⚡️番外編第百十四話 皇帝の、舌【パロディ】⚡️
第百十四話を元にしたパロディ番外編です
一 ガルゼス、来訪
アステリアに、戻ると——意外な、客が、来ていた。
黒い、長衣。以前の、威圧的な、気配は、薄れ、どこか、穏やかに、なっている。
ガルディア帝国の、皇帝——ガルゼスだった。
「皇帝!?」アルクは、驚いた。「来てたのか」
「久しいな、アルク」ガルゼスは言った。「様子を、見に、来た。お前たちの、建国の」
ガルゼスは、アステリアの、町並みを、見渡した。整然とした、家々。賑わう、市場。豊かな、畑。湯けむりの、立つ、大浴場。
「……見事だ」ガルゼスは、しみじみと、言った。
「二百年、玉座から、世界を、見てきた、この私が
——素直に、感嘆する。これほどの、繁栄。これほどの、賑わい。これほどの——」
ガルゼスの、目が、すっと、細まった。
「——絶好の、標的は、ない」
「え?」
「《滅・極大・煉獄崩天砲》——ッ!!!」
「ええええええッ!?」
二 通常防御、木っ端微塵
皇帝の、掌から、極大の、黒い光が、天空に放たれた。
二百年、玉座で、溜め込んだ、全魔力。世界を、三度、滅ぼせるとまで、噂された、帝国最強の、切り札。
天空で集約した魔力が巨大な黒光となってゆっくりと降りてきた——賑わう、中央広場の、ど真ん中へ、一直線に。
「シルフィ!! バルガ!!」アルクが、叫んだ。
「はいぃ、ご主人さまァ!!」シルフィが、即座に、銀の光の壁を、展開した。どんな、魔獣の、一撃も、涼しい顔で、弾く、あの絶対防御。
極大の黒光が、その壁に——ぶち当たった。
——パリィィィン。
「わたしの、絶対防御がァァ!?」シルフィの、壁が、ガラスのように、砕けた。「割れたァァ!? 生まれて、初めてぇぇ!?」
「馬鹿な!?」バルガの、《不落の城壁》も、同時に、展開。国そのものを、守る、光の城壁。
——バキバキバキッ。
「城壁が!! 紙みたいに!!」バルガが、絶叫した。「これは、通常の、守りでは、無理だァァ!!」
「うそだろ!? 二枚とも、一瞬で!?」アルクが、青ざめた。
「ふはははは!!」ガルゼスが、高らかに、笑った。「わが全力!! 通常の、守りで、防げると、思うなよ!!」
「趣味が!! 悪すぎるゥゥ!!」
三 アルク、身を挺す
守りが、砕けた。黒光が、そのまま、街へ——。
アルクは、考えるより、先に、動いていた。
「《創生・大盾》——ッ!!」
賦活師の、力で、光の大盾を、創り、黒光の、前に、割り込む。
「アルク!?」
「シルフィと、バルガの、守りが、砕けたなら
——俺が、代わりに、なる!!」アルクは、大盾を、両手で、支えた。「ぐ——おおおおッ!!」
が、重い。凄まじく、重い。足が、地面に、めり込む。大盾に、ひびが、走る。
「馬鹿!! お前が、正面から、受けたら、死ぬぞ!!」ヴィナが、叫んだ。
「他に、誰が、やるんだ——ッ!!」
「シルフィと、バルガが、いるだろ!!」
「二人とも、守り、砕かれて、ぷすぷす、してる!!」
見ると、シルフィと、バルガが、煙を、吐いて、目を、回していた。
「ごめん、ご主人さまぁ……」「面目、ない……」
「謝ってる場合か!! 立て!! もう一回、張れ!!」
四 ライナ出陣
「——アルク!! 一人で、受けるな!!」
紅蓮の、炎を、まとって。
ライナが、飛び込んできた。皇帝が、それを、見て、にやり、と、笑う。
「ほう。ライナ、ではないか」ガルゼスは言った。
「かつて、我が帝国の、四将が、一人。——今は、賦活師の、犬か」
「犬で、結構だ!!」ライナは、炎の刃で、大盾を、下から、支えた。「あんたの、下で、命令されてた、頃より——今の方が、百倍、いい!!」
「言うように、なったな。昔の、お前は、私の、顔色ばかり、伺う、臆病者だったが」
「今は!! あんたの、顔色より!! この街の、方が!! 大事なんだ!!」ライナが、炎を、爆ぜさせた。「だいたい、なんで、攻撃してるんだ!! さっき、褒めてただろうが!!」
「褒めた。そして、滅ぼしたく、なった。矛盾は、しておらん」
「してるわ!!」
「なかなか言うようになったな。昔の、お前なら、私に、口答えなど、できなかったのにな」ガルゼスが、黒光を、押しながら、楽しそうに、言った。「良い、変わりようだ、ライナ」
「攻防しながら!! しみじみ、するな!!」
「はっはっは!!」
五 女神、審判に、なる(が)
そこへ。
ぽふん、と、星の光が、弾けた。
『あら? みんなで、すっごい光、出してる!? わたしも、まぜて!!』
女神だった。掌を、天空へ掲げかける。
「「「「撃つなァァ!!」」」」
全員が、絶叫した。女神の、全力は、皇帝を、遥かに、超える。街どころか、星が、消える。
「女神!!」アルクが、必死に、頭を、回した。
「審判を、やってくれ!! 俺たちと、皇帝の、真剣勝負だ!! ——公平な、審判は、女神にしか、できない!! そして、審判は、手を、出しちゃ、駄目だ!!」
『……なるほど!! 審判!!』
女神が、ぱっと、目を、輝かせた。
『まかせて!! 審判は、手を、出さない!! それが、ルール!!』
「よし、乗った——」
『あ、でも』女神が、首を、かしげた。『審判って、笛、いるでしょう? ピッ、て』
「え?」
『笛、作るね!! 《女神の、審判笛》!!』
女神が、掌を、掲げた。極大の、聖なる光が
——笛の、形に、集束し始める。
「そんな、大魔力で、笛、作るなァァ!!」アルクが、絶叫した。「街より、でかい、笛が、できる!!」
『えっ、大きすぎ? じゃあ、小さく——』
女神が、慌てて、光を、縮める。逸れた、余波が
——アステリアの、上空を、かすめた。
——ズガアアン。
空に、大穴。雲が、蒸発。遠くの、山が、一つ、消し飛んだ。
「山ァァ!!」ネッサが、絶叫した。
『てへっ、笛の、試作、失敗しちゃった』
「「「「試作で、山を、消すなァァ!!」」」」
六 しっちゃかめっちゃか
もう、完全に、収拾が、つかなかった。
皇帝の、黒光。女神の、暴発する、笛づくり。それを、ひび割れた、大盾で、必死に、支える、アルクと、ライナ。
「リィナ!! 何か、手を!!」アルクが、叫んだ。
「データ的には——女神が、笛を、完成させた、瞬間、この星、終了です」リィナが、手帳を、めくった。「なので、最優先は、皇帝、ではなく、女神の、笛づくりの、阻止」
「わかってるゥゥ!! でも、どうやって!!」
「あたしが、行く!!」ヴィナが、女神に、駆け寄った。「女神!! 審判は、笛じゃ、ない!! 手を、叩くんです!! パンパンって!! その方が、かっこいい!!」
『えっ、そうなの!?』女神が、笛づくりを、やめた。『パンパン!! こう!?』
「そう!! それ!!」
「よし、笛、阻止!!」ライナが、叫んだ。「ヴィナ、機転、冴えてるな!!」
「褒めてる、暇があったら、押せ!!」
その隣で。
ガドルが——コレクションを、抱えて、涙目で、右往左往していた。
「俺の、宝物を、避難させ——って、山が、消える、攻撃だぞ!? どこに、逃がせば、安全なんだ!?」
「宝物たちのことは!! 諦めろ!!」
「諦められるかァァ!! 二十年、集めたんだぞォォ!!」
カインは、猛烈な、勢いで、メモを、取っていた。
「皇帝の、出力。女神の、笛の、魔力量。両方、記録——これは、歴史的、資料だ」
「お前は!! この、状況で!! よく、メモ、取れるな!!」アルクが、叫んだ。
「学者、ですから」
「威張るなあああぁぁぁっぁぁ!!」
ネッサは、握り飯を、握りしめたまま、涙目で、叫んだ。
「あたしの、おにぎり!! まだ、皇帝に、食べさせてないィィ!! 滅ぼされたら、困りますゥゥ!! 一個で、いいから!! 食べてからに、してェェ!!」
「そこか!! 心配、そこか!!」
もぐ太が、アルクの、足元を、ちょろちょろ。角うさぎが、湯船に、次々、ダイブ。そして——星の雫の、樽が、坂道を、ごろごろごろ。
樽が、皇帝の、足元に、ぶつかった。
「ぬおっ」
皇帝が、樽に、つまずいた。黒光が、ぐらり。
「今だァァ!!」アルクと、ライナが、渾身の、力で、押し返した。「「うおおおおッ!!」」
黒光が——ぷしゅう、と、萎んだ。
『はい、そこまでェ!! パンパン!!』女神が、手を、叩いた。『勝者——アステリアチィィム!!』
「判定きたーーっ!!」
七 全員、ぼろぼろ
「ぜ——ぜぇ——ッ」ガルゼスが、樽に、足を、取られたまま、尻もちを、ついた。「な——なぜ、抜けん——二百年ぶんの、全力——」
「樽っっ、ありがとう!!」アルクが、へたり込んで、叫んだ。
「ご、ご主人さまぁ……」シルフィが、煙を、吐きながら、復活した。「わたしの、絶対防御、割れたの、初めてだよぉ……こわかったぁ……」
「よく、頑張った。生きてて、よかった」アルクは、シルフィを、そっと、撫でた。
「えへへ……」
『いやー、いい、審判、できたわ!! パンパン!!』女神が、満足げに、手を、叩いた。
「その、パンパンで、星が、救われたと、思うと……複雑だ……」ライナが、呟いた。
しん、と、静まった、中央広場。空には、女神が、開けた、大穴が、ぽっかり。角うさぎが、湯船から、ぷかぷか。
全員の、視線が——皇帝に、集中した。
八 コホン
ガルゼスが、樽から、足を、抜いた。
ゆっくりと、立ち上がる。長衣の、埃を、はらう。乱れた、髪を、整える。息を、ふう、と、整える。
そして——実に、堂々と。
「……コホン」
皇帝は、言った。
「まあ、冗談は、さておいて」
「「「「「さておくなァァァ!!!」」」」」
全員の、絶叫が、アステリア全土に、響き渡った。
「冗談で!! 街を!! 滅ぼしかけるやつが!! あるかァ!!」アルクが、叫んだ。
「しかも、女神まで、山、消してェ!!」ライナが、続けた。
『ごめんてぇ』女神が、両手を、合わせた。
「二百年ぶんの、本気の、冗談だったぞ」ガルゼスが、しれっと、言った。
「本気じゃ、ねぇか!!」ライナが、怒鳴った。「昔から、あんたの、悪ふざけは、規格外なんだよ!! 覚えてるぞ、四将会議で、いきなり、玉座、燃やしたこと!!」
「あれは、良い、悪ふざけだった」
「良くない!! 三人、失神したぞ!!」
「はっはっは!! お前は、あの時、真っ青に、なって、震えていたな」ガルゼスが、笑った。「だが、今は——私の、悪ふざけに、炎で、応戦してくる。良い、変わりようだ、ライナ」
「……守るものが、できたからな」ライナが、ふい、と、顔を、背けた。
「そうか」ガルゼスは、穏やかに、言った。
「——それが、聞けて、良かった」
ネッサが、ずいっと、前に、出た。握り飯を、皇帝の、鼻先に、突きつける。
「皇帝!! 罰として!! おにぎり、全部、食べてくださいィィ!!」
「……ほう」ガルゼスが、一つ、つまんだ。一口、食べる。
動きが——止まった。
「……っ。——うまい」ガルゼスが、しみじみと、言った。「これは……滅ぼさなくて、正解だったな」
「最初から!! 滅ぼすなァァ!!」
九 まあ、冗談はさておいて(本編にもどろう)
その夜。
ガルゼスを、もてなす、宴が、開かれた。(結局)(山は、女神が、後で、ちゃんと、戻した)
「アルク」ガルゼスが、星の雫を、傾けながら、言った。「——先ほどは、済まなかった。少し、悪ふざけが、過ぎた」
「少しじゃ、ないけどな」アルクは、苦笑した。
「だが——本心も、ある」ガルゼスは言った。「あの、守り。通常の防御が、砕かれても
——お前が、身を、挺し、炎将が、駆けつけ、剣士が、機転を、利かせ、皆で、支え合った。誰、一人、欠けても、防げなかった。あの、結束こそ
——アステリアの、真の、強さだ」
「……皇帝」
「私は、二百年、力を、一点に、集約しようとして、孤立した」ガルゼスは、静かに、言った。「お前たちは、力を、分けて、繋いで、支え合う。
——だから、私の、全力にも、耐えた。その、答え合わせが、したかったのだ」
「試し方が、物騒すぎる」アルクは、笑った。
「はは。それは、認めよう」ガルゼスは、杯を、掲げた。「——だが、見事だった。お前たちなら、いつか来る、本物の、脅威にも、耐えられる。安心したぞ」
「なら、次は、普通に、褒めてくれ。シルフィが、泣いてたぞ」
「善処する。——だが、約束は、できん。皇帝ゆえ、な」
「しろよ!!」
『わたしも、次は、審判、笛なしで、やるって、約束する!』女神が、胸を、張った。
「そこは、審判自体を、卒業してください!!」
星空の下。かつての、皇帝と、その配下だった炎将が、酒を、酌み交わし、笑っている。審判気分の、女神が、パンパン、と、手を、叩いて、遊んでいた。
物騒で、規格外で、しっちゃかめっちゃかで——でも、確かに、温かい、夜だった。
〈おしまい(本編は、第百十五話へ続く)〉




