第五十一話「外れ値カップルが、恋管に来た」
ある日、恋管に二人組が来た。
受付から連絡が来た。「以前折衝課の介入を受けた方々が、お見えです。お二人です」
折衝課の介入を受けた人間が、二人で来た。
◇
会議室に通した。30代の男女だった。並んで座る姿に、見覚えのある空気があった。長く一緒にいる人間の空気だ。
「折衝課の森本です」
「以前、お世話になりました。といっても、担当の方は別の人でしたが」と男性が言った。
「私たち、5年前に折衝課の介入を受けたんです」と女性が言った。「成立確率、18%でした」
18%。介入を受けた。そして、二人で、ここにいる。
「外れ値、ですか」と俺は言った。
「その言い方、されるんですね」と男性が言った。「私たち、外れ値というデータになっているらしいですね」
◇
「今日は、どういったご用件で」
二人は、顔を見合わせた。
「実は、訴訟を検討していて」と男性が言った。
「訴訟」
「恋管が私たちの縁を折ろうとしたことに対して、です。あのとき何度も担当の方が来て、別れた方がいいと言われました。データ上、成立しないと。でも、私たちは別れなかった。今、結婚して子供もいます」
「2068年に、子供を」
「はい。一人」
出生率0.5の時代に、折られかけた外れ値カップルが、子供を産んでいる。
◇
「恋管は私たちみたいな縁を折ろうとするんですよね」と女性が言った。
「成立確率が低いと判定された場合は」
「でも、続いたんです。続いて、幸せなんです。なのになぜ折ろうとしたのか——それを知りたくて」
俺は、答えられなかった。
「あなたは、なぜ折ろうとするんですか」と男性が、俺に聞いた。
◇
成立しない縁を早期に終わらせ、次の縁に向かわせるため。それが当事者のためになる。そういう設計になっている。ただ目の前の二人は、折られなかったから幸せになった。
「……お答えする立場に、ないかもしれません」と俺は言った。
「立場、ですか」
「私は、折る側の人間です。なぜ折るのかという問いに——最近答えられなくなっています」
二人は、少し驚いた顔をした。
「折衝課の人が、そんなことを言うんですね」と女性が言った。
「はい」
「あなたが折ろうとしている人は、今どうしているんですか」
川瀬奈緒のことを聞かれたわけではなかった。ただ、川瀬奈緒のことを思った。
「……折れていません。3ヶ月以上、折れていません」
「それは——あなたが、折りたくないからじゃないですか」
桐生と、同じことを言われた。今週、二度目だった。
◇
「訴訟の件は、もう一度検討します」と男性が言った。「正直、今が幸せすぎて、怒る気力があまりないんです」
「幸せすぎて、怒る気力がない」
「変ですよね。でも、本当にそうなんです」
二人は、帰っていった。並んで歩く後ろ姿を、見送った。
◇
今日はスタンプを出さなかった。
折られかけて、折れなかった二人が、子供を連れて笑っていた。49回折れなかった案件を抱えた俺の前で。所見欄に一行だけ書いた。
「折られなかった縁が、いちばん幸せそうだった。」
次話「なぜ折ろうとしたんですか」




