第七十二話「他にも、動いている」
その日から、鶴田と一緒に、折衝課の過去の案件を洗い始めた。俺が能動的に調べ始めた。配属以来、言われたことを処理するだけだった俺が、初めて、自分から動いた。課長には、まだ言っていない。鶴田が「課長がどこまで知っているかわからない」と言った、あの一言が、引っかかっていた。
◇
「他の案件でも、スコアの変動があるはずです」と俺は言った。
「探します」と鶴田が言った。
二人で過去の案件を確認した。折衝課が介入した、何百件もの案件。そのスコアの推移を、一件ずつ見ていった。窓のない部屋で、二人で、画面を覗き込んだ。鶴田は早かった。俺の三倍の速さで、ログを読んでいった。
◇
数日後、鶴田が結果を持ってきた。
「見つかりました。スコアがわずかに変動した案件が、複数あります。介入中にスコアが上がった案件が——23件」
「23件」
「すべて、業務接触の最中に上がっています。算出対象外のはずの接触で。偶然では、説明できない数です」
俺の知らないところで、23件も、同じことが起きていた。俺が担当した案件も、その中にあった。折りに行った先で、スコアが上がっていた。気づかずに。
「その23件は、今どうなっていますか」
「追跡しました。23件のうち17件が——介入後も関係が継続しています。外れ値に、なっています」
◇
介入中にスコアが上がった案件は、外れ値になりやすい。PAIRがその縁を育てている。折衝課が、折りに行っているのに。
「鶴田さん。折衝課が介入すると、スコアが上がる案件がある」
「正確には、折衝課の職員が複数回接触すると、です」
「複数回接触すると、縁が育つ」
「単純接触効果と説明することもできます。ただ、それならPAIRはそれを算出に含めるべきです。含めないのに、結果だけが出ている。これは——」
「PAIRが、業務接触をこっそり算出に入れている」
「はい。設計では、除外のはずなのに。PAIRは、折衝課の介入を、縁を試す機会として使っているのかもしれません。折られそうになっても続く縁は、本物だ——と。折ろうとする力に耐えた縁を、PAIRは、育てている」
折ろうとする力に、耐えた縁。折衝課の介入は、縁を壊す力のはずだった。その力に耐えたものだけが、本物として残る。だとすれば、折衝課は——縁を折る部署ではなく、縁を試す部署だったことになる。
◇
俺は、自分の手を見た。
俺が312件、折りに行った。その中の何件かは——俺が行くことで、縁が育っていたのかもしれない。折る側の人間が、知らないうちに、繋げる側になっていた。23件。俺の手が、何を折って何を育てたのか、もう一度数え直す必要があった。三年間、折ってきたと思っていた。本当は、何件か、育てていた。スタンプを押せなかったのは、もしかすると、正しかったのかもしれない。終わっていない縁に、終わりの判を押さなかった。押せなかったのではなく、押すべきでなかった。そう思えた日は、配属以来、初めてだった。
次話「鶴田が、食堂で寝た」




