表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「複数の100%」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/70

第六十六話「照合してほしい、と一度言った」



 今週も、川瀬奈緒の部屋に上がった。最近、照合の話を少しずつするようになっていた。避けるのを、やめた。触れない話題を、二人で少しずつ、手で触れるようになっていた。


   ◇


「照合してほしいと思うことが、あります」と川瀬奈緒が言った。


 俺は、顔を上げた。


「思うんですか」


「はい。でも、すぐ撤回したくなります。今みたいに。照合してほしいと思った次の瞬間に、やっぱり怖いと思って。一日に何度も、行ったり来たりしています。朝は照合したくて、昼は怖くて、夜にまた、確かめたくなって」


 川瀬奈緒は、カップを両手で持った。


「折衝さんは、どうですか」


「……俺も、同じです。照合すれば、答えが出る。出れば、楽になる気もする。でも、出た答えは消せない。消せないと思うと、手が止まる」


「消せないというのが、怖いんですよね」


「はい。間違っていてもやり直せない。確率ならまた計算し直せます。でも、出た100%は、もう一度測り直すものじゃない」


 川瀬奈緒は窓の外を見た。ブランコが揺れていた。今日は風が弱く、揺れ幅は小さかった。それでも、止まってはいなかった。


   ◇


「もし」と川瀬奈緒が言った。「もし照合して、100%じゃなかったら。折衝さん、来なくなりますか」


 三秒。


「来ます」


「100%じゃなくても?」


「100%じゃなくても」


 その答えは、考えずに出た。考える必要が、なかった。100%かどうかと、また来るかどうかは、もう、別のことになっていた。


 川瀬奈緒は、少し笑った。


「じゃあ、照合してもしなくても、来てくれるんですね。だったら、照合する意味あるんですかね」


 俺は、答えられなかった。照合してもしなくても、俺は来る。では、照合する意味は何だ。


   ◇


「今日も、撤回します」と川瀬奈緒が言った。「照合してほしいを撤回します。今日は。でも明日はまた、思うかもしれません」


「はい」


「変ですよね。確かめたいのに、確かめなくても変わらないのに、確かめたい」


「変じゃ、ないと思います」


「どうしてですか」


「確かめたいのは、結果のためじゃないからです。来るか来ないかは、もう決まっています。それでも確かめたいのは——たぶん、川瀬さんが俺にとって何なのかを、ちゃんと知っておきたいからです。来る理由を、自分で、はっきりさせたい」


 言ってから、また「データではなく」の続きを、口にしかけていることに気づいた。今日は、止めなかった。


 照合してもしなくても、俺は来る。では、照合する意味は何だ。答えは出なかった。ただ、その問いが消えないこと自体が、たぶん答えに近かった。意味がなくても確かめたいなら、それは確率の話ではなく別の何かの話だ。証明したいのではなく、ただ知りたい。相手が自分にとって何なのかを、数字で確かめたい。それは、もう業務ではなかった。


 川瀬奈緒は今日も「照合してほしい」を撤回した。明日はまた思う、と言って。俺も同じだった。二人とも確かめたくて、確かめられずにいた。90日のうち、もう何日かが、そうやって過ぎていた。残りの日数が、静かに減っていく。減っていくこと自体は、誰にも止められなかった。



次話「照合したら、何がわかるんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ