第六話「22%の案件は、あっさり終わった」
川瀬案件以外は、たいてい、あっさり折れる。
今日も別の案件が入っていた。
対象者、吉田真央。27歳。
PAIR算出スコア、22%。
マンションの一室。玄関を開けた相手は、化粧をきちんとして、出かける支度の途中のように見えた。
川瀬奈緒の部屋とは、空気が違った。
コーヒーは、出てこなかった。
出てこないことが、ふつうだった。
むしろ、毎回コーヒーが二つ並ぶ部屋の方が、ふつうではないのだと、今日になって気づいた。
◇
吉田真央は、開口一番だった。
「もう諦めてるんで、大丈夫です」
「……そうですか」
「先週、彼が彼女連れてるの見ちゃって。あー、そりゃそうだよなって。なんか、すっきりしました」
「なるほど」
「こういうの、来なくてよかったんじゃないですか。自分で気づいたので」
「そうですね」
「むしろ、わざわざ来てもらって悪いくらいで。お茶も出してなくてすみません」
「いえ。お構いなく」
書類を閉じた。
通算313件目。終了時間、25分。
胸ポケットに手を入れた。癖だ。スタンプを取り出して、書類の欄に近づけた。
押せなかった。
22%でも、押せなかった。
この人は、自分で気づいて、自分で終わらせた。
きれいに終わっている。
それでも、押せない。
◇
マンションを出て、電車に乗った。
22%でも、あっさり諦める人間がいる。
11%でも、諦めない人間がいる。
PAIRはスコアしか出さない。その人間が諦めるかどうかは、スコアとは別の話だ。
では、何が決めるのか。
答えは出なかった。
吉田真央は、すっきりした顔をしていた。
川瀬奈緒は、いつも窓の外を見ていた。
同じ「成立しない」に分類された二人が、まるで違うものに見えた。スコアは、その違いを一つも説明しない。
吉田真央のコーヒーが出てこなかったことを、俺はなぜか覚えていた。出てこないのが普通だ。なのに今日は、出てこないことの方が気になった。川瀬奈緒の部屋では、いつも二つ並ぶ。あの二つのカップが、いつのまにか俺の中で基準になっていた。基準がずれている。それを、まだ認めたくなかった。
◇
恋管に戻ると、鶴田がデスクの前で待っていた。
「313件目、終了処理を確認しました」
「今、終わったばかりですが」
「早かったですね」
「川瀬案件と比較して、そう思っているんですか」
鶴田は端末を見た。
「川瀬案件の平均接触時間、知っていますか」
「知りません」
「一回あたり平均72分です。現在四回の平均で」
「他の案件の平均は」
「22分です」
「三倍以上ですね」
「算出対象外の変数が影響しています」
「何の変数ですか」
「計算中です」
「鶴田さん。あなた、その『計算中』を何回言いましたか」
鶴田は少し黙った。
胸ポケットの機器を、一度だけ見た。
「それも、計算中です」
今日は廊下の途中で一度立ち止まってから、去って行った。
立ち止まったとき、鶴田はもう一度だけ俺の方を見た。何か言いかけて、やめた。
胸ポケットの機器が、また小さく光ったように見えた。




