第六十七話「照合したら、何がわかるんだ」
翌日、鶴田を呼んだ。
「鶴田さん。照合したら正確に、何がわかるんですか」
「100%かどうかが、確定します」
「それだけですか」
「いえ。照合の記録には、付随情報があります。いつその100%が算出されたか。どういう条件で算出されたか。それも、記録に残っています」
いつ、算出されたか。その一語が、引っかかった。
「俺のERRORが100%になったのは、いつなんですか」
「それは、照合すればわかります。記録の深い層にあるので、照合して初めて表に出ます」
「配属当初から、ERRORでした」
「ERRORの表示は、配属当初からです。ただ、その奥の100%が、いつ算出されたかは——表示とは、別の話です」
表示と、中身は、別。ERRORの表示はずっとあった。けれど、その下の100%が刻まれた時刻は、表示の開始とは、違うかもしれない。空の箱が先にあって、中身が後から入ることもある。ERRORという箱は配属の日からあった。中身の100%が、いつ入ったのか。それは、開けてみないとわからなかった。
◇
「鶴田さん。一つ、仮説を聞いてください。俺のERRORが100%になったのが、川瀬奈緒に会った後だとしたら」
鶴田は端末から、目を離した。
「会った後、というのは」
「俺が折衝課で川瀬奈緒の担当になった後。会いに行くようになった後。その後に100%になったのだとしたら——業務上の接触が、100%を作ったことになる。算出対象外のはずの接触が」
鶴田は、少し黙った。長い沈黙だった。
「それは、設計上ありえません」
「ありえないことが、起きているのかもしれない。鶴田さん。あなたはそれを、知っているんじゃないですか」
鶴田は、答えなかった。ただ端末を持ち直した。
「計算中です」
久しぶりに、その言葉を聞いた。37回数えて、もう言えなくなったはずの言葉を、鶴田はまた使った。使わざるをえないところに、また来ていた。
◇
俺は、鶴田の目を見た。鶴田は目をそらさなかった。そらさないことが、答えのようだった。
「鶴田さん。あなたはずっと、何かを観察している。俺のERRORを。川瀬奈緒のスコアを。それは——システムが何かをしているからじゃないですか」
「……森本さん。その先は、照合してからお話しします」
「照合しないと、話せないんですか」
「照合しないと、私の仮説が正しいかどうかわからないので。私は、確かめていないことを断定しません。断定して間違っていたら、森本さんの判断を、誤らせます」
それが、鶴田のルールだった。確かめないものは、言わない。だから「計算中」と言い続けてきた。その慎重さが、今は、もどかしかった。
業務上の接触が、100%を作った。算出対象外のはずの接触が。その仮説に、鶴田は「設計上ありえない」と言った。ただ、否定はしきらなかった。鶴田は何かを知っている。確かめていないから、言わないだけだ。確かめないものを断定しない男が、ここまで否定を渋るなら、仮説は当たっている。断定しない男の、渋り方そのものが、答えだった。
次話「繋げるのも、難しいらしい」




