表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛フラグ管理局折衝課 〜成立確率11%の彼女を折りに行くたび、なぜか俺との縁が育っていく〜  作者: よるの 余白
「複数の100%」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/60

第三十七話「課長の机の、古い書類」


 翌日、課長に書類を届けに行った。課長は席を外していた。机に書類を置こうとしたとき、目に入った。


   ◇


 課長の机の隅に、古い書類のファイルがあった。背表紙が日に焼けていた。何年もそこにあったのではなく、最近、どこかから出してきたような置き方だった。先日、課長が人の来るたびに引き出しにしまっていた、あの束だ。


 「折衝課 設立記録 2048」と書いてあった。


 設立当初の記録。課長は、設立当初からいる。三年前に俺を配属した男は、二十年前に、この部署を作った側の人間だった。


 ファイルは閉じていた。中は見ていない。見るつもりもなかった。他人の机の上のものを開く趣味はない。ただ、背表紙の隅に、手書きの文字があった。印刷ではなく、手で書かれていた。課長の字だと思った。今も督促のメモで見る、あの字だった。


 俺は、自分の手帳の所見を思い出した。誰にも提出しない、手書きの一行。課長も、手で書く人だった。システムに残さず、手で、紙に書く。残したくないものほど、人は手で書くのかもしれない。打てば記録に残る。書けば、自分の手元にだけ残る。


 「外れ値:8%」


 その下に、何か書いてあった。インクが薄れていて、読めなかった。ただ、「8%」の数字だけは、はっきり読めた。二十年前から、外れ値は8%だった。一度も、変わっていない。


 俺が鶴田から渡された外れ値の概要も、8%だった。二十年、同じ数字が、同じ非公開のまま引き継がれてきた。設立した人間が隠し、今も同じ人間が、同じ部署で、同じ数字を隠している。隠す側が、一度も入れ替わっていない。それが、この部署の本当の姿なのかもしれなかった。


   ◇


 設立当初から、外れ値は8%だった。課長は設立当初から、それを知っていた。そして、隠してきた。二十年、ずっと。


 課長が戻ってきた。足音に気づくのが、遅れた。


「何をしている」


「書類を、お持ちしました」


「置いておけ」


 課長は机に着いた。古いファイルを、引き出しにしまった。何も言わなかった。叱責もしなかった。ただ、しまうとき、少しだけ手が止まった。ファイルを引き出しの奥へ押し込む、その最後のところで、指が一瞬、背表紙に残った。名残を惜しむような、確かめるような、短い止まり方だった。


   ◇


 廊下に出た。


 課長が外れ値を隠す理由は、制度を守るためだ。8%が公開されれば、折衝課の存在意義が揺らぐ。だから隠す。それはわかる。理屈は、通っている。ただ、あの止まった手は、制度の話をしている手ではなかった。制度を守る人間は、書類をしまうときに、あんなふうに指を残したりしない。


 設立記録の、薄れた一行を思い出した。「8%」の下の、読めなかった文字。あれは数字ではなく、誰かの名前だったかもしれない。そう思った理由は、自分でも、わからなかった。ただ、課長の手が止まったのは、数字をしまうときの止まり方ではなかった。何か——あるいは、誰かを、しまうときの手だった。



次話「川瀬さんが、恋管に来ることになった」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ