第八十二話「調べるな、の理由」
課長の「調べるな」を、無視することにした。調べるのを、やめなかった。配属以来、言われたことだけをやってきた俺が、初めて、言われたことの逆をやった。能動的に、課長の過去を調べ始めた。
◇
人事記録を、見た。課長の経歴。折衝課の、設立当初からのメンバー。それは知っていた。その前の経歴を見た。これまで、見ようと思ったことがなかった。今日、初めて見た。
課長は折衝課に来る前——恋管が設立される前、別の部署にいた。「PAIR開発準備室」。
PAIRを作る側に、いた。課長はPAIRを設計した側の人間だった。折る側の責任者が、その前は、判定する仕組みそのものを、作っていた。
◇
鶴田に、聞いた。
「課長がPAIR開発準備室にいたのを、知っていましたか」
鶴田は少し間を置いた。
「知っていました」
「なぜ、言わなかったんですか」
「聞かれなかったので」
鶴田らしい、答えだった。聞かれたことには答える。聞かれないことは、言わない。それが、鶴田のルールだった。
「課長はPAIRを設計した側なんですね」
「設計の一部に関わっていました。主に、確率算出のロジック部分です。0%から99%で確率を出す。100%はエラーにする。その設計を決めた一人が、課長です」
◇
100%を、エラーにする設計。それを決めた一人が、課長。
「鶴田さん。なぜ100%をエラーにしたんですか」
「設計思想としては『100%の縁は存在しない』という前提です。どんな縁も破綻する可能性がある。だから確率は99%が上限。100%は、ありえない。そういう思想です」
「でも俺のERRORは、100%だった。設計上存在しないはずの数字が、出た」
「はい。だからエラーになりました。設計者が『ありえない』と決めた数字が、出てしまった。システムは、それを処理する方法を持っていません。だから、エラーとして弾くしかなかった」
設計者が「ありえない」と決めた数字。それを弾く仕組みを作った本人。その本人の部署に、その「ありえない数字」を持つ俺が、配属された。
◇
課長が100%をエラーにする設計を作った。その課長の部署に、100%が出た俺が配属された。課長は俺のERRORを、知っていた。配属の日に、人事データで見たと、本人が言った。
「鶴田さん。課長は——自分が『存在しない』と設計した数字が、実際に出たことを知って、どう思ったんでしょうか」
「それは課長の感情の問題なので、計算できません。ただ——自分が『存在しない』と決めたものが、目の前に現れたとき。人は二つの反応をします。認めるか、隠すか、です。認めれば、自分の設計が間違っていたと認めることになる。隠せば、設計は正しいままでいられる」
鶴田は、端末を見た。
「課長は——隠す方を、選んだようです」
◇
100%は存在しないと決めた男の前に、100%が現れた。男はそれを認めず、自分の課に置いて、見張ることにした。俺が折衝課に配属された理由は、たぶん、それだった。観察対象として、置かれた。自分が間違っていたかどうかを、確かめるために。あるいは——間違っていないことを、確かめ続けるために。どちらなのかは、課長にしか、わからなかった。
次話「課長の、心拍データ」




