表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「複数の100%」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/64

第五十二話「なぜ折ろうとしたんですか」



 外れ値カップルの問いが、頭から離れなかった。


 「あなたは、なぜ折ろうとするんですか」


 配属されたとき、この問いには答えがあった。PAIRの精度は92%。成立しない縁を早期に終わらせれば、当事者は次の縁に向かいやすくなる。それが、当事者のためになる。配属研修で習った、模範解答だ。三年間、この答えで312件を折ってきた。


 今、その答えを口に出そうとすると——止まる。模範解答は、まだ頭の中にある。ただ、口がそれを言うのを拒む。頭は覚えていて、口が忘れたがっていた。


   ◇


 その日、川瀬奈緒の部屋に上がった。


「最近、何かありましたか」と川瀬奈緒が聞いた。「少し、顔が違います」


「……外れ値の方々が、恋管に来ました。18%で介入を受けて、別れなかった人たちです。今、結婚して子供もいます」


 川瀬奈緒は、少し黙った。カップを持つ手が、止まった。それから、静かに聞いた。


「その人たち、幸せそうでしたか」


「……幸せそうでした。幸せすぎて訴訟を起こす気力がない、と言っていました」


 川瀬奈緒は、少し笑った。声を出さない、息だけの笑いだった。


「いい話ですね。私も、そうなれますか」


 また、この質問だった。前にも、聞かれた。あのときと、同じ言葉。ただ、聞く声が前より静かだった。期待でもすがりでもない。ただ確かめる声だった。


   ◇


 あのときは、「データ上は、11%の可能性があります」と答えた。今日は、違う言葉が出た。


「なれると思います」


 川瀬奈緒が、俺を見た。手のカップを、置いた。


「データ上は、ですか」


「いえ」


「いえ、というのは」


 三秒、五秒。


「データ、ではなく」


 言いかけて、止まった。データではなく、何だ。俺は、何を言おうとしている。データではないなら、それは俺の——俺の、何だ。その先の言葉が喉の手前でつかえた。


「今日は、ここまでです」


 川瀬奈緒は少しの間、俺を見ていた。それから、笑った。困ったような、けれど嬉しそうな笑いだった。


「折衝さん、最近『データではなく』って言いかけて止まること増えましたね。前は、全部『データ上は』で終わっていたのに」


「そうですか」


「はい。私、それ数えてるんです。今日で、四回目です」


 彼女も、数えていた。鶴田が49回を数え、彼女が俺の言い淀みを四回数えていた。数えられていることに、嫌な感じはしなかった。むしろ四回分、俺は彼女の中に残っていた。PAIRには0回しか記録されない接触が、彼女の中では別の数え方で積もっている。記録に残らないものを、誰かが数えていてくれる。それは、思っていたより悪くないことだった。


   ◇


 帰りの電車で、その指摘を思い返した。「データ上は」で閉じていた言葉が、閉じなくなった。閉じない分の言葉が、どこにも行き場がないまま口の手前で止まる。データではなく、何なのか。その答えを言えたとき、たぶん俺は何かを認めることになる。所見欄は、開いてすぐ閉じた。書く言葉も、止まったままだった。口で止まる言葉は、紙の上でも、止まった。



次話「初めて、課長に問う」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ