第百十話 実りの、祭り
一 実りの、季節
大浴場が、できて、半月。
コダマ族と、アルクの《創生》で、肥沃にした畑は——たわわに、実っていた。
黄金色の、麦。色とりどりの、野菜。甘い、果実。アステリアの、最初の、収穫だった。
「すごい、豊作です!」ネッサが、畑を、見渡して、言った。「こんなに、たくさん——!」
「コダマ族の、知恵と」アルクは言った。「アルクの、創生と。リィナの、土地の見立て。
——みんなの、力だな」
「これは——祝わねば、なるまい」コダマ族の、年長者が、言った。「我らの、里では、実りの季節に、感謝の祭りを、する。——アステリアでも、どうだ?」
「祭り!?」ネッサが、目を、輝かせた。「いいですね! やりましょう、祭り!」
「収穫祭、か」アルクは、頷いた。「みんなで、実りに、感謝する。——いいな。やろう」
町中が、祭りの、準備で、沸いた。
二 みんなで、創る
ガドルが、《開拓の豪傑》で、広場の、中央に、大きな、火を焚くための、石組みを、作った。
「祭りといえば、焚き火だ!」ガドルは言った。
「夜通し、燃やすぞ!」
バルガが、竪琴の、調律を、した。
「祭りには、音楽が、要る」バルガは言った。
「俺が、弾こう。ガドルが、歌え」
「任せろ!」ガドルが、胸を、張った。
リィナと、カインは——飾りつけを、考えた。
「交易で、手に入れた、色とりどりの布を、使いましょう」カインが、言った。「広場を、彩れば、華やかに、なる」
「データ的にも、視覚的な、高揚感は、祭りの、満足度を——」リィナが、言いかけて。
「……いえ。単純に、きれいに、したいです」
「リィナさん、また、素直!」ネッサが、笑った。
コダマ族の、子供たちと、移住者の、子供たちが、一緒に、花や、葉っぱで、輪飾りを、作った。
「ライナ兄ちゃん、これ、見て!」子供たちが、ライナに、駆け寄った。
「……ああ」ライナが、輪飾りを、受け取った。
「よく、できている」
「ライナ兄ちゃんにも、あげる!」
子供が、ライナの首に、花の輪飾りを、かけた。
「……っ」ライナが、戸惑った。
「似合うぞ、ライナ」アルクが、笑った。
「……からかうな」ライナは言った。だが、外そうとは、しなかった。
その胸元で——ライナの、小さなギフトの光が、また少し、明るく、なっていた。誰にも、気づかれぬほど、わずかに。
三 祭りの、ごちそう
日が、暮れた。
広場の、焚き火が、赤々と、燃え上がった。
そして——ごちそうが、並んだ。
ネッサが、腕によりをかけた、手料理。収穫したての、野菜の、煮込み。焼きたての、パン。コダマ族、直伝の、木の実の、料理。
それに——アルクの、風呂敷からも、祭りのごちそうが、現れた。
「今日は、特別だ」アルクが、風呂敷を、広げた。 「祭りだからな。——どんと、出すぞ」
風呂敷から、湯気を立てて、次々と、料理が、現れた。串に刺した、香ばしい焼き物。たっぷりの、揚げ物。彩り豊かな、ごはん物。そして、デザートには
——山のような、甘味。ふわふわの、菓子。冷たい、果実の氷菓。
「わあああ!」住人たちが、歓声を、上げた。
「ネッサの手料理と、風呂敷のごちそうが、両方——!」
「こんな、豪華な祭りは、初めてだ!」
住人たちが、笑顔で、ごちそうを、囲んだ。故郷からの、移住者も。コダマ族も。隔てなく、同じ火を、囲んで。
「うまい!」ガドルが、焼き物を、頬張った。
「平和の、味だ」バルガが、煮込みを、すすった。
「バルガさん、祭りでも!」ネッサが、笑った。
「祭りは、平和の、極みだ」バルガは、満足げに、言った。
四 歌と、踊り
食事が、進むと——バルガが、竪琴を、奏で始めた。
ガドルが、立ち上がり——朗々と、歌った。実りを、祝う、古い歌を。
その歌に合わせて——コダマ族が、彼らの、古い踊りを、披露した。素朴で、温かい、土の踊り。
住人たちも、手拍子を、打ち、輪に、なって、踊り始めた。
子供たちが、焚き火の周りを、駆け回る。シルフィと、キラが、その上を、ふわふわと、飛んで、光の尾を、引いた。
『おまつり、たのしー!』シルフィが、はしゃいだ。
『キラも、すきー!』
ルミと、アルファも、ごちそうの、甘味の周りで、いつものように。
『この、氷菓は、うちのや!』アルファが、言った。
「アルファ、さっき、三つ、食べたでしょ」ルミが、言った。
『祭りやから、ええんや!』
「……照れてない」
「だから、その口癖、関係ないって!」周りの住人まで、突っ込んだ。すっかり、町の名物に、なっていた。
五 女神も、踊る
焚き火が、最も、高く、燃え上がった頃。
ぽふん、と——星の光が、弾けた。
『お祭り——!?』
女神だった。
「女神様!」ネッサが、笑った。「いらっしゃい!」
『だって、こんなに、楽しそうな音が、聞こえたら——来ちゃうわよ!』女神は言った。『甘い匂いも、するし!』
「もう、すっかり、常連ですね」アルクは、笑った。
『常連で、いいの!』女神は、いそいそと、甘味を、手に取った。『わたし、この町が、大好きなんだもの』
女神が、ふと、住人たちの、踊りの輪を、見た。
『……ねえ、アルク』女神は言った。『わたしも、混ざって、いい?』
「女神様が、踊るんですか?」アルクは言った。
『だめ?』女神が、小首を、かしげた。
「いえ」アルクは、笑った。「みんな、喜びます」
『やったぁ!』
女神が、踊りの輪に、加わった。星をまとった衣を、ひるがえして。神々しいはずの女神が、住人たちと、手を、繋いで、くるくると、踊る。
住人たちは、最初、恐れ多がっていたが——女神の、屈託のない笑顔に、すぐに、打ち解けた。
「女神様、踊りが、お上手ですね!」
『でしょう? 天上で、こっそり、練習したの!』
焚き火の周りで、人も、コダマ族も、守り手も、女神までも、一緒に、なって、踊った。
その光景を——アルクは、少し、離れて、見ていた。
六 星空の、約束
「一人で、何を、見てる」
ヴィナが、隣に、来た。湯上がりのような、ほてった頬で。踊って、きたらしい。
「みんなを」アルクは言った。「楽しそうだな、と思って」
「ああ」ヴィナは、踊りの輪を、見た。「——いい、祭りだ」
「アルクさーん!」
ネッサも、駆けてきた。輪飾りを、揺らして。
「踊りましょうよ! 二人とも、見てるだけ、ずるいです!」ネッサは言った。
「あたしは、もう、踊った」ヴィナは言った。
「あたしは、まだ、アルクさんと、踊ってません!」ネッサは言った。「ね、アルクさん、一緒に!」
「お、おう」アルクは、戸惑った。「俺、踊り、下手だぞ」
「平気です! 手を、繋ぐだけ!」
ネッサが、アルクの手を、取った。
「あ——ずるい」ヴィナが、ぽつりと、言った。そして、もう片方の手を、取った。「あたしも、踊る」
「ヴィナさんも!?」ネッサが、言った。
「悪いか」ヴィナは言った。少し、顔を、赤くして。
「悪くないです! みんなで、踊りましょう!」ネッサは、笑った。
アルクは、両手を、二人に、引かれて——焚き火の、輪の中へ。
「だから、俺、下手だって——」
「いいんです!」「気にするな!」
二人に、笑われながら、アルクは、ぎこちなく、踊った。
星空の下。焚き火の、温もりの中。
笑い声が、絶えなかった。
アルクは、踊りながら、思った。
何もなかった、荒野に。
今は、こんなに、たくさんの、笑顔が、ある。
与えるだけで、強くなる、なんて、思っていなかった。でも——気づけば、与えたものは、こんなにも、温かい形で、返ってきていた。
「アルクさん、笑ってます!」ネッサが、言った。
「ああ」アルクは言った。「——楽しいな」
「うん」ヴィナが、隣で、笑った。
その夜。
星の国、アステリアの、最初の収穫祭は——夜が、明けるまで、賑やかに、続いた。
まだ、小さな国。
でも、確かに——たくさんの灯が、ともっていた。
一つ、また一つと。星のように。




