第百四話 住人、来たる
一 訪問者
建国から、数日。
アステリアは、少しずつ、形を、整えてきた。家が、増え、広場が、でき、泉の周りには、ささやかな、畑も、できていた。
そんなある朝。
ガドルが、丘の見張りから、駆け戻ってきた。
「アルク!」ガドルは言った。「誰か、来る。
——丘の、向こうから。それも、結構な、人数だ」
「敵か?」ヴィナが、身構えた。
「いや——」ガドルは言った。「敵意は、感じない。でも、見たことのない、連中だ」
一行は、丘へ、向かった。
丘の、向こうから、やってくるのは——人のようで、少し、違う、姿の者たちだった。
背は、低め。肌は、木の幹のような、淡い褐色。頭から、小さな、若葉のような、角が、二本。目は、穏やかで、優しげ。
数十人ほどの、一団だった。警戒しながらも、敵意は、なかった。
「あれは……?」リィナが、言った。「人型の——でも、人間ではない、種族」
『敵意は、ない』エニが、言った。『あの者たちからは、澱みも、悪意も、感じない。ただ——驚いている。長く、この地で、静かに、暮らしてきた者たちだ。突然、見知らぬ者が、現れたから』
「この世界の、先住の人たちか」アルクは言った。「挨拶を、しよう」
二 コダマ族
アルクは、武器を、置いた。両手を、広げて、ゆっくりと、近づいた。
一団の中から、年長らしい、白髪混じりの者が、前に、出てきた。
「あなた、たちは」その者が、言った。たどたどしいが、エニの縁の力で、言葉は、通じた。「どこから、来た。ここは——我らの、近くの、土地」
「俺は、アルク」アルクは言った。「遠い世界から、来た。——この土地を、奪いに来たんじゃない。ここで、暮らしたいと、思っている。あなたたちと、争うつもりは、ない」
「暮らす?」年長者が、戸惑った。
「俺たちは、新しい国を、作ろうとしている」アルクは言った。「みんなが、笑って、暮らせる場所を。——もし、よければ、あなたたちのことを、教えてほしい。この土地のことも。そして——できれば、仲良く、したい」
その時。
一団の後ろから、小さな子供が、とことこと、歩いてきた。転んで、膝を、すりむき、泣き出しそうに、なった。
「あ」アルクは、思わず、しゃがんだ。「大丈夫か」
アルクは、その子の膝に、手を、かざした。ルミの回復の光が、優しく、傷を、包む。すりむいた傷が——すっと、癒えた。
子供が、きょとんと、して——それから、にっこり、笑った。
年長者が、目を、見開いた。
「……癒しの、力」年長者は、呟いた。「あなたは——温かい。悪い気配が、しない」
年長者の、警戒が、ゆっくりと、解けていった。
「我らは、コダマ族」年長者は言った。「この地で、長く、静かに、暮らしてきた。——だが、数は、少ない。力も、弱い。あなたたちの、役に、立てるか、わからない」
「役に立つとか、立たないとか、関係ない」アルクは言った。「一緒に、いてくれるだけで、いい。——どうだ。俺たちの、国に、来てくれないか。一緒に、暮らそう」
三 縁が、結ばれる
コダマ族の年長者は、仲間たちと、顔を、見合わせた。しばらく、相談した後——頷いた。
「……行こう」年長者は言った。「あなたの、温かさを、信じる。我らも、本当は——寂しかった。この、広い土地で、少ない仲間だけで。もっと、賑やかに、暮らせるなら——嬉しい」
「ありがとう!」ネッサが、駆け寄った。「よろしくお願いします! あたし、ネッサです! ごはん、いっぱい、作りますね!」
「ご、ごはん?」コダマ族が、戸惑った。
「美味しいですよ!」ネッサが、にっこり、笑った。
その時——アルクは、自分の中で、何かが、変わるのを、感じた。
『……アルク』エニが、言った。『今、コダマ族と、縁が、結ばれた。——感じるか? あなたの《創生》が、また一段、解放された』
「ああ」アルクは言った。「頭の中に——新しい、知識が、流れ込んできた。それに——創れるものが、増えた、気がする」
『コダマ族は、土と植物を育てる技に、長けている』エニは言った。『その知恵が、縁を通じて、あなたの《創生》に、加わった。——あなたは、縁を結ぶほど、創れるものが、増えていく。人と繋がるほど、力が、豊かになる』
「縁を結ぶと——創造の力も、広がるのか」アルクは言った。
『そうだ』エニは言った。『あなたは、与える者。そして、与えた縁が、あなたを、豊かにする。——それが、《創生》の、本質だ』
「すごいです、アルクさん!」ネッサが言った。「じゃあ、いろんな人と、仲良くなるほど——どんどん、すごいものが、創れるように、なるんですね!」
「そうみたいだ」アルクは、自分の手を、見た。「コダマ族の、土を育てる知恵——これで、もっと、豊かな畑が、創れそうだ」
アルクは、試しに、畑の土に、手を、かざした。コダマ族の知恵を、借りて。
「創る」
すると——畑の土が、黒々と、肥えた、豊かな土に、変わった。それだけでなく——その土から、青々とした、作物の芽が、次々と、顔を、出した。
「畑が——一瞬で!」ネッサが、驚いた。
「これは……!」コダマ族の年長者が、目を、見開いた。「我らが、何年も、かけて、育てる土を——一瞬で。あなたは——一体」
「みんなの、知恵を、借りてるだけだ」アルクは言った。「あなたたちの知恵が、あったから、これが、できた。——ありがとう」
年長者は、しばらく、アルクを、見つめて
——微笑んだ。
「あなたたちと、いると」年長者は言った。「なんだか——楽しく、なりそうだ」
「だろう?」アルクは、笑った。「ようこそ、アステリアへ」
四 賑やかな、夜
その夜。
アステリアは、少し、賑やかに、なった。
コダマ族の、数十人が、加わって。家が、足りなくなって——アルクが、《創生》で、次々と、新しい家を、創った。コダマ族の好みに合わせた、木と緑の、温かい家を。
「こんなに、立派な家を——我らのために」コダマ族が、感激していた。
「気にするな」アルクは言った。「みんなの、家だ」
ネッサが、大鍋で、たくさんの料理を、作った。コダマ族の子供たちが、初めて食べる、ネッサの料理に、目を、輝かせた。
「おいしい!」コダマ族の子供が、言った。
「でしょう?」ネッサが、得意げに、言った。「たくさん、食べてね!」
ガドルが、歌うと、コダマ族も、彼らの古い歌を、歌い返した。バルガの竪琴に、合わせて。
キラと、シルフィが、コダマ族の子供たちと、一緒に、ふわふわと、遊んだ。
『あたらしい、お友達!』シルフィが、嬉しそうに、言った。
『にぎやか! たのしい!』キラが、言った。
五 星空の下で
夜が、更けて。
アルクは、一人、広場の中央に、立っていた。
見上げると——満天の、星空。澱みのない、清らかな夜空に、無数の星が、瞬いていた。
「アステリア——星の国、か」アルクは、呟いた。
「一人で、何を、見てる」
ヴィナが、来た。隣に、立った。
「星を」アルクは言った。「きれいだな、と思って」
「ああ」ヴィナも、見上げた。「故郷の星より——ずっと、近くに、感じる」
しばらく、二人で、星を、眺めた。
「アルク」ヴィナは言った。「あたし、今、すごく
——穏やかだ」
「ヴィナ?」
「ずっと、戦ってきた」ヴィナは言った。「仲間を、失って。一人で、生きて。——お前に、出会ってからも、ずっと、戦いの中だった。でも、今は——こうして、星を、見ていられる。国を、作っている。——夢みたいだ」
「ああ」アルクは言った。「俺も、同じ気持ちだ」
「これから——もっと、いろんなことが、あるんだろうな」ヴィナは言った。「楽しいことも。——大変なことも」
「地底の、脅威も、あるしな」アルクは言った。
「ああ」ヴィナは言った。「でも——怖くない。お前と、みんなが、いれば」
ヴィナが、アルクを、見た。星明かりの中で。
「アルク」ヴィナは言った。「あたしは——お前の隣で、この国を、見ていきたい。最後まで」
「ヴィナ……」
「……っ、と」
その時。
「アルクさーん! ヴィナさーん!」ネッサが、駆けてきた。「二人で、何、してるんですか!? デザート、まだ、ありますよ! 女神様の、好きそうな、ケーキ! 早く、来てください!」
「あ、ああ」アルクは言った。
「もう」ヴィナが、小さく、笑った。「——行くか」
「ずるいです! 二人だけで、星、見てたんですか!?」ネッサが、頬を、膨らませた。「あたしも、混ぜてください!」
「ああ、一緒に、見よう」アルクは、笑った。
三人で、星空を、見上げた。
澱みのない、清らかな夜空に、瞬く、無数の星。
その星々に、見守られて。
星の国、アステリアの——温かい夜が、更けていった。
まだ、小さな、小さな国。
でも——確かに、灯が、ともり始めていた。
一つ、また一つと。




