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EP.2 装脚重機対処部隊

前回は三人称視点でしたがあまりうまく書けなかったので、今回からは一人称視点をメインにしようと思います。

「マジかよ……」


4K画質、文句なしの高画質カメラで撮影された現場の様子を見て最初に出た言葉はそれだった。

建設中のビル群の間で、中型の作業用ワーカーが1機暴れている。

周囲には潰れた重機や崩れた資材などが散らばっている。


映像の中のワーカーは、鉄骨を建設中のビルに投げつけていた。

外からコンクリート壁に鉄骨を叩きつける音が聞こえてくる。

少し遅れてコンソールの横に引っかけてあった安物のヘッドセットからかすかに同じ音が聞こえてきて、ヘッドセットを付けていないことに気づく。

慌ててそのヘッドセットを装着すると、現場の音が一気に聞こえてきた。

雑音で何も聞こえないので急いで音量を下げると、隊員の声がはっきりと聞こえるようになった。


『規制線の内側に入らないでください!』

『下がれ下がれ!』

装対(装脚重機対処部隊)が来たぞ!』

『ここは我々が引き継ぎます!』


それを聞きながら、ローカルのフォルダにPDFで入っていたマニュアルを読んでカメラの操作方法を確認していると、音声に無線が割り込んできた。


『栗沢より堀河巡査、聞こえますか?』


聞き覚えのない落ち着いた女性の声。確か資料に栗沢という人が第一小隊長として名前が書いてあったことを思い出しながら答える。


「こちら堀河、聞こえます!」

『機種は分かりましたか?』


カメラをズームして問題のワーカーにピントを合わせる。

特徴的な頭部ユニットの外装デザイン。

大日本重工のDW-3。やはり第三世代有頭部共通フレーム搭載機だ。


「大日本重工製DW-3、第三世代有頭部共通フレームを積んだ機体です!膝関節に異物が入ればすぐに停止するかと!」

『八崎巡査長、膝関節を狙えますか?』

『いつでもいけます』


さっきの無愛想な男は八崎というらしい。

とにかく、カメラのトラッキング機能を起動して膝関節のわずかに上をマーキングする。

マニュアルに書いてあった通りであればこれで狙うべき場所が射手側に共有されるはずだ。


『確認した……発射!』


八崎の声。直後、画面の端から何かがワーカーの右膝に向けて飛来する。

着弾すると、灰色のネットが広がりワーカーの膝関節に巻き込まれていく。

普及している他の共通フレームならばこうはならない。第三世代有頭部共通フレームの弱点が露呈した形だ。

ガクン、と右脚の動作が停まる。直後、ワーカーの動きが完全に停止した。

DW-3、というより第三世代有頭部共通フレーム搭載機には、応急措置として膝への異変が起こった際に自動で停止するシステムが組み込まれているため、それが作動したのだろう。


『目標、動作を停止!』


観測担当らしい隊員の報告を聞いて画面をズームアウトすると、画面の端に映っているワーカーの肩から1mも離れていない建設中のビルに人影があった。


「あれ、誰だ?」


カメラを操作して人影にズームする。

そこにいたのは、安全ハーネスを装着した倉橋だった。

彼女は数歩後ろに下がる。


『行くよ』


無線からそう聞こえた次の瞬間、倉橋は軽く助走をつけてジャンプしてワーカーの肩に飛び移った。


「は?」


思わず声が漏れる。

距離は目測で1.4m。確かに普通の人間にも可能な動作ではあるが、だからと言ってあの高所でそれを実行することは並大抵のことではない。

画面の中で倉橋は、ワーカーの肩にある整備用の取っ手にランヤードを繋ぎ、緊急用の外部スイッチが収められているハッチを開いている。


『ハッチ解放!』


そう言いながら、緊急用の外部スイッチを拳銃の銃把で叩くのが見えた。

搭乗ハッチが頭部ユニットごと前方にスライドし、すぐさま倉橋がそこに滑り込む。

数秒後。


『確保!』


無線からそう聞こえると同時に、ワーカーがゆっくりと膝をついて乗降時の姿勢になった。

直後、はしごを持った数人の隊員が駆け寄る。

十数秒後には搭乗者は引きずり出されて手錠をかけられていた。


「終わった……」


今までの常識が通用しない対処活動の様子を目の当たりにしてそれしか言うことが思いつかなかった。


「堀河、小隊長が現場検証を手伝ってほしいそうだ」

「あ、すぐに行きます!」


いつのまにか車両のすぐ後ろに来ていた八崎に言われ、ヘッドセットを外して外に出る。

歩きながら八崎が話しかけてきた。


「初仕事にしては上出来だった。今後も期待してるぞ」

「あ、ありがとうございます」


少しだけ間が空く。


「……でもな、あの飛び込みは想定外だったろ?」

「はい」

即答。他に答えあるのかこれ、と一瞬思う。


「えー、普通に聞こえてるんだけど?」


すぐ横から、いつのまにか近くにいた倉橋の声が聞こえてきた。


「聞こえるように言ってんだよ、少しは自重しろ」

「でも結果オーライじゃん」


(この人いつもそうなのか……)

思わず苦笑する。


「じゃあ、あとは頼んだぞ」


停止したワーカーの前で八崎たちと別れる。彼らは作業員からの事情聴取をするようだ。

とにかく、停止した機体の各部に異常がないかを大まかに確認する。


「ん?」


腕部の肘関節まで行った時、わずかに違和感を感じた。

肘を動かすモーターが入っている部分の外装部品が微妙に浮いている気がする。


「すみません、レンチとかありませんか?」

「あ、どうぞ」


近くにいた工事現場の整備員からレンチを借りて外装を外す。

そこにあったのは一見どこにでもあるリニアモーター式の伸縮アクチュエータ。

だがその形状をよく見ると、大日本重工製でもなければ、その下請けの製品でもない。

むしろ大学の研究室に置かれていた海外メーカーのリニアモーターに近い形状だ。


「どこのメーカーだ……?」


モーターそのものを取り外してみるが、国内外どの製品でも必ずあるはずのメーカー表示がない。

そういえばこの機体、腕部の挙動が明らかに素早かった。作業用のワーカーは、パワーと安全性を重視して動作は鈍重に設計されているはずなのに。

その二点が意味することはただ一つ。


「誰に報告すればいいんだ……」


辺りを見回すと、警部補の階級章を付けている、ブリーフィングの時にもいた女性がいた。

確か機動隊の小隊長は警部補だったはず。


「小隊長!」

「堀河巡査、どうしましたか?」


正解だった。この人が栗沢小隊長のようだ。


「この機体、間違いなく違法改造機です」

「というと?」

「えっと、まずここのモーターが正規品ではありません。純正品よりパワーとスピードが大きい、非適合製品です。動作が遅い正規品を使っていれば、鉄骨を投げるなんて芸当はできません」


一旦区切る。専門分野でつい早口にならないように気を付けて話すのは意外と大変だ。


「そして、基本的にワーカーは正規品以外の部品ではソフトウェアが対応していないので動かないんです。それが動いているということはソフトウェアも改造されてます」

「なるほど……分かりました。後で報告書を提出しておいてください」

「えっ」


つづく

一話あたり2000~3000字程度で連載していくつもりです。

不定期更新ですが多分恐らくきっと完結します。

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