第七十四話「外れ値は、誤判定ではない」
鶴田の洗い出しが、一段落した。全体像が、見えてきた。
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「報告します」と鶴田が言った。今日はA4をたくさん持っていた。寝ていない顔のまま、ただ声だけは、はっきりしていた。
「折衝課が介入した全案件のうち、外れ値——介入後も継続した縁は8%でした。これは既知の数字です。その8%を、詳しく分析しました。8%のうち73%が——介入中に、スコアがわずかに上昇していました」
「8%のうち、73%が上昇」
「はい。つまり外れ値のほとんどが、介入中にスコアが上がったケースです。折られに行ったはずの縁が、折る最中に、強くなっている」
介入が、縁を育てた。折りに行って、育てた縁が、外れ値になった。
「鶴田さん。これは、どういう意味ですか」
「外れ値8%は、PAIRの誤判定ではありません」
鶴田は、断定した。寝ていない目で、まっすぐ言った。
「PAIRは最初、その縁を低く判定します。30%以下と。だから折衝課が介入する。ところが折衝課が介入して、職員が複数回接触すると——PAIRはその縁の新しい可能性を、見つけ直します。スコアが上がります。そして、外れ値になります」
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「つまり」と俺は言った。「折衝課が折りに行くことが、PAIRに縁を見つけ直させている。折る機関が、繋げている」
「結果的には。PAIRは自分一人では、低い確率しか出せませんでした。データだけ見れば、その縁は弱い。でも折衝課の職員が、人間がその縁に繰り返し関わることで——PAIRはその縁の本当の可能性を、計算し直せるようになりました。PAIRは人間を観察しています。人間が誰に何度会いに行くかを。そしてその行動から、本物の縁を見つけ直しています」
「データに出ない何かを、人間の行動から読んでいる」
「はい。会いに行く、という行動そのものが、データには出ない感情の証拠です。PAIRは、それを拾っています」
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俺が312件、折りに行った。その行動を、PAIRは観察していた。俺が誰に、何度会いに行くかを。川瀬奈緒に49回会いに行った。その49回を、PAIRは見ていた。そして——俺のERRORが、100%になった。
「鶴田さん。俺のERRORが100%になったのは——俺が川瀬奈緒に、49回会いに行ったからですか」
鶴田は、少し黙った。
「……それは、照合すればわかります。照合する前は、わかりません。ただ——仮説としては、ありえます。あなたが49回会いに行った。PAIRが、それを観察した。あなたが誰よりも頻繁に、一人の対象者に会いに行くのを見ていた。そして、100%を算出した」
「業務上の接触が、100%を作った」
「かもしれません。確かめていませんが。ただ、もしそうなら——あなたの100%は、最初からあったのではありません。あなたが、49回かけて、作ったものです」
「でも、鶴田さん。ERRORの表示は、配属当初からありました。川瀬奈緒に、会う前から」
「はい。そこが、計算に合いません。数値は、49回が作った。でも箱は——ERRORという表示は、会う前からあった。PAIRは、空の箱を先に置いていたことになります。誰のために置いたのかは、わかりません」
会う前から、箱だけがあった。誰かが、席を取っておいたように。
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49回。折るために行った49回が、折れない100%を作った。最初からあった運命ではない。俺が、足で通って、作った数字だった。所見欄に一行だけ書いた。
「俺の49回が、100%を作った。」
次話「スコアの話の、続き」




