表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「複数の100%」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/65

第四十三話「別案件で、笑えなかった日」



 別の案件が入った。対象者、30代の男性。スコア、19%。


 訪問して、手順書通りに説明した。部屋には、ゲームのパッケージが積んであった。生活に、まだ余裕のある部屋だった。男性は、途中で冗談を言った。


「19%って、宝くじよりは高いですよね」


「宝くじの一等当選確率は、二千万分の一です。それと比べれば、はるかに高いです」


「ですよね。じゃあ俺、宝くじよりはマシだ」


 男性は笑った。


「当たる気はしないけど、宝くじよりマシ。それ、励みにします」


 普段なら、適当に相槌を打つ場面だった。冗談には冗談で返す。それが、対象者との距離を保つコツだった。今日は、笑えなかった。


「宝くじより、マシです」


「ありがとうございます。折衝さんに言われると、なんか、本当っぽい」


 男性は、また笑った。屈託のない笑い方だった。19%を、ちゃんと笑い飛ばせる人だった。たぶんこの人は、折られても、すぐ次へ行ける。前に進める人の顔をしていた。俺は、笑えなかった。19%を笑える人と、11%を笑えない人。確率の高い方が笑えて、低い方が笑えない。逆だった。逆になる理由が、この人と川瀬奈緒の、いちばんの違いだった。


   ◇


 帰り道、なぜ笑えなかったのかを考えた。


 19%。川瀬奈緒は11%だ。この男性の方が、確率は高い。それでも、この男性のことは、何も気にならない。説明して、終わって、それで終わりだ。川瀬奈緒のことだけ、気になる。それは、なぜだ。三ヶ月前なら、川瀬奈緒も「11%の案件」の一つだった。今は、違う。何が、変わったのか。


   ◇


 恋管に戻ると、鶴田が出勤していた。休暇から戻ったらしい。何事もなかったような顔で、端末に向かっていた。


「鶴田さん。一つだけ、聞かせてください。計算が終わっていなくても、答えられることだけでいい」


「どうぞ」


「俺が、川瀬奈緒のことだけ気になるのは、なぜですか」


 鶴田は、端末から目を離した。


「それは、計算では出ません」


「ザイアンス係数では、出ないんですか」


「ザイアンス係数は、接触頻度の効果を示すだけです。なぜ特定の一人だけ気になるかは、別の問題です。頻度なら、19%の男性とも、これから何度か会えば上がります。でも、上がらないでしょう」


「上がらない」


「森本さんは、19%の男性と何度も会いたいですか」


 会いたくなかった。一度で十分だった。


「……いえ」


「それが、答えの一部です。残りは、データではなく、森本さんが答えるものです」


 鶴田は、いつもの「計算中です」を言わなかった。


   ◇


 その夜、自分の部屋で考えた。19%の男性のことは、何も気にならない。川瀬奈緒のことだけ、気になる。


 確率の問題ではない。頻度の問題でもない。では、何だ。答えは、まだ出なかった。ただ、明日も川瀬奈緒のところへ行く。それだけは、すでに決まっていた。決まっていることだけが、答えのかわりに、手元にあった。答えは出ていないのに、行くことだけは、もう決まっている。それ自体が、たぶん、答えに近かった。



次話「コーヒーの手が、止まった」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ