第百三話 最初の一軒
一 何を、創ろう
女神が、天へ還った後。
一行は、湧き出したばかりの泉のほとりに、立っていた。
澄んだ青空。果てしない緑の大地。そして、アルクの手のひらに宿った、創造の光。
「さて」アルクは言った。「何から、創ろうか」
「家です!」ネッサが、即座に言った。「まずは、住むところ! 夜営も、楽しいですけど、ちゃんとした、お家が、欲しいです!」
「家か」アルクは言った。「やってみよう」
アルクは、泉のほとりの、平らな土地に、手を、かざした。
目を、閉じる。家の形を、思い描く。みんなが、ゆっくり、休める、温かい家を。
「創る」アルクは、念じた。
光が、地面から、立ち上った。
その光が——みるみる、形を、成していく。木の柱が、立ち上がり、壁が、できて、屋根が、葺かれていく。
数十秒の後。
そこに——一軒の、家が、建っていた。
「……できた」アルクは、目を、見開いた。
「すごい!!」ネッサが、駆け寄った。「ほんとに、お家が、できてます! 一瞬で!」
「これが——《創生》」アルクは、自分の手を、見つめた。「思い描いたものが——本当に、形に、なるのか」
「でも——」リィナが、家を、観察した。「少し、簡素ですね。雨風は、しのげそうですが、まだ、小屋に近い」
「ああ」アルクは言った。「女神様が言ってた。最初は、簡単なものしか、創れない、って。——でも、使えば、解放されていく」
「じゃあ、どんどん、創ればいいんですね!」ネッサが言った。
二 創れた!
アルクは、続けて、家を、創っていった。
二軒目。三軒目。
不思議なことに——創るたびに、感覚が、掴めてきた。最初は、簡素だった家が、だんだん、しっかりとした、造りに、なっていく。
「……わかってきた」アルクは言った。「創るたびに、コツが、掴める。それに——なんだか、創れるものの幅が、広がってきた気がする」
アルクは、試しに——家の中の、家具を、思い描いた。
テーブル。椅子。寝台。
「創る」
光が、家の中に、家具を、生み出した。
「家具まで、創れた!」ネッサが言った。
「最初は、家の、外側だけだったのに」アルクは言った。「今は、中の、細かいものまで、創れる。——使うほど、解放されていく、って、こういうことか」
『そうや、アルク!』アルファが、リボンを、揺らした。『うちの付与とも、相性ええで! アルクが創ったもんに、うちが付与かけたら——もっと、頑丈に、長持ちするわ!』
「なるほど」アルクは言った。「アルファの付与と、組み合わせれば——創ったものが、もっと、良くなる」
アルクが創り、アルファが付与する。すると——ただの木の家が、何十年も、びくともしない、頑丈な家に、なった。
「最高の、コンビだね」ルミが、言った。
三 仲間の、ギフト
その時。
ガドルが、近くの、岩だらけの土地を、見て、言った。
「アルク。家を建てるなら——もっと、平らな土地が、いるだろう」ガドルは言った。「あの、岩場を——俺が、なんとかしよう」
「ガドル?」
「女神様から、もらった、ギフト——《開拓の豪傑》」ガドルは、両手を、見た。「試してみる」
ガドルが、岩場に、歩み寄った。そして——拳を、握りしめ、地面を、殴った。
轟音と共に——岩場が、砕け、ならされ、平らな土地に、変わった。一瞬で。
「おおっ!!」ガドルが、目を、見開いた。「すげえ! 力が、桁違いだ! 岩が、まるで、豆腐みたいに——!」
「ガドルさん、すごい!」ネッサが言った。「一瞬で、整地、できちゃった!」
「これが、ギフトの力か」ガドルは、拳を、握った。「これなら——どんな荒野でも、拓ける!」
リィナも、自分のギフトを、試していた。
「《探究の賢者》——」リィナが、目を、閉じた。「この土地の、土壌、水脈、気候……情報が、頭に、流れ込んでくる。——わかります。この一帯は、水はけが良く、作物に適している。あちらの丘は、果樹に向いている。北の森には、良質な木材が、ある」
「リィナ、すごいぞ」アルクは言った。「土地のことが、全部、わかるのか」
「データが、勝手に、集まってきます」リィナは言った。少し、興奮していた。「これは——便利、なんてものじゃ、ない。国づくりの、設計図が、頭の中に、できていく」
「その情報、僕に、共有してくれ」カインが言った。「《叡智の設計者》で——最適な、街の配置を、設計する」
カインが、目を、閉じると——頭の中に、街の、完成予想図が、描かれていった。
「見えた」カインは言った。「中央に、広場。そこから、放射状に、道。水場の近くに、住居。丘に、果樹園。森の近くに、木工所。——理想的な、街の形が」
「カインの設計、リィナの情報、ガドルの整地」アルクは言った。「そして、俺の《創生》。——これ、すごい、ことに、なるぞ」
四 みるみる、街に
役割が、噛み合った。
リィナが、土地を、読む。カインが、街を、設計する。ガドルが、土地を、ならす。そして——アルクが、《創生》で、建物を、創り、アルファが、付与で、強化する。
ヴィナと、バルガは、周囲を、警戒しながら、力仕事を、手伝った。ライナも、黙々と、働いた。
ネッサは——みんなの、お腹を、満たした。
「お昼ですよー!」ネッサが、呼んだ。
今日の、ネッサの手料理は——大きな鍋の、シチューと、焼きたてのパン。
「ネッサ、料理に、ギフトを、使ってみたか?」アルクが、聞いた。
「あ、そういえば!」ネッサが、はっとした。
「《豊穣の招来者》——試してみます!」
ネッサが、シチューに、手を、かざした。
すると——シチューが、淡く、輝いた。
「これは……?」ネッサが、味見した。「あ——! もっと、美味しくなってます! それに——なんか、食べると、力が、湧いてくる感じ!」
「ほんとだ」ガドルが、シチューを、食べて、言った。「疲れが——吹き飛ぶ! 午後も、いくらでも、働けるぞ!」
「ネッサの料理が、みんなを、元気にする、ギフト、なんですね」アルクは言った。
「えへへ」ネッサが、嬉しそうに、笑った。「あたしの料理で、みんなが、頑張れるなら——こんな、嬉しいこと、ないです!」
昼食を終えて、また、作業に、戻る。
夕方には——もう、数軒の、しっかりとした家と、中央広場の、原型が、できていた。
「……一日で、ここまで」ヴィナが、辺りを、見回した。「信じられないな」
「ギフトの、おかげだ」アルクは言った。「みんなの力が、合わさると——こんなに、早い」
五 最初の夜
その夜。
完成した、一番大きな家で、最初の夜を、過ごした。
アルクが、風呂敷を、広げた。
「今夜は、お祝いだ」アルクは言った。「アステリアの、最初の日に」
風呂敷から、湯気を立てて、ごちそうが、現れた。今夜は——豪華な、肉と魚の盛り合わせ。彩り豊かな、野菜。ほかほかの、白米。そして、デザートには——色とりどりの、ケーキと、果物。
「わあ!!」ネッサが、目を、輝かせた。「すごい、ごちそう!」
みんなで、囲んで、食べた。
ガドルが、歌い、バルガが、竪琴を、奏でた。キラと、シルフィが、ふわふわと、飛び回った。ルミと、アルファが、デザートのケーキを、巡って、争った。
『この、いちごの、ケーキは、うちのや!』アルファが、言った。
「アルファ、さっき、二つ、食べたでしょ」ルミが、言った。
『これは、別腹や!』
「……照れてない」
「だから、その口癖、関係ないって!」全員が、突っ込んだ。
ライナが、その光景を、静かに、見ていた。
白米と、肉を、一緒に、食べて——ふと、呟いた。
「……俺は」ライナは言った。「こんな、賑やかな食卓に、いられる日が、来るとは、思わなかった」
「ライナさん?」ネッサが言った。
「帝国にいた頃は——」ライナは言った。「いつも、一人で、飯を食っていた。任務の合間に、味も、わからずに。——でも、今は」
ライナが、少し、目を、緩めた。
「うまい」ライナは言った。「飯が——うまいと、感じる。みんなと、食うと」
「でしょう!?」ネッサが、嬉しそうに、言った。「ライナさん、もっと、食べてください! 肉じゃがも、ありますよ!」
「……ああ」ライナは言った。「もらう」
アルクは、その光景を、見て、微笑んだ。
元・敵だった男が、今、仲間と、笑って、飯を、食っている。
女神が、くれた、小さなギフト。それが、ライナの中で、少しずつ、芽吹いていくのを
——アルクは、感じた。




