ガレオが——義手の、指を、ゆっくりと、開いて、閉じた。何度も。何度も。
「手が——」ガレオは、涙を、流した。「俺に、手が——戻ってきた」
三 手の、温もり
「アルクさん——」ガレオは、号泣しながら、言った。「なぜ、ここまで——こんな、俺に。腕を、失った、元・敵の、俺に——手を、与えてくれるんですか」
「あんたが——もっと、守りたい、と願ったからだ」アルクは言った。「その願いは——叶えるべきものだ。俺の力で、叶えられるなら——叶える。それだけだ」
「でも——これは」ガレオは言った。「これは、あなたの、大切な力で——」
「力は、使うためにある」アルクは言った。「誰かのために、与えるために。——ガレオ。その手で、大切なものを、守ってくれ。それが——俺への、礼だ」
ガレオが——義手で、自分の、顔の、涙を、拭った。
その、義手の、指が——確かに、頬の、涙の、温もりを、伝えた。
「……温かい」ガレオは、つぶやいた。「義手なのに——温もりが、わかる」
『その手は——アルクの、心が、創った手だから』エニが、言った。『冷たい、作り物では、ない。アルクの、「お前に、もう一度、守る喜びを」という、想いが、込められている。だから——温かい』
「アルクさんの、想いが——込められた、手」ガレオは、義手を、見つめた。「俺は——この手で。今度こそ——守ります。アステリアを。仲間を。
——誰一人、失わせない」
ガレオが——義手で、剣を、握った。両手で、しっかりと。
そして——左手で、もう一本、剣を、握れた。両手の、二刀流。
「ライナさん」ガレオは言った。「俺——両手で、戦えます。これで——もっと、守れる」
「ああ」ライナが、微笑んだ。「お前は——強くなった。心も、腕も」
四 異変の、報せ
その時。
通信玉が——激しく、光った。
いや——故郷からの、通信では、なかった。
アステリアの、見張り台からの、緊急の、報せだった。
「アルク!」ガドルが、駆け込んできた。「大変だ! 北の——角うさぎの谷の、近く! 地面に、亀裂が——いくつも、走ってる! そこから——黒い、靄が!」
「ネブロスの——!」アルクは、立ち上がった。
「それも——一つや、二つじゃ、ない!」ガドルは言った。「いくつもの、亀裂から——魔獣が、出てきてる! 群れだ!」
「群れ——」ヴィナが、剣を、握った。「この前は、一体だったのに」
『……女神様が、言っていた』エニが、言った。『防壁が、揺らいでいる、と。——綻びが、広がったんだ。一体ずつでは、なく——群れで、漏れ出してきている』
「町に——向かってるのか?」アルクは言った。
「ああ」ガドルは言った。「まっすぐ——アステリアへ!」
アルクは——仲間たちを、見渡した。
「総力戦だ」アルクは言った。「町を、守るぞ。
——全員で」
五 守りの、陣
「カイン!」アルクは言った。「防衛の、指揮を、頼む!」
「了解です」カインが、《叡智の設計者》で、瞬時に、防衛の、配置を、組み立てた。「町の、北側に、防衛線を。住民は、町の、中心へ、避難。ギルドの、冒険者は、各所に、配置。——コダマ族は、子供たちを、守ってください」
「バルガ!」アルクは言った。「城壁を!」
「任せろ」バルガが、ヴェルガルムを、構えた。「町は——俺が、守る」
「ガレオ!」アルクは言った。「お前は——どうする?」
ガレオは——両手に、剣を、握って、立っていた。
「俺は——戦います」ガレオは言った。「いや——守ります。この、手で。あなたが、くれた、この手で。——避難する、住民を。子供たちを。誰一人——失わせない」
「ガレオ……」
「ライナさん」ガレオは言った。「教わったこと
——活かします」
「ああ」ライナは言った。「お前なら、できる。
——隣で、戦おう」
アルクは——仲間たちを、見渡した。
ヴィナ。ネッサ。カイン。ガドル。リィナ。バルガ。ライナ。そして——ガレオ。
守り手たち。コレン。アクオス。
ギルドの、冒険者たち。コダマ族。ドルムたち、職人。——町の、みんな。
「アステリアは——俺たちの、町だ」アルクは言った。「みんなで、創った、町だ。——だから、みんなで、守る!」
「おう——!!」全員が、応えた。
北の、地平線。
黒い靄を、まとった、魔獣の、群れが——アステリアへ向かって、押し寄せてきた。
数十体。いや——百体は、いるかもしれない。
今までで、最大の、脅威。
だが——アステリアも、もう、無力な、町では、なかった。
みんなで、守る、覚悟が——ここに、あった。
「来るぞ——!!」ヴィナが、叫んだ。
「いくぞ、みんな——!!」アルクが、叫んだ。
星の国、アステリアの——最初の、総力戦が、始まろうとしていた。




