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恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「複数の100%」

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第六十五話「外れ値カップルの子供」



 ある日、恋管に、あの外れ値カップルがまた来た。今日は子供を連れていた。3歳くらいの、女の子だった。母親の手を握って、不思議そうに恋管の中を見回していた。


   ◇


「先日は、ありがとうございました」と女性が言った。「訴訟の件、やっぱり取り下げることにしました。怒る気力が、どうしても湧かなくて。今が、幸せすぎて」


 女の子が会議室の椅子に座って、足をぶらぶらさせていた。椅子が高くて、足が床に届かなかった。退屈そうに、足を振っていた。


「この子は」と男性が言った。「PAIRが折ろうとした縁から、生まれました」


   ◇


 PAIRが折ろうとした縁。成立確率18%と判定した縁。それが折れずに続いて、子供が生まれた。2068年に。出生率0.5の時代に。この街では、子供を見ること自体が、めずらしかった。公園のブランコは、いつも誰も乗っていない。その街に、一人、女の子がいた。折られかけた縁から、生まれた女の子が。


「恋管は、少子化対策の機関ですよね」と女性が言った。「私たちの縁を折ろうとした機関が、少子化対策の機関で。でも折られそうになった私たちから、子供が生まれて。変ですよね。少子化を止めたい機関が、子供の生まれる縁を、折ろうとしたんです」


「変です」


 俺は思っていたことを、口に出した。隠さなかった。折衝課の人間として、隠すべきだったのかもしれない。制度を擁護する言葉を、いくつも知っていた。早期の介入が当事者のためになる、次の縁に向かわせる、統計的には正しい。どれも、口に出せなかった。ただ、目の前で足を振っている女の子を見て、隠す気になれなかった。この子の前で、制度の言葉を並べることが、できなかった。


   ◇


 女の子が俺を見て、笑った。理由はなかった。ただ、笑った。子供は、理由なく笑う。データに、その笑顔は出ない。スコアにも、出ない。


 この子は、PAIRの判定が間違っていたから生まれた。いや——PAIRの判定が「間違っていた」のではなく、PAIRが後から見つけ直したのかもしれない。最初は18%だったこの縁を、後から、本物だと。川瀬奈緒の11%が、夜中にPAIRに再計算されていたことを、思い出した。一度出した数字を、PAIRが、もう一度測り直す。間違いを直すのではなく、見つけ直す。外れ値8%は、PAIRの誤りではなく、PAIRが見つけ直した縁かもしれない。


 その考えは、まだ形にならなかった。ただ、女の子の笑顔を見て、何かが引っかかった。引っかかったまま、形にならずに、胸の奥に残った。


   ◇


 カップルは、子供を連れて帰っていった。女の子は、帰り際にもう一度、俺に手を振った。小さな手だった。


 折られそうになった縁から、子供が生まれていた。出生率0.5の時代に。外れ値8%は、PAIRの誤りではなく、PAIRが見つけ直した縁なのかもしれない。だとしたら、俺のERRORの100%も——PAIRが、見つけ直した何かなのかもしれなかった。その考えは、まだ形にならなかった。ただ、あの女の子の笑顔が、長く残った。誰も乗らないブランコのある街で、一人だけ、笑っていた子供の顔が。



次話「照合してほしい、と一度言った」


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