第九十九話 還る魂
一 戦いの、終わり
皇帝が、アルクの手を、取った。
その瞬間——帝国軍の、戦意が、消えた。皇帝が、賦活師と、和解した。それは、二百年続いた、戦いの、終わりを、意味していた。
「全軍——矛を、収めよ」皇帝が、立ち上がり、命じた。「戦いは、終わった」
帝国軍が、武器を、下ろした。縁の軍勢も——冒険者たちも、騎士も、兵も——ゆっくりと、構えを、解いた。
戦場に——静寂が、訪れた。だが、それは、絶望の静寂ではなく——安堵の、静寂だった。
「……勝った、のか」ガドルが、呟いた。
「勝った」バルガが言った。「いや——終わった、と言うべきか」
「終わったんですね……」ネッサが、眠るキラを抱いたまま、その場に、座り込んだ。涙が、溢れた。「本当に……終わったんですね……」
ゴウダたちが、駆け寄ってきた。
「アルク!!」ゴウダが、叫んだ。「やったな!! ——お前が、皇帝と、和解した!!」
「みんなのおかげだ」アルクは言った。「縁が——世界中の、縁が、繋がったから」
歓声が、戦場に、広がった。冒険者たちが、騎士が、兵が、抱き合い、喜んだ。
長い、長い戦いが——ついに、終わった。
二 ライナと、ヴィナ
ライナが、アルクのもとへ、歩いてきた。
「アルク」ライナは言った。「俺は——お前たちに、ひどいことを、した。本気で、苦しめた。——許してくれとは、言わない」
「許すも、何も」アルクは言った。「お前は、帰ってきた。それで、十分だ」
「……そうか」ライナは言った。少し、目を、伏せて。
その時。
ヴィナが、ライナの前に、立った。
「ライナ」ヴィナは言った。
「……ヴィナ」ライナは、身構えた。叱責を、覚悟するように。
ヴィナが——ライナの、胸を、軽く、小突いた。
「おかえり」ヴィナは言った。ぶっきらぼうに。でも、笑って。
「……っ」ライナが、目を、見開いた。
「おでん、また、皆で食べないといけないからな」ヴィナは言った。「帰ってこられて、よかった」
「……ああ」ライナは言った。声が、少し、震えていた。「ただいま」
「ライナさん!!」ネッサが、駆け寄った。「おかえりなさい!! 肉じゃが、作りますね!! ライナさん、好きそうだなって、ずっと、思ってたんです!!」
「……お前は、相変わらず、だな」ライナは言った。少し、笑って。「ああ。——食わせてくれ」
「はい!!」ネッサは、笑った。涙を、流しながら。
三 ヴィナの、疑問
戦いが、終わり、人々が、ヴォルタへ、引き上げ始めた頃。
ヴィナが、アルクに、言った。
「アルク」ヴィナは言った。「あたし——なぜ、生きてるんだ?」
「ヴィナ?」
「首飾りを、使った」ヴィナは言った。「あれは
——命を、引き換えにする。あたしは、死ぬ、はずだった。なのに
——なぜ、生きてる?」
「キラだ」アルクは言った。眠るキラを、ネッサから、受け取って。「キラが——お前の魂を、複製して、身代わりにした。命を持っていかれたのは
——その複製の方だ」
「キラが……?」ヴィナが、眠るキラを、見た。
「キラは、お前を、守りたかったんだ」アルクは言った。「『ヴィナ好きだから、鞘飾り撫でさせてくれたから』って。——全力を、使い果たして、今、眠ってる」
「キラ……」ヴィナが、眠るキラの頭を、そっと、撫でた。涙が、こぼれた。「あたしを——守ってくれたのか。こんな、小さな体で」
『……ヴィナ』
その時。
キラが、薄く、目を、開けた。
「キラ!!」全員が、叫んだ。
『……ヴィナ、生きてる?』キラが、かすれた声で、言った。
「生きてる」ヴィナは言った。涙を、流して。「お前が——守ってくれた」
『よかったぁ……』キラは、ふにゃっと、笑った。『もう……大丈夫……? みんな……無事?』
「ああ」アルクは言った。「全部、終わった。お前のおかげも、ある」
『えへへ……』キラは言った。『じゃあ……もうちょっと……寝るね……』
キラが、また、目を、閉じた。だが——今度は、安らかな、眠りだった。
「キラ、ありがとう」ヴィナは、眠るキラに、囁いた。「あたしの、命の恩人だ」
四 ヴィナの、決意
その夜。ヴォルタへ、帰還し、屋敷で、傷を、癒した後。
ヴィナが、アルクに、言った。
「アルク」ヴィナは言った。「一つ——お願いが、ある」
「なんだ」
「あたしの、昔の仲間に——会いたい」ヴィナは言った。「四人の。——あたしが、守れなかった、仲間に」
「ヴィナ……」
「ずっと、言えなかったことが、ある」ヴィナは言った。「あたしは——三年前、仲間を、見捨てて、逃げたんじゃない。——本当は」
ヴィナの、声が、震えた。
「本当は——あたしが、しんがりを、務めて、仲間を、逃がそうと、したんだ」ヴィナは言った。「あたし一人、犠牲に、なって。——でも、失敗した。仲間は、みんな、死んで。あたしだけが——生き残った」
全員が、息を、呑んだ。
「あたしは、ずっと、思ってた」ヴィナは言った。
「なぜ、あたしだけ、生き残ったんだ、と。
——あたしが、死ぬべきだった。なのに、あたしだけ、生きて。——それが、ずっと、苦しかった」
「ヴィナ……」ネッサが、涙を、流した。
「だから——会って、伝えたい」ヴィナは言った。
「ごめん、と。そして——ありがとう、と。——アルク。お前の力で、できないか? 一度だけ——あいつらに、会えないか?」
アルクは、しばらく、考えた。
「……エニ」アルクは言った。「縁の力で——亡くなった人の魂と、繋ぐことは、できるか」
『……難しい』エニは言った。『だが——不可能では、ない。縁は、死者とも、繋がっている。消えていない縁を、手繰れば——一時的に、魂を、呼び寄せることは、できる。だが——大きな力が、要る』
「俺の付与と」アルクは言った。「ネッサの召喚の力——魂を呼ぶ力を、合わせれば?」
『……できるかもしれぬ』エニは言った。『アルクの付与で、ネッサの召喚を、極限まで高め、私が、縁の糸で、四人の魂を、手繰る。——一度だけ。ほんの、わずかな時間だけ』
「やってくれるか、ネッサ」アルクは言った。
「はい!」ネッサは言った。「ヴィナさんのためなら——あたし、全力を、尽くします!」
第百話予告
ついに大団円❗️
そして……
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