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恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「複数の100%」

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第五十八話「聞けない質問の、輪郭」



 その週は、川瀬奈緒の訪問がなかった。次の訪問まで、少し間が空いた。その間、俺はずっと考えていた。


 川瀬奈緒の「聞けない質問」とは、何か。輪郭を、つかもうとしていた。


   ◇


 手がかりは、あった。一つずつ、並べてみた。


 川瀬奈緒は、あの画面を見てから変わった。俺のERRORの下に、自分の名前があるのを見てから。いつだったか、川瀬奈緒は言った。「あなたのERRORが何の値なのか、私は考えた。でも言わない。言ったら、聞けない質問を聞くことになる」と。


 その前にも、川瀬奈緒は聞いていた。「100%が出たら、どうなるんですか」と。あのとき、コーヒーを注ぐ手が、止まった。何でもない質問のふりをして、いちばん知りたいことを、聞いていた。


 ERROR。100%。川瀬奈緒の名前。三つが、頭の中で並んだ。並べると、一本の線になった。


   ◇


 俺は自分のPAIRデータを、もう一度開いた。


 ERROR


 0%から99%で動くスコア。100%は理論上存在しない。出たら、エラーになる。前に、川瀬奈緒にそう説明した。確率に、100%はない。どんな縁にも、成立しない可能性がわずかに残る。だから100%は出ない。出たら、システムはそれをエラーとして処理する。


 もし俺のERRORが、100%だとしたら。


 仮説だった。確かめる手段はない。ただ、仮説として、置いてみた。もし、俺のERRORが、ありえないはずの100%だとしたら。誰との、100%だ。俺のデータの下に、川瀬奈緒の名前があった。


 100%。成立しない可能性が、ゼロ。折れない縁。折衝課の人間が、折れない縁を持っている。それなら、説明がつく。312件、一度も押せなかった理由。川瀬案件を、3ヶ月以上折れずにいる理由。折る側の人間が、自分の中に、折れない縁を一つだけ持っていたとしたら。仮説は、不思議なほど、これまでの全部に、辻褄を合わせた。辻褄が合いすぎて、かえって怖かった。


   ◇


 考えがそこまで来て、止まった。


 職員と対象者は、照合対象外のはずだ。鶴田が前に言っていた。業務上の接触は算出対象外だと。俺と川瀬奈緒は、照合されていない。ではなぜ、名前が並ぶ。照合されていないのに名前が並ぶ理由は——考えても、わからなかった。鶴田の権限でしか開けない領域の話だ。俺には確かめる手段がない。仮説は、仮説のまま、宙に浮いた。


   ◇


 ただ、川瀬奈緒はあの画面を見て、同じところまで考えたのかもしれない。そして「聞けない質問」を抱えた。彼女も、同じ仮説に辿り着いて、確かめられないまま、抱えている。


 川瀬奈緒の聞けない質問は——「あなたのERRORは、私と関係がありますか」。


 考えが、その輪郭に辿り着いた。口に出してみると、はっきりした。それだ。彼女が聞けずにいるのは、それだ。


 俺のERRORが100%で、その相手が誰なのか。職員と対象者は照合されない。確かめる手段が、俺にはない。仮説は確かめられず、ただ、重さだけがあった。川瀬奈緒は同じところまで考えて、その質問を抱えている気がした。次に来たとき、彼女はそれを、聞くかもしれない。聞かれたとき、俺は何と答えるのか。答えを、まだ持っていなかった。



次話「月が変わる、前夜」


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